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秘密が秘密じゃ無くなった記憶

 黒いの頑張る!

「グルゥ(黒いの、落ち着きなさい)」

「ニャ……!(ちがっ、そうじゃなくて……!)」

「ガウッ(落ち着きなさい)」

「……ミィ(……母さん)」

「ワゥ(ゆっくり息を吸って、吐いて)」


 ヒッヒッフー


 違う! ここでボケをかますなし、俺!!


 とりあえずお約束なネタをやった事と、それに対してセルフ突っ込みを入れた事で落ち着いた。

 決して、ラマーズ呼吸法で落ち着いた訳では無い。落ち着いて堪るか。そういえば、「ヒッヒッ」で吸って「フー」で吐くと勘違いしてる人いるけど、「ヒッヒッフー」の奴って全部吐く音らしいですよ。俺も又聞きでうろ覚えだけどそうらしいですよ。多分、そうな筈。……あれ、何かちょっと不安になってきた。間違ってたらごめんね? 誰に謝ってるんだ、俺は。


「ワフ?(落ち着いたかい?)」


 あ、はい。余計な事を考えてたら落ち着きました。


「グルルゥ? ワゥ(なら、もう1度きちんと話せるかい? ゆっくりとで良いからね)」


 ……ういっす。さっき噛みまくってたからね。


 そして、気持ちを落ち着けてやっと話す事が出来た俺の過去。

 此処とは違う世界で人として生まれて、病気で死んで、この世界に猫又として生まれ変わった事。

 産まれついたその瞬間から、むしろ胎内に居た時から自分の意識がはっきりとあった事。もちろん、産まれた瞬間のも、その後に起こった事も。俺を捨てていった母猫の冷たい視線も、そのまま戻って来なかった事も、母さんと出会った時の事も全て覚えていた。


「「「「「…………」」」」」


 ……やっぱり、言わなければ良かった、のかな……。


 話し終わった後、黙り込んでしまった母さん達を見て俯く。

 知り合いが、ましてや自分の家族(・・)が「自分には前世の記憶があるんだ」なんて言い出したら「何だこいつ」って素で思うだろう。「信じられない」って思うだろう。俺だったら気持ち悪いって思うか、あるいは普通に信じられないから。だってそうだろう? 例え後から信じたとしても、最初は普通にドン引くだろう? ……母さん達は、信じてくれるのかな。

 自分を基準に考えてるけど、母さん達が今感じている感情も、ソレに近いものなのだろうと考えている。あるいは異物を身内に抱え込んでしまった事に対する後悔か、それとも不審個体への警戒か。


「グルゥ(黒いの)」

「……っ! ……ニャゥ(……っ! ……はい)」


 母さんが声を掛けてくるが、今の母さんの顔を見るのが怖くて顔を上げられない。チャイロ達の視線もバシバシ感じているから、余計にだ。

 何とか返事はしたものの、そこから先が繋がらない。母さんも何も言わない。チャイロ達も。

 ただただ沈黙が流れ、同時に俺の不安が増していく。


 やっぱり言わない方が良かったのだろうか。生まれ変わった後、最初に考えていた通りにずっと言わないままの方が良かったのかもしれない。

 でも、話したかった。ずっと隠しているのは辛かった。

 ただの獣なら良かったのに、どうしても『人』の意識が消えなくて。だからこそ人の意識に引っ張られて、生活を少しでも快適に、と考えて動いていた。改めて考えると、不自然でしか無い行動ばかりだったのは気付いていた。でも、自分の存在意義が欲しくて。異物がいつまでも此処に居られるか分からなかったから、少しでも役に立てば傍に居られるんじゃないかって考えて……。

 でも、産まれてすぐに母猫に捨てられた子猫が、その後自分達と同じように育った子猫が知っている筈も無い知識を持っていて、それて語って行動するおかしいだろう? そんな事、ただの子猫に出来る筈が無いだろう? いくら猫又だとしても、不自然だろう……? そんなの、気持ち悪いだろう……?


「ガウ(これ、話をお聞き)」

「ギニャッ!?(うぎゃっ!?)」


 突然ぶちっと頭を踏み潰された。いや、中身は出てないから手加減はしてくれてるんだけど。


「ワフゥ……(全く、考え込むと話を聞かなくなるのは悪い癖だねぇ……)」


 ……俺が考え込んでいる間に母さんから何か言われてたのか? やっぱりこれ以上は一緒にいる事なんて出来ないって言われるんj


「おぐふっ!?」


 再び顔が俯きかけた俺を衝撃が襲う。ドゴッ! と脇腹にめり込んだのはチャイロの鼻先だ。ロケットのように突っ込んで来たから避ける暇も無かった。そのまま地面に押し倒され、前足で抱え込まれる。

 グリグリと押し付けられる鼻先が目一杯腹にめり込んでる!! ……ちょ、身が出るってば!?


 ぎにゃぎにゃ、じたばた

 わふわふ、ぐりぐり


「ガウ(いい加減におし)」

「キャンッ!」「ミギャッ!」


 突然横っ飛びに吹っ飛ばされた。ゴロゴロと地面をしばらく転がってから止まる。

 犯人……犯狼はお察しの通り母さんです。てか、セリフで分かるやね。容赦の無さっぷりでも分かるやね。

 俺だけで無く、チャイロも一緒に吹っ飛ばされてる辺り、母さんの腕力半端ねぇ。そして、まとめて吹っ飛ばす辺り母さんの大雑把さも半端n


「グル?(何かね?)」


 何でもありません。ワタシハナニモカンガエテマセンニョ。あ、噛んだ。


「ワフゥ……、ガウ(本当に、仕方の無い子達だよ……。黒いのを今さら見捨てたりなんてするものかね)」

「ニ?(え?)」

「ワフ? ワウゥ?(捨てられるとでも思ったんだろう? チャイロはチャイロで黒いのが出て行くとでも考えたんじゃないかねぇ?)」


 ……普通ならそう思うんじゃない、かな。

 俺の事、気持ち悪くないの? チャイロは、俺が此処にいる事を望んでくれているの?


「ワフン(今さらだね)」


 え゛。……それはどっちの方への言葉だろうか。気持ち悪い、の方だったら凹む。自分で言い出した事だけど。


「グルゥ?(黒いのが何かを隠してるのなんて、あたしらはずっと気付いてたよ?)」

「…………」


 ……え、ちょっと待って。あたし()? ……『ら』!?


「キャフ(まさか、元人間だったとは思わなかったけどね)」

「ミァ?(ハイクロ?)」

「グルル?(黒いのが何かを隠してるのはわりと最初からバレバレだったわよ?)」

「ワウ?(そうなの?)」


 おい待てハイイロ。そこでお前が聞くな。察するに、ハイイロは気付いていなかった系?


「ガウ(まぁ、色々変な事知ってたからな)」

「……ンニュ(……ハイシロ)」


 変な事……変な事なんてしてない! ……とは言い切れないな、残念ながら。

 張り切って焼肉パーティーとかしてたし、一部のネタ用語とか使ってたし、劇的ビ○ォーアフターとかナレーション付きで解説してたし。

 それ以外の時も、何言ってんだって感じの視線は時々感じてた。俺は華麗にスルーしてたけど。


「ワフ(いや、スルー出来てねぇから)」

「ミャ(マジで)」

「グル(マジだ)」


 おおぅ……。


 ギュッ……


「ミ?(チャイロ)」

「グルゥ(……黒いのは、おれ()の弟だ)」


 ……うん、ありがとう。


「ワゥ(黒いの)」

「ニ?(母さん、何?)」

「グルルゥ?(人であった時の事を聞いても良いかい?)」

「……ンミ(……うん)」

「ワフッ!(オレも聞きたい!)」

「ガゥ(おれも)」


 ギュッ!


 ……うん、チャイロも聞きたいのな。

 声に出さずとも察したからってハイクロは生温い目をやめて。その内「ありがとうございます!」とか叫び出すぞ、ゴルァ。あ、もう手遅れ? かもねー(否定はしない)。

 それじゃぁ、何から話そうかな。何か質問ある?


「キュ?(オオカミいる?)」


 いきなり人間だった事とは全く関係無い質問でござる。


「ミャ、ンニャゥ(いるよー。俺の住んでる国には自然生息はしてないけど)」

「……グル?(……自然じゃなければいるの?)」


 うん、繁殖って言ってね。人工的に(つがい)を作って子供を生ませて増やすんだよね。とは言え、相性が良くないと番も出来ないけど。フフッ……狼でさえ相手がいたのに、前世の俺ってば……。一応、彼女はいたんだけど。別れたけどね! 別れたけどね! 大事じゃないけど2回言ったよ!! チャイロは嬉しそうに尻尾振んな、泣くぞゴルァ。

 それと、昔は日本にも狼が住んでたってのは内緒。既に滅んでるから言いたくないんですよね。


「グルゥ?(生活はこっちとは違うのかい?)」

「ンニャ。ンーニャ、ミャー(かなり違う。あっちには魔法とか無いし、特殊個体もいない)」

「ガウッ!?(なら、どうやって強くなるんだよ!?)」


 あ、そうか。ハイシロ達からしたら、『特殊個体=ドーピング食材』だもんな。しかも美味しいから俺達的には願っても無い的な。前世だと美味しいもの=コレステロールの塊とかって感じであんまり体には良くない物が多かったような。

 ……脂肪の塊で思い出したけど、前世では好きじゃなかったフォアグラも今なら美味しく食べられるかもしれない。だってさ、あれって結局『脂肪肝』じゃない? ぶっちゃけ脂肪の塊じゃん? それ言っちゃったら霜降りも似たようなもんだけど。別に、お値段が高いから食べられなかったから好きじゃないとかじゃないですよ? 貧乏人の嫉妬とかそんなんじゃないからな。ケッ!


 あ、話がスゴイずれた。えーと、向こうでは普通の獣が特定の食材を食べて強くなるってのは無いんじゃないかな? 弱肉強食的な生存競争はあるけど、とんでも能力を持つ狼は基本的にはいない筈。常識的な範囲内でしか無い筈。

 クマを倒す狼なんて、漫画とかじゃないと見た事も聞いた事も無い。あっちは犬だったけど。


「ワウ?(……なら、黒いのみたいな猫又もいないのか?)」

「……ミュ、ンムー(……いないな。伝説的な扱い、だな)」


 ちょっと違うか? どう言や良いんだろうなぁ。妖怪っつっても通じないだろうし、伝説……てのもちょい違う気がするよなぁ? むしろ民間伝承って方が雰囲気的には近いのかな? 伝説って言うと、何だか神々しそうなイメージが……。UMAって言っても、それも伝わらんだろうし。そういえば、コレ(UMA)って日本人の造語なんだっけ?

 未確認生命体……目の前にいるので確認されちゃってますね。もっとも、あっちでは確認されていないけど。


「ワフ(……そうか)」


 ギュッ


 俺の言葉に不安になったのか、チャイロが俺を抱き締める力が強くなる。……けど、これ以上強くなったら、そろそろ「ぐぇー」てなりそうだから程々でお願いします。

 ……これは不可抗力だから、ハイクロもその生温い目やめてね? ありがとうございます!!

 個人的には踏んで下さいまで行ったら手遅れだと思います。そこまでは行かないように気を付けたいと思います(まる)


「グルルル……(そんな事を言い出したら、代わりにあたしが踏んでやるよ……)」

「ヒミャゥ(やめて下さい、死んでしまいます)」


 つか、母さんには普段から踏まれてるからその威力は身をもって知っています。今の母さんの言葉は『ガチ』の奴の方だ。ご褒美的な奴じゃなくて。だって母さんの唸り声が低い。真っ赤になっちゃう……。

 慌てて言葉で否定し、首も全力で左右に振って行動でも否定する。首意外? 動けない。

 すると、母さんはフンと鼻を鳴らして呆れた顔を見せた。……信じてくれた、のかな? ってか、俺なんでこんなに必死になってんだ。俺は無罪です。


 そんなやり取りをしている間に、気付けば普通に母さん達の顔が見られるようになっていた事に安心した。さっきはあんなに母さん達の顔を見るのが怖かったのに。

 思考が脱線して気が抜けたせいか、母さん達があえて俺の意識を逸らしてくれたおかげか。理由はともあれ、母さん達と目が合わせられるようになった事に安心した。


 チャイロにギュッとされたまま、俺も尻尾をチャイロの足に絡める。全身に掛かる重みと体温。唯一動かせる首を必死に回してチャイロと目を合わせる。抱き締める力が強くなった。


 ……違う。そうじゃない。


 ギュゥッ……!


 尻尾をタフタフ、首をニョコニョコ。

 ギュギュッと抱き締めるチャイロの前足を尻尾で必死にタップ。


 モフモフモフモフモフ……!


 首! 首絞まってますから……!

 遊んでる訳じゃないから、ハイイロは尻尾ぶんぶん振りながら近付いて来ないで!?

 ハイクロは俺の今の状況を分かってるでしょう!? 何で何も言わないのぉぉぉぉ!? 

 ハイシロ! ニヤニヤ笑ってないでチャイロを止めて……!!

 母さん! 母さんもチャイr……あ、母さんはダメだ。目が完全に笑ってるもん。助ける気皆無ですね、分かります。


 ……さーて、と。そろそろ意識を飛ばそうかなー。お休みなs


「ムギュ(うげ)」

「ワフ(させないよ)」

「ワフン(ほら、チャイロもお放し)」

「クゥ(……はい)」


 母さん、飛びそうになった俺の意識を無理矢理戻すのに、首をグキッてするのは酷いと思います。ジト目で睨んだけど鼻息1つで吹き飛ばされた。ヒゲがなびく。


「グルルゥ(黒いのに聞きたい事はまだ途中だからね)」

「……ンニィ(……それはそうなんだけどね)」

「ワフッ、ウォフ(寝るまでの間、色々話して貰うよ。そうすれば夜はしっかり寝られるだろうからね)」


 ……ぐぬぬ、逃げられなかったか。いや、逃げる訳では無いよ? 訳では無いよ??

 ただ……俺、今夜寝かせて貰えるのかなぁ……?

 黒いの頑張った!


 この後、黒いのが自重しなくなります。一応今までは自重してたのよ?

 自重しなくなると言っても、猫(又)なので猫の手で出来る事しか出来ないけど。いきなりケーキ焼き出したり、お酒造ったりはしません。つか、出来ません。……いや、お酒造りなら可能でしょうかね? 口噛み酒って猫にも作れるんでしょうか。

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