焼肉パーティーの裏での懺悔の記憶
焼肉無双。
本日2話投稿の1話目です。2話目は12時投稿となります。
ガウガウ、ガツガツ
ギャンギャン、ガツガツ……!
……うっさいわー。超、うっさいわー。
なんつーの? ちっちゃい子供をみっちり詰め込んだ夏休みのファミレス状態??
普段ハイイロとハイシロ、時々()俺で普段の食事もそれなりに賑やかだけど、チャラオの群れだとこうなるんだよな。すっかり忘れてた。
殺到しながら焼肉のおかわりを催促する子狼達と、大人しく順番待ちする母狼達。こっちに来る前は土の能力は使うものかと決意していたけど、そんなものはこの忙しさの前に消え失せました。ちゃっちゃと竈と岩板を作って薪を集めて貰って着火ー。ちなみに竈は2つ作っておいたので、片方をチャイロとハイクロに担当して貰ってます。見たところ、あっちは非情に穏やかな感じですね。ハイクロがいるからね。くそぅ。
あまりの収拾のつかなさにとうとう最終兵器を召喚、ドン。
背後に控える母さんの姿を見た途端に、キャンキャン騒ぐ子狼達もピタリと静かになりました。苦笑いする母狼達は、俺が最後の手段に出る前に止めてくれても良かったんやで?
圧倒的な母さんの威圧感。おかげで少しは時間の余裕も出来たので、今の内に肉を焼いていこうと思います。母さんの目が光っている内に次々と肉を岩板に乗せていく。肉の焼ける音と匂いに子狼達の動きがソワソワしたものに変わるけど、さっきまでの狂乱振りは無い。自制が出来るのなら、最初からそうしてくれと言いたい気分でいっぱいです。
さっきまでは、下手をすると岩板に乗せた直後の肉を掻っ攫われて「まだ焼けてない!」って文句言われてたんだぜ? そりゃ乗せたばっかりだもん、焼けてる筈が無いだろうに。
それにしても、本気で母さんの影響力が強すぎるんだが。
ついさっきまではグッチャグチャになりながら我先にと殺到していたというのに、今はピシッと1列になって順番待ちをする子狼達。しかも、体の小さい順に。子狼達を整列させようと頑張っていたジャイやアオグロも苦笑いです。
母さんには勝てなかったよ……。誰も勝てないんじゃないかな。
「ワゥ?(……黒いの、大丈夫か?)」
「ミギャ(さっきまでは大丈夫く無かった)」
今はそれなりに大丈夫です。今はね。
チロリと視線を流せば、プワッ! と勢い良く尻尾を膨らませる子狼達。自覚があって何よりです。そんな彼らの反応には溜め息しか出ません。威厳ってどうやったら出るのでせうか?
ジューワジューワと焼けていく肉の匂いに俺の気も宥められる。もっとも、これらの肉は目の前でピシッ! と整列をしている子狼達の腹に収まる予定なんですが。
「キャフ(黒いの、はい)」
「ニャ?(ハイクロ?)」
向こうで肉を焼いていた筈のハイクロから差し出された肉の塊。
焼肉ハイになっていた頭では差し出された肉の意味が分からず、キョトンとハイクロを見上げれば苦笑いされながら塊を口に突っ込まれた。
「むご」
「キュン、ウォフ(少し休んでなさい。しばらく代わるから)」
「むご?(あいぅお?)」
「クゥ、グルルゥ……(お姉ちゃんに任せなさい。ちゃんとしつけるから……)」
ブンブンと尻尾を振って臨戦態勢。
正面にいた子狼達の尻尾と耳が一斉に下がる。縋るような目で俺のほうを見ているけど、ここは……うん。
プイッ、とそっぽを向いて一言「任せた」。実際に口から出たのは「まぅー」だけど。意味さえ通じればいいのですよ。
俺の言葉に凄絶な笑みを浮かべるハイクロと怯える子狼達。視線がビシビシ突き刺さってくるけど、きっちりしつけて貰いなさいな。損はしないよ?
俺が。
キャイン! と聞こえる悲鳴に耳を塞ぎ、テコテコと少し離れた場所へ移動する。落ち着いてご飯食べたいからね。
程よく離れたところで、口に詰め込まれた肉の塊を取り出す。うぁ、よだれベトベト。今からこれを食べる訳だが……まぁ、良いか。自分のだし。
良い感じに冷めたソレに齧り付き、首を傾けながら食い千切る。ジュワリと滲み出る肉汁がいと美味し。
尻尾をご機嫌に振りながら何処かから聞こえる悲鳴に耳を塞ぎ、優雅に食事を嗜んでいると、隣に座る誰かの気配があった。
「ミャ?(チャラオ?)」
「グゥ?(妙な呼び名だが、そりゃ俺の事だよな?)」
今さらな疑問だが、チャラオの群れに滞在中に俺がそれを明言した事は無かったかな? 言ったと思ってたんだけど。
群れの全員には既に『チャラオ』で固定されてるんだけどね。ジャイやアオグロ達の名前もそう。
「ニャ?(何か用か?)」
肉に齧り付く口を止め、疑問を口に出せば溜め息を吐かれた。何故だ。
「ガゥ、グルルゥ(詫びを言いに来たんだ。それと、礼もな)」
「ニ?(何の事?)」
詫び……予想が付くのはさっきの子狼達の暴走っぷりぐらいだけどな。それの事かと問えば頷かれた。
「ウォフッ(ここ最近、どうしても気が立ってたんでな)」
「…………」
気が立ってた、ねぇ……。
特殊個体の件は関係無いだろうし、そうなるとここに居た群れの件だよな。詫びと礼ってのは口実か。
それの打ち明ける相手が俺なのは何でだろうねぇ……。
「ニャゥ(俺からは何とも言えないけどな)」
「ワフン、ウォフッ(そりゃそうだ。あ、食ってて良いぞ)」
「ニャ(じゃ、遠慮無く)」
アギアギと再び肉に食らい付けばチャラオから漏れる苦笑。良いっつったじゃん。
ペチタン、と一度地面に尻尾を叩き付けて話を促せば、気持ち口篭もりながらではあるものの話し始めた。
チャラオ達がここに辿り着いた時、母さん達を苦しめた連中は変わらずにここに居た。何の因果か、連中だけじゃ無くチャラオが追放した3頭の内の2頭も加わって。残る1頭だけは一緒では無かったが。
当初の予定では向こうは3頭、対するこちらは十数頭――最初は年少組だけでもどこかで待機させようとも考えていたらしいのだが、地理に不慣れな事と、離れている間に何かあった場合のリスクを考えて同行させる事にしたらしい――自分以外は雌狼と子狼とは言え、ほぼ成体に近い子狼もいる。数の差は歴然としていた筈だった。
唯一の誤算は、連中に自分の息子達が加わっていた事。
それでも、連中は母さんが群れから抜ける際の抵抗で負傷していた。既に治ってはいるだろうが、足は以前と同じようには動かず、十全に戦う事は出来なかっただろう。武力に訴えれば連中に勝ち目は無い。それは2頭増えたところで同じ事。あいつらも牙をへし折られてたからね。
チャラオは、息子達が居るのを見て話し合いで何とかならないかと考えてしまったらしい。縄張りを自分達に明け渡せ、出来れば命を奪うような事はしたくない、と。
それを聞いた俺は、随分と甘い事を言うのだなと考えてしまっていた。俺自身が対峙した訳では無いからというのが大きいのだろう。
人であった頃の俺なら、チャラオと同じく話し合いでの解決を試みたのだろうけどね。そんな甘い事を願って済む程、野生で生きるのは簡単じゃないと知ったから。俺自身や、友狼が命を狙われたというのもあるから『やれる時にヤれ』という精神が既に根付いていた。
それこそ、母さん達に前世を明かした時の葛藤よりもアッサリと。
「グニャン?(母さんからは連中の事を何て言われてた?)」
「グゥ……(生死は問わない、と……)」
ふーむ。『生死は問わない』じゃなくて、むしろ『殺すの推奨』だよな? それ。
そう言えば、ガックリと項垂れていた。母さんの意図は察していた。自分でも甘い事を考えていたのは自覚していたらしい。だが、自分の子供がその場に居たからこそ、殺し合いとなって子狼達にさらなる精神的負担を負わせるのが怖かったと。
なら、なんであいつらを今まで放置してたねん。
思わずそう言いたくなったが、まぁ、理由は前に聞いてるんだよな。チャラオも過去にトラウマがあるからこそだというのは知っているし、連中の後始末を押し付けたのはこちらというか、母さんでもある訳だし……ってか、トラウマ持ちばっかりじゃねぇか。俺も含めて。
「……ミャゥ?(……結局はどうしたんだ?)」
俺の問いにしばらく沈黙した後、「全員殺した」とボソリと答えた。
最初にチャラオが会話での解決を試みたから調子に乗ったのか、連中は自分達の下に付けば良いと言い出したのだそうだ。その上で、もっと良い縄張りがあると。チャラオ達の群れを吸収すれば、ソイツの縄張りを奪う事も可能だと。
……連中の言っていた『もっと良い縄張り』っていうのは、ここ。母さんと俺達が今住んでいる場所の事だ。
連中の言っている事は正しい。ここは獲物も濃いし、水場も多い。木々も多く茂っているから、肉だけじゃなく植物性食物も多い。つい先日見つけてきた野菜みたいにね。あれもごく一部で、探せばまだまだ見つかるのだろう。
最初は野菜を人間から奪う事も考えていたが、わざわざそんな事をしなくても草食の野生動物が運んだ種とかが勝手に芽吹いたものがあったのだ。そうして、それを食べようとさらに草食動物が集まり、獲物がさらに濃くなる。そんな感じで、ここに住んでいる間に獲物に困った事は無い。母さんに奪われなければ。……話がずれたな。
チャラオが言うには、連中は母さんへの恨みを忘れていなかった。自業自得としか言えないものだったけど、連中にはどうでも良い事だった。母さんが歯向かった事、勝手に群れを抜けた事、自分達に怪我を負わせた事、それら全てが気に食わなかったらしい。
母さんからしたら、自分の子供を殺された連中に対する恨みの方が深いのだが、連中にとっては自分達こそが1番なのだろう。人間でもいるからね、そういうの。だからこそチャラオの群れを吸収して、上手い事焚き付けて、両者を争わせて漁夫の利でも狙ったのでは無いかと。
だが、それには謎が残る。母さんとチャラオが知り合いだったという事を、何故知らなかったのか。チャラオの息子達はそれを知っているのに。それとも、連中の狙う場所が母さんの縄張りだというのを気付いてなかったのか?
連中にとっては不幸な事に、俺達にとっては幸運な事に。それが運命の分かれ道となった。
大人しく連中の話を聞いていたチャラオの群れだが、母さんから受けた恩は忘れていない。忘れる筈も無い。
恩狼である母さんを苦しめた連中が、賢しげに母さんの縄張りを奪った後の事を語り、自分達に付けばどれだけの恩恵があるかを語る。さらにチャラオの息子達も尻馬に乗って、「群れに加えて貰えるように口利きしてやる」とのたまう。それはチャラオの群れの怒りを買うには十分な言葉だった。
勝手な事を言う連中に耐え切れなくなったジャイが真っ先に不快感をあらわにし、低い唸り声を上げたのをきっかけに、アルファ達も次々も唸り声を上げ出した。
もちろん、チャラオとて不快に思わなかった訳では無い。むしろ、怒りが深すぎて逆に冷静になっていたくらいだ。
そんな彼らの反応に逆上した連中が一斉に襲い掛かって来たが、母さんに仕込まれたチャラオ達の敵では無かった。チャラオ達の間断ない波状攻撃に連中はなす術も無く翻弄され、傷を増やし、血を流して死んでいったのだそうだ。
連中が動かなくなった後、群れの反応はまちまちだった。勝利に沸き立つ者、同族を殺した事への忌避感に震える者……。
喜んでいたのは少数だが、彼らもある種の現実逃避なのだろうと思う。そう簡単に割り切れるのなら、チャラオも最初に会話で解決しようとする筈も無いから。
「……ナーゥ(……それを俺に話してどうしろと)」
「グルゥ、グァゥ(ただの愚痴だよ。あいつにゃ言えないからなぁ)」
あいつってな母さんの事か。気持ちは分からないでも無いけど、愚痴を俺に言われても……。
困惑する俺に気付いたか、チャラオもすまなそうにしていた。何でも、俺が見た目以上にしっかりしているから言いやすいのだと。
前世分も合わせると、この場に居る誰よりも年上だろうからね。それが役に立つかは別にして。
生き方の濃さ的には母さんの方が遥かに上だろうし。
話を聞かされた俺の心情的には微妙な所だけど、話してチャラオが楽になるなら聞くだけなら聞きますよ。聞くだけなら。
「ワゥ(意外とあっさりしてんな)」
「ミャ(俺も最近、母さんと話して楽になったからな)」
「フン……(なるほどな……)」
うん、ほんとつい最近ね。
俺が母さんに話した内容を聞きたがってるっぽい雰囲気を出してるけど、流石にそれは内緒。母さん達には話しても良いと決心したけど、こいつにまで話す気は無いのよ。
そう言うと「俺は話したのに……」と言いながら拗ね始めたけど、いい年したおっさんが拗ねても可愛くないんだぜ。それに、そっちは勝手に話したんだし。俺は強要はしてないですよ?
「クゥン……(おっさん……)」
「ニャン?(何か、異論でも?)」
「……グゥ(……ならあいつはどうなんだよ)」
そう不貞腐れながら視線の示す先は、肉を焼くハイクロの背後でドッシリと構えている母さんな訳で……。
ハハッ……。
「ニャフゥ……(お前は良い奴だったよ……)」
「ガゥ!?(いきなりなんだよ!?)」
チャラオよぉ、母さんの勘の良さを舐めちゃぁいかんよ。
さて、カウントダウンすたーとぉ! 5・4・3・2……
「ワゥ?(あたしがどうかしたかい?)」
「キャインッ!?(ヒィッ!?)」
あーあ、カウントダウン終わる前だったのn
「ワフッ(黒いのもこっちにおいで)」
ちょ!? 何で俺までぇぇぇぇ!?
「キャォンッ!(死なば諸共っ!)」
「フギャァァァァ!!(おまっ! 離しやがれぇぇぇ!!)」
前半ほのぼの、後半シリアス。そして最後にぐだるのはお約束。死なば諸共……っ!!
チャラオの群れから放逐された連中は、碌でもないやつらと組みました。その結果、諸共に潰される事に。懲りなかった連中の末路です。
放逐は、ある意味チャラオ達の慈悲でもあったのに。
なお、群れから放逐された1頭だけは不在。途中でついていけないと見限った結果、1頭だけは生き延びました。こっちはひっそり更生中。道は厳しいけど。




