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巣立ちの準備の記憶

 たーまやー。


 

 本日1話目。2話目は12時投稿です。

「キャゥ――――ン!!(ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉ!!)」

「ワフー(たーまやー)」


 朝目が覚めて巣から出て、真っ先に見たのが空高く打ちあがるハグレ狼ってどういう事なの。最悪の目覚めだわ。季節外れの花火か!?

 やり直しを要求する!


 本日の各地の天気は晴れ。ただし、ところにより狼が降って来る可能性がございます。外出をされる方は武器を所持する事をお勧め致します。

 あらあら、じゃあ今日は猟銃を持っていかないと困るわねぇ。あなた〜、会社に銃を持って行くのを忘れないでね〜?


 シチュエーションだけやり直した結果がこれだよ! 怖いわ!!


 ベチッ!


「フキュゥ~……(ちきしょぉぉぉぉ……)」

「グル?(ハイクロ、累計どの位だ?)」

「クゥ、キュ?(正確じゃないかもだけど。たぶんもうそろそろ100は行くんじゃない?)」


 マジか。アホだろ、あいつ。いい加減に諦めればいいのに。

 あ、ちなみにハイシロが言ってた累計ってのは、ハグレ狼が打ち上がった回数——すなわち母さんに敗北した回数——の事な!


「ガウッ!!(絶対に嫌だ!!)」

「フンッ!(あたしは弱いオスに興味は無いよ!)」


 鼻息も荒く、立ち去り際に後ろ足で砂をかけていく母さん。紛れも無く鬼畜である。

 だけど、俺の見たところ、母さんも実はさり気にハグレ狼(コイツ)の事をそれなりに気に入ってるっぽいんだよな。

 本気で嫌っていたら、とっくの昔に踏み潰すなり、噛み千切るなり、もぎもぎするなりしているだろうし。……何をって? 言わせんなよ、恐ろしい……(ガクブル)。


 それにしても……母さんと言い、ハイクロと言い、話に聞いただけだが母さんの母ちゃんと言い……母さんの一族のメスは、こう……何と言うか『微妙』なオスに惹かれがちなんだろうか? ダメンズ好き?? 本狼達には言えないけど。

 強すぎるが故の弊害なんだろうか? 弊害と言うのも違うかもしれないけど。うーむ?


 颯爽と立ち去る母さんを、地面に伏したまま見送るハグレ狼の背中には哀愁が漂っている。

 直接対峙した事のある俺だから言える事だが、このハグレ狼の実力は母さんにもそう劣っていない筈だ。それなのに、母さんにはいい様にボッコボコにされているのだから、ほぼ間違いなく手加減をしているのだろう。本気を出せば五分五分くらいにはなると思うのだけど……。

 

 まぁね? 俺も最初はコイツが母さんの番になんて想像も出来なかったんだけど、ここまで毎日、毎日チャレンジしては敗北しているのを見たら、ちょっとだけ応援してやりたい気持ちにもなってくる。判官贔屓(ほうがんびいき)は元日本人ならではの感覚だろうか。

 ちなみに、その感覚はチャイロ達も持っているらしい。自分達もそろそろ巣立ちも近いし、という意識も関係しているのかもしれないけどね。

 俺達がいなくなったら、母さんとハイクロ達だけになっちゃうし。この場合の俺達とは、チャイロと、ハイシロと、ハイイロ、そして俺だ。


 そう。俺達もそろそろ巣立ちの時期なのである。

 約2ヶ月遅れで産まれた俺を除き、チャイロ達はもうほぼ2歳となるのだ。狼で2歳ともなればもう立派な成狼である。

 母さんからは巣立ちをせずとも良いとの言を貰ってはいるが、俺を含むチャイロ達で相談した結果、一時的だとしても群れから離れて生活してみようという事になったのだ。ずっと群れの中にいては気付かない事でも、群れから出たら気付く事があるかもしれないし。

 何より、母さんを一般の狼の基準で考えていると色々と常識から外れそうd……ゲフゲフ。既に手遅れ? 何の事だかさっぱりワカリマセンネ。


 気付けば空気はすっかり冷たくなり、早朝の特に早い時間ともなれば、水場に氷が膜を張っている事も増えてきた。夜眠る時は、寒い、寒いとみんなでくっ付いて眠り――ただしハグレ狼は蚊帳の外である――、朝目覚める時は寒いね、寒いねとみんなでくっ付いて二度寝を――やはりハグレ狼は蚊帳の外である――する日々が続いている。

 今朝の俺は、二度寝が本気寝になってしまい、みんなより大幅に寝過ごしたという訳だ。

 その結果、目覚めてから見た最初の光景がアレ(・・)とか酷いにもほどがあるよ。寝坊した俺への罰ですか?

 

 まぁ、それはともかくとして……季節はもう、本格的な冬になろうとしているのだ。

 キンと冷える空気が鼻を冷たく冷やす。良く冷えた鼻先をハンキバの腹へと突っ込むのが、ここ最近の日課だ。さっきもお馴染みの日課をこなし、ズキズキと痛む頭を振りながら、ンーッ! と大きく伸びをする。


 そんな俺の横では、ハグレ狼が今朝の敗北に拗ねて、尻尾をベッシンベッシンと地面に叩きつけている真っ最中だ。


「ニャ(本気を出せば良いのに)」

「……ガゥ(……惚れたメスに怪我を負わせるのは嫌だ)」


 あ゛――――、そういう意地を張ってどうこうなるような母さんじゃ無いんだよなぁ。

 むしろ、母さんの場合は本気で()合った方が、きちんと受け取ってくれるアマゾネス体質っぽく思うんだけど。ラノベでも良くあるじゃん? 「認めさせたいなら本気で来いっ!!」って感じの奴。あれよ、あれ。

 俺がそう言えば、ハグレ狼は目を見開いて絶句していた。どうやら思ってもいない事だったらしい。

 そんなに意外な事だろうか? と首を傾げていれば、普通はひたすら獲物をメスに貢いだり、強さを示して惚れさせるのが一般的らしい事を教えてくれた。

 いや、だから『力を示す』んでしょ? と言うと、それはあくまでも当狼をボコって認めさせる類のものでは無いらしい。強い敵と戦ったり、同じメスを狙うライバルのオスと戦ったり、というのが一般的らしい。


 ふ、ふぅ~~ん、そうなんだぁ~~(汗)?


 どうやら、ここで早くも俺達の常識が一般常識から外れているという事が見つかってしまった。

 これは後でチャイロ達にも教えておこう。もしも、気になるメスが出来た時に「君の強い所を見せて欲しいな(はぁと)」と言われたとしても、絶対に相手をボコってはいけない、と。特にハイイロにはきつく言っておかないと。うっかりやらかしたらフォローも出来ない。

 ……うん、やっぱり一般常識は必要ですね。それにしても、一般常識ってどこで学べば良いんだろうか? チャラオのところも一般のようでいて、実はそうでも無いし。


 んー? と悩んでいると、やたらキラキラした目のハグレ狼がにじり寄って来る。

 ……や、あんたには期待してないから。

 そう言えば一瞬で下がる耳と尾。

 そんなハグレ狼を無視して、俺はチャイロ達の元へと向かうのであった(まる)


「ウォ————ン!(今度こそぉぉぉぉぉ!)」

「ガウッ!(甘いよっ!)」

「キャイ————ン!!(チクショォォォォォオ!!)」


 ま、がんば☆



 ***



「ニャウーン?(チャイロー、いるー?)」

「キュ?(どしたの?)」

「ミュウ……(ハイイロか……)」


 チャイロがいると思しき場所へ向かってみたが、そこにチャイロの姿は無かった。代わりにいたのはハイイロだ。どうやら、ハイシロも此処にはいないようだ。

 うーむ、どうするべきか。


 何か用? 何か用?? と期待に目をキラキラさせているハイイロを、先程のハグレ狼のように一刀両断するのは少し気が引ける。

 どうせなら、キッチリ細部まで確認してくれそうなチャイロか、ハイシロ辺りが良かったんだけどなぁ……?

 まぁ、良いか。


「ニャッ?(ちょっと見て貰っても良い?)」

「ワウッ!(良いよ!)」


 頼られたのが嬉しいのだろう。尻尾をブンブン、目をキラキラ。何とも和む光景である。

 ハイイロは癒しだ。ついさっきまで目に優しくない光景を見ていたからねー。

 それにしても……やっぱり、ハイイロに番とかは想像出来ないですにゃあ。


 内心でそんな事を思いながら、ンッ! と体の一部に気合いを込める。

 さて、上手くいったのだろうか? 俺の感覚では、これで上手く発動出来ている筈なのだが……。


「キャインッ!?(しっぽ取れた!?)」


 取れてねーよ! その発想が怖いわ。


 勘の良い方ならここでお判りでしょう。そう、俺は新しい能力を手に入れたのだ!!

 それを言葉で表すならば『幻影』とでも称しておこうか。この新たな力は、俺自身の体に幻を纏うという能力だ。今の俺の姿は、ハイイロが驚愕したように尻尾が1本しか無い普通のニャンコに見えている事だろう。これでうっかり人に見られても大丈夫だ。

 ちなみに、この能力は巣立ちをするか否かの話し合いをしている時に思い付き、自衛の為に必死になって目覚めさせた能力だ。巣立ちした後は、何かがあってもすぐに母さんが助けに来てくれるって訳にはいかないからね。

 前々から幻影的な能力は欲しいと思っていたのだけど、実際に手に入った時はテンションが上がった。あとは、コレを常時発動させていられるように練習あるのみだ。


 フフン、猫又生も2年目ともなれば、ある程度の融通は利くようになったのだよ、ワトソン君!

 その結果、今の俺は土の能力を使ってチャイロ達の土像を作ったりも出来るようになったんだぞ! それが何の役に立つんだ? とかは聞くな!! おれもそう思う(真顔)。

 母さんの前で作って見せたら妙に気に入ってしまって、何体も母さんの土像を作らされたのは良い思い出()だ。狩りから帰って来たチャイロがそれを見て、二度見しながらすっごいビックゥッ!? ってなってた。ちなみにハイイロは○らした。ハイイロの尊厳を守る為に一部を伏せさせて頂きます。ご了承下さい。

 それと治癒能力に関しては、所謂『回復魔法』のように離れた相手に飛ばす事は変わらず不可能だが、治癒速度に関してはかなり早く治す事が出来るようになった。大怪我をする事が無いので、どこまでの怪我が治せるかは不明だけど。

 最後に火の能力は……実はあまり大きな変化は無いんだよね。それでも火力調節がかなりスムーズになったよ!! 強火・中火・弱火、どれでも任せろ! 地味な変化ですけどねー。


 そんな感じで、俺も地味に成長しているのですよ!

 お口のポロリ具合は……ノーコメントで。逆の意味で成長している気がするのは、たぶん俺の気のせいだろう。うん……。この話題はこれ以上はやめよう。俺のガラスハートが割れ砕けてしまう。

 自覚してるなら自重しろって? ……出来るもんならしてるよ……(遠い目)。


「ワフ!?(黒いの、尻尾どうした!?)」

「グルゥ!? ガウッ!!(……どこかに落としたのか!? すぐに探さないと!!)」

「ミギャギャギャギャ!!(待って待って! 行かないで!!)」


 お前らもか。


 ハイシロと共に戻って来たチャイロが妙な勘違いをして、慌てながらどこかへ走り去ろうとした。それを見た俺も、慌ててチャイロの足にしがみ付いて止める。

 能力を解除すれば良いのだと気付いたのはその直後で。それに気付いた俺は急いで幻影を解除する。すると、すぐさま現れる2本目の尻尾。

 急に現れた尻尾に目を見開くハイシロと、ホッとしたように息を吐くチャイロ。そして、何故かドヤ顔のハイイロだ。ハイイロ、お前もさっき同じ事を言ってたんだぞ。チャイロの事は笑えないんだからな?


「グルゥ?(そういや母さんは?)」

「ムニャゥ(いつもの)」

「ワフー……(こりねぇな、アイツも……)」


 ハイシロは生温かい目をしている。無理も無い。

 もはや、ハグレ狼と母さんの攻防戦は日常風景となってしまっている。朝・昼・晩と毎日欠かさず……ご苦労な事だ。

 ん? そう言えば……


「ミ?(ハイクロは?)」

「ワフ(デート中)」


 ハンキバとか……。ケッ!


「ワゥ(その顔やめろ)」


 えー?

 その顔ってどんな顔ー? ボク、分かんないニャー。


「ワゥ(その顔もやめろ)」


 てへぺろ。これ以上は怒られそうなので自重しますよ。

 

 しかしまぁ、ハイクロはデート中か。ハンキバとデート中か……。(ねた)ましいので二度言いました。もちろん妬ましいのはハンキバの方な。俺がハイクロを疎ましく思う筈無いもん。

 ハイクロはデート中。

 母さんは……あれはどう称すれば良いんだろうな? 殴り愛? いや、実際にはボコボコにされてるのはハグレ狼だけなんだよなぁ……。

 んでもって俺達は……男子がつるんでアホやってる、という感じだろうかね。前世では俺、成人済みだったんだけど……猫になってのーみそ退化したん? もにょるわー……。

 俺の能力が脳みそ消費して開発されたんだったら怖すぎる。無い、よね……? 俺の妄想だよね?? うっかり考えちゃった俺のバカァ――――――!!


「グルルゥ?(……黒いの、どうした?)」

「みゃぅぅ……(チャイロぉ……)」


 めそめそ、めっそり。

 うっかり怖い事を考えてしまった事でネガティブに陥っています。もう少ししたら復活するから、ちょっと待って。……ふぅ、落ち着いた。


「ウニャ?(どこか良い場所見つかった?)」


 何を隠そう、ハイシロとチャイロは巣立ち後の良さそうな縄張り予定地を見に行っていたのだ。ちなみに母さんセレクションです。その中にはがっつり他の狼の群れがいる場所もあったんですけど、何というオニチク。

 ニヤリ、と笑うハイシロの様子から察するに、どこか良さ気な場所があったみたいだな。

 母さんという絶対的保護者から離れるのはちょっと不安はあるけど……チャイロ達とわちゃわちゃしながら生活するのは、結構楽しみかもな。修学旅行みたいな感じで。

 ひたすら脳筋アタックしているハグレ狼。

 何気に楽しんでいる様子の夜です。


 夜が本気で切れたら、容赦無くもぎもぎされます。


 そして、いよいよ黒いの達に巣立ちの時が近付いています。

 地道に黒いのの能力も覚醒済み。尻尾2本を1本に見せる事しか出来ないけど。

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