尻尾ネジネジ作戦とちょっと……の記憶
『……』の中はご自由にご想像下さい。だいたい合ってます。
俺が人間との初遭遇を経験したあの日。
そして、チャイロ達と対策を話し合ってから数日が経っているのだが、未だに尻尾ネジネジ作戦は上手くいく兆しを見せていない。
前足でネジネジするならば上手くいくのだけども、時間経過や気持ちが何かに逸れると勝手に解けてしまう。それも、気が付いたら解けてるというパターン。無意識なのがタチが悪い。
そして本命の尻尾を操るやり方のは前足を使わずとも何とか形になるようにはなったけど、あくまでも『形に』しかなってはいない。隙間だらけで問題ありありである。俺のイメージでの最終形態はモールワイヤーみたいな感じなのだが、現状では程遠い。
「ムニュ〜……(上手くいかねぇなぁ〜……)」
「ワウー(黒いのがんばれー)」
何が楽しいのか、じっと俺の練習風景を見ているハイイロが緩ーい雰囲気の応援をしてくる。尻尾の先だけで応えたら、その拍子に尻尾がばらけた。失敗。
フシャ————!!
ジババババッ!! と勢い良く倒木に八つ当たり。爪研ぎに、猫パンチにと、良い的です。
もっとも、さっきの失敗は俺のせいなので自業自得である。無精して尻尾で返事をしたのが原因だ。
「ウナァ(だから、ハイイロが落ち込む理由はないの)」
「キュン(はぁい)」
ぺしょっと耳と尻尾を下げていたハイイロに気付いてフォロー。
あん? 木に八つ当たりしてたから余計に気にしたんじゃないかって? ……細けぇこたぁ気にすんなよ、漢だろ……ハイイロは(目を逸らす)。
「ニャッ?(そ、そういえば、ハイクロは今日は母さんの特別講習は良いの?)」
「ワフ(今日はお休み)」
うん、ずっと静かだったけどハイクロも実は最初から居たんですよ。さっきのツッコミもハイクロからです。「漢だろ」と言った瞬間の目が怖かったので、速攻で『ハイイロは』と付け加えておきました……セ、セーフ?
最初から居たとは言えども、ハイクロはハイイロのように俺の練習風景を見てるのでは無く、ウトウトと微睡んでいたので静かだったんですよ。
さっぱり成果の上がらない練習にすっかり嫌気が差して、気分転換にハイクロへと話し掛ける。
目を閉じていたハイクロだが、本気で眠っていた訳では無い。時々チラリと薄目を開けて俺の事を見ていたのがその証拠だ。
多分、監視要員だろう。対象が俺では無い事を祈りたいが……間違いなく俺だろうな。せめて俺を心配してである事を望む。万が一にも、『俺がやらかす』何かへの警戒では無い……と、良いな……。
自分で考えておきながら想像以上のダメージに、ぺしゃっと尻尾が地面と仲良しさんになった。そのまま地面をねりねりと蠢きだす尻尾がキモい。
「キュ?(どうしたの?)」
「ひみゃ(なんでもないれす)」
なんでもないよ? なんでも……ハハッ……。
自爆とも言えるダメージだったが、それから復活するにはかなりの時間を要した。具体的には、黙り込んだまま動かない俺を心配したハイクロが俺の頭頂部を舐め始めてから頭が痺れ始めるまで。とっても頭頂部がジリジリします。禿げてないよね?
ちなみに、ハイイロも参戦しようとしてたけどハイクロの「お座り」の一言で大人しくお座り中。ハイイロェ……。
そんなこんなで精神的ダメージからは復活したけど、ネジネジ訓練を再開する気にはどうにもなれず、ペチペチとお座りしたままのハイイロの尻尾にじゃれてみる。
すると、ハイイロがパッと顔色を明るくして——もっとも、毛だらけで顔『色』など分かる筈も無いが——即座に反応した。
ババッ! と勢い良く体を伏せて、尻尾をふりふり、お尻もふりふり。そしてお目々はキラキラと期待に輝きまくっている。
……これは、もう期待に応えるしかありませんよね? 本当にハイイロは仕方がないにゃあ(棒読み)。
「ニャッハ————!!(やったんぜ、おら————!!)」
「ワゥ——!!(ウヒョ——!!)」
後ろ足で立ち上がって、必殺『コアリクイの威嚇ポーズ』! 『レッサーパンダの威嚇ポーズ』でも良し。
ビシッ! とポーズを決めれば興奮したハイイロが飛び掛ってくるのが見えた。すかさず華麗に避けて、逆襲! 一気に乗り上がればロデオ開始じゃーい!!
びったん、ばったんと暴れ回るハイイロの背中の上で必死にバランスを取る。
ウヒョ――――!!
***
「クゥ?(何か言いたい事は?)」
「ワフ(ごめんなさい)」
「ニャ(全力で謝罪します)」
おかしいな? 口の中がジャリジャリするよ?
それに、顔面全体が痛いんだ。なんでかなー(棒読み)。
はい、現実逃避さーせん。ふざけすぎましたね。
お願いですから、そのスラリと美しいおみ足を退かしては頂けないでしょうか? 俺だけならともかく、体格の違うハイイロをも踏み潰すハイクロの脚力ェ……。
「キュ?(何か言いたい事でも?)」
「ギニュ(滅相も御座いません)」
うへへぇ……、口を開く度にジャリジャリするぅ……。
すっかり母さんと行動が似てきたハイクロが、俺とハイイロを踏み潰す足に力を入れる。その理由は先程までの俺とハイイロの大乱闘だ。そしてその後の思考の迷子だ。流石におふざけが過ぎたらしい。特に後半に関しては言い訳のしようもありません。
ハイクロに踏み潰されてヒュンヒュン、キュンキュンと鼻を鳴らしているハイイロだが、自力でハイクロの足から逃れようとはしない。ハイイロの力ならば簡単に抜け出せる筈なのに。それは怖いからだ。
母さんからのお仕置きもそう。下手に逃れようとするとさらに苦しむ事になるのがオチである。なので、逃げずにOSHIOKIされるのが1番良い。何故、そんな事を知っているかというと……察してくれ。
……もっと良いのはお仕置きをされるような事をしない、なんだけど……俺には、俺達には難しいものだったりする訳で……。
「クゥ?(黒いの?)」
ぎゅり
「びゃ(ヴぉぇんあぁい)」
「ワフ(分かればよろしい)」
はい、思考を逸らすなって事ですよね。
ハイクロが1番怒っているのはアレだ。わざわざお目付け役として俺に付いていたというのにも関わらず、肝心の俺自身が訓練から逸脱してハイイロと遊び始めたのだからだ。ハイイロは巻き込まれた、というかとばっちりである。すまぬ。
その訓練というのも、俺が人間達から目を付けられ難くするという、いわば『自衛』の為の訓練なのにそれを蔑ろにしているのを見れば……怒るな、うん。
「クォフッ(ハイイロも、黒いのの邪魔をしないの)」
「ヒュ~ン……(はぁい……)」
ペヒョン、とハイイロの尻尾が小さく振られる気配。
何で気配かって? その答えは、まだ俺の顔面が地面と仲良しさんだから。たぶんハイイロもそうだと思われる。
そう考えたところでハイクロの足がゆっくりと外された。
グッと顔を持ち上げ、ぶるぶるぶるっ! と顔を振る。それでも取り切れなかった土は前足でもって拭い払った。
恐る恐るハイクロの顔を見上げると逆光でハッキリとは見えないが、その瞳だけがキラリと光る。自然と尻の穴がキュッとした。
「キャフ(出来てるじゃない)」
はぇ?
ハイクロの視線を辿って振り向けば綺麗に1本に捩り上げられた尻尾の姿。
それを見た俺の口がカパッと開く。
……ここ数日間の俺の努力は一体……?
脱力すると尻尾も解けてクナリと萎れる。
慌てて尻にキュッと力を入れるが、尻尾はピンと立ち上がりはしたが2本に分かれたままである。しばし考え、尻の……に力を入れるようにしてみると捩り合わさって行く2本の尻尾。
脱力、キュッ、を数回繰り返して完全にマスターした事を悟った俺。もはや溜め息も出ない。いや、出るけど。
……なんつーか、締まらねぇ……いや、締まってんだけど。いやいや……。
シモネタかよ! と前足でエアーツッコミ。
さり気無く真似をしているらしいハイイロの姿が目に入るけど、それは『お手』だ。だけど、可愛いから、良し。可愛いは正義だ。それに間違いは無い。何より和むし。
うんうん、と頷く俺を見たハイクロが首を傾げるが、特に何かを言うでも無く歩き出す……と見せかけて俺の首筋をパクリとくわえてから歩き出した。
「ニャ?(ハイクロ?)」
「ワゥ(行くわよ)」
「ワフー(はーい)」
俺の問い掛けに答える事も無く歩み出すハイクロに付き従うハイイロ。ハイクロの行動に対してハイイロは何の疑問も抱いていないのだろう。
そのあまりの堂々とした態度に、俺の方が間違っているのかと疑問さえ浮かんでくる。
プラプラと揺られるままに尻尾を1本、2本と纏めたり解いたりを繰り返す。
……どうやら、本気で尻尾ネジネジをマスター出来たようだ。怪我の功名と言うか、何と言うか……毎度の如く、俺の能力は微妙なタイミングで開花するらしい。これを『能力』と称して良いのかは不明だが。
ただし、まだ意識していないとネジネジが緩んでくるから要注意。目指すは意識しなくてもネジネジ状態を維持する事だ。
「ウォフン?(お前達、訓練は良いのかね?)」
「クウ(とりあえず形にはなったわよ)」
プラプラと揺られながらハイクロに運ばれた先にいたのは、予想通り母さんだった。ちなみにハイシロとチャイロはいない。2頭とも、狩りにでも行っているのだろうか?
のぺん、と寝そべったままの母さんからの問い掛けに、ハイクロがくわえた俺を掲げる事で示す。掲げられた俺もまた、母さんに見えるように尻尾を2本、1本と数回操ってみせた。
「グルゥ(ふむ、まあまあだね)」
わーい、褒められたー。
「キャフ(途中、遊んでたけど)」
……っ!? ハイクロ、それは暴露しなくても良い事なのでは無くって!?
あぁぁぁああ!! 母さんの目が冷たく……!!
俺を慈しむように見ていた母さんの目がジト目に変わる。
気まずくなって目を逸らすが、すかさずハイクロが体の向きを変えて母さんと対面させられた。逃げる事は許されない、と。
チロリと上目遣いで見やれば母さんと目が合った。思わず耳と尾がへたる。
「ウォフッ(後悔するなら何故やらかすのかねぇ)」
「ウミィ……(仰るとおりです……)」
ネタ体質なのか、芸人体質なのか、分かっちゃいるけどやめられないお約束というものがありまして……。ほら、ネタを挟まないと死んじゃうみたいな?
「グルゥ(意味が分からないよ)」
ですよねー。
「キュ……?(黒いの、死んじゃうの……?)」
「ギニャッ!!(死なねえから!!)」
プルプルと震えながらお目々ウルウルで俺をガン見のハイイロに裏手ツッコミ。図体のデカい狼なのに、チワワの幻影が見えたのは何故なのか。ハイイロ、実は幻影が使えるとかいうオチじゃないだろうな? ソレは俺のだ。
そして、ハイイロにこの手のボケはしてはいけないと悟った瞬間だった。この手の……つまり生死関係のボケな。
「グルルゥ(まぁ、もう少しだね)」
「ミャ(うぃっす)」
とりあえずは形になったけど、俺の体格からするとこの尻尾の太さは不自然である。せめて長毛種ならある程度の誤魔化しも効くのだが……。
現状は常にビックリモードのような感じ。あれ可愛いんだよな。瞳孔も真ん丸になったりするし。
「クゥ(ちょっと変)」
「ンニャ(知ってる)」
やっぱり、幻術的な能力が必要かね?
「ニャウ? ンナーォ(猫又って『幻術』とかって使えるんだよね? あるいは、それっぽい能力)」
「ワフ、ガゥ(そんな事は聞いた気がするけどね。お前が使えるかは別だよ)」
種族特性とか、ゲームだと良くあるんだけどなー。ほら、エルフなら精霊魔法とか、サキュバスなら魅了とか。……そういえば、エルフとかサキュバスっているのかな、ドキドキ。
「ワウ(聞いた事が無いね)」
「ミゥ……(無いのか……)」
いや、母さんが聞いた事無いってだけで、実は存在しているというパターンもあるかもだし、期待くらいはしても……良いよね? ほら、エルフはひんぬーなのか、それともエロフなのか……。ロリっ子サキュバスは存在するのか、とかさ……。
一応、俺だって男の子だもん。学生時代にはそういうエロ系のお話しもしてましたし。俺は別にロリコンでは無いけど。……そういえば、社会人になってからはそういう系の話ってしてなかったような気が。あ、あれ? 枯れた……訳じゃ無い、よな?
「キュ……(黒いの不潔……)」
はっ!? ハイクロの目がゴミを見るかのような目に……!? 心なしかハイイロの目も冷たく……!
「ワフ(黒いのも一応は雄だったんだね)」
一応も何も、全力で『雄』ですよ。ただし、この猫生で子作り出来るかっつーのは……言及を控えさせて下さい。
「キャン?(子作りは生き物の義務よ?)」
「ニャ(おれ、義務を達成出来ないかも)」
「ワフゥ……(それはそれで哀れだねぇ……)」
しみじみと言わんで下さいよ、母さん。つか、ハイクロの口から『子作り』とか聞きたくなかった。
「キャフ(その内、あたしも番を見つけないとね)」
あーあー、聞こえなーい!! つか、聞きたくなぁーい!!
相変わらずの尻尾訓練と思春期()のお話。
ネジネジ成功のきっかけは、ほんの些細な出来事でした(恐怖)。ゆるふわカールから中尾彬に劇的ビ○ォーアフター。
ただし、ネジネジ故のボコボコ感は残る。母さんの言う不自然さはそれの事です。
後半で黒いのがハイクロの番云々にこだわる理由は『姉(妹)に手を出すなら、俺を倒してからにしろ!』的な感情から。ラブではありません。家族愛です。このシスコンめ!
ラスト近辺は……まぁ、男の子なので。
それにしても、黒いのの番ってのも想像出来ないなぁ……。未来は猫で魔法使い? あれ? 既にそうなってる??




