甘さと暑さに耐える苦痛の記憶
心が寒いです。誰か温もりを下さい。
本日は2話更新となります。12時に番外編を上げますので、そちらもよろしくお願い致します。
あ゛――――、あっついな――――。
うだるような日差しも原因の一つなんだけどさー、それ以上に暑いと感じさせる要因がきっとあるんだよなー。何だろうなー。気になるなー。
あ゛――――!! ホントすっごく暑いな――――!!
「ガウッ!(黒いの、うるさいっ!)」
「ニ゛ャッ!(暑いんだも゛んっ!)」
「キャフ(今日はそんなに暑くないわよ)」
「ニ゛ャー(そういう意味じゃないも゛ーん)」
日差しそのものはまだ我慢出来るんだよ。暑い事は暑いんだけどさ。それに俺の体毛は真っ黒だから、タダでさえ熱を吸収しやすい太陽死ね。
でも! 俺が暑さを感じている一番の原因はハイクロ達だっ! 直接は言えないけど!! 何で直接言わないのかって? ……察して下さい(泣)。
「グルゥ?(黒いの、大丈夫かよ?)」
「ミ゛ャ(大丈夫くな゛い)」
「……ワゥ(……気持ちは分かるけどな)」
溜め息を零しながらハイシロがチラリと目線を送る先は巣の片隅だ。
そこには夏の日差しから避難したハイクロと、寄り添うハンキバの姿があった。暑い、暑いと2頭共が口にしながらもピッタリと寄り添っている様子を見れば、俺が愚痴りたくなる気持ちも少しは分かってくれるのではないだろうか?
ちなみに、これは決して嫉妬心から来るものでは無いと明言しておこう。あくまでも、見た目の暑苦しさからの苦情なのだ。
チラリと視線を向けた先ではハイクロ達が暑いねー、と口に出してはペロリと顔を舐め合って。暑いねー、と口に出しては首筋を擦り付け合って。その度に尻尾がぱたぱたと揺れる。
暑いんだったら離れろよ(真顔)。
「……ワフ(……確かにアレは暑い)」
「ニ(見てるだけでもな)」
ちなみに母さんは既に逃走済みです。多分、何処かで自分だけで涼んでるんじゃないかな? 俺達も連れて行って欲しかったです。この裏切り者ぉ……。
今の時間は日も高く、巣の外は日差しが暑過ぎて狩りに行くのも躊躇われる気温である。俺も母さんも毛色が真っ黒だからね、焦げちゃう。
だからこそ、ハンキバも巣の中に避難して来たという訳で。ちなみにハンキバはハイクロよりは少し黒味が薄い。ハイイロよりは濃いという感じの毛色である。
湿度さえ高くなければ意外と巣の中は外より気温が低いんだけど、今は見た目と狼口密度であっついの。見た目が要因としては1番大きいけど。
「グルゥ(……がんばれ)」
「……わう?(……やきにく?)」
ちげーよ、寝てろ。
「わぅー……(すやぁ……)」
今、口で言ったぞこいつ。
この暑さにも関わらずヘソ天で爆睡していたハイイロだが、何処をどう聞き間違ったか寝ぼけ声で呟く。すぐに二度寝突入したけど。すやぁって言ってたけど。
きっと「焦げ」のところだけを聞き取ったんだろうけど……って、ちょっと待て。俺はさっき口には出していなかった筈だぞ? まさかハイイロも母さんと同じく……いや、無いな。だってハイイロだし。たまたま焼肉を食べる夢でも見ていたんだろう、うん。
俺を慰めてくれるチャイロの優しさに癒されつつ、だけどハグは勘弁と距離を取る。俺は暑いんだってば。しょんぼりしてもダメなものはダメなのである。
そもそも、今の外気温で焼肉なんてしたくないでござる。
夏場の鍋も地獄ですよね。前世では時々やってたけど、それは室内にエアコンがあったからこそ。だって、具材を切ってだし汁に突っ込めばいいから楽だったんだよ。きちんとした作り方をするならまた別なんだろうけど。それに、残った汁で雑炊とかうどんとかが出来るから翌日のメインにもなるしさ……。
焼肉をするならせめて日の落ちる夕方に、ってそういえば今日の狩りはどうするんだろうか。夕方までには、流石の母さんも帰って来てるよね? ね?
***
「ワフ(ただいま)」
「「「「ワゥー((……)おかえりー)」」」」
「ワ、ワゥ(お、おかえりなさい)」
「ニャー(おかいもー)」
母さんは夕方近くになってからしれっと帰って来たでござる。俺達をラブラブムードの中に置き去りにして自分だけ避難していた事は忘れない。お腹も空きました。
あの後もハイクロが生成するストロベリー空間に、どれだけ俺達の精神が摩耗された事か……! 最終的には意識を失うようにふて寝してましたが、何か?
最初から爆睡していたハイイロが正解だったというオチです。
まぁ、それはそれとして。
母さんが帰って来た以上、俺達がやる事は一つ。それは狩りだ。育ち盛りの俺達にはお肉が大量に必要なのです。
それに、ハイイロが寝言で『焼肉』を連呼していたせいで、すっかり俺も焼肉を食べたいお腹になってしまいました。チャイロ達も同じく。
だから今日のご飯は焼肉で確定です。やったぜ!!
……そういえば、ハンキバ野郎にも焼肉を振る舞ってやらないとだな。前にそんな事を思った事があった筈。
何だかんだと細々した事があって、ハンキバ野郎が来てからは焼肉をした事は無かったのである。ここ数日は生肉や自生している野菜を貪り食っていました。ハイイロが焼肉の夢を見たのも、それが原因なのかもしれん。焼肉不足だったのかもね。
そうそう、母さんの肉の焼き具合も甘くしてやらんとな……! この間の恨みは忘れてないんだぜ……!!
それとハンキバこの野郎、どもってるんじゃねーよ! 照れてんのか!? きめぇn……イエ、ナンデモナイデス。
ふぇぇ、ハイクロが怖いよぅぅ……なんつって。一番きもいのは俺でした。これで良いでしょうか? どうか許して下さい……。あ、ダメ……? ちょ……っ!?
「ウォフッ(さ、狩りに行くよ)」
「ニャー!(了解ー!)」
チッ!
今、舌打ちが聞こえた気がするけど、きっと気のせいですよね……? ウン、キノセイダヨ。
狩りと聞いて即座に眠気の覚めるハイイロはいつも通りに癒しです。
ついさっきまで空中でしゃかしゃかと足を動かしていたけど、夢の中で狩りでもしてたのかね? 昼間も「やきにく」って呟いてたし。ちなみに寝ながら足しゃかしゃかはチャイロやハイシロも時々やっている。たまーにビクッ! と痙攣してるのは何の夢を見ているんだろうな。確かアレも何とかっつー名称があった筈。
話は唐突に変わるけど、テンションの上がったハイイロの背後に近寄るのはお勧め出来ません。何故かと言うと、テンションの上がるままに振り回される尻尾でビンタされるか、吹っ飛ばされる可能性が高いから。
ほら、俺って軽いからね……。過去に吹っ飛ばされた被害が何度もあったりするんです。
狩りに行く為、よじよじとハイシロの背中によじ登る様子をハンキバにガン見される。何よ? 別にハイクロの視線から逃れる為じゃないんだからねっ!
「……グルゥ?(……前から気になってたんだが、それは何をしているんだ?)」
「ニャフ(ハイシロに登ってる)」
「キュゥ、ウォフッ(黒いのは狩りの時はいつもこうよ。体力とかが足りないから)」
「グゥ?(置いていけば良いんじゃないか?)」
……てめぇ、俺にニートになれとでの言いたいのか?
働かないで食う飯は美味いです、とでも言わせる気か?
喧嘩なら受けて立つぞ、夢の中でな!! ……だって現実では勝てる訳無いじゃないですか、ヤダー。俺はか弱い猫ですよ?
俺のジト目にわたわたしているハンキバに、狩りの時の俺の役割はサポート要員なのだと教えてやる。今さらな説明だが、今まで聞くに聞けなかったらしい。
鼻の良さではチャイロ達に劣るけど、目の良さは誰よりも勝ってるんだぜ? 普通なら猫の視力はあまり良くなかった気がするけど、そこは猫又ならではの特殊能力の1つなんだと思っとく。損はしてないし。
木に登れる事を利用しての高所からの指示出しや、土の能力を使っての獲物の行動妨害など、やる事はそれなりに色々ある。
最近は土の能力もかなり使い勝手が良くなって、獲物の足元の狙った所をピンポイントで凹ませるなんて事も出来るようになった。何故か時々ハイイロが引っかかるけど。目の前で転ぶ獲物を見ている筈なのに、自分も引っかかるってドウイウコト。
……それはさておき、俺も狩りには同行するのは確定なのだ。
「ワフッ(黒いのだけ残すのも心配だしな)」
「……ガゥ(……了解した)」
俺の説明と、ハイシロの補足コメントに少し考えた後、こっくりと頷くハンキバ。ハイシロの言い方が何かニュアンスが違った気がするけど気のせいだろうか?
さーて、今回はキッチリとテメエの狩りの性能を見せて貰うぜ……? チャラオの群れで見せた狩り勝負が実力でした、なんて情けない事は言わせねぇからなぁ……!!
あれから半年は経っているんだし、少しぐらいは狩りの腕が上がってくれていないと困るんだ。ハイクロを飢えさせるような奴には、ハイクロは絶対に渡さないんだからな!! ……べ、別にあんたを認めたって訳じゃ無いんだからねッ!! ツンデレか。
***
「「ワゥ――!(とったど――!)」」
すっかりハイシロもハイイロもネタに染まりましたね、良い傾向です。
ちなみに、俺的にはコレの元ネタは黄○伝説から。大元はプロレスから来てるらしいけど、俺はそっちは知らないんだよねー。
地面に倒れ伏した大きなメスイノシシを前に、高々と遠吠えを響かせるハイシロとハイイロ。今回の獲物もなかなかの大物です。
ちなみにイノシシにトドメを刺したのは母さんです。今は口元が血で真っ赤に染まっている。赤に染まった口元を満足そうにペロリ、ペロリと舌で舐め回しているのがテラ怖す。もうすぐ全員の口元が染まるけど。
そして件のハンキバは何処にいたのかと言うと、ハイクロとチャイロと共に追い込み係をしていました。やっぱりハンキバだと牙が片方無いから決定打に欠けるので仕方無い。適材適所です。
俺は木の上からその様子を見ていたけれど、動き的には悪く無いんじゃないかと思った。やはり反応としてはチャイロやハイクロに劣っているけど、直線での加速はかなりのものだった。追い込み役としてはそれなりにやれていたんじゃないだろうか。今後、母さんのブートキャンプとかを開催すればもっと良い所にいけると思う。
……ちなみに、今の感想は客観的なものだからな! 個人的感情とかは含めていない、と言っておく。
「キャウ?(こっちはどうするの?)」
「ニャゥ(そっちも焼くよー)」
そう問い掛けるハイクロの足元にはメスイノシシの子供、前世で通称『ウリボウ』と呼ばれていたモノが2体転がっている。うん、まぁ……過去形な訳で。今はただの肉塊です。
人間だった頃ならちっちゃなウリボウを殺すなんて! って思うんだろうけど、今となっては美味しいお肉にしか見えません。つか、今まで散々ウサギやらシカやらを狩っているので今さらですしおすし。
ウリボウがいる……つまり、俺達が狩ったメスイノシシは母親だったという……弱肉強食ですね、はい。メスイノシシを狩るついでとばかりにサクッと狩られたウリボウには若干同情しなくもないのだけれど、お肉が増えた事には諸手を挙げて喜びます。何より、ウリボウの肉は柔らかくて美味いんだよ。
ちなみに、ウリボウを仕留めたのはハイクロです。キャー、ハイクロサンステキー! ……ひぃ!?
アー、アー。俺は何もイッテマセン。
ささっ、バンバン焼いちゃうから、どんどんお肉持って来てー!!
「ワウ(はいよ)」
……丸ごとのウリボウを焼く日が来るとは思わなかったです。
「グルゥ?(小さいからそのままでも良いだろう?)」
小さいとは言っても、俺と同じくらいの大きさなんですが、それは。まぁ、子豚の丸焼きと思えばいけなくもない、か?
でも、丸ごとだと焼け具合が見辛いにゃぁ。
「ワフッ!?(うまっ!?)」
ガツガツ、ガフガフと焼き立てほやほやのウリボウの丸焼きを貪り食っているのはハンキバです。一口食う度に「うまっ!」と声を上げている。
その横ではハイイロがドヤ顔でハンキバを見つめている。焼いたのは俺ですよ?
「ワウッ!(うまいだろっ!)」
だから、焼いたのは俺ですよ?
コクコクと頷くハンキバに、ハイイロのドヤ顔がますます輝く。だから、焼いたのは……まぁ、良いや。
小さなウリボウは、全員で分けてしまうとあっという間に無くなってしまう。1番食べるのが遅い俺は、周りの視線と圧力をスルーしなければならないので、時々ちょっと辛い。
「グゥ?(手伝うよ?)」
「ミャ(いらね)」
期待に目を輝かせたハイイロが食べる手伝いを申し出るけど、俺にウリボウを譲る気は無い。次のが焼けるまで待て。
「ワフゥ?(黒いの、少し疲れてるのかい?)」
「ンニャ?(んな事ねーよ?)」
「ワフ……ウォフッ(そうかい……次はもうちょっと焼いてくれても良いよ)」
「ミャー(へーい)」
ワザとです。
「ワゥ……?(黒いの……?)」
ん? なーにぃ?
「グルルゥ?(次は、きちんと、焼いておくれよ?)」
念を推すように一言ずつ区切って言う母さん。……了解です、マイマザー。
なんでバレたし。
暑いなら離れろよ(真顔)。
何ゆえ猫は、暑くてだれているというのに猫同士でくっ付き合うのか。それなのに、何ゆえ人間がくっ付こうとすると全力で拒否してくれやがり下さるのか。解せぬ。




