導かれし心
ある日
目が覚める時
自分で「あっ!そうだ」
と言いながら起き上がる。
だが、彼にとっていつもと変わらない朝だ。
いつからなのだろう
独り言のように何かを言いながら起きる
ヒロキはふと
子供の頃を思い返してみた・・・
幼稚園に通っていた頃
通園のバスで隣になる女の子がいた
元気のない日々を過ごす女の子に
ヒロキは話しかけた
「ペットは大切だよね」
ボソッと言うと女の子は
泣き出してしまった。
ヒロキは驚きながらも慰めた。
なぜ泣き出したのかは後から分かったことだ
添乗の先生には
女の子を泣かしてはダメだと怒られたが
ヒロキは朝目覚める時に言おうと決めていた
なぜならヒロキには
ある (声) が聞こえたからだ
この女の子の時は
「犬が死んじゃった」だった。
起き上がる時に
「そうか!」と言ってヒロキは起きた
それは誰の声なのか分からない
だがハッキリしている事は
不利な事は聞こえていないということ。
なぜ、この時女の子に
ペットの話を持ちかけようと思ったのかは
定かではない
ヒロキはパズルのピースをはめ込む様な
言葉としてその頃から認識していた。
朝に聞こえた言葉で
伝える相手を間違えた事もない
小学生の頃は仲良く遊ぶ友達がいて
ほとんどの日をその男の子と過ごした。
だがある日ヒロキの大切にしていた
キーホルダーが無くなった。
ヒロキの家に遊びに来ていたのは
その男の子だけではなかったが
次の日の朝、目覚めた時の声は
「彼だよ」とハッキリ聞こえていた
ヒロキは困惑しながらも
家に遊びに来ていたメンバーが集まっていた
教室の隅で男の子に向かって言った
「ねぇ・・・返してよ」
男の子は目を見開いて驚いた様子だった
「なっ・・・なんだよ!いきなり
キーホルダーなんて知らねぇよ・・・」
ヒロキは衝撃を受けた
キーホルダーなんて一言も口にしていない
この時ばかりは朝に聞こえる声を恨んだ。
大切にしていた物だが
友達を失くすことはないと憤りを感じた。
高校生になり
いつもと違う事が起こった
ヒロキに彼女が出来たのだ
浮かれる日を過ごしながら
いつもの声に歯向い ヒロキは珍しく
聞こえないフリをしていた
信じていた声だったがそれ以上に
彼女を信じていたからだ。
ヒロキの心に響いていた声とは
「彼女は浮気している」だった
初めての恋愛に浮かれるヒロキには
本当に辛いものだった。
自分の事しか見ていないと信じて
疑わなかった
恋愛の甘酸っぱい日常も
自由と束縛の葛藤もこの時に知ったこと
女というものを知ったのも彼女だった
ヒロキは決意していた
自分にとっても彼女にとっても
ダメだと感じ、彼女に確認することにした
「あのさ・・・他に誰かいるの?」
この時の彼女は
キーホルダーの時の子と同じ表情だった
またしてもヒロキは
信頼出来ると思った人間を失った。
不利な要素が無いと思っていたが
友達や彼女を失くしてしまうことは
不利なのではないだろうか?
ヒロキの心は張り裂けそうだった。
しかし、時間が解決してくれたのか
しばらく抜け柄の様な日々を過ごし
社会人になったある日の声は
人生のパートナーへと導いた
ヒロキは結婚したのだ
これから明るい人生を歩もう
パートナーと手をとり合い
生活を楽しむものにしていた
そんなある日
妻から告白されたのは
「妊娠したかも・・・」だった
2人は浮かれていた
生まれてくる子供の為に頑張ろうと
仕事に奔走した。
ある日の声をかき消しながら・・・
ある日の妻は病院から帰ると
沈んだ表情だった。
ヒロキの聞こえていた声が現実になった。
「子供は出来ない」その言葉だ
未来が見通せる訳ではない・・・
自分の中途半端は予知能力に
ヒロキは心底腹が立った。
子供が出来なくなり
精神的に病んだ妻は実家に帰ると言い
夫婦生活に復帰することなく
ほどなくしてヒロキとは離婚した。
それから何年も経ち
いまだにヒロキは独り身だが
今では
様々な事が聞こえ
自身の能力に感謝していると言う。
自分自身が勉強しても
分からなかった事が
朝になると聞こえる
こんな便利な予知夢と共に
彼は毎日目覚めている
また朝が来たようだ
「あっ!そうだ!」
読んで
「怖い」と思った方
大変申し訳ありません