『口は災いの元』を実感した記憶
久しぶりの交流会は和やかに解散となりました。
久しぶりに会ったジャイ達との交流は3日間に及んだ。
連日の焼肉パーティーは大変だったけどね、みんな喜んでくれるからやりがいもあった。その事だけでも、遊びに来た甲斐はあったと思う。
ハイシロ達の念願だったクマも狩れたし。
以前に別れた時よりも体も大きく、言葉もしっかりとしたジャイ達は最初別狼に見えたけど、言葉を交わせば俺の知ってるジャイ達そのままだった。言葉遣いはしっかりした、と言っても話す内容的にはそうそう変わらない。
チャラオは、ジャイ達がここ最近はずっと気が立っていたと言っていたけれど、俺達と過ごしている間はそんな様子はかけらも見えず、良い感じで息抜きになったんじゃないかなと思う。というか、そう思いたい。
連中の最後に関してはチャラオの口から母さん達にも既に伝えてあった。牙に掛けた以上は報告するのが義務だそうだ。もちろん、愚痴とかは抜きにしてである。ハイシロ達は連中を自分達で始末出来なかった事を悔しがっていたが。
そして連中に加担したチャラオの息子2頭も死んだ。残りの1頭の行方に関しては全くの不明だ。生きてるのか、それとも死んでいるのかも定かでは無い。
ジャイ達からも聞いた時にハイイロは、「何か生きてる気がする」って言ってたから、途中で意見を違えたかして別れたのではないかと思う。ハイイロの言葉を聞いたジャイは少し嬉しそうにしていた。俺達が知っているのはジャイやアオグロ達を苦しめた奴らだったが、幼い頃は優しかった事もあるのだと。
命を狙われた側としては複雑だけど、ジャイにとっては兄貴だ。もしもまた会う事があって、その時にちゃんと更生してたら焼肉を振る舞っておいてやる、と言ったらもっと嬉しそうにしていた。直後に「オレにも!」って主張してたけど。
今、振る舞ってんじゃねぇか。もっとも、食事が終わったら俺達は帰るんだけどね。
「グルゥ?(そういえば、次はいつ遊びに来るんだ?)」
「ンーニャ?(母さん次第かな?)」
「ワフ!(帰ったらまたクマかりたいなー!)」
ジャイから次の予定を聞かれるけど、俺からは母さん次第としか言えないんだ。俺1匹じゃ来られないし、チャイロ達が一緒でもまだ厳しいし。前のチャラオ達の巣まで距離程じゃ無いけど、山越えをする必要はあるから。
そして次の予定など知らぬとばかりに、帰宅後に2度目のクマ狩りを望むハイイロののん気さが憎い。あれはこの狼数だったから狩れたんであって、俺達だけじゃ無理だからな? 数の暴力があったからこその成果だからな? 帰ってすぐにクマ狩り行こうとか言い出すんじゃねぇぞ、ごるぁ!
「キャゥン……(はぁい……)」
言う気だったな、こやつ。耳の向きと尻尾で分かんだからな。
そしてさり気無く視線を逸らしたハイシロもこっそり考えてたろ。ちゃんと見てんだからな。
溜め息を吐くハイクロとチャイロが正解です。
「ウォフ?(なら、次はお前らが来れば良いんじゃねーの?)」
「「「「「!!」」」」」
誤魔化すように発したハイシロの言葉に、一斉に食い付いた子狼達の視線がチャラオに集中した。目がめっちゃキラキラしてる。
そんな目で一斉に見つめられたチャラオが目を逸らすが、子狼達はすかさず回り込む。逸らす。回り込む。逸らす。回り込む。時折フェイント。……余裕か。
「ワフ(そこまでにおし)」
ぶぎゅ、とチャラオを踏み潰して見渡す母さんの言葉に、子狼達は大人しく「はぁーい」と解散。……別にチャラオを踏み潰す必要は無かったんでねーか? とちょっと同情。
母さんが足をどけた後、慌てたアルファ達が駆け寄り舐めて労わる姿に同情心はかけらも残さず消え去った。リア充爆発しろ。いや、この場合はリア獣か。とにかく爆発しろ。くそぅ。いや、狼に恋愛アプローチされても困るんだけどさ……。
……だけど、実際のところジャイ達がこっちに来るのって可能なのか?
「……グルゥ(……別に不可能では無いんだけどね)」
煮え切らない母さんの答えに首を傾げる。チャラオや母狼達は母さんが口を濁した理由を理解しているみたいだが、生憎と俺達や子狼達は理解出来ていなかった。俺と同時にチャイロ達も、ジャイ達含む子狼達も一斉に首を傾げている。
何の偶然だろうか、全員の首を傾げる方向が綺麗に揃っていた。
……くっそ!
お客様! お客様の中にデジカメをお持ちの方はいらっしゃいませんか!? スマホでも結構です! どなたかいらっしゃいませんか!? ……いねぇよな! チクショウ!!
あ――――!! 今のシンクロ画像のデータが欲しい!! 猫又能力でデジカメ的な魔道具作れない!? めっちゃ欲しいんですけど!!
「ワフ(落ち着け)」
「ミャゥ……(ハイシロ……)」
「ワウ(しっぽがすごい事になってたよ)」
「ミャ?(え、マジで?)」
どんだけ荒ぶってたんだろうか。アオグロにも言われてしまった事にちょっとびっくり。
気付けば子狼達の視線が俺に集まっていた。正確には俺の尻尾にだけど。
ニャハ、と誤魔化してそそくさとチャイロの腹の下に避難します。
悪いけど、ちょっと隠れさせてねと言えば、俺の頼みをチャイロが断る事は基本的には無い。今回も快く引き受けてくれたので、モフッと入り込んでチャイロに体を伏せるように頼めば……よし、完璧。
ゴロゴロ鳴る喉にご機嫌になりながら説明を求めて母さんを見つめると、俺の事を鼻で笑った後に俺達が感じた疑問に答えてくれた。……鼻で笑うのは余計じゃねーですか?
ようするに、つい先日クマの特殊個体が出たばかりの場所に狼の大きな群れが移動してくれば、人を無駄に刺激してしまうのではないかという懸念があるのだそうだ。余程の事が無い限りは人が狼に手を出す事は無いけれど、急に数が増えて危険と判断されてしまえば、その可能性も否定出来ない。
母さんにそう言われて納得した部分もある。残念に思う部分の方が大きいケド……。
ジャイやアオグロ達を見れば、やはりみんなションボリと耳と尻尾を垂れさせていた。
……こんな時に場違いかもしれないが、可愛いなぁ。おい。
チャイロの腹の下で顔がニヨる。
チラリと母さんから視線を向けられたのですぐに顔を引き締めたけどね。バレバレですよね、知ってる。
はふ、と溜め息を吐いた後に母さんが告げた言葉は両者の希望の間を取るものだった。
つまり、俺達の縄張りまでは来ないものの、途中で落ち合えば良いんじゃね? と。そんな感じでちょいちょい姿を人に見せておいて人目に慣らせば、いつかはこっちまで来ても大丈夫かもしれない、と。
既に母さんと、チャイロ達の事は人間達は知っているらしい。……俺は?
「ワフ(猫又だとばれたら困るからね)」
知られてない、と。
「グゥ?(捕まりたくは無いだろう?)」
そりゃもちろんです。
こちらの世界でも、人間達の中では好事家と呼ばれる者がいる。獣の剥製を集める者だったり、生きてる獣を集める者だったり。それが特殊個体ともなればなおの事。そういった点で、俺が狙われる可能性は高いのだそうだ。
前世でも色んな獣の剥製を飾ったり、かと思えばわざわざ猛獣を飼ったりする人がいたりするし。きっと、あんな感じなのだろう。前世では虎を飼ってるのとか超羨ましかった。でっかい肉球……!
ちなみに、はぐれの時に母さんも狙われた事があるのだそうだ。母さんは全身真っ黒で毛並みも凄く綺麗だから、欲しがる人は欲しがるだろう。良い目をしているとは思うが、許容する事は出来ない。
流石に、今となっては手を出そうとする者はいないけど、だからと言って安心は出来ないんだけど。流れ者の狩人とかいるらしいし。
俺は、ただでさえ珍しい特殊個体。その中でも治癒能力を持っていると知られれば、是が非でも手に入れたがる人間はいるだろう、と。
「……ミャ?(……それって大袈裟に言ってるだけだよね?)」
「グルゥ(いや、真面目な話だよ)」
マジか、と愕然となったけど、先日のクマの特殊個体の討伐隊でも相応の被害は出ているらしい。治癒能力を持つ人間はいるけれど、どうしても数としては少ないから前線には出し辛い。何故かと言うと、うっかり死なれたら困るから。
なら前線の人間はどうするのか、と言うと所謂ポーション的な回復薬(飲み薬)の出番だそうで。とはいえ、戦闘中に飲む事が出来るとも限らないから、どうしても被害をゼロには出来ない。
そんな中で、治癒能力を使える俺を見つけたら人間達が見つけたらどうなるか? 答え:捕獲。
治癒能力者を育てるには時間とお金が掛かるらしい。だが、時間とお金を掛けずに治癒能力を使える特殊個体が手に入れば……ウッハウハです。俺ピンチ。
さらに言えば、治癒能力と言うのは遺伝するらしいです。もちろん遺伝しない場合もあるけど、かなりの高確率で可能だとか。人間同士でも治癒能力を持つ者同士で結婚して、能力を受け継がせる事は一般的だそうです。俺の場合だと相手は猫か、あるいは猫又か。どっちにしても俺ピンチ。
ぴゃぁぁぁぁぁぁ……!!
全身の毛をブワッと逆立てる俺を見つめるみんなの目は憐れみに満ちまくっていた。くそぅ、同情よりも打開策を下さい……。
***
「ワゥー(またねー)」
「クォーン!(黒いのは人間につかまるなよー!)」
「ウォーン!(ハイクロちゃん、オレと番になってー!)」
おーぅ、アオグロはまたなー。ジャイもサンキュ。絶対捕まらないように気を付ける!
んで、最後のやつ。てめぇは絶対許さない。次回会った時地味な嫌がらせしてやっから覚えてろ!
ウォンウォン、ワゥワゥと別れを告げる遠吠えの響く中、俺達は洞穴に戻る事となった。
別れの言葉は主に「また焼肉しに来てね!」だったけど。とことん肉食獣だな、お前ら。中にはきちんと俺達の帰路を心配してくれる言葉もあってありがたい。こっちは主に母狼達から。
そして、さり気無くハイクロへの告白を混ぜたやつ、てめぇの顔と匂いは覚えたからな。次に会ったら肉球と肉球の間に小石詰めてやる。あるいは尻尾の根元をツタでギュッと結んでやるよ。片結びなら出来るんだからな!!
俺がそんな覚悟をひっそりと固めているとは、母さんは知りもしないだろう。その証拠に、ハイクロと並んで歩きながらのん気に会話を続けていた。
「ワフン?(ハイクロはもてもてだねぇ?)」
「……グルゥ(……あんまりうれしくないなぁ)」
ですよね!
「グゥ?(なら、どんな雄が好みだね?)」
「ミャ(母さん、ハイクロにはまだ早い)」
「ワフ(お前はどこの頑固親父だよ)」
あ、狼でもそういう概念あるの?
ちょっと気になったので母さんに聞いてみれば、そういう狼もいると言う。もっとも、母さんの言っているそれは自分の群れに有利になる雄じゃないと認めない的な意味合いらしいけど。政略結婚的なものかね。
だが、俺は違うぞ!? ハイクロの番になるなら、ハイクロにふさわしくないとイヤだ! 俺は絶対に認めない!
そして、俺はさっきのあいつはハイクロには相応しくないと断言する! 尻尾はボサボサだし、体のキューティクルも荒れまくってるし、何よりハイクロよりも圧倒的に弱い!
「キャフ(母さんより強いか、母さんと同じ位強いオスが良い)」
「ウニャーン(ならずっとこの群れにいるんだね、良かったー)」
「「…………」」
……おや?
ふいに止まった2頭の会話と足に、疑問符を浮かべながら背後を振り返るとハイクロも母さんも顔を俯き気味にしながら立ち止まっていた。
どうしたのか、と声を掛けようとする俺を必死に止めようとするチャイロと、口元を引き攣らせながら首を振るハイシロ。気持ちハイイロの尻尾も股の下に巻き込み気味になっていた。
その時点でチャイロ達の行動の意味と、自身が口に出した言葉を思い返して素直に謝っていれば良かったのだろう。
だが、口に出した言葉が戻る事は決して無く、結婚をネタにした会話は時として地雷となるものだと、人から離れた俺はすっかり忘れていた。
そして、俺がその事に気付いた時には……既に何もかもが手遅れなのだと悟った。
「「ワゥ?(黒いの?)」」
「……ヒニャ(……ひゃい)」
「「ワゥ?(黒いの)」」
「……ニャ(……はい)」
超、怖いです。誰か俺を助けては下さいませんか。何でもしますから。
口に出すなんて(怖すぎて)出来ないので心の中で願います。
だけど、俺に救いの手を差し伸べてくれる存在は誰もいなくて――チャイロですらも視線を逸らしたまま、決して俺とは合わせようとしなかった――ニッコリと笑みを浮かべながら近付いて来る母さんとハイクロを、顔を引き攣らせながら見ている事しか出来なかった。
そして2頭が俺の目の前で止まる。立ち位置で逆光の為、表情は全く不明だ。
「グルゥ?(黒いのや?)」
「……ミャゥ(……ハイ、母さん)」
「「グルゥ?(覚悟は良い?)」」
多分、俺、終了の、お知らせ。
残念! 黒いのの冒険はここで終わってしまった!
「ウォフッ(ある意味ではね)」
え、ちょ、今の口に出してないのに、何で母さん俺の考えてた事理解出来てんの!? 前にも同じような事があったけど、やっぱり母さんって心の中が読めているんじゃ……!
「ワフ(黒いの)」
はい。
「ワゥ?(言い残す事は無いかい?)」
え゛。ちょ、マジで俺終了のお知らせ!?
ちょ、待って待って!? お願いだから言い訳くらいさせて!? 俺としてはハイクロがずっと群れに居てくれる方が嬉しいなってそういう気持ちだった訳で、別に貶したりとかそういう意図はカケラも無くて……!
あひょぉぉぉぉぉ!?
実際問題、20頭近くの狼の群れがわちゃっと移動して来たら、近くに住んでいる人間は普通にびびります。黒いの達が住んでいる場所は人間達の住処からそう遠くは無い場所なので。(=危険な獣だと駆除対象)
ついでに人間にも特殊能力持ちはいますので、うっかりばれたら黒いのピンチ。捕獲的な意味でも、貞操的な意味でも。
現時点でのハイクロ達は高校生くらい。まだ早い!!
ちなみに、チャイロの番が想像も出来ないんだが、どうしてだろう?(すっとぼけ)
そしてうっかりな黒いのに黙祷。ジャイ達と久しぶりの交流で浮かれていたのが原因です。口は災いの元。
無茶しやがって……!




