異世界のバレンタインデー
えー、バレンタイン記念小説をこっそり投稿。
バレンタインと言っても、家族でほのぼのしてるだけですが。
……ん? どうやら今日は2月14日らしい。異世界にいるのに、なんでいきなりこんな事が分かったんだろうな??
……まぁ、良いか。考えてもどうせ分かんないんだろうし、さ。
しかし、バレンタインデーかぁ。チョコ食いたいなぁ……。
猫にチョコは厳禁だけど。
……でも、チョコ食いたいなぁ……。
「きゃふっ、きゅふん(くろいのったら、どうしたの? しっぽがはーとになってるわよ?)」
うぇっ! またかっ!?
「んみっ!(ちょっとかんがえごと!)」
「くぅ、きゃう、きゅふん(またかんがえごと? くろいのって、ほんといろんなことかんがえてるわよね。あたまいたくならないの?)」
「ぐぅ、わふっ(くろいのはおれたちとはあたまのできがちがうんだよな!)」
「きゃぅ(……くろいの、あたまいい)」
「うー、わふっ!(なんかたのしいことかんがえてるのか? おれもまぜて!)」
ちょ、一気にわらわら寄って来たな!?
あー、収集つかなくなりそうだぞ、コレ。
「グルゥ……ウォフッ(やれやれ……みんな集まって何をしているんだい?)」
あ、母さん。これで何とかなるかな。
「きゃう、きゃぅん!(かあさん、くろいのがまたなんかかんがえてるぜ!)」
「くぅん、くふん(さっきしっぽがはーとになってたもの。あたしみたのよ)」
「わふ(……ちからがいるなら、おれもいっしょにかんがえる)」
「わぅー!(いまからくろいのもいっしょにあそぶんだー!)」
遊ばねぇよ。あと、チャイロはありがとうな。頼む事があったら相談するよ。ハイクロは頼むから、俺の尻尾の事は放っておいてくれ。みんなから良く言われるけど、俺そんなに考え事してるか?
「ウォゥ(間違いなくね。尻尾を見れば一発で分かるよ)」
「みぃ……(まじか……)」
「グゥ、グルルゥ(それで? 一体何を考えていたんだい?)」
「……み(……ないしょ)」
うん。出来ればコッソリやって驚かせたいしな。
「「「きゃふ!?(え——!?)」」」
「きゅん(……ないしょ、なのか)」
ションボリとそう言うチャイロの尻尾がみるみる萎れていく。
ちょ、ま、あぁぁぁぁ!
……っ、くっ! だが、今バラす訳にはいかないしな……!
「みゃう(あとでちゃんという)」
「わふ(……なら、いい)」
……良し。とりあえずこれでチャイロは誤魔化せたかな。ハイクロ達は……どうやら母さんが宥めてくれているみたいだ。ありがたい。
しかし、1番の問題は……。
じっと、自分の手を見る。
小さな手だ。爪もまだ出しっ放しで、手の指がぴゃっと開いてる。
どう見ても子猫の手、しかも生まれたての。何かを作ろうにも無理だろうし。何かをあげようにも、何をどう調達すれば良いのか。
ぐぬぬぬぬぬぬ……
「きゃぅ(くろいの、またかんがえてるー)」
「わう(すこしそっとしとこうぜ)」
ぐぬぬぬぬぬぬ……!
「グルゥ、ウォン(そろそろ母さんは狩りに行ってくるよ。みんな良い子で待っておいで)」
!? これだ!!
「ぴゃう!(かあさん、おれもいく!)」
「ガゥ(お断りだよ)」
……まぁ、そうだろうな。
けど、ココは俺も譲れないんだ……!
「み(いく)」
「ガゥ(お断りだと言ったよ)」
「んみ(じゃあ、かってについていく)」
「グルルルルル……(足を噛み砕かれたいのかい……?)」
こ、怖ぇ……!
「……んみ(……でも、どうしてもいきたい)」
「…………」
「ぴぃ……(かあさん、おねがい……)」
……フゥ
「ウォフ(途中で我が儘言ったら捨てるよ)」
!! じゃあ!!
「「「きゃうん!(かあさんおれも!)」」」
「きゅ(あたしはいかない)」
「きゃん! きゃっふ!(いかないのかよ! このこわがり!)」
「くぅ、きゃう(かあさんのめいわくだもの。いかないわ)」
「わふ(……くろいのがしんぱいだから)」
「きゃふ!(おれも、かりいきたい!)」
……当然、こうなるよな。
「ウォフッ(ダメだね)」
「「「きゃいん!(かあさん!)」」」
「ウフッ、ウォゥ(お前達は連れて行かないよ。黒いのだけだ)」
「ぎゃんぎゃぅん!!(なんでくろいのだけはいいんだよ!!)」
んで、こうなるよな。うわぁ……言い出したの自分だけど、凄え母さんに迷惑掛かってるよな、どうしよう……
「グルゥ……(察しておやり……)」
……は?
「がぅ(……さっする、なにを?)」
「グルゥ、グルルル……(黒いのはまだ、本当の母親に捨てられたばかりなんだよ。色々と、確認したい事もあるんだろうさ……)」
え、ちょ、え———? ……当然だけど、俺、そんな事全く考えて無いんだけど……。
「くぅん……(あ、えっと、その……)」
「きゅん(くろいの、ごめんな)」
「くぅ(……ごめん)」
さっきまでの勢いの良さは何だったのか、と言わんばかりにしょげ返る3匹。そんな事情などカケラも無いため、罪悪感が半端ない。
よく見るとハイクロにまで被弾して一緒にしょげ返っていた。
「ぅみ……(ぁの……)」
「ゥフッ(お黙りよ)」
母狼を見上げる。その顔は、悪戯っ子のようにニヤついていた。
わざとかいっ!?
思わず半目になった。
「み(かあさん)」
「ウォン(その方がお前には良いんだろう?)」
「……に(……まぁね)」
完全に見透かされている。流石に俺が何をしようとしているか、までは分かっていないだろうけど。分かっていても、不思議はないと思えてくるのは何なのか。
「ウォン、ウォフッ(帰って来てから、ちゃんと相手をしておやり)」
そう言うと俺の首筋をくわえて持ち上げる。
あぁぁぁ……手足ぷら〜ん、てなるぅ……。
視界が高くなると周りがよく見える。ハイイロ達全員が殊勝な顔で俺の事を見ていた。
ざ、罪悪感が……っ!!
そのままみんなの顔が遠ざかって行った。
……後できちんと何かしようと思った。
***
「ふみぃ(なぁ、かあさん)」
「ゥー?(何だい?)」
「んにぃ(あいつらって、なにがすきかな)」
「ゥフッ(あいつらって、誰の事だろうねぇ)」
……分かってて言ってんだろうがっ!!
「……ぴ(ちゃいろたち)」
「グルゥ、ウッフ(あの子らの好きな物ねぇ。おっぱいと肉かね)」
……これも分かってて言ってるんだろうなぁ、きっと。怒る気力もねぇや。
「ぅにゃう(おれがてにいれられるやつで)」
ポイッと、突然宙に投げられる。
「ぴ!?(うわっ!?)」
我が儘言ったから捨てられた!? と、一瞬焦るもすぐにモフモフした何かの上に落ちて埋もれる。……すんげぇ、モフモフ。
「ウォフッ、ガウ(外は寒いからね。黒いのをくわえてるとあたしも話しにくいんだよ)」
話しにくいってのは全力で同意。それと……凄い暖かいデス。
「グルゥ、グァウ(それと、さっきの質問だね。お前が手に入れられそう、が条件だと今の時期は難しいねぇ)」
「んみぃ(なんとかならないか?)」
「ウワフッ(そうだねぇ、藪の実なら何とかなるかもしれないね)」
ヤブノミ……? 何かの実、ヤブ……藪、か? それなら今の俺でも手に入れられるだろうか。しかしそれって食べられるやつなんだよな?
「ワゥ、ワフ(甘くて美味しいよ。おっぱいの出も良くなるね)」
そ れ は 良 い 事 だ 。
いやいや、甘いという事がだからな? 別におっぱいの事なんて……ま、まぁ……俺はまだ主食がおっぱいだからな。その、なんだ。出るに越した事はないよな。うん。
「うみゅん(それはどこにある?)」
「ウフッ、ウォゥ(あたしがいつも狩りに行く道の途中だね。この先だよ)」
よっし! いける!!
……というより、明らかに母さんの手の平の上だよな、俺。まぁ、今は転がされてやるよ。
偉そうな事言ってるけど、実は全く勝てる気はしない。まぁ、良いか。
「ワッフ(ほら、アレだよ)」
近ぇぇぇぇぇぇぇっ!?
あ、そういえば。これ取ったとしても、どうやって持って帰れば良いんだろうな? 入れ物なんて持ってないぞ。
「ウォフ(これに入れて帰れば良いよ)」
母さんの首元から降ろされて、渡されたのは何かデッカい葉っぱ。母さんがグッ、と首を伸ばして葉の付け根から食い千切った。
……俺だと母さんに乗っかってても、届かないけどな。
「んみっ(ありがとう)」
「ウォフッ、ワゥゥ(気にするんじゃないよ。それじゃあたしは狩りに行くからね)」
ん、まぁ、狩りに同行は無理だもんな。俺も行きたくはない。……ココで待つのか?
「グルゥ、ウォゥ(あたしが戻るまで、絶対に! この藪から出るんじゃないよ、良いね!?)」
「……ぅみゃぅ(……りょうかいです、まむ)」
ガサガサ
あ、意外と暖かい。風も全然入って来ないし。
それに、外から見た時よりも実の数が段違いに多い。そういえばこれ、他の小動物のエサにならないのか? 栄養あるなら貴重だと思うんだけど。
……まぁ、良いか。数ある方が今は助かるし。
地面に広げた葉の上に、食い千切った実を乗せて行く。葉の緑に、実の赤が鮮やかだ。
どんな味なのかね?
味見味見と、ウキウキしながら1粒パクリ。
実を噛み砕こうと、砕こ、砕……
……俺、まだ歯生えてなかった……。
がっつりとテンションを落としながらも実を集める。
タイムリミットは母さんが帰って来るまでだ。
とりあえず手の……口の届く範囲にある実を集め続ける。ひたすら集め続けて、そろそろ葉から零れ落ちそうかなって位まで集めてみた。
達成感半端ねぇ。
こんもり集まった実を包むべく、ヤツデのような形の葉を端っこからパタパタと折りたたんで、と。また広がらないように、葉の先端を口でくわえる。
……包みが地面に擦れそうで首がプルプルするぜぇ……。
重みで引きずらないように、首を上に向けながら持ち上げる。まぁ、歩けない事はないがな。……結構ギリギリだけど。
「ウォフッ(黒いの)」
お、まさかの狩り終了? 早くね??
「むー(おーぅ)」
「ワフ(随分と集めたね)」
「んむー(わぅわっはー)」
「グフッ、グゥ(悪いけど何を言ってるか分からないよ。さ、お貸し)」
俺がプルプルしながら必死に運んでいた実をいとも容易く口でくわえ上げる。……俺だって、大きくなれば簡単だからな。
ちょっぴり悔しい。
荷物をくわえると、母さんは頭をグッと下げる。何だ??
「ウゥ(お乗り)」
「ぴ(りょうかい)」
俺が首元によじ登ると、ぐらん、と揺れて歩き出した。実はこれ、ちょっと楽しい。乗馬とは多分、かなり違うけどな。体全体でペタっと張り付くのがオススメ。
ところで、俺の背後にデロンと力無く垂れ下がった物体があるのは、気にしない方が良いんだろうなぁ。すっごく血の匂いがするんだけど、それも気にしない方が良いんだろうなぁ……。
チラッ
「ぴぃ……(めがあった……)」
「グゥ?(どうしたね?)」
***
「グウゥ(帰ったよ)」
「「「「きゃん!(かあさん!)」」」」
わらわらっと集まる子狼4匹。妙に焦ってるように見えるけど、どうした?
「きゃん、きゃん!(かあさん、くろいのはいっしょじゃないの!?)」
「きゃいん! きゃう!(まさか、ほんとうにすてちまったのか!?)」
「ぎゃいん!? ぎゃん!(すてたの!? おれ、ひろってくる!)」
「きゃぅん!(……くろいのどこ!?)」
……おぅ、原因俺かぁ……。
「グルゥ(安心おし、黒いのは背中だよ)」
「んみぃ(ぇと、ただぃま)」
「「「「きゃぅん!(くろいの!)」」」」
母さんに背中から降ろして貰うと、物凄い取り囲まれた。俺、ぐっちゃぐちゃのよだれまみれ。
流石にここで拒否ったりはしないさ。出かける時の顔と、今の心配っぷり見てんだから。
「……ひゃん(……くろいの、あのね?)」
ハイクロ?
「きゅうん(くろいの、いるよね?)」
ハイイロ??
「ぐぅ、わふっ(おれはくろいののにいちゃんだからな)」
……ハイシロ。
「わう(……みんな、かぞく)」
…………チャイロ。
うん。みんな、ありがとう。
「グゥ(で、これはどうしたら良いんだい?)」
「みぁぅ(……したにおろしてー)」
母さんが藪の実の葉っぱ包みを地面に下ろすと、隙間からポロポロと赤い実が零れ出る。
む、梱包甘かったか、って完璧は無理だよなぁ。
「きゅうん?(かあさん、これなぁに?)」
「ウォフッ(黒いのにお聞き)」
「ふきゅん?(くろいの、これなんだ?)」
ぅ……ちょっと緊張する……。
「みゅ、ふみぃ(みんなに。かあさんがあまくておいしいって)」
「わふっ!(これうまいのか!?)」
「グルルル(あぁ、美味いとも。ついでにおっぱいも沢山出るようになるしねぇ)」
「「「「!!」」」」
全員の目が一斉に輝く。どころか、尻尾も全力で振られ始めた。
俺へ向けた目がキラキラと、尊敬の念が込められているように感じる。……出かける前の表情を知っているだけに、何とも居心地が悪い。
「わぅん(……くろいの、なんでおれたちに?)」
!! ……もしかして、迷惑だったんだろうか。
「ふみゃぅ、みぃ……(え、と。たべてほしくて。その、おれい……)」
「くぅ?(おれい? なんの?)」
「ぅ、ぴゃぅ、みぃぁ(んと、おれと、かぞくになってくれた、おれい)」
きっかけはバレンタインデーだったけど、これも嘘じゃない。俺を家族だと言ってくれた事は、凄く感謝している。だから
「みゃぅ!(これからも、よろしく!)」
「きゃん、きゃっふ!(これすっげぇうまい!!)」
「くぉ——ん!(うまー!!)」
「きゅんっ(これ、すごくおいしいね)」
「うぉふっ(……うまい)」
「グルルゥ、ウォゥッ(相変わらず美味しいねぇ。それにしても、こんなに沢山食べるのは初めてだね)」
「にゅん(いっぱい、くえよ)」
「きゅ?(くろいのはたべないのか?)」
「ふきゅん?(おいしいわよ?)」
「んみ(『は』がないからかめない)」
「わふ(……これ、くえ)」
モグモグ、デロン
「…………」
「ぅきゅ?(……くわないのか?)」
「……み(……くう)」
「ワフッ、ウォン(良かったねぇ黒いの。お前が取って来たんだから、お前もお食べ)」
「「きゅ!(じゃあ、おれも!)」」
「きゅん(あたしもあげる)」
デロデロン、デロン
「ふきゅ(……おかわりあげる)」
デロリン
「……み、みぃ……(……あ、あり、がとぅ……)
(もう、かんべんしてくれ)