猫股流、劇的ビフ○ーアフターな記憶
巣穴修復完了です。
俺の新しい能力が目覚めてから約2週間。
遂に洞穴の修復が完了したぜぇ。ヒャッハ――――!!
……ゴホン、失礼。荒ぶった。
修復が完了したとはいえ、もちろん修復出来なかったものもあるんけどね。
具体的には水場。これはどうやら、洞穴の中を修復する時にそっちの方で頭が一杯になっていたようで、土の中に通っていた水の道をうっかり潰してしまったらしい? ちなみにこれは母さん情報。その結果、元の水場には水自体が湧いて来ないようになってしまったという。
大事な水場さん、何処行っちゃったん? と思って探してたら、少し離れた場所で見つけた。
かなり水量減ってたし……。まぁ、水飲むだけなら問題は無いから良しとする。川に行くよりは近いからね。
せっかく、元の場所にはかなりの量の水が溜められるように大きめの水入れも作っていたのに、そっちは完全に無駄になってしまった。まぁ、それはそれで、その内に何かで使えるかもしれないからそのままにしておく。多分、雨水貯める位には使えるかな? ボウフラ発生必至ですね、デング熱怖い。あれ、最初は『テング熱』と空耳してた。どんな病気だ、それ。鼻伸びるん?
ちなみに水入れは、俺の体よりかなり大きく作ってあるから、俺が中に入るには隙間があり過ぎててフィット感が悪い。ぶっちゃけ、広過ぎて落ち着かない。
ハイクロで丁度良い位の大きさの水入れだが、ハイクロの場合は最初に一言「狭い」と言って、それ以降は入ってくれなくなってしまった。
後日通り掛かった時に、チャイロが中に収まろうとムチムチ動いているのを見た事があるけど、チャイロにはちょっと小さかったらしい。尻が中途半端なところで引っかかって綺麗に収まる事は不可能なようだった。
哀愁漂う背中が、見ててちゅらい。
ついでに他の面々の反応。ハイシロは最初から入ろうともせず、ハイイロは顔だけ突っ込んでご満悦。母さんは鼻で笑って終わりだった。しょんもり。
やっぱりチャイロの優しさがちゅらい。
無理して入ろうとしなくても……えぇんやで……?
まぁ、そんなこんなで今日、遂に洞穴の修復が完了したのです……!
あ。最初に言ったから知ってる? でも言いたかったんだもん!!
「ワゥ(……黒いの、がんばってたからな)」
「ミャゥゥッ!(おうともよ! おれ、がんばったぞ!)」
トウッ! とチャイロの体に飛び付いてドヤ顔披露。
俺の突然の行動にもチャイロは一切動じる事無く、俺の体を抱え込んでベロリと舐めた。あれ?
そんな俺達の様子に苦笑いを浮かべたまま母さんが一言。
「ワフッ(確かに。良く頑張ったね)」
……っ! 母さぁぁぁぁぁぁん!!
チャイロの腕から抜け出し、トウッ! と母さんに飛び付……避けられたでござる。解せぬ。
飛び付……避けられる。飛び、避け、飛び、避け、飛び、踏まれ……え?
「ムギュ(解せぬ)」
「ガウ(鬱陶しい)」
何度か繰り返したところで頭を踏み潰された。酷い。
てか毎回毎回、何でピンポイントで頭を踏めるの? お母様……。
頭を踏まれてしばらく経ってから自由になった後、目の前で繰り広げられたコントにキャフキャフ笑っているハイクロに癒された。
その後、洞穴に入りたくてソワソワしているハイイロとハイシロに視線を移す。目はキョロキョロ、尻尾はブンブン。うん、可愛いな。
実は、修復をしていた間は俺と、監督をしている母さん以外は誰も洞穴には立ち入らせていない。だから初日の作業を除くと、チャイロ達が洞穴に入るのは今日が初めてになる。もっとも、入り口付近だけなら覗き込む事は可能だったけど。
チャイロ達に万が一の事があっては嫌だから、俺も母さんも断固として立ち入りを許さなかったからだ。『工事中に付き立ち入り禁止』的な感じで。
その為、埋もれた土を掘り進めるのはチャイロ達から代わって、母さんにお願いしてやって貰ってました。工事中の間はチャイロ達が狩りと見回りを担当。
ただし、母さんは時々チャイロ達と交代して見回りにも参加してたけど。
そして、母さんが見回りに行く日は俺も補修作業お休みです。のんびりモフモフとチャイロ達と触れ合っていました。すっごい癒されたわぁ……。
チャイロに渡された狩りのお土産、と称したネズミの尻尾に懐かしくなったり。俺もデカくなったもんだ。昔のは無くなっちゃったからな。あ、ちなみにチャラオの
そう言ったら、心底不思議そうな顔で「いや、黒いのは小さいだろ」とハイシロに言われて涙目不可避。チャイロとハイクロにデロデロになるまで舐められて慰められました。
うん、落ち込んで無いよ……? ちーっとも落ち込んで無いよ?? ただ、ちょっとだけ牙が疼くから、少しだけ甘噛みさせてね。血は出ないようにするからさ。
「わふ(すまんかった)」
「うま(ゆるふ)」
アギアギ
なんて、こんな事もありましたね。
そして洞穴の修復中、俺は見回りも狩りも全免除だった。狩りまで強制免除はちょっと、いやかなり不満だったけど、補修で体力と気力を全部使い切っちゃうから仕方ないね。
でも、修復も終わった事だし、俺も明日から狩りに出るぞー!
早速、能力を使った狩り実験もしてみたいんだけどなぁ。母さん、許してくれないかなぁ?(チラチラッ)
「ワフ(そっちはもう少し慣れてからだね)」
うぐ。
俺的には、この2週間でかなり能力の使い方には慣れたと思うんだけど、母さん的にはまだまだらしい。特に狩りの最中に使うというのであれば、と注釈を付けて言われた。
「ミャ?(どういう事?)」
「クフン(能力を使う度にいちいち光ってたら、居場所がバレるだろう?)」
「ウニャン(あ、そっか)」
確かに、何処かに隠れていたとしても急に光ったりしたらバレるだろうし、狩りに成功したとしても、下手をすると光を見てやって来た他の獣に襲われる可能性がある。
光らないようにするか、光を隠す手段が必要だ。果たしてそれが可能なのか?
それと、これは俺も自覚している事なのだが、俺の新しい能力……とりあえず『土の能力』としておこう。『土の能力』には分かりやすい弱点がある。
1つは、今母さんが教えてくれたように能力使用時に光るという事。治癒もそうだけど、光の強さはこっちの方が強い=目立つ。光る事で発動のタイミングが分かるのはメリットにもなりそうだけど……今は置いておくとしよう。
そして、俺が自覚していたのはこっち。能力発動にはタイムラグがあるという事。この2週間、ほぼ毎日能力を使い続けていたけれど、能力の発動時間に変化は殆ど無い。
理想は地面をパンッ! としたら即座にパッ、と変わる事。某錬金術師漫画みたいな感じで。先は遠そうだけど……。
「キュゥ~ン!?(母さん、まだ入っちゃだめなの!?)」
あ、忘れてた。
お預けを食らっていたハイイロがピスピスと鼻を鳴らしながら訴える声に、まだみんなが洞穴に入っていない事を思い出した。うっかり忘れてた事に文句を言われながらもチャイロ達を洞穴の中へと促す。
見よ! 俺の渾身の修復結果を!!
~~何という事でしょう。
修復をする以前は完全に土砂に埋もれてしまっていた寝室へと通じる通路も、今ではフラットに歩きやすく。なおかつ、奥に進むに従って緩い傾斜を付けてあるため、雨の日でも水が侵入しにくい構造に大変身!
ところどころ石や木の根が顔を出していて、良く頭をぶつけていた土の壁も磨かれたようにツルリと滑らかに。
さらには、ぶつかっても(壁に)傷の付かない特殊コーティング! この特殊コーティングは、爪で引っ掻いても嫌な音のしない仕様となっておりますので、うっかり爪を引っ掛けてしまう猫又にも安心です。
そして、今回のリフォームの肝である少しの振動で簡単に剥がれてしまっていた天井も、頑丈で密度の高い素材を使って補強した為、地震が起きても剝がれ落ちる事も無く安心です。さらに、これでもう雨漏りに悩む心配もありません。
こうして住み難かった家も、匠の技をふんだんに使った安心設計の新しい家へと生まれ変わりました。これからはこの空間で家族5頭と1匹、快適に過ごせることでしょう~~
「ワフゥ……(うわぁ……)」
フフン。
どやぁ……
キョロキョロと洞穴の中を見回すハイクロやハイシロにもドヤ顔披露。
せっかくリフォームするんだから、個人的に気になっていた点も一緒に直しちゃったのさ! 何処が気になってたって、雨漏りと水の侵入。あと出っ張り。結構あったな。もちろん母さんの許可は貰ってます。
大雨の翌日とか、入り口へ向かう通路がベッチャベチャだったんだもん。当然、寝床もベチャベチャよ。
それと、さっきは描写をしなかったけど、寝床スペースも他より1段高くしてある。これもまた雨水対策だ。目が覚めたら体が濡れてる、なんて嫌だからな。
寝相の悪いハイイロが転がり落ちる未来が予測出来そうだけど、これもみんなから好評だった。
今後全員の体がさらに大きくなる事も想定して、かなり大きく場所を取ってあるから、もっと成長しても大丈夫。
わー! と走り回ってるハイイロが早速ガツゴツ壁に頭をぶつけてるけど、天井が剥がれ落ちてくる気配は無し。うむ、修復完璧。
ところで、あれ痛くないのかね?
「ワゥッ!(黒いの、すごいじゃない!)」
ふふん、もっと褒めて!
「グルルゥ(おれはこの寝床が気に入ったな)」
でしょでしょ!? 俺の自信作!!
「ウォフッ(……水が入って来にくいのは助かる)」
でっしょー!? 雨の後って、何となく毛皮が湿ってる時あるんだもの。すっごく不快なんです!!
雨漏りもさ、頭頂部にポタッて落ちるとピャッ!? ってなるし。
「ワフッ!!(ぶつかってもいたくない!!)」
痛くねーの!? ハイイロ凄いな!?
「ワフー?(おれ、すごい?)」
「ウォフ(ほめてねーぞ)」
「クゥ?(そなの?)」
和むからOKです。
俺がそう言うと再びドヤ顔に戻るハイイロがバ可愛い。呆れ顔のハイシロも可愛いから安心しろよ。
「ガゥ……(今のセリフのどこに安心しろっつーんだよ……)」
てへぺろ。可愛いは正義って言うじゃん?
「グルゥ(新しい能力も、修復中はそれなりに上手く使えてたね)」
「ンニャッ(まだまだ訓練しないとだけど)」
「ワゥッ、ウォフゥ(それはそうだよ。あたしだって、日々鍛錬は重ねているからね)」
え? 母さん、まだ強くなる積もりなの??
「ワフッ(そりゃ、そうさ)」
「キュン?(あたし、母さんに追い付ける?)」
「ワフ!(がんばる!)」
母さんのもっと強くなる発言に軽く引いてる俺と違って、ハイクロ達はやる気満々だ。俺だって母さんが強いのは嬉しいんだけどさ、目標にもなるし。けど、あまりに強すぎるのはちょっと怖いのです。
「ウォフン(お前達が良い子にしてればいいんだよ)」
フヒヒ、仰る通りですね。サーセン。
「ワウッ!(それより、今日から巣で寝られるんだよな!)」
「グルル(その積もりだよ)」
「ニャンッ(久しぶりの我が家だ)」
「ウォゥ(……おつかれ、黒いの)」
労ってくれるチャイロに凄い癒される。
連日の肉体労働(?)と、慣れない作業で疲れが溜まっていたのか、それと懐かしい我が家に安心したのもあるのだろう。段々とまぶたが落ち掛けてきていた。時折、カクリと頭が折れる。
そんな俺の様子に気付いた母さんに寝床へと運ばれると、眠気が一気に強くなった。
もう、動きたくないでござる……。
ムニムニ、と体勢を整えて足を体の下に収納する。所謂、箱座りだ。
前世ではこの体勢って結構やり難そうに思ってたんだけど、実際やってみるとこの快適さよ。あぐら掻いてるような感じなんだよな。
だからこそ、ウッカリするとこのまま眠っちゃう訳で……。
一際大きくガクリと下がった頭が地面と激突しそうになったのを、さり気無く止めてくれたのはハイシロの尻尾だった。顔面がモフリと埋まる。
ぅあ~……顔がモフモフするんじゃぁ~……、
抱き枕のように尻尾を抱きかかえてモフモフ続行。グリグリと顔を擦り付けている内に、俺は完全に夢の世界へと落ちて行った。
まぁ、ここまでは良かったんだけどな……。
目が覚めたら顔の真ん前にハイクロの足の裏があったんだけど、これどういう状況? 真ん前と言うか、むしろ肉球に顔を埋めてたと言うか……。
外を走り回る狼の肉球は硬かったという事を、ここにご報告しておきます。ちなみに、俺も肉球は硬いよ。子猫の時は柔らかかったんだけどね。
土の能力の修行を兼ねてのリフォーム。
匠の技で見事なおうちに生まれ変わりました。能力の無駄遣いとは言わせない。これも修行だから!
最終目標は、やはり狩りでの能力使用。




