安定のハイイロと生肉デビューの記憶
初っ端からのお下品ネタで申し訳ありません。ハイイロの立ち位置は大体こうです。
猫主生後1ヶ月過ぎました。子狼達は約3ヶ月です。
おおぅ……酷い目に遭ったぜ……。
「ガフッ(あたしがね)」
正直すみませんでした。頭がめり込む勢いで土下座して謝罪しますので、どうかご容赦下さい……!
って、おい。ゴルァ! ハイイロ、てめぇ……人が謝ってる最中に尻の匂いを嗅ぎまくってんじゃねえよ! 見ろよ! ハイクロがドン引きしてんじゃねぇか!!
いつまでも人の尻をクンクン、クンクンと……
「ふしゃ————ぅ!!(かぎまくってんじゃねぇぞ、ぼけぇぇぇぇぇぇ!!)」
「ぎゃぅんっ!?(うぎゃっ!?)」
「かは———っ!!(このあほおおかみ!!)」
「ふきゅぅん……(くろいの、ひどい……)」
どの口が言ってやがる!
「くぅ、わふん(あたしはぜんめんてきに、くろいののみかたよ)」
「わぅ(さすがにおれもかばいきれねぇよ)」
「きゃふ(……じごうじとく)」
「グルゥ(あたしも、今のはちょっとどうかと思うよ……)」
満場一致でギルティ判決だ。
悪く思うなよ、ハイイロ。
「ふきゅぅぅ……(だってすごくきになったんだもん……)」
「わふ(でもさ、さすがにくうきよめよ)」
「がぅぅ(ほんのうだもんー)」
本能って言葉は知ってるのか。驚きだ。
「くふん(……ほんのうか、すこしわかるかも)」
「「きゅ!?((え!?))」」「……!?」
「みぃ(まじか)」
突然のチャイロの言葉に全俺が驚愕した。
当然ながら、ハイクロとハイシロもだ。
あの母さんですらも目を剥いて声も無く驚いていたのだから、相当なものだ。
思わず母さんと2人で目を見合わせる。そして同時に逸らした。うん、今の発言は聞かなかった事にしよう。精神安定的な意味で。俺の中ではチャイロは常識枠だから……。
「グルゥ、ウォッフ(まぁ、面白いものを見せて貰ったからね。あたしも、もう気にしてないよ)」
「んみぃ……(ありがとう。でも、ふくざつなしんきょうです……)」
***
そんなこんなで毎日は過ぎて、俺も結構大きくなってきた。もっとも、俺は拾った時点で普通の子猫より大きく、体もしっかりしていたらしいのだが。
まぁ、思い返してみれば納得出来るところもあったんだけどな。
生まれた直後は殆ど体を動かせなかったのにも関わらず、母さんに拾われて此処に来た後は、ある程度歩いたり、飛び跳ねたり。自由自在に動き回る事も出来ていたし。
普通の子猫だったら、生後2日程度ならまだモゾモゾ動く位で、歩いたり跳んだりは出来ない筈。母さんに言われるまで全く気付かなかった俺は何なのか。
ちなみに俺は、今日!
生肉デビューをします!!
ぉぅ、ぃぇぁ。ふと、思い出されるのはあの日の出来事。リアルグロ祭りを間近で見た俺は、飲んだ母乳を見事にマーライオンしました。
『母さんの体に』
新たな黒歴史がまた1ページ追加される次第となりました。とても辛いです。
「ンキュ?(黒いの、何をションボリしてるの?)」
「み(あ、ねえさん)」
「クゥ……きゃぅ(あたしはお姉ちゃんってよんでほしいんだけど)」
「ふにゅ(おれのせいかくてきにむり)」
「クゥン(知ってたけどね)」
あ、気付いた? 結構ハイクロの言葉もしっかりして来たんだ。何しろハイクロ達も、もう3ヶ月だからな!
つまり、俺も生後1ヶ月を過ぎたのだ!!
まだ言葉使いは覚束ないけど、動きも機敏になってきたし。見た目もホワホワした何となく猫っぽい生き物から、モフモフツヤツヤした美子猫になったんだぜー!! あえて自分で言っちゃう。俺の将来絶対美猫————!!
勝ち組に、俺は! なる!!
ひゃふー!!
……まぁ、無理やりテンション上げないと、この後に控えている生肉デビューに耐えられそうにありません。
見る方はかなり慣れたけど、いざ、自分が参加するとなると……ぅっ、胃が……!
「クォン(おい、くろいの。大じょうぶか?)」
「ふみゃ(たぶん、がんばる)」
「キャウン、ふきゅぅ(……あんまり、むりはしない方がいい。見てると心ぱいになる)」
うぐ、それを言われると……。
「キャッフ!(くろいのがたべないなら、おれがたべてあげる!)」
それ、お前が食いたいだけじゃねぇの?
言葉使いの割りとしっかりしてきた3匹と比べると、ハイイロはあまり変化がない。まぁ、仕方ないのだろう。うん。
「ぅにゅ(いちおう、がんばる)」
「きゅん……(がんばらなくてもいいのに……)」
……何か腹立つから、絶対頑張ろう。
ん、帰って来たみたいだ。
「グルルル(ただいま。大物が取れたよ)」
おぉ? 『大物』か。わざわざ言うくらいなら相当なんだろうな……。おっとぉ? 何か嫌な予感がしてきちゃったぞ??
「きゃぅぅぅぅん!! ぎゃふっ!?(おかえりなさいー!! ぐぇっ!?)」
おぉ、見事。ちなみに今のはチャイロの仕業。相変わらず母さんに飛び付こうとしたハイイロを、実力行使で地面に転がしました。
チャイロ凄え。
「グルゥ、ガゥゥ(いつも悪いね。それより、今日は大物だよ)」
「キュン、ふきゅ?(母さん、今日は何をとってきたの?)」
「グルルゥ(表にあるから見ておいで)」
「クゥ?(わざわざそとにおいてきたのか?)」
「グルゥ、ガフゥ(ちょっと張り切り過ぎてね。此処には入りそうにないのさ)」
……おかあさま。いったいなにを、とっていらっしゃったのでしょうか。ぼくはいま、ふあんでなりません。しんじつをしることが、とってもこわいです。
「ガゥ(ほら、お前も行っておいで)」
えぇぇぇぇぇぇ、行きたくな
ヒョイッ
「みぁ!?(ハイシロ!?)」
「グゥ(……早く行くぞ)」
おー、良い天気。まだ時々空気は冷たいけど、陽射しはとても暖かいな。風が吹いていないというのも良い。……うん、良い天気だ。昼寝をするには快適だな。もう春だなー。
「わふ(……げんじつとうひはよくない)」
「んにゅ(むりです、おにいさま)」
「クゥ!(……お兄さま!)」
そこじゃねぇよ。
仕方がないので目の前の現実を直視する事にしようか。
確かに母さんの言っていた通り、洞穴の前に横たわっていたのは『大物』だった。
横たわっていて尚、子猫の俺には見上げる程の巨体だ。
黒い体毛はしなやかと言うよりも、むしろ体を守る鎧の1部のように全身を覆っている。
手足の爪は長く、鋭く。アレで1撃を喰らえばタダでは済むまい。簡単に肉を抉る事だろう。岩すら砕けるかもしれない。
さらに、口元から見える牙は鋭く、口の端から垂れる血と泡が激戦であった事を感じさせる。
長々と語ったが、一言でまとめようか。
『クマ』
まぁ、なんて簡潔。
って、何で! 狼が! クマを倒せるんだよ!?
首元ざっくりの傷は何なんだよ!
チャイロ以外の全員口パカ状態で呆けきってるじゃねえかよ!!
俺? 腰抜けて口パカする気力もないわ。
ちなみに唯一の例外のチャイロは、安心安定の冷静っぷりでした。やっぱり兄弟の中で1番頼りになるわ。流石はお兄さま。ついでに2番目はハイクロ&ハイシロ。
……尊敬をわざわざ口に出さずとも、空気を読んで揺れる尻尾も流石ですね。格好可愛いぜ。
「グルゥ(どうだい、大物だろう?)」
「ふみゅ(おおものすぎるとおもう)」
「グゥ、ウォフン(本当は牙鹿とか狩りたかったんだけどねぇ)」
「んみ?(きばしか?)」
「フキュ? ウォフッ(おや? 前に話した事あっただろう? 特別な獲物だよ。栄養満点なんだ)」
放心してたけど、母さんに話しかけられて正気に戻ったわ。
しかし、牙鹿……あぁ、あのトンデモ生物ね。あれと比べたらクマの方がまだマシか? ……ちょっと待って。俺、毒されてる。
それより、本当にコレ食べるの?
「グゥゥ(そのために獲って来たんじゃないか)」
……出来れば、最初は鳥とかウサギとかの方が良かったなー。もっとこう、視覚に優しい感じのやつで……。
「グフ(食べ甲斐がないからね)」
さいですか。
お、ハイクロは復活したか。女の子は現実を受け入れるのが早いって誰かが言ってたけど、案外本当なのかもな。
「んにゅ(はいくろ、だいじょうぶ?)」
「ふきゅん……(さすがにコレはビックリしたわ……)」
「んみ、にゅ(これたべるんだって)」
「クゥ、キュゥン(まぁ、母さんもそのつもりでとって来たんだろうから食べるわよ。でも、食べきれるかな)」
えぇぇ、心配するのそっちでしたか。それと、食べきるのは無理じゃね??
んー、まぁ。女の子が頑張って食べるって言ってるんだから、男の俺が食べないのは格好悪いな。
うん。頑張ろう。
***
そして実・食。
デロン
「ワフッ(さぁ、お食べ)」
先程の決意を早くも撤回したい気持ちでいっぱいです。
母さんから、さぁ食え、と渡されたのは赤黒いデロンとした物体。うぇ、グロい。
スンスン
……血生臭い。
「ウォフッ、グゥゥ(黒いのにはまだ肉はちょっと早いだろうからね。肝臓なら柔らかいし、栄養もあるし、ぴったりだろう?)」
「にぁぅ(おきづかいありがとう……)」
「グルゥ、ガフゥ(さ、なくならない内にお食べ。早く食べないとハイイロに食べられてしまうよ)」
そう言われて横を見ると、目をキラキラさせながらよだれを垂らし、俺の前の赤黒い物体をじっと見つめるハイイロがいた。時折チラッ、チラッと俺の方を見るのがまた、何とも……。
いただきます。
ガブッ
半ばヤケになりながら、もっちゃもっちゃと噛みしめる。噛む度に口の中に生臭さが広がる……と思いきや。意外や意外。とても美味い。
何というか、甘い。砂糖のハッキリした甘さではなく、肉の脂の甘みとか、キャベツの甘みとか。そっち系の甘さだ。自然な甘みと言えば良いのかな。美味い。
もっちゃもっちゃ
うん、普通に美味しく食べられるな。これ。ウマウマ。
視界の端で右往左往しているハイイロっぽい何かなんて、俺にはちっとも見えないね。普通に肉食ってろ。あー、レバーうまー。
もっちゃもっちゃ……けぷっ
美味しかった。けど流石に多い。
この塊だけでも俺の体より大きいし。食べきるのは無理だな。自分なりに頑張って食べたんだけど。うん、それなりに残った。
「んみゅ(かあさん。おれ、たべきれないからたべて)」
「クォン?(おや、もう良いのかい?)」
「み(はらいっぱい。まんぷく)」
「ワフッ(なら、ありがたくあたしが貰うよ)」
満腹満足で顔を上げると、視界の真正面でハイイロが涙目で口パカ状態になっている。え、俺が悪いの?
いやいや、だって栄養あるなら母さんにも食べてもらわないと。まだ俺達のご飯は母さん頼りだからさ、ちゃんと体力付けてもらわないと困るじゃん?
早く自分達で狩りが出来るようになれば良いんだけど。そういえば、俺もその内に狩りに行けるのかな? あまり想像出来ないんだけど。
……それに、俺まだおっぱい必要だし。母さん、最近おっぱいの出が悪くなって来てる気がしたんだよね。俺だけじゃなくて、時々ハイクロもおっぱい吸ってるし。
それでも、そろそろ乳離れかなぁ。
「ヴルゥ、ウォフッ(一応おっぱいも飲んどくかい?)」
「ふにゃ(むり。おなかいっぱい)」
流石に今はもう無理だ。マーってしまう。
母さんが肝臓を食べ進めて行くにつれて動揺しまくるハイイロがちょっと面白い。現時点での残り、約半分。
「キャゥ!(母さん、クマおいしいね!)」
「ヴゥ、ワフ(沢山お食べ。お前達はちょうど育ち盛りなんだからね)」
残り5分の2。
「わふっ! ウォン(クマははじめてたべたけど、うまいんだな! 大きくなったら、おれもとれるようになるかな)」
「ウォフッ、グルゥ(いっぱい食べて大人になったらね。狩りの練習もその内始めようね)」
残り3分の1。
「ふきゅん、キャフ(……肉、おいしい。黒いのはもう食べなくてもいいのか?)」
「んみ(うん、おれもうはらいっぱい)」
「ウォゥ、グフッ(チャイロは黒いのの心配ばかりしてないで自分もお食べよ)」
残り4分の1。
途中から肉を食べ始めたものの。諦めきれずにチラチラと横目で確認し続けていたハイイロの目から涙が零れんばかりとなった頃、母さんがハイイロに声をかけた。
「クォン。ウル、グルゥ(ハイイロ、こっちも食べるかい?)」
「ぎゃぉぉぉぉぉぉん!!(だべるぅぅぅぅぅぅ!!)」
泣く程か。……良かったな。ちゃんと母さんに感謝しろよ。
それにしてもハイイロ以外全員、笑い過ぎ。俺も笑ってるけど。良い弄られっぷりだった。愛されてるな、ハイイロ。
……それにしてもさ、ハイイロ? 泣くか、食べるかどっちかにしとけ。
ハイイロに始まり、ハイイロに終わる。正直なところ、ハイイロはとても動かしやすいキャラですね。ば可愛い事をするのはハイイロです。
ついでに猫主、わりと躊躇いなく生肉デビューとなりましたが、猫又転生という事で精神的に補正は掛かっています。獣寄りに、という事で生肉OK、毛繕いOK、トイレもOK(ただし、ちょっと気になる)。
時々無意識に爪研ぎしてたり、兄弟達の尻の匂いを嗅ぎに行ったりしてハッ! と我に返ったり。猫っぽい動作は極普通に出ます。時々周りにつられて狼、というか犬っぽくなったりも。