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召喚魔王の英雄譚  作者: なめこ
始まりの章
1/6

魔王召喚

「「「 ウォォォォ!!!!! 」」」


  日も沈みかけ、茜色に染まった空に数多の声が響く。

 草原には異形の姿をした者たちが腕を空に突き上げ、勝利に沸いていた。


  この日、人族が希望を託していた最後の砦である王国連合軍は、魔王の率いる魔族の軍に敗戦を喫した。

 異形の姿をした者たちの足下には人の死体が多く転がり、なんとか生き残った人族も膝を地につけ、この先の自分たちの未来を憂えていた。

 魔族たちに奴隷のような扱いを、あるいは虐殺を。そんな未来に怯えていた。


  勝利に湧く魔族に対峙する位置に人族の拠点がある。

 そこには一人、赤い髪をした人間なら二十代前半ほどの青年が立っていた。端正な顔立ちに肉食獣のような威圧感をもち、覇気を纏っている。

 そして頭には若い見た目にふさわしい大きさの軽くねじ曲がった黒い角が二本、頭の両端から生えていた。


 赤髪の青年の先には王国連合軍を取りまとめていた数人の将軍と人族のなかでも最強と言われる勇者、そしてその一行たちが無惨に死んでいる。


「終わった、のか…」


 赤髪の青年は安堵の表情とともに呟く。

 この赤い髪の男の名はエルガレム・ジルフォルト。

 圧倒的武力と熱心な魔法研究により農民から魔王に成り上がった者である。

 エルガレムは高らかに叫ぶ。


「人族よ!貴様らの将は死んだ!我ら魔族の軍に降るがよい!!」


  勇者や将軍たちを失った者たちの目には、すでに戦意はなく、いまだに戦いを続けようとするものはいなかった。


  こうして魔王エルガレムが王国連合軍の勇者や将軍たちを打ち倒したことにより、魔王軍の勝利が決定し、人族の支配権は魔族に渡った。

 そうして魔族中心の時代へ移っていくのだった――


 

 ――時は過ぎ、戦争から一年ほど経つ。

 魔族に支配権が渡った人族は本来であれば、好き勝手に蹂躙、虐殺されるはずであったが魔王はある命令をだしていた。それは――


 ―人族を対等の存在として平等に扱うこと― というものである。


 しかしその命令は違反した者に罰を与えることがなかったため、守るものは少なかった。

 実際、多くの人族は対等にされず、差別の対象となっていた。が差別やちょっとした殺人で済んでいるのは幸運ともいえたであろう。

 なぜ罰を与えなかったのか。もし罰を与えると、魔王に対する同族からの批判が起こりかねないからである。

 そんななか権力や財力などを持つ一部のものは、魔族中心の国でも人族でありながら堂々とすることができていた。

 もし魔王が命令を出していなかったら、蹂躙や虐殺などが起こり、さらに酷い状態になっていたことは想像に難くない。


  そんな魔王の統治する差別残る国、ドレハルト。

 広大なドレハルト国の首都にして、魔王の住む城が建つ街イムル。

 この地では魔王が住み、命令が行き届いていたおかげで人族に対する差別は他の都市と比べ比較的軽度なものだった。


 そんなイムルには木組みの家が多く建ち並んでおり、街の中心から様々な方向へひろがる道には市が開かれている。

 そこでは魔族や人族が商品を売り活気に満ちていた。


  そんな道を魔族や人族が行き交うなか、円形闘技場で歓声が沸き起こる。

 この闘技場は街の中心からやや外れた場所にあり、ほぼ毎日見世物の試合が行われていた。

 闘技場の中心には全長十メートル以上はあろう、下半身が蛇で上半身が人間、首が三メートルほどあり顔が蛇、全体が緑の鱗で覆われたアンバランスでキモチのワルいバケモノと筋骨隆々、日に焼けた小麦色の肌をした見るからに強そうな人間の男が対峙していた。

 それを観客たちは熱狂的に観戦している。


 そんな観客席の一部に特別な小さい空間がある。

 そこは屋根があり、豪華な椅子が一つ置かれ、赤髪の魔王エルガレムが座っていた。

 エルガレムは試合を退屈そうに眺める。


 エルガレムの両隣には黒髪で長髪の美しい女性と身体は人間だが羽が生えており、顔が鳥の男が立っていた。

 美しい女性の名はセーレ、そして鳥頭の男の名はコルド。どちらもエルガレムに仕える実力ある戦士である。


 エルガレムに仕える者はみな、エルガレムのことをガレム様と呼ぶ。

 なぜなら魔王エルガレムは、配下にガレムと呼びやすい名を使うことを命令していたからだ。

 エルガレム様というのはなんだか呼びづらい感じがあったためである。

 偉大な魔王の名を短くすることに最初はみな抵抗があったが、今ではガレムと呼ぶことに慣れているようだった。


「この試合はガレム様の心を満たすことは出来なそうね。」


  セーレがエルガレムの表情を読み取り、コルドに喋りかける。


「ならば即刻中止にしよう」


 コルドが試合を止めようとする。


「いや、やめさせなくていい。試合がつまらぬわけではない。」


  …なんだか心のもやもやが取れないんだよなぁ。

 人族と魔族が平等に暮らすにはどうしたらいいんだろうか…


 はぁ、とエルガレムが小さなため息をつく。

 セーレとコルドはどうしたらいいのか分からず、顔を見合せ困っていた。



  日が沈み、真っ暗な空に星が一面に輝き、宝石を散りばめたような夜を作り出す。

 イムルには未だ活気が満ち、人族や魔族で賑わう。

 そんな活気に満ちた街の中心から、北側の最奥に位置する場所に真っ黒な城がある。

 城の中の通路や部屋にはたくさんの明かりが灯っていて、夜がよく似合う。


 そんなたくさんの明かりが灯る城の一室では、エルガレムが机で頭を抱え、苦しんでいた。精神的に


「はぁ、、、なんでこんなにやらなくちゃいけないことがあるんだ…」


 机には山積みの紙が置いてある。


「裁判の判決なんて俺がやらなくていいだろ…」


 山積みの紙から一枚を手に取り、軽く眺め呟く。

 すると隣に立っていた黒髪で長髪の女性、セーレがすかさず


「いけません、ガレム様。ガレム様が法であり、正義なのです。ガレム様以外に裁判の判決を出せるものなどおりません。」


 かといって仕事を全部魔王にやらせるのはどうかと思うぞ…心の中で呟く。


「しかしセーレよ、こんなに大量の問題解決の仕事を俺1人にやらせるのは拷問に近いぞ」


「ふふ、拷問は得意ですわ」


 笑いながら答え、手伝おうとしない。


  はぁ、これは無理だな……。よし、明日の自分に任せよう!


 と自分に言い聞かせ寝ることにした。


「俺は少し休む。席をはずしてくれ。」


 セーレが「かしこまりました」といい部屋から出ていく。


 それを確かめ、明かりを消してベッドに倒れこんだ。


 誰かに手伝ってもらおうかな…これじゃ身体がもたない。


 でも魔王たるもの一人で仕事をこなしてこそ、民衆は憧れるって本に書いてあったし…。


 でもでもセーレになら頼んで手伝ってもらっても…昔からの戦友でもあるしな!

 あーーでも魔王になったときに一人で仕事をこなすって決めたしーーーー!!


 …はぁ、、、とため息をつき考えるのを止め、目を閉じる。

 だんだんと意識が遠退いていった。



 が、異変がおきる。


 ん?


 まぶたを閉じ、真っ暗だった視界が突如明るくなった。

 目をうっすら開けてみると、真っ白な光に包まれている。


 な、ここは…さっきまで寝床にいたはずだが…


 そして光が強くなり始めたと思うと、すぅーーと光が弱まっていき、視界が開ける。

 すると木に囲まれた小規模な村のような場所におり、上を見上げるとさっきまで夜だったはずがそこには太陽が昇っていた。



 エルガレムは立ち姿になり地面から二メートルほど浮いている。

 周りには複数人の年齢バラバラの男女が、フードの付いている真っ黒な修道服を身につけて祈りを捧げている。

 下をみると薄紫色に光っている魔方陣がかかれていた。


 ここはどこだ…困惑しながら考えていると、浮いていたのがだんだんと地面に近づいていき、かたい地に足がつく。

 とたんに正面にいた少女がフードを脱ぎ、金髪をあらわにする。そして


「やったぁぁあ!! 召喚に成功した!角あるし絶対強いよ!!これなら村を救ってくれるよね!!」


 と、横にいた少女に喜びを伝え、一方的に抱きついていた。


 エルガレムの周りにいた者たちも安堵の表情とともに修道服を脱ぐ。

 修道服の下にはそれぞれ別の服を身につけていた。

 そして抱きつかれていた少女も修道服を脱ぎ、銀色の髪をした首の中間あたりまで伸びた髪を現す。


 獣人のような銀髪の少女は抱きつかれながらも淡々と


「でもコスプレした人間っぽいし弱そうじゃない?」


 な、コスプレだと!!


 知らない人間であったが少しムッとするのだった――

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