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1人ワンライ企画

クールな彼女と穏やか彼氏

作者: 岬百

なろう初投稿です!よろしくお願いします!



 私は今、外出用のちょっといいスカートスーツを着て、15分前に来たばかりの道をトボトボと戻っていた。

 それと同時に、仕事で重大なミスを犯した時のような、やりきれなさと悔しさ、そして反省の念を抱えながら、先程言われた言葉を思い出していた。


優紀(ゆうき)さんはいつも俺を子供扱いして、全然甘えてくれないじゃないですか。でも、彼女は違う!俺を頼りにしてくれるんです!もう可愛げのないあんたとなんて付き合えない!別れてくれ!!」


 たった今、浮気現場に遭遇して言われた言葉だ。


 この言葉を聞いて、私は今、とても反省をしていた。

 普通だったら浮気されていた私が怒るはずの場面だと思うだろう。

 なのに何故私が反省をしているのかと言うと、このような言葉を言われたのが初めてではないからだ。


 もともと甘えるより甘やかすことの方が好きだった私は学生時代から年下と付き合うことが殆どで、恋人を愛でるようなお付き合いをしてきた。

 しかし29歳にもなった今は年下と言っても、当然昔より年齢が上がって来ている訳で。

 仕事に馴れてきて少しずつ自信も付きつつある22~24歳の恋人なんかは学生の恋人とは違って、私のデロデロに甘やかすような態度のことを「年上のお姉さん彼女素敵!」ではなく、「いつまでも子供扱いで見下してくる女」と思うようなのだ。

 なのに私は、毎回のようにそれを忘れて恋人を猫可愛がりしてしまう。

 その性懲りの無さと、年下好きとは言えないような失態の数々を思いだし、一人うちひしがれているのが今の現状だった。


「はあ…」


 思わず漏れたため息に自分で苦笑すると、余計に無常感が煽られた気がしてなんだか滅入りそうになる。

 ここで振られたことへの悲しみが沸き上がってこないことこそが、私が彼を「人を愛でる」という欲求の捌け口にしてきた動かぬ証拠であるように思えて、それについて悲しくなってくるような始末だ。


 もう年下と付き合うのは止めよう

 なんて、そう思った。



「そうなんだ。じゃあ、私と付き合ってくれないかな?」


 ガヤガヤと騒がしい居酒屋の半個室にて、目の前に座る美貌の若き部長(35歳)は艶やかな大人の、穏やかな声色でそう言った。


「…部長、私はその冗談では笑えません」


 大ジョッキをなるべく音をたてないよう気をつけて置き、ビールなんていう下手をすれば中年親父にしか見えないようなアイテムを平然と色っぽく飲む部長(35歳)を、私はあおぎ見た。


 そもそも何故こんなイケメンで優良物件である部長(35歳)と私が二人きりで飲みに来ているかというとだ。


 私がまだピチピチの新入社員(ピチピチはあくまで状況のことであって、私自身はピチピチとはまったく違うふてぶてしい態度だったと思われる)だったころ、教育係で私についてくれていたのがこの部長(当時28歳)だったのだ。

 その縁で今もよくしていただき、こうして定例的に二人で飲みに繰り出してはプライベートなのに仕事の話をしてみたり、時々愚痴とも言えないような話を聞いてもらったりという定例会議をするのである。

 今日はその日だ。


「そもそも、部長は想い人がいらっしゃるでしょう」


 枝豆を食べる姿すら様になっている部長を半目で見つつ、私はつぶやいた。

 そう、なんの弾みだったのかは覚えていないが、お互いの恋愛に関する少し突っ込んだトークもいつからかするようになっていた。


なので、この完璧人間な部長がずっと片想いしていることも私は知っている。

 想い人を語る時の部長はいつもの穏やかな笑顔のまま瞳だけを甘くとろっとした色気で染め上げるのだ。


 そんな相手がいる部長が私なんぞを本気で口説くなんてことは絶対ないのだし、『想い人がいると知っている私』を知っている部長だからこその冗談だとわかっているからなお性質が悪い。


「そうだね。確かに私は片想いの相手がいる」


 クスッ という擬音が似合う程に上品に笑った部長は、下ろしていたジョッキを構えなおして、口をつける。

 冗談だったと認めるような発言をされて多少じとっとした表情をしてみたものの、大人の色気を全身に纏ったその姿で大胆に喉仏を動かして飲み物を飲むのは、ちょっときゅんとくるかもしれない、なんて、かなりさっきの発言に毒された私はふと思った。

 そして、そんな私の思考をわかっているかのように部長は言った。


「私の愛しい想い人は、君なんだけどね」


 年下好きを公言してやまない私が緊張するほど、甘くとろっとした大人の男の笑顔。


そのときの私には、持っていたジョッキの取っ手を離しそうになるほどの衝撃が襲っていた。


なに、この胸のときめきは・・・!


年下を愛でることでしか得ることのできなかったこの感覚が、まさかこうも簡単に引き出されるとは。


部長恐るべし・・・




ただ、私が混乱の中からようやっと現実に戻った頃にはもうすでに、そんなことなかったかのように部長は平然としていたが。


むしろご機嫌で追加のビールを頼み始めてる。


「店員さん、注文お願いします」

「はい、ただいま!」


 居酒屋特有の溌剌とした返事とともに手帳をもった店員がきて、部長を向いて屈んでくる。


「ジョッキビールと枝豆、軟骨あげも1つ。桜庭(さくらば)、あとなにか頼むものは?」

「いえ、大丈夫です」


 空の皿を店員に渡しつつ部長の問いに答える。

 正直にいうとそんな普通の空気で接せられても困るのだが、だからといって自分からあの話を蒸し返す気にもなれずに私は悶々としたまま目の前にあった塩キャベツを咀嚼する。


 あの流れ的に、告白の返事をしなくてもいいような感じではあった。

 しかしそれは多分、彼氏と別れて多少なりとも落ち込んで見える私(実際の落ち込んでいるポイントが自分への失望だと知っていても)が変に気を使わないようにという、大人らしい遠回りの優しさなのだろう。

 返事はなくてもいい、逃げ道があることだけは知っていなさい、そんな思考が透けて見えるようだ。


 しかし、それでは駄目だと思う自分がいる。

 確かに未知の領域ではあるし、自分ごときじゃ敵わないと思っている部長が相手で上手く新しい関係を作れるのかは疑問ではあるが、そもそも年下と付き合うのは止めると言ったのは自分なのだ。

 社会人の基本は信用を得ること。

 有言実行は必須条件だ。

 …それに、なんだかんだで部長に優しくされるのは心地良い気がする、というのもあるが。


 ここは心機一転するために、部長に助力をねだってもいいのかもしれない。


「部長、よろしければ私とお付き合いしていただけませんか?」



 軟骨揚げを食べていた箸を下ろして、部長は私を真摯な目で見つめてくる。


「本当に? 甘やかされてもよかったんだよ」

「あいにくと私は甘やかされることに慣れていないので、なんのことやら」


 肩をすくめるようにして笑った部長は、そこで初めて少しだけ喜びを垣間見せて


「なら、僕が君に甘えることを教えてあげられるね」


 と、笑った。

 一人称が『私』から『僕』に変わっただけで少しきゅんとした私は、案外すぐにこの恋人に順応できるのかもしれない、と何となく思った。



ありがとうございました!

続きは(作者の意欲次第では)機会があったら上げたいと思います! ←

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