猫又番外編:世界猫の日 特別短編
本日8月8日は『世界猫の日』だという事をすっかり忘れておりました……!
慌てて書いたので、乱筆乱文ご容赦下さい。お楽しみ頂ければ幸いです。何とか今日中に上げられた……!!
「ニャーウ(黒いのー)」
「ミャ?(ハイイロ?)」
……あれ? ちょっと待って。今、何かすっごくおかしかった。すっごくおかしかったよ!?
グリンッ! と勢い良く振り返れば、雰囲気はハイイロに良く似た長毛種の……メインクーンがいた。ニパー、と笑った顔がいと可愛し。胸元モッフモフやでぇ……。
それにしてもコイツ体でかいな、おい。それに尻尾もなげぇ……。毛色は灰色と言うよりもシルバーに近い気がする。
……一応言っておくか。で、誰だ? お前。
「ニャゥ? ニャーン(おれだよ? ハイイロー)」
「フシャッ!!(うそだッッ!!)」
ハイイロは狼だ! お前みたいな猫は知らない!
貴様、ハイイロを何処にやった!?
「……ニ? ミャゥ……(……何でそんな事言うの? おれ、ハイイロなのに……)」
耳をペタンと伏せて、尻尾もへにゃりと。全身で悲しいです! とアピールしている『自称:ハイイロ』は悔しいが、めっちゃ美猫だった。悔しいが、可愛い。
「ナウ?(黒いの、どうした?)」
「ニャッ!(ハイシロ!)」
ハイシロ、聞いてよ! 何か、知らない猫が自分の事をハイイロだって……あれ、ちょっと待って。こっちも何かが変。え? ハイシロも今、何か鳴き声が変じゃなかった!?
ガッ! と振り向くとこれまた美猫。……こっちはノルウェージャンフォレストキャットだろうな。間違い無い。『自称:ハイイロ』よりは小さな体。それでも体格は俺よりも大きい。全体的にシャープな印象だ。
メインクーンとノルウェージャンフォレストキャットは外見が似てるんだけど、メインクーンの方が横顔が丸みを帯びている。だから、こっちはノルウェージャンフォレストキャットで間違い無いだろう。多分。
……問題は、今、このタイミングで2匹目が出て来た事。そして、俺が聞いたこの声は間違い無く……。
「ニャ?(ハイシロ?)」
「ニャン?(何だよ?)」
嘘だッッ!!(2回目)
「ニャゥ、マーォ(うそじゃねーよ。そもそも、何がうそなんだよ)」
「ミギャッ! フシャーッ!!(ハイイロは狼だ! ハイシロも狼だろうがっ!!)」
俺の叫びに2匹の猫は顔を見合わせると、コテリと同時に首を傾げた。くそっ、可愛い……!
「ナゥ?(何言ってんだ?)」
「ミャーォ(おれ達、前からネコだよー?)」
嘘だぁッッ!!!(3回目)
俺の知ってるハイイロとハイシロは、立派な雄狼だ!! ハイイロとハイシロ……ハイシロは格好良いイケわんな狼だ!! 「ミャウー?(何でおれぬいたのー?)」っていうか、俺以外はみんな狼だったじゃないか!! 「ミャーン?(ねぇ、何でー?)」だまらっしゃい!! 「にゃふ(はい)」
俺がそう叫ぶと、2匹は心の底から不思議そうに首を傾げる。『自称:ハイイロ』が首を傾げている理由には、別の理由も混じってそうだけどな。そんな訳で、『自称:ハイイロ』に至っては首を傾げ過ぎて頭が地面に付きそうな程だ。……体柔らかいな、おい。
「ニャー、ニャァー(オオカミかぁ、かっこいいよねー。)」
何をシレッと……!
「ウニャンッ!(おれ達がオオカミだったら、クマ狩りとかしてみたいよな!)」
しただろうが! それも、つい最近!!
チャラオ達の群れに遊びに行った時、連中と合同で狩りをしただろう!?
そう鼻息荒く告げると、2匹はさらに不思議そうに……以下略。『自称:ハイイロ』の頭がついに地面に到達した。そのまま転べ……っ! ……あ、転んだ。
ポテ、と地面に転がったままウニューン、と伸びをする『自称:ハイイロ』はどう見ても自由な猫にしか見えない。むしろ、この2匹を『狼』と呼べる人間……否、猫又が居たら見てみたい。……俺だよ!!
うが――!! と頭を抱えて転げ回る俺を見つめる2匹の目は幸いにして、俺を妙な事を言う猫又では無く、いつものように妙な事を言い始めた猫又を見る目だった。『自称:ハイイロ』からもそんな目で見られている事には少々物申したい気分だが。
……あれ。ひょっとして、これって俺がおかしいのか……?
お目々グルグル。今まで俺が見ていたモノは幻だったのか? そんな気すら湧いて来るが、頭を振って浮かび掛けた不安を払いのける。
俺の家族は、間違い無く全員が狼だった。それは間違い無い。大事な事だから何回でも言える。
それに、今居る場所は間違い無く森の中にある洞穴である。つまり、町中では無い。こんな立派な美猫達が、森の中にいる訳無いだろうがごるぁぁぁぁぁぁ!! あ、ちなみに俺は居ても問題無しですよ? 猫又だもの。
「ミィア?(黒いの、どうしたの?)」
「ニャァ?(……何かあったのか?)」
……はいはい、ニャンコニャンコ。
背後からさらに増えた2匹の猫は、どうせハイクロとチャイロだって言いたいんだろう? 投げやりな気分になりながら振り向けば……まぁ、なんて素敵な美猫様……っ!
新しく現れた2匹の片割れ、『推定:ハイクロ』は……ターキッシュアンゴラか? 大きな耳と、スッと通った鼻の美猫。柔らかそうなほわっほわな毛をしていらっしゃいます。特に尻尾が立派。可愛い。体は4匹の中では1番小さいかな。
そして『推定:チャイロ』はソマリか。アビシニアンの長毛種パターンやね。体格は『自称:ハイシロ』と『自称:ハイイロ』と比べてかなり小さめではあるものの、『推定:ハイクロ』よりは大きい。小さめの頭に大きな耳と、アーモンド型の目が何とも凛々しく可愛い。スラッとしてるけど、それなりに筋肉質なところもまた萌えポイントです。胸元のモッファモファな毛並みと言い、尻尾のフサフサ具合と言い……可愛い。
……俺、さっきから『可愛い』ばっかり言ってね?
「ニャ?(……黒いの?)」
うぉっ!?
考え込んでいる間に、いつの間にか至近距離から『推定:チャイロ』に覗き込まれていた事にびっくりした。
そして、俺がビックリしていた事に『推定:チャイロ』もびっくりしていた。アーモンドの目がまん丸ですね。可愛い。
「……ニ?(……チャイロ?)」
「ナ?(……どうした?)」
恐る恐る尋ねてみれば、普通に返事が戻って来る。真正面から覗き込まれた推定……いや、チャイロの目を見て理解した。推定とか自称とかじゃなくて、彼らは間違い無く俺の兄姉なのだと。
不思議そうに、そして不安そうに俺を見つめる彼らの視線に、心の中でモヤついていたものがスッキリと晴れ渡る気がした。
……んな訳あるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!?
ぜー、はー……フゥ——……
だが、まぁ、ここまで来たら諦めも付く。何がどうなってこうなっているのか、それは全く分からないが、今目の前にいる彼らが俺の知るチャイロ達なのは間違い無い。外見は全く見知らぬ猫になっていようとも。心がスッキリ晴れ渡る事は無いけれど、その位は理解していますよ。
それに、彼らに俺への害意はカケラも無い事も。
「ニャ?(……黒いの?)」
黙り込んでしまった俺を心配そうにペロリ、と舐める仕草はチャイロのままで。見た目は全く違ってしまっているのに、そういう行動は全く変わらない事に思わず苦笑が漏れる。
……少なくとも、チャイロ達はチャイロ達なんだな。外見はめっちゃ違うけど!!
モフリ、と目の前のチャイロの胸元に顔を埋めれば想像以上のモフモフ具合でした。思わず、このまま猫でも良いかも、と考えてしまう位には素敵なモフモフでした。狼の時とはまた違ったモフモフ具合です。
何気にチャイロと俺の視線が、殆ど同じ高さというのも地味に嬉しい。いつもは見上げてばかりだからね。
ギュッ、と抱きつけばチャイロからもギュッと抱き返される。こうして考えるとみんなが猫の体というのも、なかなかに良いものだと思えて来る。
ついでとばかりにハイイロやハイクロ、ハイシロにも順番に抱きついておいた。だけど、ハイイロはもう少し抱き返す力を緩めてくれても良いんですよ? 猫の体なのに馬鹿力は健在でした。むぎゅ。そして、ハイシロがちょっと恥ずかしそうに抱き返してくれたのは大事な萌えポイント。ハイクロとは普通にキャッキャ、ウフフという感じです。
狼の時よりも抱きついてる感が強いのが、何とも言えない心地良さ。
全員の毛の感触もフワフワと柔らかい。特にハイシロの毛の感触が……もう……!
「ミャア(今日はやけに甘えたね)」
みんなが普段と違うのがいけないのデス。そうは思うけど、みんなは普段と何ら変わらないと思い込んでいるらしい。
ちなみに、これは幻覚では無い。マタタビは、まだこの時期には手に入らないから。と言うか、もう手を出す気は無い!!
ふんす! と鼻息を荒くする俺を不思議そうに見るハイクロに照れ笑い。あの時の事は忘れて下さいね。あえて口に出したりはしないけど。
……そういえば、ちょっと待って?
俺は猫又で普段と変わらず。ハイイロはメインクーン、ハイシロはノルウェージャンフォレストキャット、ハイクロはターキッシュアンゴラ、チャイロはソマリ。
……なら、母さんは?
此処にはいない母さんの姿を考えて、その想像の付かなさに慄く。
母さんが『猫』の姿になっているというのは、悪いけど想像が全く出来ない。だって、母さんは狼だから。最強だから。
確かに、猫になったらさぞや優美な美猫になるだろうというのは想像出来るのだが、その猫種は全く思い付かない。
「ギャウ?(何してるんだい、お前達?)」
「ミャ(あ、母さん)」
っ……!? か、母さん!? ちょっと待って! まだ心の準備が……!!
洞穴の入り口から聞こえてきた母さんの声に、思わず体が硬直する。振り向きたい、だが振り向けない。
果たして、母さんもやはり猫になっているのか。さっきの鳴き声を聞く限りでは、少なくとも狼では無い事は間違い無いだろう。
だけど、待って? 母さん、さっき「ギャウ」って鳴かなかった?
普通の猫って「ニャー」じゃないでしょうか。一体、母さんはどんな猫になったんでしょうか。
もしかしてヤマネコとか? それならまだ違和感も少ないかもしれn……。
「ギャゥ?(黒いの?)」
……黒ヒョウじゃないですか、ヤダ————!!
ヒョコリ、と上から覗き込んで来た様子の母さんの声につられて顔を上げると、いつもと変わらぬ漆黒の体色……と思ったけど、良く見れば微かに見える斑点模様。そして明らかにいつもと異なる丸みを帯びた耳と、凹凸のはっきりした顔立ち。下を見ればがっちりした太い足。力を入れたのか、その瞬間に爪が一瞬だけチラリと見えた。
上から下まで、グーッと見上げて、見下ろす。どう見ても黒ヒョウです。本当にありがとうございました。
「ギャゥ?(黒いの?)」
「……ッ、ニャ?(……っ、何?)」
あぶねぇ、思わず呆然としてて返事が遅れた。その事に軽く顔をしかめるも、母さんが特に言及する事は無く、そのままベロリと俺の顔を……
あ、ダメだ。モウ限界デス……!
いい加減キャパオーバーしてプスプスと煙を噴き出しそうになった脳みそに、俺は本能が訴えるままにそのまま意識を落とした……。
***
「……ゥ、ワゥ!(……ぃの、黒いのってば!)」
「ニャッ!?(はっ!?)」
全身を揺さぶられる感覚と、執拗に話し掛けるハイイロの声に俺は意識を取り戻した。
バッ! と起き上がって慌てて周りを見回すが、いつもと変わらぬ光景。目の前のハイイロは狼だし、俺を抱え込んでいたチャイロも狼。もちろん、ハイシロやハイクロ、母さんも狼の姿だった。
……夢? それにしては、あの感触はやけにハッキリと覚えている。そう、あのハイシロの毛のモフモフっぷり……!
「キュ?(黒いの?)」
猫だったハイシロの毛の感触を思い出してデヘ、と顔を緩めていたら、失礼にもハイイロが尻尾を股の下にしまい込みながら名前を呼んで来た。モフモフ思い出してただけですよ。
それにしても……
「……ニャ。ニャゥ?(……いつも通りだよな。さっきのは夢?)」
「ワフ?(ゆめ?)」
「ミャゥ、グルニャー(変な夢見てたんだ。ハイイロ達が何でか猫になってた)」
「グルゥ?(おれ達がネコにぃ?)」
「ミャ、ミャ……?(夢だよ。夢……だよな?)」
未だに手に残る毛の感触。ハイシロだけじゃなく、ハイイロのも、ハイクロも、チャイロも……全員分の毛の感触を覚えていた。残念な事に、母さんの体にだけは触れていなかったので、黒ヒョウの触り心地は不明だったけど。
自分達が猫の姿になっていた、と聞いて興味を持ったのか、尻尾をぶんぶか振りながら目を輝かせてどんな猫だったのかを聞いてくる。それに俺は思い出せる限りの情報を答えていった。大きさや耳の形、声質、毛の柔らかさ、毛の長さ……。
「ガウ(なんか、きめぇ)」
「ギニャッ!?(ひでぇっ!?)」
「……キュン(……悪いけど、あたしもちょっと思った)」
「ミャッ!?(ハイクロまで!?)」
そんな気持ち悪い事は……いや、言ってるか。
人間に例えれば、短時間だけ同席していた人間の髪の色から長さから、着ていた服の柄から、体格に顔立ち……そういったものをバッチリ記憶して、それを嬉々として語っているという状況。紛れも無く、俺、変態じゃねーか。
「グル?(……母さんは?)」
ションボリ、と落ち込んだ様子の俺を見かねてか、チャイロが話を逸らすように……いや、微妙に逸れてないか。だが、まぁ良い。
「ニャゥ(黒ヒョウだった)」
「グルゥ……?(黒ヒョウ、ねぇ……?)」
まぁ、そう言っても母さん達は知らないかな。前世知識から引っ張り出した黒ヒョウの特徴を挙げていく。
ふむふむ、と興味深そうに聞いていたハイイロとは正反対に、母さんは気持ち不機嫌そうに尻尾を一振りすると立ち上がる。そのまま洞穴の入り口に向かいながら言う。
「ガゥ(まぁ、あたしは狼である事に誇りを持ってるからね)」
「ンニャ(まぁ、そうだろうな)」
それには俺も同意。チャイロ達も同意見のようだ。目を細めた横顔が誇らしげである。
やっぱり、俺的にもチャイロ達は狼の方が……
「ギャーゥ?(まぁ、たまには面白いかもねぇ?)」
え゛。母さん、今……何だか、鳴き声がおかしくありませんでしたか……?
ぐぎぎ、と錆び付いたように動かしづらい首を必死に回し、洞穴の入り口に佇む母さんに目を向ける。逆光で良く見えないけど、その姿はいつもとはシルエットが違うように見えて……。
ニヤリ
ひぃ……っ!?
帰宅してから急遽書き上げましたので、誤字・脱字があるやもしれませんがご容赦下さい。一発書きでございます。
投稿後に誤字を発見しましたので修正しました。『最低:』→『推定:』こんなとんでもない間違いをした私が最低です。ついでに他にも加筆修正をちょこっと。殆ど変わってないけど!
なお、登場猫種は見た目イメージだけで選びましたので、実際の猫の性格とは大いに違う事がありますのでご注意下さい。みな長毛種です。
母さんだけは別だけど……。
母さんが猫、というのは想像出来ませんでした。どう考えても『猛獣』です。
……ん? なにやら、首筋に生温い風が……ちょっ!? なんでこんなところn




