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猫又:ハイクロの記憶

 本日2話目の投稿です。今回はハイクロ視点でお送りします。

「ミャー?(ハイクロー?)」

「キャウ?(黒いの? どうしたの?)」

「ンニャ?(チャイロ知らない?)」

「キャフ、キュン?(知らないけど。外にいるんじゃない?)」

「ミ、ミャッ!(ありがとう。行ってみる!)」


 それにしても、黒いのってばチャイロにベッタリよね。確かにチャイロは頼りがいがあるかもしれないけど、お姉ちゃんとしてはちょっと複雑だわ。

 それに、相当な事が無いとあたしの事を『お姉ちゃん』って呼んでくれないし。

 もう……! もっとちっちゃい時は……って、最初から『ハイクロ』だったわね、そういえば。何気にチャイロ達にも名前で呼んでるわね。

 時々『兄ちゃん』とか、『お兄様』とか呼び方変えてるみたいだけど。黒いのって、呼び方をそれぞれで変えてるのよね。呼んでる相手が分かりやすいから良いけど。

 母さんに拾われて来たばかりの時も、区別出来るように個別に名前が欲しい! って訴えてたものね。


 チャイロはお兄様。ハイシロは兄ちゃん。ハイイロは兄貴。ハイイロを兄貴って呼ぶのは本当に少ないけど。

 で、あたしはお姉ちゃん。たまーに『お姉様』になるけど、違いは何かしらね? ちなみに、黒いのがあたしを『お姉様』って呼ぶ時は、やたら目がキラキラしているか尻尾が垂れてるかのどっちか。どっちも可愛いけど。特に、目がキラキラしている時は。

 尻尾が垂れてる時の黒いのは、ちょっといじめたくなるっていうのはナイショ。


 黒いのだけは、はっきりと分かる『弟』だもの。みんな構いたくて仕方無いのよね。もちろんあたしもだけど。

 母さんも何だかんだ言いながら、黒いのの事はしっかりと気にかけてる。

 拾って来たばっかりの時は『死にたいなら死なせてやる』とか言ってたけど。

 ついでに今だから言える事。母さんに拾われたばかりの黒いのはちょっと怖かった。雰囲気というか、何て言うか、目が……ね。だからこそ、あたし達も必死に黒いのに話し掛けていくようにしたんだけど。

 そうする内に、黒いのが心を開いてくれるようになった時はうれしかった。


 それと、何でだか黒いのは時々年上っぽく振る舞う事がある。まぁ、これは今もなんだけどね。黒いのだと、何故か似合うからちょっと羨ましい。あたしの方がお姉ちゃんなのに! とも思う。

 舌っ足らずに色々と語る黒いのは可愛いけど。語った後、ムフーって鼻息荒くしてるのも。

 まぁ、あたしの理想は母さんだから、いつか母さんみたいになりたいと考えている。それにはもっと強くならなくちゃいけないけど。母さんみたいに強く。そこに黒いのの頭の良さも加わったら最強よね!


 そういえば、黒いのが初めて猫又の能力を使った時の母さんは怖かった。黒いのの事をすっごく警戒しちゃってさ。あたし達には近寄るなって言いながら、自分はしっかり傍に付いてたのよね。特しゅ個体の危険さを知ってたから、いざとなったら黒いのを殺す覚ごを持ってたんだろうけど。

 あたし達も、その時初めて特しゅ個体の危険さを思い知った。

 それでも、せめて何か一言位は言って欲しかったわよ。後で母さんに文句言ったら、ちゃんと謝ってくれたから今はもう気にしてはいないけど。次はちゃんと言ってね! と念を押したのは当然の事。

 他に気付いてたのはチャイロくらいかしらね? もしかしたら、ハイシロも後から気付いたかもしれないけど。ハイイロは……それどころじゃなかったから気付いてないわね、間違い無く。


 そんな事を考えていたら、何となく黒いのの顔が見たくなった。

 ついさっき、ほんの少し前に話をしたばかりなのに。

 急に体がソワソワと落ち着かなくなって立ち上がる。地面の小石をけり飛ばして散らしながら、ほら穴の入り口を目指した。


 小石はうっかり踏んじゃうと痛いからね。前に尖った小石を踏んだ黒いのが驚いて飛び上がってたし。

 もっとも、ケガ自体はちょっと血がにじんだ程度で、ほとんど無いに等しかったんだけど全員が心配して順番に足をなめるものだから、途中から黒いのがウンザリしてたっけ? しばらくは『なめられ過ぎて足の感触が無い』ってぼやいてた。ぼやきながらプラプラと足先を振っているのが可愛くて、みんなでこっそり笑ってたのを覚えてる。


 ちょっと前にあった出来事を思い出しながら、目に付く石を端に寄せる。黒いのを探しに外へ出た途端に、一気に陽射しが襲い掛かる。暗いほら穴に慣れてた目にはちょっと辛い位のまぶしさ。ジリジリと毛が熱くなっていくのを感じる。

 黒いのが暑い暑いって最近ぼやいているけど、確かにこれはちょっとぼやきたくなるかもしれない。母さんが言うには、これでもまだ夏にはなっていないらしいんだけど。

 本格的に夏になったらもっと暑いのかな? 黒いのが耐えられるのかちょっと心配になる。

 何でも、黒い色っていうのは太陽の熱を集めやすいんだって。そんな事、どこで知ったんだか。


「うみゃぁ~……(あぢぃ~……)」

「ワフ(……なら、何で出て来た)」


 あ、いた。けど、案の定暑さにやられているみたい。木陰で地面にぺったりと這いつくばりながら、全身を脱力させているのが見える。

 その横に立っているチャイロはあきれ顔。あたしも同感。暑いって分かってたはずなのに。

 ……ちょっとだけ、黒いのをからかいたくなる。


「キャッフ(黒いの)」

「まぅ?(ハイクロ?)」


 ズシッ


 うん、程よい大きさ。丁度お腹の下にスッポリと収まる。そのまま軽く体重をかければムギュッ! と妙な声が聞こえた。

 チャイロの目にしっと(・・・)の炎が灯る。


 良いじゃない。チャイロはいつも黒いのといちゃいちゃしてるんだから。

 あたしにもたまには姉弟の語らいってのをさせなさいよ。あ、間違えた。触れ合いね。


 チャイロに見せ付けるようにギュッと抱き締める。


「……み゛ぃ゛ぃ゛……(……あ゛ぢぃ゛ぃ゛……)」

「「ワゥ(あ゛)」」


 慌てて黒いのの上からどけば、クタッとして脱力しきった弟が姿を現した。

 急いで近くに生えてる枝をへし折って、それでバサバサと扇げばヘニャリと黒いのの顔がゆるむ。その様子を見たチャイロも枝をへし折って扇ぎ始めたのにはちょっと物申したくなるけど、黒いのがうれしそうだから良いものとする。


 しばらく扇ぎ続けてたら黒いのも復活して、その頃にはあたしの良く分からないモヤモヤとした感覚も治まっていた。その事に安心する。

 こういうのを『しゅう着』とか、『依存』っていうのかもしれない。

 こうなった理由は多分自分でも分かっているけど、今はまだ深く掘り下げない方が良いのだと思う。あたしだけじゃ無く、チャイロもハイシロも、普段気にしていないような風に見えるハイイロも、根っこの方ではずっと残っているのだから。


「ミャゥ(ありがと。だいぶマシになった)」

「キュン?(ごめんね?)」


 クリッと小首を傾げて黒いのに謝る。語尾を疑問系にするのはわざと。

 これをすると、黒いのは妙に喜ぶのよね。『あざと可愛い』ってどういう意味か良く分からないけど、()が喜ぶのなら、お姉ちゃんとしては協力するのもやぶさか(・・・・)では無いわ。


 だから……


「グルゥ(あたしに対抗すんの、やめなさいってば)」

「ミ?(え?)」


 あたしの言葉に反応したのは黒いので、当のチャイロはうなり声1つ上げる事無く、無言で歯をむき出しにしている。

 あたしの視線を辿った黒いのが振り向くけど、その先にいたチャイロは既に素知らぬ振りをしている。それどころか、黒いのの視線が自分に向いた事に、これ幸いと首を傾げてみせる始末。

 何となくだけど黒いのが言う『あざと可愛い』っていうのを理解出来た気がする。


 ……本当、チャイロってば弟に甘すぎじゃない?

 まぁ、黒いのは可愛いから仕方無いんだけどね!


 あたし達が知らない事を良く知ってたり、下手すると母さんが知らない事も知っている。黒いの知識がどこから来ているのか気になるけど、母さんからは『まだ聞くな』って言われてるから、あたしからは何も聞かない。

 時々、黒いのが妙な知識を話した後に何か言いたげにあたし達を見ている事があるんだけど、その時の黒いのって毎回不安そうな様子だから、黒いのの決心が付くまではソッとしておこうと思ってる。

 もしも、黙ってる事が黒いのの負担になるのなら、実力行使をしてでも吐かせてみせるけどね! お姉ちゃんを甘く見ないでよね?


 ブワッ!!


「ピッ!?(ひぃっ!?)」

「グル!?(……黒いの、どうした!?)」

「ミョアァ……(何か、ゾワッてした……)」


 黒いのの言葉にチロリとチャイロがこちらを見てくるけど、今度はあたしが知らん振り。

 首を傾げながら尻尾をパタパタと振って見せれば、ホラ。黒いのも安心した様子で逆立った毛が元に戻っていく。うん、可愛い。


 他のみんなと違って小さいし、体もクニャクニャと柔らかいし、毛もフワッフワしてる。お昼寝する時に黒いのにアゴを置くと気持ち良い。

 ついでに、体重も軽いから母さんが思いっきりなめると簡単に転がっちゃうのも可愛い。それが面白可愛くて、あたし達もついつい黒いのをなめちゃうんだけど、あたし達だとまだ転がらないのがちょっと残念。

 それに、なめられた後の黒いのは恥ずかしそうにしてるけど、実は結構うれしいみたい。尻尾がピーン! と立ってるから。色々とバレバレなの、知ってる? 黒いのは気付いてないでしょうけど。


「ウォフッ(お前達)」

「キュン(母さん)」「ナゥー?(何ー?)」「ウフッ?(……何かあったのか?)」


 グタッと地面に突っ伏したままの黒いのの両サイドにいるあたし達を見て、母さんが鼻で笑う。黒いのが暑さでダレてるのが面白いんだと思う。グニャグニャだからね。

 あたし達もそれなりに暑いのは嫌いだけど、黒いの程ではないから大丈夫。1番毛の量が多いハイシロだって、黒いのよりは暑さに強いから。黒いのは毛が白っぽいからだって言ってたけど。

 色によって暑さに強い弱いって決まるのはちょっと面白いかもね。


「ワゥ、グルルゥ?(黒いのがかなり辛そうだね。川にでも行くかい?)」

「キュ?(川?)」

 

 水浴びすれば黒いのも少し楽になるかもしれない。


「ふみゃぁ……(いくぅ……)」


 母さんの言葉に暑さを思い出したのか、ヘニャヘニャと情けない声で黒いのが呟く。そんな黒いのを口にくわえて、チャイロは早くも行く気満々だ。尻尾をパタパタと振りながら、早く川に行こうとあたし達をうながしている。

 もちろん、あたしも川に行く事に文句は無い。


 近くに見当たらなかったので、遠吠えでハイイロとハイシロも呼び寄せる。家族みんなでお出かけ。

 相変わらず黒いのはチャイロにくわえられたままだけど。プラプラと揺れる黒いのに、ハイシロが時々ちょっかいをかけている。黒いのに肉球でベシベシと鼻先をたたかれてるけど、ハイシロは気にもしていない。それをマネしてハイイロも黒いのの後ろ足を鼻先でツンツンしてたけど、すかさずけり(・・)を入れられて悲鳴を上げていた。鼻の穴に刺さったらしい。

 ハイイロってば……。

 

 母さんに連れられて川に向かう。

 水の匂いが濃くなっていく度にハイイロが先走って、母さんに怒られるを繰り返している。黒いのがそんなハイイロを笑ってるけど、黒いのもくわえられて無ければ、ハイイロと同じ行動してた可能性は十分にあるからね?


 しばらく歩けば川に辿り着いた。ちなみにこの間、黒いのは1度も地面に下ろされていない。途中で黒いのが下りたがっていたけど、絶対に下ろそうとしなかったのはチャイロだ。これに関しては責められるのはチャイロだけで良いと思う。


 川に着いて、すぐに飛び込んで行ったハイイロとは違って、ハイシロは少し周囲を見渡してから川に足を浸す。落ち着いた風に見せているけど、尻尾はブンブンと落ち着き無い。

 あたしもハイシロに続いて川に半身を浸す。背中は陽に当たってジリジリ暑いけど、体の下から来る冷気が中和して丁度良く感じる。

 川に来る最大の理由となった黒いのは、水が来るか来ないか、ギリギリのところにある岩陰にペタリと身を伏せて、その冷たさを楽しんでいる。それと、さり気無くチャイロがすぐ傍に陣取って、自分の体を日除けにしている。本当に過保護。


 でも、注意した方が良いと思うんだけど。

 だって、ほら。冷たさに目を細めてる黒いのの背後から母さんが近付いているんだもの。口元がニヤニヤとしているから、多分この後……。


「ミギャァァァァァ!?(落ちるぅぅぅぅぅぅ!?)」


 あ~あ、やっぱりね。

 弟大好きお姉ちゃん回。チャイロに取られるのをさり気無くジェラってます。

 お姉ちゃんは色々と黒いのを理解してます。視野はそれなりに広いデス。もちろん、ハイクロの目指す先は『母さん』のような強い狼。これは全員同じだけど。


 みんな大好き水浴び。ただし、黒いのは毛が塗れてペタッと張り付くのはあまり好きじゃない。吹っ切れれば全力で遊ぶけど。

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