ボロいサイフ
俺は貧乏だ。
まぁ、貧乏とか言っても、金に困ってるわけではない。
「財布がボロボロだと金運が逃げるって言うわよ」
‥‥月末、金欠でひーひー言っているのは、特に俺が貧乏だからと言う訳ではない。
「ほっとけ」
家賃も水道代も電話代も電気代も毎月きっちり払っている。
‥‥NHKはおいといて、だ。
なのに、どっかの実業家のハートを射止めた我が妹は、人のボロボロになった財布で弄びながら、財布を買い直せ、という。
「じゃ、お金借りにこないでよね」
‥‥すまん。我が愛しの我が妹よ。
妹の説教に思わず小さくなった。の、俺の腕を。
がしっ!!
女の力とは思えないぐらいの力強さで引っつかんだ。
「〜〜なーんで、こうなる!」
ずるずる引っ張られて、デパートへ。
いくら可愛くても!! 嬉しくない!!
「俺だってなぁ、俺だって、買い直そうとは思ってたぜっ!? だけどなっ!」
好みがあるのだ。安いのは、とにかくダサい(俺にとってはな)。たまに掘り出し物があるから、それを狙っているのだ。‥‥狙い始めて、すでに2年。というのはおいといて。
好みの高い新品のサイフを買うよりも、好きじゃない安いサイフを買うよりも、ボロボロだが気にいっているサイフを使う方がいいだろ!
「なんで、欲しいサイフが1万や20万するワケ? 贅沢」
「それは贅沢とは違うだろ」
「でも、1万払って、余裕がある生活ができるなら、安いって。買っちゃえ買っちゃえ!」
「1万もありゃ、半月‥‥下手すりゃ1ヶ月は食いつなげるぞ‥‥」
「ド貧乏になっちゃうのはちょっとだけじゃん」
確かに、1・2ヶ月ちょっと我慢すりゃ、後はちょっとはリッチな生活を送れんなら、尻尾を振るけどな? そんな保障ねぇし。
「第一そんなサイフ、カッコ悪いし」
ぐさっ。
「‥‥わかった」
買ったものの、やっぱりその月はド貧乏で。
その次の月もド貧乏だった。
その次の月からは今までと変わらねぇ貧乏な日々。
‥‥まぁ、期待していたワケじゃねーけど。ここまで何も変わらねーと、1万のサイフが憎い! あの悲惨な2ヶ月はなんだったんだっ!?
そして、今日も妹に連れ出される。
‥‥‥‥‥‥。
こいつ、黒好きだよな。学生の頃から黒いサイフを使って‥‥つか、あ?
「ちょっと待て。お前、なんでそんなにボロボロな財布使ってんだ?」
人の財布を『カッコ悪い』などと、ほざきやがったテメーが、俺のあのサイフと変わらねぇボロボロなのは何だっ!?
「えー? 別に私は貧乏じゃないしねぇ」
黒で誤魔化されているが、すり切れてる。柄に見えないこともないが、ただ単にボロいだけだ!!
「お前こそ、財布ぐらい買えよ! 貧乏くせぇ!!」
「貧乏なのは、お兄ちゃん」
にっこり。
妙に楽しそうなその笑顔に。俺は気が遠くなった。
ちくしょー、兄貴っつーのは常に妹に負けるものなのかっ!?