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昼寝の間の秘密会談の記憶

 帰巣が確定した黒いの達のその後です。


 本日2話投稿の内の1話目です。2話目は番外編で12時投稿予約済みです。

「グゥッ!? ギャゥッ!?(えっ!? くろいのたち、かえるのか!?)」

「ニャ?(あれ、言ってなかったか?)」

「「「「「ギャン!!(きいてない!!)」」」」」


 お、おぅ……。

 いや、まぁ……確かにいつ帰るかってのは言った事無かった……かな?


 雪がある程度溶けたら帰ると、何気無く言った言葉に子狼ーずが一斉に食い付いた。

 教えた積もりでいたが、どうやら教えていなかったらしい。クリ、とチャイロ達を見るが、どうやらチャイロ達もギルティです。同罪です。俺と一緒に、子狼ーずに謝るという罰を与えましょう。


「ワフ(……一緒、か)」


 そこじゃ無ぇっての。


 今日も今日とて狩って来た獲物をモグモグしつつ、何気無く口に出した言葉が(もたら)したのは、狼団子の雪崩だった。モッフモフです。モフー。でもちょっと苦しい。


 ちなみに、本日のご飯は生肉。毎回毎回、焼肉をするのは大変なんだ。ここの群れってば頭数多いから。全員が腹一杯になるまで肉を焼き終わる前に、俺の体力と気力が尽きます。

 先日頑張りすぎて、焼けた石の上に倒れこみそうになったのは内緒です。


 超、おこらりた。ペフゥ……。


 狼団子の中心で前足で掴んだ生肉をモチャモチャ。キャンキャン耳元で叫ばれるとうるさいです。

 耳をペタリと伏せて今の俺はスコティッシュフォールド。アレ可愛いよねー。スコティには耳が立ってる子も普通にいるけど。どっちも可愛い事には変わりない。

 すなわち、猫こそが至高の生物である。狼は究極の生物で間違い無い。犬? その辺で尻尾振ってろ。


「ガウッ!(きいてんのかよ!)」

「もぅまうま」

「ガウゥッ!(いみわかんねぇよっ!)」


 適当に言っただけだもん。意味なんて無いです(キリッ)。

 モグモグ、ゴクンと肉を飲み込んで、詰め寄るジャイをキロリと睨む。

 俺の睨みに一瞬ビクリと耳を伏せかけたけど、グッと耐えて俺を睨み返すジャイ。うむ、度胸は合格。

 だが、ハイクロからさらに睨まれてアッサリと尻尾がヘニャリ。うむ、相変わらずのハイクロ。どうやら刷り込みが強すぎた模様。


 さっきよりも控えめにキャフキャフと文句を言い始めた子狼ーずをハイクロが一刀両断する。


「グルルゥ(最初から、母さんも『居候』だって言ってたでしょ)」

「クゥン……(聞いてたけど……)」

「ミャゥ、フミィ(おれ達だって、母さんからいつ帰るかは聞いたばっかりなんだ。正直、実感はまだ無いよ)」

「グゥ?(ほんとうに、かえるのか?)」

「「「「ワフ(……(帰る))」」」」「ミャ(帰るよ)」


 食事の場が、一瞬にお通夜モードへと変わった。子狼ーずがションボリと耳と尻尾をへたらせる。だが、その牙が肉を食い千切るのは止まらない。

 ……意外と余裕あるんじゃ無いですかね?

 普通に年少組を慰めていた年長組と、子狼ーずを見守る母狼ーずは苦笑い。


 大人しくモチャモチャと肉を()む子狼ーずを見ながら、俺達も自分達の肉を食べる。

 ちなみに、今日の獲物はクマなり。母さん主導とは言えこんなデカブツを狩れてしまう辺り、狼って何だっけ? と思わないでもない。異世界補正なんだろうか?

 俺の猫又が霞みそうだ。正直、肉焼くのがメイン能力になっている。手元の生肉を見下ろしながら、溜め息一つ。


「グゥ?(黒いの、どうした?)」

「ンムー、ニャ(おれの新しい能力出ないかなって。ちょっと考えてた)」

「ワウッ!(次は肉が大きくなるのが良い!)」

「キャフ、……ウォフッ(ハイイロならそうよね。……あたしは、狩りに役立つのが良いわ)」

「グルゥ(……黒いのに負担が少ない能力が良い)」


 ハイシロの言葉をきっかけに、次々に自分の要望を述べ始めるチャイロ達。ハイイロはまぁ、いつも通りとして……ハイクロもまたいつも通りだ。

 俺としても『狩りに役立つ能力』が良い。チャイロの言い分も尤もだけど。どんなに強力な能力でも、俺への負荷が大きいなら能力としては劣る。高威力、低負担。これに限る。


 ……やっぱり新しい能力に氷の爪とかって良くね? 格好良くね?? ね?? どっちかというと浪漫武器っぽいけど。引っ掻き攻撃でズバァッ! とか、格好良いよね!!


「ワフー(おれは肉が大きくなるのが良い)」


 ハイイロはちょっと黙れ。


「キャフン(強い能力なら大きな肉も狩れるわよ。クマとか)」

「「ワウッ!(それだ!)」」


 いやいや、『それだ!』じゃねーよ。何ハイシロも同意してんの。そもそも、能力がどんなのになるかは、多分俺じゃ決められないんだよ、多分。大事な事なので2回言いました。

 自分で決められるなら格好良いのにしちゃうぞー。右手に炎、左手に氷とか。中二魂が疼くぜ……!

 正気に戻ったら黒歴史待った無しですがね。


「ン~、ウニャン(自衛にも使える能力が良いかな。攻防一体的な)」


 自分で言っててしっくり来る。うん、良いな。攻防一体。

 回復能力に、サポート能力……肉を焼くのってサポート能力か? それとも、本来の使い道があったりするのだろうか? まぁ、それはそれとして。回復、サポート、次に欲しいのは攻撃にも防御にも使える能力。そんなところかな。

 ……やっぱり氷かな、とも思う。氷の盾に、氷の爪。ほら、攻防一体。


 ね? ね?? 俺の秘められた能力さん。次は氷とか良いと思いますよ??

 

 

 ***



 ご飯を終えて、まったりと毛繕いしながら微睡(まどろ)む。

 今日は日差しが程よく差し込んで来るので、昼寝には最適だ。特に俺の黒い被毛は熱を良く吸収するのでポッカポカ。ペタリと俺にくっ付くハイイロとハイクロの体温も心地良い。ハイクロはちょっと重いけど。ちなみに、チャイロは出遅れた模様。だが、尻尾が俺の上に掛かってます。尻尾布団とか、最高か!

 モフモフに塗れながらほっこり。俺達の周りにも、大小の狼団子が形成されている。


 さっきまでキャフキャフ文句を言っていた年少組も、食後の眠気には勝てなかったかパタパタとその場に倒れて寝始めた。それを年長組が一箇所に纏めると、そのまま一緒に眠り始めた。彼らも仲良くなったものだ。

 俺達が来た事で、この群れに少しでも良い変化が訪れたなら幸いだ。全てが上手くは行かないだろうけどな。


「ワフ(……黒いの、寝ろ)」


 パサリ、とチャイロの尻尾がハイクロの頭ごと俺の顔までを覆う。モフリ。

 鼻先に掛かった尻尾を避けたハイイロの頭が地面に落ちた音がしたんだが……。まぁ、変わらず寝息を立てているから問題は無いのだろう。多分。

 

 少し離れた所で母さんとチャラオが何か話しているのを横目に見ながら、俺は目を閉じ


「わふぅ……(にくぅ……)」


 ようとする前にハイイロの前足がみぞおちに入った。てめぇ……! しかも、肉食ったばかりだろうが!!

 報復しようとビチビチ跳ねる俺の体が強引に口にくわえられて、チャイロの体に抱き込まれる。全身みっちりと密着。ぬくい。

 ちなみに、びちびちした時にハイクロを起こしちゃった。ので、ハイクロも一緒にちょこっと場所移動。少し離れてから再び眠る体勢に戻る。

 俺の荒い鼻息が次第にゆっくりとなり、背後にいるチャイロの鼓動を強く感じる。ピスピスとハイクロの寝息が漏れているのが聞こえる。意外と静かに寝ているのはハイシロ。ハイイロは俺のみぞおちに前足蹴りを入れただけでは足りないのか、バタバタと足を動かしている。恐らく、夢の中でも狩りをしているんだろう。

 チャイロも殆ど眠りに落ちている。寝ぼけながらも俺をギュッと抱き寄せる前足の力が強くなる。抜け出す事は不可能と悟った俺は、大人しく目を閉じ


 ギュッ


 ……ちょ、待って。チャイロ、もう少し前足緩めて!? 喉に入ってる! 喉に入ってるからぁぁぁぁ!!


 パタリ


 もう、どうにでもな~れ……。


「ワゥ(……お休み)」


 はい。強制的にお休みとなりました。あぁ……意識が、遠く……。


 少し経てばプヒュゥ、と寝息が充満する空間。

 起きているのはチャラオと母さんだけ。母狼ーずも今は静かに眠っている。

 他を起こさないように気を付けながら、声を潜めて話し合う。


「……グルゥ?(……腹は決まったのかい?)」

「ウォフッ(あぁ……)」

「フゥ(うちのチビ達が寂しがるね)」

「グゥ(うちのちび共もな)」

「……ワフン?(……いつ告げる?)」

「…………」


 ……母さんと、チャラオ……か?

 一体、何の話を……。


 体は眠っているが意識だけが起きている状態。

 体はピクリとも動かないまま、意識だけを母さん達の会話に傾ける。何を話しているのかは分からないけど、俺達にとってはあまり良くない事なんだろうか? それに、ジャイやアオグロ達も悲しむような内容とは……?


「グルゥ?(お前達はいつ帰る?)」

「……ウォウ(……今の雪の具合だと、2~3日ってところかね)」

「……クゥ(……早いな)」

「グルゥ(他のはぐれとかに荒らされたくないからね)」


 2~3日。あと2~3日で俺達は『巣』に帰る。

 そうなれば、次にジャイ達に会えるのがいつになるかは分からない。残りの少ない日数で、ジャイ達の総仕上げをしないとな。起きたらハイクロとチャイロにも相談しておかないと。


 時折チャイロの前足に喉を圧迫されるのを感じながら、母さん達の会話を聞き漏らさないように、必死に耳をすませる。正直、ハイクロの鼻息とハイイロのバタバタがうるさい。ハイシロとチャイロを見習ってくれさい。

 ただし、チャイロの寝相は時々悪いので要注意。喉を絞められます。俺限定で発動しているような気がするのは気のせいだろうか……?


「ウォフ(お前達には、本当に世話になった)」

「グゥ?(何だね急に?)」

「グルルゥ、グルゥ(ちび共を助けてくれた事、感謝している。狩りの手伝いの事も)」

「フン(大した事はしてないよ)」

「ガゥ(礼は素直に受け取ってくれ)」


 プイッとそっぽを向く母さん。

 母さんは褒められる事に慣れていない気がする。ツンデレ狼ですね。可愛いじゃねーか。

 そんな母さんに苦笑いしながらチャラオが話を続ける。


 話を要約するとこうだ。『俺達が巣に戻ると同時に、チャラオ達も引っ越す』

 確かに、俺達もジャイ達も寂しがるだろう。しかし、そうなると本当に次に会えるのがいつになるのか、全く分からなくなる。


 それと話は変わるけど、狩りの最中にちょいちょい巣立ち組を見かけてるらしい。向こうは気付かれていないつもりのようだけど、母さんと母狼ーずにはバレバレだったという。もちろん、チャラオにも。

 とりあえず、こちらへ接触して来ようとしない限りは無視の方向に切り替えたのも、引越しの話があったからか。


 実際に、巣立ち組は俺達とは絶対に接触しないように気を付けているのだろう。流石に、次に俺達に何かしようとしたら今度こそ命の保障は無いだろうし。というか、母さんが『巣立ち組絶対殺すウーマン』になってまう。母さんのスペックぱねぇ。

 ……あれ? そういや、『マン()』じゃないや。この場合は……『○○絶対殺すウルフ』か? 格好良いんだか、良くないんだか。分からんにゃ。


 そんなアホな事を考えている間にも話は進み、引越しに関しての話題に戻っていた。

 チャラオ達の引越し先。その場所に母さんは、俺達が住んでいるところから半日程の場所を勧めている。今のチャラオ達の巣よりも近くなるから、俺達としては大歓迎だ。


「グル?(他の群れは?)」

「グァウ(クズ共がいるけど、殲滅して構わないよ)」


 おおぅ、怖ぇ……。


 チャラオの尻尾も股の間に収納された。

 母さんが言う『クズ共』ってどんな連中かと思ったけど……1つだけ心当たりがある。


「ウォフッ(あたし達が前いた群れだよ)」

「グゥ?(良いのか?)」


 さて、その『良いのか?』っていうのはどっちについてだろうか。殲滅か? あるいは、群れの縄張りを奪取する事についてか?


「フンッ(無論だよ)」

「……グルゥ(……お前が言うなら遠慮無く)」

「ワフ、ウォゥ(あたしらは近場の敵が減って万々歳、あんた等は良い狩場が得られて万々歳。良い事ずくめだろう」

「ガゥゥ(相手に取っちゃ悲劇だな)」

「グルルゥ(あたしの子供を殺した連中だよ)」

「……ヴルルル(……なら、手加減はいらないな)」


 母さんの提案は、チャラオにも俺達にも利益のある提案だ。

 母さんが今まで連中を放置していた事には驚きだったけど、元々特殊個体の事が無ければ近々殲滅する予定だったらしい。だが、今回チャラオ達の予定を聞いて、これ幸いと便乗する事にしたらしい。

 どうやらチャラオは狩りとなるとダメダメだが、戦闘となると強いとの事。何でだろう?

 

 ニヤリと笑い合う2頭の狼は、いかにも悪巧みをしていますといった雰囲気で、凄く狼っぽい。

 特に今回のチャラオの思惑に付き合わされた報酬に、殲滅を頼む(強制)母さんは悪の女幹部といったところだろう。ボンテージと鞭が似合う感じの。チャラオは何だろう……想像出来ない。


 悩んでいる内に母さんとチャラオの裏取引は終了していた。こちらに歩いてくる気配がする。

 慌てて寝た振りをする。とは言っても、体は相変わらずピクリとも動いていないんだけど。

 俺の横で母さんがピタリと止まった。

 謎の沈黙。体が自然とプルプル震えそうになるのを、必死に抑える。

 

 静まれ、俺の肉体よ……! ……なんちって。


 ペロリ


「……ワフゥ(……全く、困った子だね)」


 バレテーラ。


「グルルゥ(他の子らには内緒だよ)」


 ういっす。それにしても、何で俺の意識がある事に気付いたの?

 体は完璧に寝てる()筈なのに。


「ウフッ(それだけ意識を向けられたら気付くさね)」


 ……さいですか。

 っていうか、俺が考えている事に対して的確な返事が返って来るのは何でですか、お母様?

 俺ってば、一言も口には出していませんですの事よ??


「フン……」


 お願いだから答えてぇぇぇぇぇ!?


「グル、ウォフッ(さぁ、もうお休み。明日からは忙しいよ)」


 あ、はい。うちの母さん、パネェっす。

 もしかして、母さんは心を読めるのだろうか? なんて事は考えてはいけない。もしそうなら、今までの俺の思考は全て母さんにダダ漏れだったという事に……!

 前半まったり、後半悪巧み回。


 黒いのは若干患っていらっしゃる模様。もちろん、実用性もありますけどね! 夏場の暑い時とか、暑い時とか、暑い時。そして、ハイイロが氷を食べ過ぎてぽんぽん痛くなる。ところまでは読めた。


 ビチビチのところの描写は、首根っこをくわえられた黒猫が上下にビッチビチしてるものをご想像下さい。つられてチャイロの首も軽く上下に動く位の勢いで。


 それと、寝てる間の秘密のお話。裏取引は成立しました。

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