chapter:1
目がくらむような白い陽光。
梅雨明けを思わせる、カラッとした空気。
吹き抜ける一迅の風はどこか不穏を孕んでいて。
ここがRPGの舞台であったならば、『始まりの草原』と評されているような、その地に足を下ろした者に不思議な高揚感を抱かせる…。
そんな草原。
その風景どもは気がつけばそこに有った。
ーーいつからともなく。
何のきっかけもなしに。いつから、とも言えず。
すと、気がつけば、僕は草原をさ迷っていたのだ。
今までに一度も見たことのない風景なのに全く違和感は感じられない。
これはこうあるべきなのだと元々知っていたかのようですらある。
……考えてみればここに来る前は何をしていたかすら覚えていない。
それに、なにより。
自分の名前、家、家族構成、誕生日、友人関係…といった自分のプロフィールを1つも覚えていない。
それなのにこの違和感のなさ。
おかしい。
記憶が無いことも。違和感を感じない自分自身も。
これはもしかすると『記憶喪失』と呼ばれる状態なのではないだろうか。
まぁ、『記憶喪失』であることがわかってもこの状況は何も変わらないのだけど。
自分か朝、高熱があることがわかったけどらその日は学校が休みだったかのようだ。
せめて『記憶喪失』になってしまったのだとしたら、その原因や記憶の手がかりくらいは無いものなのだろうか。
そう思い、あたりを見渡してみる…。
だか、眼前に広がるのはあらんかぎりの草原。
流石に地平線が見えるほど草原ばかりというわけではないが、少なくとも近くには何も無いのだろうと把握するのは簡単だった。
ーーいや、前言撤回。
恐らく人(?)は居るようだ。
その人(?)は背中に自身の体より大きなリュックを背負い、全身黒系統の衣装を纏っている。
その上で
フードを目深にかぶっているのだから、本当に人なのかも怪しい所だ。
正体はゴブリンでした!!…とかでも驚かない自信がある。
人(?)はモンスター達に追われて段々こちらへ近づいてきている。
人(?)も僕が居ることに気がついたのか声をかけてきた。というより叫んでいた。
「…ーーッ!!キャーーッ!!!助けてーーっっ!!!誰かーっっ!!!」
その声を聞く限り、フードの中にいるのはしわがれたゴブリンのおっさんではなく、少女であるようだった。
そして少女は見たまんまモンスターに襲われているようだった。
…いくら僕に記憶が無くても、このまま少女を見捨てることが人としてできたものではないという事くらいはわかる。
こういう場合は助けられるか、助けられないかは問題じゃない。
行動しないことには彼女の状況は一向に好転するわけもなし。
そうして僕は覚悟を決めて少女とモンスターの群れに向かって走り出したー。