猫又番外編:小話諸々詰め合わせ
本日2話目の番外編です。
~前世の知識が役に立つとは限らない~
「ニャーンニャニュニャーン(まーずはお肉を用意しまーしてー♪)」
「ワーウー!(にーくー!)」
取り出したるは狩り立てホヤホヤのお肉でございます。ちなみに、鹿のお肉。もちろん特殊個体ではございません。
可能ならば熟成とか試してみたかったけど、流石にそこまでの知識は無いんだよね。熟成させるには、なんか温度管理とかが大変みたいだし。試してみたかったけど……無駄にしたら母さんに怒られるし、ハイイロに泣かれる。
なので、せめてもの工夫として血抜きをしてみました! もちろん、抜いた血は既にハイイロとハイシロが美味しく頂いてます。無駄にはしてないよー。
さて、血抜きした後は……
「ウーニャニャーンニャー(それーを適当ーな大きさーにかーみちーぎるー♪)」
「ワーウー!(にーくー!)」
はい、ここで母さんの登場です。ぶちっと豪快にやっちゃって下さい!
「ワウ?(適当で良いんだね?)」
「ニャーン(いいともー♪)」
「ワーウー!(にーくー!)」
ここでハイイロに任せないのは意図的なものです。以前にハイイロに手伝って貰った事もあったんだけど、大体の予想通りの事が起こりました。ハイイロが噛み千切る役をやると、3回に1回か、2回に1回の頻度で肉が減るのよ。=つまみ食い。
それ以降、ハイイロに肉を適当な大きさに噛み千切らせる役目を任せる事は無くなりました。ちなみに、ハイシロもつまみ食いは時々こーっそりやっているけど、ハイイロと違って程度は弁えているから見逃されています。
俺の目の前でぶちぶちっ! と豪快に引き裂かれ、噛み千切られていく鹿肉。
血抜きをしてあるので辺りが血塗れになる事も無い。
綺麗な赤身のお肉が塊で積み上げられていく。
チラリと脇でスタンバイさせてある肉焼き用の石を見る。その数2つ。
片方は高温、もう片方は低温にしてあります。最初は高温で一気に表面を焼いて、次に低温でじっくり焼く為です。表面カリッと、中はジューシーにね。
「ニャーン(じゅわーっとな♪)」
「ワーウー!(にーくー!)」
「「「「ワウ(……(おぉ))」」」」
母さん達の喉がごきゅりと鳴る。
肉の焼ける匂いって、物凄く暴力的だよね! 空腹時には辛い。
ハイイロが妙なテンションになっている。最初からだけど。
コロコロっと手早く表面だけを焼いた後、次々と低温の石の方に乗せていく。チリチリと音を上げながら焼かれていく塊肉達。
段々と母さん達の体が前のめりになってきた頃、そろそろ焼けただろう肉を石から下ろしていく。
「ウッニャーン(出っ来上がりー♪)」
「ワ゛ーヴー!(に゛ーぐー!)」
ハイイロが必死すぎる。
全員の前に塊肉がスタンバイして、みんなで揃って「いただきます」の合唱。ヨダレの量が半端無い。
一斉にかぶりついて、全員が叫ぶ。
「「「「「ワウッ!!((……)味うっす!!)」」」」」
あるぇー?
予想外のみんなの反応に首を傾げる。ここは「超美味ぇ!!」と驚愕するところでは無かろうか? 血抜きって重要だよね??
そんな事を思いながら自分でも食べてみると、たしかにこれまで食べてきたどの肉よりも味が薄い。
分かりやすく例えて言うなら、塩味皆無のカレーライスを食べてるみたいな感じだろうか? 微妙に分かりにくいね、知ってた。上手い例えが思い付かない。俺の微妙な脳細胞め……仕事しろ。
どうやら『血抜きをした方が美味しくなる』というのは、狼や猫又には向いていない模様です。
なんかね? コレジャナイ感が半端ないの。お肉と思って食べたら、実は魚だったとか。茶碗蒸しと思って食べたら、実はプリンだった的な。
ションモリと下がった尻尾の群れに、心の底から申し訳なくなってくる。正直すまんかった。
せっかくのお肉を無駄にする訳にもいかないのでモソモソと食べ続けます。……物足りないよぅ(泣)。
(人外転生の場合)前世の知識が役に立つとは限らない。
***
〜小さい頃の夢〜
「ウニュゥ(そういやさぁ)」
「グル?(あん?)」
「ワフ?(……黒いの、どうした?)」
俺がこの世界に生まれ直して約1年。
初めて会った時はまだムクムクコロコロしていたチャイロ達も、かなり大人の狼に近付いているのに気付いてふと思い出した。
「ウニャン?(小っちゃい頃の『ユメ』ってどんなだっけ?)」
「「ワウ?((……)ユメ)?)」」
うん、そう。夢。
何故いきなりこんな事を言い出したのか疑問だろう。あまりにも唐突な発言だったのは自覚してるからね。
まぁ……特に理由は無いんだけどね。
あえて言うなら、昨夜見た流れ星のせいとか、随分と大きくなったみんなとの体格差とか、単に暇だったから……などなど。うん、ぶっちゃけ暇潰しです。
人間の子供だと、「大きくなったら野球選手になりたい」とか、「警察官になりたい」とか「国家公務員になりたい」とか色々あるよね。
時々やけにリアリティ溢れるユメがあったのが気になったり。「浮気しないお嫁さんが欲しい」って、お宅の家庭で何があったし!? 的な。家庭訪問案件ですにゃあ。
まぁ、それは置いといて。
将来どんな風になりたい、とか無いの?
「ウー、ウォフッ(おれはー、そうだなぁー。クマをかりたい、だな)」
ハイシロはブレないよなー。確かにそれは良く言ってるね。
「ワウッ(ま、ようは強くなりたいって事だな!)」
納得です。最強を目指すのは漢のロマン!!
んじゃ、チャイロは?
「…………」
なんで俺をガン見してんのよ? 何か付いてる?
「ワフッ(……家族を守りたい、だな)」
おぉ……なんか、格好良いぞ……!
そして、俺もチャイロの言う家族に入っている事にちょっと照れる。照れ隠しに抱きついとこ、えい。モフモフー!
「キャフッ(あたしは、母さんみたいになりたい、かしらね)」
「「ワウ(納得)」」
「グルル……?(何か文句ある……?)」
ハイクロの威嚇にプルプルと首を振るハイイロとハイシロ。お口がポロリにはご注意下さい。俺もだけど。
「グル?(ハイイロは?)」
「ワウゥッ!(肉いっぱい食べたい!)」
「「「ワウ((……)スゴく納得)」」」
「ニャー(ですよねー)」
既にハイイロの願いは叶えられてるよな。ハイイロの願いは常に更新中の模様。
「グルル?(……黒いのは?)」
「ミャ?(おれ?)」
「クゥ、キャウ?(さっきからあたし達だけ答えてるもの。黒いののユメって何?)」
俺の夢……ねぇ?
自分から言い出したネタだけど、ぶっちゃけ俺には夢らしき夢 は無い、んだよな。
人間だったら、それこそ異世界最強! とか、ゴニョゴニョとかちょこっと考えたりはするけどさ……男の子だもん。
でも、今の俺は猫又な訳だし。最強を目指すには母さんを乗り越える必要が……無理ゲーですね、知ってる。ニャンコ侍らせてもモフモフ塗れになるだけだし、恋愛関係はほぼ間違い無く壊滅ですね。微粒子レベルすら存在しない(泣)。
んー、んー?? 俺の願いって何だろうな??
……あ。
「にゃ(おさけ)」
「クゥ?(お魚?)」
「ウニャ、ニャ(ちがう、お酒)」
酒と魚、似ているようで全く似ていない。酒と鮭なら惜しいけど。
酒と言ってもハイクロ達には何だかサッパリ分からないようで、コテリコテリと首が左右に傾げられていく。可愛い。
なので、お酒の素晴らしさを語ってみる事にした。夏の暑い日のキンキンに冷えたビールと枝豆。肉汁たっぷりの餃子や、噛むとパキッと弾けるソーセージ。
ワインと生ハムや、レバーペーストを塗ったバゲット。ニンニクの香りが芳ばしいアヒージョや、そのオイルを使って焼いたステーキやガーリックライス。
猫又生活では得られる筈も無いお酒とご馳走の妄想の数々。
あぁ、懐かしいなぁ。お酒飲みたいなぁ。
ふと正気に戻ったら、目の前僅か3センチの距離にみんなの顔があった。真正面には母さんの顔。
近すぎて表情なんて分からないけど、雰囲気が何か怖い。何というか……超必死。何故?
次の瞬間、グアッ! と開いた口が俺の首筋を柔らかく噛んで持ち上げ、一斉にみんなが立ち上がる。
「ウォウッ!(狩りに行くよ!)」
「「「「ガルッ!!((……)おうっ!!)」」」」
この後、めちゃくちゃ肉を焼く羽目になった。
小さい頃の夢(は食欲の前に容易く消え失せるものである)
***
~子狼達の恋愛事情~
「ワウゥ……?(黒いの達、また来ないかなぁ……?)」
「ワフッ(また焼肉食べたいよねー)」
「キャウ(ぼくも久しぶりに黒いの達に会いたいな)」
「グルル?(お前が会いたいのはハイクロだろ?)」
「キュ、キャンッ!?(な、ちがっ、急に何を言い出すんだよ!?)」
ワフワフ、キャンキャンと子供達が笑い合っているのを見ると微笑ましい気持ちになる。
かつてはこんな光景すらも有り得なかったのだ。それもこれも、自分の不甲斐無さが一番の原因なんだけどな。
あの時、クマの特殊個体が現れずに、夜達が俺達の群れを訪れる事が無ければこんな光景は見られなかっただろう。妻や子供達には辛い思いをさせ続けていただろう。
あれ以降、見なかった振りをする事や、子供達を放置する事をやめた。放任主義……と言えば聞こえは良いが、実際には何もしなかっただけだ。
まだ父親としての威厳は取り戻せていないだろうが、少しは子供達に歩み寄れているとは思う。……というか、思いたい。ぶっちゃけて言うと、歩み寄るというより……いや、これ以上はやめとくか。間違い無く凹むから。
脳裏を過ぎった言葉をフルフルと頭を振って振り払い、未だに騒いでいる子供達を見つめる。
一部の子供達は、そろそろ成狼と言っても良いくらいに成長している。中には少し成長の遅い子もいるが、精神面では誰よりも大人であろう。どうやら、気になるメスがいるらしく、他の子供達に茶化されてしどろもどろになっている。
……気になるメスってハイクロなのか。
確かにハイクロは将来的に見て、間違い無く良いメスになりそうだが……如何せん夜の性格を色濃く受け継いでいる気がする。生半可なオスでは尻に敷かれて終わるだろう。それを幸せに思うオスもいるだろうが……うん、何も言うまい。本狼が幸せなら良いだろう。
「ワウッ!(ハイクロはお前にはもったいない!)」
「ガルゥッ!?(何だって!?)」
「グルル……ガウッ!(お前みたいなチビにはもったいないって言ったんだよ……このチビ!)」
「グゥ?(は? まさか、お前もハイクロの事ねらってんの?)」
「グルッ!? ギャゥゥッ!(は!? そ、そんな事ねーし!)」
……ハイクロ、罪なメスだな。下手するとウチの息子共のほとんどがハイクロに惚れてんじゃねーか?
一気にギスギスした雰囲気になった息子達へと、数少ない娘達が冷たい視線を送っている。
そんな娘達が一番理想としているのは夜だ。夜はメスなんだが……下手なオスより男らしいからな。次点がハイシロ、顔だけならハイイロらしい。実は、ああ見えてハイイロも顔立ちだけは整っているんだよなぁ。性格が少しばかり……ゲフゲフ。そして、何気に一番もてそうなチャイロは、黒いのへの過保護っぷりのせいで対象外らしい……哀れな。
しかし、ハイクロの事だ。自身の理想は高いのでは無いだろうか? 何しろ夜の娘なのだから。
逆に、夜の息子達の方は全くその辺の想像が出来ないんだよな。特にチャイロ。ハイシロはそれなりにモテそうなのだが、うちの息子達みたいにガツガツしてないんだよなぁ。それでも、時期が来ればいくらでも相手は見つかるだろう。ハイイロは……しっかりしたメスが似合うだろう。間違い無い。
いやいや、今はうちの子達の方が重要だ。何しろ、相手がハイクロ。何と言っても夜の娘。
落とそうと思って落とせるものじゃないだろう。正直言うと、うちの息子達では力不足だ。もしもハイクロを射止める事が出来るとしたら……余程の運の持ち主だ。そう、もはや運頼みのレベルなのだ。
ギャウギャウと言い合う息子達を見ながら、思わず遠い目になってしまう。息子達には幸せになって欲しいし、好いた相手がいるならそいつと番になって欲しいと思うが……。もちろん、娘達も同様に。
それでも、万が一にでも、ハイクロが俺の義娘となってくれたら。そう思うと期待で少しワクワクする。同時にゾクゾクもする。下克上をされそうな気がしてならない。物凄くそんな気がしてならない。つーか、間違い無くそうなる。俺の立場ェ……。
「ガウッ!(ハイクロの番になるのはおれだ!)」
「ギャゥッ!!(そんな事はさせない!)」
「ワフー(オスってバカよねー)」
「ワゥー(ねー)」
「「「「ガウ!!(ハイクロの番になるのはおれ/ボクだ!)」」」」
……息子達に幸あれ。
子狼達の恋愛事情(すでに夢破れているとは知りもしない)。
最終話を28日に投稿となります。
その為、28日まで明日より毎日投稿とさせて頂きます。計100話+最後の番外編で完結となります。
最後までお付き合いよろしくお願い致します。




