表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

『噂話』

 ――翌日から、ネットの世界は『屍を運ぶ(いかだ)』の初の公式公開に関する話題で溢れ返った。参加資格、時期、場所……。核心となる大部分が未だ発表されぬ中、様々な憶測と期待が飛び交う。

「……分かってるな、仁。変に首を突っ込むなよ」

「分かってるよ……」

 仁はつまらなそうに目を背ける。

「なに、落ち込む事はない。公式に公開される様になれば、その内ネットでも画像で見られる様になるだろう」

 茂は仁の頭をグシャグシャと掻き乱した。

「……まあ、ね。しょうがないか、俺らみたいな一般市民には手の出せない世界つー事だな」

「そーゆー事だ。すまんな、父の給料が物足りなくて」

 茂は、仁をからかう様に笑った。

「それにしてもお前、そんなにこの絵が気になるなら、じいちゃんに何か聞いてみたらどうだ?」

「!」



 ***



「先生。先日の個展、評判は上々だそうですよ」

「はっは、そうか。そりゃ結構」

 痩せこけた頬、皺だらけの肌。仁の祖父であるなにがし ほまれは、そこそこ名の売れた画家だった。

「次回作のご予定は?」

 黒スーツの男はにこやかに尋ねる。

「そう急かすな。私ももう長くない身、ゆっくりじっくり、楽しんでやらせてもらうさ」

「そうですか」

 そう言って楽しそうに筆を走らせる誉を見ながら、黒スーツの男は嬉しそうに笑った。

「ああ……そう言えば、あれ何て言いましたっけ。先生が気になさってる例の幻の絵画」

「屍を運ぶ筏の事か?」

 誉は、黒スーツの男に耳を傾けながらも筆を止めはしない。

「ああ、そうです。その絵が、今度小規模ながら初公開されるらしいですよ」

 ――その瞬間、笑顔が張り付いていた誉の表情が凍った。

「……ばかな。どこのどいつが流した作り話だ」

「いえ、昨日ニュースでやってましたよ。日本を含む五カ国で公開されるって」

「…………」

 誉の額に、冷や汗が溜まる。

「いや、実在したんですねえ。幻の絵画。私はてっきり、それこそ作り話かと」

「……存在するさ。屍を運ぶ筏は」

 誉はその一言一言に重みを持たせながら、目は合わせずに話す。

「それにしても今回のこのお披露目、先生なら参加できるんじゃないでしょうか? きっと、画家って事なら多少の融通は効くでしょうし」

 楽しそうに語る黒スーツの男。途端に誉は体を反転させ、黒スーツの目を見て言った。

「興味無い」

 それは有無を言わさぬ迫力を帯びており、黒スーツの男は息を呑んだ。

「……す、すいません…………」



 ***

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ