頑張ってお料理してみた記憶
仲良し兄弟。
さぁ、刮目して見よ! この見事な二足歩行を!!
2本の尻尾がバランスを取るのにこれほど便利とは思ってもいませんでした。猫又の尻尾が分かれてるのって、踊ったりする為に必須だったからだったんですね! ただ、可愛いだけじゃなかったんですね!!
こうして、バランスを取る為に必要だったんですね!! 初めて知ったよ(真顔)。
「ニャン、ニャン(あ、それそれ)」
「ワフ、ワフッ(あ、よいよい)」
ハイイロと向かい合って1歩前出て、2歩後ろに下がって、はいターン! そして前足を振り上げて、片足は少し後ろに引いて最後に宝塚風ポーズ!!
ピシッ! とポーズを決めれば、見ていた母さんから溜め息を頂きました。何故だ。あ、ハイクロは拍手ありがとう。音してないけど。ポフポフ。
「ワゥー(黒いのみたいにピシッと出来ないー)」
ハイイロは最後のポーズが不満のご様子。関節の動き的に仕方無いんだけどね。猫の柔らかさの勝利です、ふふん。(ドヤァ……)
最初こそハイイロに遅れを取ったものの、コツさえ掴んでしまえばその後の二足歩行の習得は早かった。今ではこれこのように、華麗な踊りを踊れるまでになりましたー! むしろ、ハイイロよりも俺の方が上手いんだぜ!
ちなみに、ハイシロは練習をするのにすぐ飽きたので通常の四足歩行です。一応は歩けるようになってたからね。ハイクロとチャイロは「何かの役に立つかもしれないから」って勘を忘れないようにまだ時々練習してる。母さんが練習してる様子は最初の時以降見てないけど、シレッと習得出来てても不思議は無い。だって母さんだもの。謎の説得力。
真の猫又を目指すには、あとは手ぬぐいを手に入れるだけですね。毛皮で代用出来ないかなと思ったけど重いし臭いし、血が固まってパリパリだし、で手ぬぐい代わりにはどう頑張ってもならなかったんだよね。残念。いっぱいあるのに。どれもズタボロだけど。布切れも手に入れたけど、やはりビリビリなのです。
「グルゥ?(黒いの、そろそろ良いんじゃねーか?)」
「ミャ?(あ、出来た?)」
切りも良かったので時間潰しに披露していた踊りを止める。ハイシロの呼ぶ声に振り向いて、コポコポと良い匂いを漂わせる鍋へと近付くとますます強くなる良い香り。美味そう。
あ、ちなみにこれは3代目の鍋です。
1代目の鍋もどきは、余生を猫鍋として全うして貰う為に洞穴に運び込みました。だって水を入れたらピューッて漏れたんだもの。能力の使い方が甘かった模様。だけど、俺が中に入って使う分にはジャストフィットしてて快適です。
ちょっと出入りが大変だけど。その内土鍋も作れると良いなぁ、なんてね。
そして既に存在すらして無い2代目。2代目には……彼には不幸な事故が起こったんです。まさかあんな事が起ころうとは……。この私にも想像も出来ませんでしたよ、えぇ……。
先代と先々代の遺志を受け継いで目の前で煮立つ3代目の鍋を見ながら感無量。これは間違い無く『鍋』である。異論は認めない。
ヒゲをひこひこ動かしながら、鍋の横の台座に登って中を覗き込む。
つい先日の事だけど、台座を付けないで直接覗き込もうとしたらえらい目に遭ったからね。火で煮込まれている鍋が熱くない訳が無い。肉球が焼肉球になるところでした。何か美味しそうやね、実際にやらかしたらそんな事言ってる場合じゃないけど。
すんでのところで救出してくれたチャイロには感謝しかありません。いつも見守っててくれてありがとうございます。
鍋の中にはクツクツと煮込まれる肉と骨。この時点で何かおかしいと思ったあなたは正解。骨も具材です。いやいや、マジで。
それ以外に入っているものは、普通ですよ?
まずはセロリっぽいやつ。山の上の方にある湿地っぽい場所で発見。
結構ひんやりしてたから、今年の夏は避暑に行くのも良いかもしれない。去年行かなかった理由は俺達がまだ小さかった事と、元の古巣に近かった事。今は安全だから行けるそうです。ほほぅ……。
何かブラックな背景がありそうな事は置いといて! 嬉しい事にカブっぽいやつも見つけたんだよね! カブっぽいというか、見た目はそのまんまカブ。先に説明したセロリっぽいのもまさしくセロリ。味も匂いも。
それだけだと風味が物足りないかなー、肉の臭みもちょっと気になるかなー、とハーブっぽいのもちょこっと入れてみた。ちなみに塩気はありません。
これら以外にも、いくつか自生している野菜を見つけたので場所は覚えてある。日持ちしそうな根菜や地下茎の類は採って来てあるけどね。
食べられそうor食べられなさそうの判断は、俺の前世の知識から選別しました。そして、実際の試食にはハイイロが立候補してます。「美味しいのが増えるなら!」と自主的に。ヤバイものだったら命の危険もある可能性も……と言ったんだけど、「黒いのの『チユノウリョク』があるなら大丈夫でしょ?」とあっけらかんと告げられた。そうまで信用されちゃぁ、俺も漢を見せるっきゃないでしょ!
結果、俺が『食べられそう』と見たものは全部大丈夫だった。大丈夫じゃなかったのはハイイロが見つけて来た『キノコ』。ヤバイ色合いと酸っぱい臭い。満場一致で「食うな」と言ったのに、食べると言い張ったせいでハイイロは見事に泡を噴いてました。治癒出来て何よりです。ハイイロ自重しろ……!
おっと、それより今はスープの方の仕上がりを見るのが先だった。……ハイイロには後で改めてお説教な。
ふすふす、と鼻を動かせばカブの甘い香りと、セロリの爽やかな香り、肉の香ばしさとちょっとの臭み。臭みを誤魔化す為にハーブを入れてみたんだけど、もう少しハーブが多くても良かったかもしれない。
適当な太さの木の枝で鍋の中身をかき混ぜる。流石にこういう時は俺1匹では難しいので、背後で母さんが俺を支えててくれてます。俺1匹でやろうとしたら鍋に落ちそうになったからね。
下の方に沈んでいる具材に拾った『矢』を突き刺して持ち上げる。返しが付いてるから、しっかり刺さります。毒が塗られてないのは確認済み。一応洗っておきました。
その後、柔らかさを確認する為にプスッと爪を刺してみる。
あっつ……っ!!
知ってたけど、思ってた以上の熱さに前足をブンブン。フー、と爪先に息を吹き掛けながら爪を刺した感触を思い出す。
……矢で突き刺してんだから、爪を刺す必要なんて無かったんじゃね?
「グルゥ?(黒いの?)」
「……ンニャ(……何でもない)」
母さんの声が少しニヤついているように感じるのは俺の考え過ぎか。耳へたれるわー。
あえてそちらを振り向かないようにしながら、矢に刺さった具材を見つめる。うん、やっぱりカブだ。見た目も匂いもカブだわ。良い感じで火が通っているようで、気持ち透明感がある。
変な形に砕けてるけど。理由:噛み砕いたから。
さて味見をと思ったのだけど、このまま食べたら絶対に熱い。俺は猫舌です、比喩で無く。フーフー、と息を吹きかけて冷まして……何で離れた所にいるハイイロもフーフーしてるんですかねぇ。もうちょい待ってて。
ハクリと端っこに齧り付けば広がるカブの甘みと出汁の味。うん。
塩・胡椒してぇ……。
いやいや、今の俺は猫又だった。塩・胡椒など邪道……! ブンブンと頭を振って気持ちを切り替える。
齧ってみた感じでは柔らかさは問題無し。ついでにセロリにも矢をぶっ刺してみたけど、僅かな抵抗だけでスンナリと刺さる。こっちも良さそう。……うむ。
「ミャー(かーんせーい)」
「ウォ——ン!!(ごは——ん!!)」
待ちわびていたハイイロが遠吠えを上げる。母さん達も、遠吠えこそ上げないものの興味津々。尻尾ブンブン。
スープを実際に作るのは今日が初めてだからね。
あ、ちなみに火は尻尾の火を枝に移してそれを使いました。ちゃんと竃っぽいものも作ったし。流石にずっと張り付いてるのはキツイの。
「キャゥ(黒いの、お疲れさま)」
「ミャウ(頑張った)」
「ワフ(……楽しみだ)」
うへへ、もっと言って。
スリスリとみんなの首筋に懐いておく。この後、俺にはまだ仕事が残ってるからね。
「ンニャー(んじゃ、次は肉焼くよー)」
「「「ウォ——ン!(焼肉——!!)」」」
ハモった。しばらくした後、遠くから「ずるーい!」と遠吠えが一斉に聞こえたのは気のせいか?
……そういえばジャイやアオグロ元気かな。さっきの母さんの言葉から察するに引越しもそろそろ終わってる筈だし、今度頼んでみんなで遊びに行けないかな。そう思って母さんを見上げたらくふくふと笑ってる。……ひょっとして、さっきの遠吠えって気のせいじゃなかったりします??
「グルゥ?(今度、行ってみるかい?)」
「ミャ!(もちろんですとも!)」
「キュン!(黒いの、早く!)」
あー、へいへい。
催促してくるハイイロに根負けして、せっせと鍋の中身を器に取り分ける。取り分けるのに使うのは水汲みに使ってる小鍋。器は俺が能力で作りましたー!
バシャバシャと若干零しながらもスープを器に移すハイクロを見ながら具材を器に移す。この際にも役に立つのは『矢』である。切実にお玉が欲しい。でも流石に猫の手では上手く扱えないのん……。
それぞれの器に取り分けた後、早速スープに食らい付こうとするハイイロを眺める。「あつっ! うまっ! あつっ!! でもうまっ!!」もちつけ。ちょっと冷ましてから食おうぜ、と声を掛けるハイシロの言葉など聞いてもいない。
そんな彼らを放置して焼肉開始。既に温めてある岩板に肉の塊を乗せていく。するとジュゥジュゥと音を立てて焼かれていく肉。ハイイロの視線が近い、近いよ……。置いてかれたハイシロの耳が伏せられてるので、ちょっと気にした方が良いと思いますよ。心の中で忠告しとく。
いやぁ、それにしても肉を焼くのも以前より楽になったもんだ。前の火元は100パーセント俺だったけど、今は枯れ枝を主として俺の火の能力は火種と火力補助くらいなものだから。
それもこれも、小鍋を手に入れて水を持ち運ぶ事が出来るようになった事と、作ったは良いものの放置されていた水入れのおかげです。あの水入れは結局水入れとして使ってます。飲用じゃなくて、火の始末用で。
その結果、俺も肉を焼くのに付きっきりにならなくて済む事に! 火の加減を付きっきりで見てなくて良いから、合間、合間に自分の食事がしっかり取れるのです。元々、ちゃんと取れてはいたんだけどね。負担が少しでも減ったのはありがたい。
あ、肉を転がすのには矢は使わないよ。抜けなくなっちゃうからね。肉って焼くと身が締まるもん。
ガギン! と口の中で噛んじゃうと大惨事なのです。牙折れちゃう……。
「クゥ!(あ、美味しい!)」
「ニ?(ほんと?)」
真っ先に特攻したハイイロに続いてスープを口にしたのはハイクロだった。俺? まだ。熱いもん。驚きの声を上げながら、嬉しそうに尻尾を振るハイクロの姿に嬉しくなる。
次に母さんもスープに口を付け、気に入ったようでガフガフと食べ始めた。同じくハイシロも。
唯一まだスープに口を付けていないのはチャイロだが、別にスープが気に入らないという訳では無い。単にチャイロも俺と同じく『猫舌』なだけだ。気持ちションボリとした雰囲気を漂わせるチャイロを慰める。別に悪い事じゃないんだし、さ。それより俺も猫舌だから、お揃いよ?
「グゥ(……せっかく黒いのが作ってくれたから早く食べたい)」
「……っ!」
くそぅ、チャイロが可愛すぎてつらい……!
これ以上俺を萌えさせてどうする気!? どうもしませんか、そうですか。ゴホン、冗談デスヨ?
気持ちは嬉しいけどね? 焦って早く食べようとすると、口の中を火傷しちゃうからね? 肉を目の前に地団駄を踏んでるおバカがいるから、あんな風になっちゃうよ?
「ひゃぅん……(くひいひゃぃ……)」
多分「口痛い」と言ってるのかな。だろうね!! 予想はしてた。
普段から熱い物を食べなれてる人間だって、作りたてのスープで口の中を火傷する事があるんだから、普段から熱い物を食べ慣れてない獣ならなおの事。それでも俺達の場合は、生粋の野生の獣よりは熱さに強いんだけどね。本来なら獲物の体温までのものしか口にする機会無いからねー。
「ひゅぅ……(おいうぅ……)」
今度は「お肉ぅ」かな?
そんな涙目で見られてもどうする事も……いや、出来るか。ハイイロ、ちょっと舌出してみて? ベーって。
俺の言葉にペロンと出された舌は普段よりも赤い。ヒリヒリとした痛みも感じているようで、チョンと突っつけば「ひゃいん!」と悲鳴を上げていた。皮が剥けてる感じは……あ、上あご。でも、思っていたよりは症状は軽そうだけど、ハイイロにとっては辛いか。だから食べる前に冷ませとあれ程……まぁ、良い。
治るかどうかは試しだけど、と治癒能力を発動。何という能力の無駄遣い。いや、正しいのか?
内心これで良いのかと思わないでも無いが、俺の予想は当たり火傷は綺麗に治ったようだ。舌だけじゃなくて口腔内の火傷も。
目を輝かせるハイイロにお説教開始。その隙にとばかりに、焼き上がった肉が母さん達の腹の中へと消えて行く。再び涙目に戻るハイイロだけど、今回も自業自得です。
「ミャゥ!(少しは我慢しなさい!)」
「キュゥン!(ごめんなさぁい!)」
ちょっと待って? 何で俺が怒ってるの、母さんも仕事して!?
「ワフ(今忙しいんだよ)」
黒いの曰く『宝塚風ポーズ』は黒いののイメージなので実際とは異なる場合が御座いますのでご注意下さい。二足歩行で踊る狼と猫。可愛い。絶対に可愛い(断言)。
そして黒いの渾身のお料理タイム! 包丁なんて物は無いので、材料は噛み砕くオンリーです。ガリィ……ッ。
2代目の鍋には何があったんでしょうねぇ(棒読み)。
塩気は無いけど、ハーブで風味付けしてるからまだマシ。これでハーブも無しだと、母さん達は大喜びだけど黒いのがションボリします。人の記憶があるので、「もっと美味しくなる筈なのに……!」となります。無い物はしょうがないね。
そして毒の有無は漢判断。キノコはやばい。
母さんはスープを食べるのに忙しいんだよ!




