『検索』
『幻の絵画“屍を運ぶ筏”が、日本を含む五の先進国でそれぞれ小規模に公開されるとの情報が入ってきました』
薄暗い個室。その空間には場違いなパソコンが、ただ唯一光を放つ。
「…………誰も知らない幻の絵画、か……」
スラリと伸びた、と言うよりはただ単に痩せこけている脚。肌崎 祐司は頬を摩りながら、パソコンのモニターに目を向けている。
「確かに、酔狂な人々の興味を引くには充分だな。ひとりでに鳴り出すピアノやトイレの花子なんかより余程良い」
祐司は笑みを浮かべた。
「だが――、各国の著名人が躍起になる程のものとは思えん」
祐司はウィンドウのテレビ画面を閉じ、インターネットの検索ページを開く。
『屍を運ぶ筏』
祐司がその文字を打ち込み検索ボタンを押すと、検索結果はすぐに出た。
『約5,200,000件――1.02秒』
好奇心が、顔を出す。
とりあえず、検索結果の一番上にあるwikipediaのページは飛ばし、その次から一つずつ見ていくもそれらは全て表面上のもので、祐司の好奇心を満たす様なものでは無い。
「クソッ」
祐司はじれったくなり、一気に数を飛ばして数百件目のページへと飛んだ。
『幻の名画、屍を運ぶ筏に纏わる噂』
祐司の表情が変わる。それは小学生だか中学生だかが仲間内で調べたものらしく、拙い文章で幻の絵画に関する噂が列挙されていた。
・全体的な彩色には朱色が用いられているそうです。
・製作者は一人ではないようです。
・誰かは分かりませんが、ゴッホとかピカソとか、そういうレベルの画家も製作に携わっているようです。
・天才画家ヴァルハムは、『人類史上最高の名画』とまで言ったそうです。
・サイズは割と大きいそうです。
・この絵を見ようとすると、呪いにかかるそうです。千葉県在住Oさんは、今も病魔にうなされているみたいです。
・この絵を見ると、死ぬそうです。この絵を見て今尚生き残っている人はいないので、詳しい話は分かりません。
「……ほう…………」
祐司は嬉しそうに、溢れる笑みを堪えはしなかった。
「面白い……」
祐司がそのページから出ると、今度はその一つ下のページに目を奪われた。
『“屍を運ぶ筏”想像画』
祐司はすぐに、そのページを開く。
「!」
期待に胸を膨らませていた祐司の、目の色が変わった。
「こ……これは……!」
***
「バカな! 屍を運ぶ筏が公開されるだと!!?」
テレビを点けた茂が、声を荒げてそう叫んだ。
「……、父さん…………。何か、知ってるの?」
仁は、恐る恐る尋ねた。茂は小さく首を横に振る。
「嘘だ」仁は続けた。「何かあるって顔に書いてある」
「…………言えない。悪いな」
茂は真剣にそう言った。こういう時はいくら駄々をこねても無意味な事を、仁は知っていた。
「……じゃあ、警察がこの絵を調べた理由を教えて」
「……?」
「盗作でも無い、というかそもそも実在するかどうか分からない絵を警察が捜査するなんて、おかしいよな」
――茂の表情が固まる。
「何か、あったんだろ? 目撃者からのタレコミか何か、上層部が捜査の必要ありと認める程の、何かが」
「……仁…………!」
「それを、教えてくれ」