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拾われた記憶

 こんばんは、4話目の投稿です。今回より、モフモフが本格的に登場します。長らくのモフモフ詐欺申し訳ありませんでした。


 短編ではサラッと流された『母さん』登場。


 えー、猫又主のセリフが大変読み辛いものとなっておりますがご了承下さい。これに関しては、成長と共に改善されていきます。

 力の入らなくなった体をそのままに、視線だけを音の聞こえた方向に向ける。

 ……何かが、いる。

 フッ、フッ、と獣の呼吸音が聞こえてくる。


 さっきまで鳴いていたのが(あだ)になったか、と思うもののすぐに考えるのを止めた。


 どうせ、このまま死ぬんだし。それならスパッと殺して貰った方が楽じゃね?


 ボーッと見続ける。

 何も出て来ない。相変わらず、呼吸音だけが聞こえている。

 何かに警戒しているのか?

 最初に音が聞こえてから何も動きがないままだ。

 ……まさか、(バケモノ)を警戒しているとか。


 ハッ……


 思わず鼻で笑った。

 いくら何でも、こんな死に掛けを警戒するものだろうか? 余りにも酷い自分の想像力に笑いが漏れる。

 襲って来るなら、早く来てくれないものか。

 動けないこの体では、唯、待ち続けるしかない。だが、待ってるだけというのもなかなかに辛いものがある。


 出て来ないならいっその事此方から出向いてやろうか、って言いたい位なんだが。最も体なんてろくに動かせないんだけどな。いや、むしろ弱っているところをハッキリ見せつけた方が、相手も安心して襲えるんじゃないか?


 自棄になった思考でつらつらと考える。そして時間だけが過ぎていき、ガサリと、藪が再び音を立てた。


 ガサッ、ジャリ……


 今度はそのまま音が止む事も無く、ガサリ、ガサリと音を立て続ける。それと同時に砂利を踏む音も聞こえてきた。


 こちらへ出て来る。


 既に死を覚悟した体ではあった筈なのだが、本能故か、自然と体全体に力が入った。

 死への期待か、それとも恐怖か。相反する感情を抱きながら、藪に潜んだ『生き物』が出て来るのを見守った。


 ガサッ、ジャリリ


 一際大きな音を立てて現れたのは、1匹の大きな野良犬だった。

 いや、野良犬にしては自棄(やけ)に雰囲気が剣呑(けんのん)過ぎるように思う。ひょっとして、野犬か。

 最初のひたすら待たされた時間は一体何だったのか、と思う程にアッサリとした出現だった。

 だが、まだ遠い。


 そう、俺と野犬の距離はまだ離れていた。それでも、かなりの大きさだという事が分かる。きっと、小さな子猫(おれ)の体などほんの1噛みで簡単に屠ってしまえるだろう。

 俺の死は確実だ。後は、あの野犬が近付いて来ればいい。


 早く来いよ。


 そう思いながら野犬を見る。


 どうせ死に掛けの子猫だぞ? 殺そうと思えば簡単だろう? まさか、怖いなんて事は無いよな。

 ほら、さっさと来いよ。


 しかし、待てども野犬は動かない。


 まさかとは思うが、俺が死ぬまで待っているつもりなのか? (バケモノ)なんてわざわざ殺す価値すらないと、そう言いたいのか。


 ……はぁ


 溜め息が漏れる。もう、どうでも良い。

 勝手な期待を持ったのは自分だが、勝手に失望するのも自分だった。

 今の俺の目はきっと、所謂(いわゆる)死んだ魚の様な目をしている事だろう。

 考える事すら放棄し、自分が死ぬのを待った。いつの間にか、痛みも寒さも、感じなくなっていた。


 ヒマだ……。


 以外と死ぬのって時間掛かるんだな。そう思いながら、ふと視線を上げると


 いつの間にか、目の前に野犬が立っていた。


「……っ!?」


 掠れた音が漏れる。

 全く気付かなかった。近付く音はしていただろうか?

 いつの間に近付いていたのだろうか。急に心臓がバクバクと騒ぎ出した。

 死ぬ気満々なのに、驚く時はちゃんと驚くのが不思議なものだ。


 俺を殺すの?


 残った力を振り絞って、期待を込めて見上げる。野犬は静かに俺を見下ろしていた。

 驚いた所為で感覚が復活したのか、また寒さを感じる。体が震える。

 これは寒さによるものか。それとも、期待か、恐怖か。プルプルと小刻みに震えながら、必死に顔を上げ続ける。


 目が合う。


 そのまま、じっと見つめ合う事(しば)し。

 グァッ! と開いた大きな口を見て、俺はそのまま意識を失った……。



 ***



 モフモフ、モフモフ


 暖かい。


 モフモフ、モフモフ

 キューキュー、クーゥ


 フワフワでモフモフな何かに包まれている。

 暖かい。

 自分を囲むように包むモフモフから、キューキュー、クークーと音がする。

 ……? 音がする?


 キューキュー! クォーン、キャゥン


 音と言うより鳴き声だ。……何の? 犬?

 いや、それよりも、俺はまた死んだの? 今度は犬にでもなったのだろうか。野犬に殺されて犬に生まれ変わるって何なんだろうな。皮肉か?

 それとも、今度も俺はバケモノでまたすぐに殺されるんだろうか。


 あぁ、目を開けたくないなぁ。


 今の暖かさが心地良い。子猫として生まれた俺には与えられなかったものだから。

 だからこそ、目を開けるのが怖いと思った。

 前の母猫(おや)は目を開けた俺を見て、バケモノと罵りわざわざ森に俺を捨てたのだ。きっとバケモノ()を殺す為に。


 目を開けてしまえばどうせまた捨てられるのじゃないか、と思うとどうしても目を開ける事が出来ない。せめて今だけでも、と自分の傍に居てくれるモフモフとした温もりに縋り付いた。


 グギュルルルル


 縋り付いた……縋り……。

 はぁ。お前、空気読めよ、と言いたい程に分かりやすく鳴り響いたのは俺の腹の音で——何しろ俺は生まれてから何も口にしていないのだから——その音にビックリしたのか、周囲のモフモフが一斉にビクッと震えた。


 ……いや本当、マジ、ゴメン。


 腹が鳴り響くと共に訪れた沈黙に、俺の体がプルプルと震え出す。

 ちなみに、これは寒さや恐怖から来るものじゃない。羞恥心だ。俺自身が1番良く分かる。

 最早、目を開ける事も、顔を上げる事も出来ずにモフモフに顔を埋めたままプルプルと震え続けていた。モフモフはピクリとも動かない。


 グルル……


 突然、低い獣の唸り声が聞こえた。今度は俺の体がビクッと震える。

 ひょっとして怒らせたのだろうか。あの時の光景(ははおやのかお)が思い起こされて、余計に顔を上げる事が出来なくなった。

 思わず息を潜める。

 悪い予感ばかりが頭の中を過っていった。


 グルルゥ


 再びの唸り声。……だが、今度は何だか笑いを含んでいるようにも聞こえる。

 そんな事があるのだろうか?

 薄っすら込み上げてくる期待と裏腹に、裏切られた場合の恐怖が自分の体を上手く動かなくさせる。


 もう、何をどうしたら良いのか分からなくなってきた。どうしよう、誰か助けて……。


 気付けば段々パニックになり掛けていたようだ。

 喉奥から「ヒッ、ヒッ」と引き攣ったような音が聞こえてくる。


 どうしよう、どうしよう……!


 頭の中が混乱して、自分が何を考えているのか分からなくなってきた時の事だった。


「グルゥ(目をお開け、黒いの)」


 獣の唸り声と同時に、ゆったりと落ち着いた女性のような声が聞こえた。

 驚いて思わず目を開ける。目の前には、俺が気を失う前に見つめていた野犬が横たわっていた。


「み……?(え、なんで、おれ……?)」


 野犬が何を言っているのか分かる……?

 そう言えば、俺は母猫(けもの)の声もちゃんと人間の声のように聞き取れていた。正確には二重音声のように聞こえるのだが。


「グルゥ、グルルルゥ(黒いの、やっと目を覚ましたのかい。目覚めているのに動かないから、具合でも悪いのかと心配したよ)」


 ば れ て た 。


 俺が寝たフリ、というか、まだ目が覚めていないフリをしていたの完全に気付かれてた! っていうか、あれ?


「みぁ……?(しんぱい……?)」

「ガゥ。グルゥ(そうだよ、黒いの。何故あんな所に居たのかね)」


 何故? 何故、ってそんなの……


「ぐるる……!(あのおんながおれをすてたんだ……!)」

「…………」


 野犬は何も言わず、じっと俺を見詰めている。まるで先を話せと促されているような気がした。


「みゃう、ぴゃ—う(おれをみてバケモノって。ちかよるなって、いって)」

「みぁ! ぴあ——!!(おれだけ! あいつがうんだのに!!)」


 感情が昂ぶって、段々声も大きくなる。


「ふしゃ———!!(おれだけをころそうとしやがった!!)」


 一際大きく叫ぶと、フゥフゥと息を荒げる。いつの間にか子犬達は静まり返り、鳴き声は一切聞こえなくなっていた。

 硬直したままになっているらしい。実はさっきから気付いてはいたのだが、正直なところ、それを申し訳なく思いつつも自分の感情を吐き出す事を優先させていた。


 フゥ……


「グルゥ(そういう事かい、胸糞悪いね)」

「ぴ?(え?)」

「ガウゥ、ワフッ……グゥ(あたしも母親だからねぇ、自分の子を殺すだなんて考えたくもないよ。……そもそも、子を守れなかった情けない母親なんだけどね)」


 ? ……何で?


「ふみゅぅ……?(おれがきもちわるくないの?)」

「グゥ(何故だね)」

「ぴ、みぁぅ(だって、おれはバケモノだから)」


 そう言うと野犬はフゥと、再び人間臭い溜め息を吐いた。


「ウォン。ウォフッ(バケモノなものか。あんたは唯の猫又だろう)」


 …………。ぃゃ、『唯の猫又』って何ですか。


 ぇ、それって普通に化け物じゃないの?? 妖怪の1種でしょ? え、おかしくね??

 猫又って、『あの』猫又? 長年生きた猫が成るっていう、尻尾が2本に分かれるやつ。んで、2本脚で立って、手拭い被って踊るんだろ。何ソレ見たい。

 いや、そもそも俺生まれたばかりなんだけど。もしかして人間として生きていた間の時間も合算されてたりするのか? え。そうすると猫又って実は全員元人間だったりすんの?? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……。


 思わず硬直。そんな硬直した俺を、野犬は不思議そうに見ていた。頭の中で思考だけが高速で空回りしている気がする。最後は『え』で埋め尽くされた。


「み……(あの……)『グギュギュギュギュ〜』」


 ……ぉぅ、ぃぇぁ。再びの沈黙が痛い。空気を読まない自分の腹に、無性に腹が立つ。

 自分の顔が赤くなっていくのを感じる。真っ黒でどうせ顔色なんて分からないだろうけどな!


 グフッ


 わ ら わ れ た !

 明らかに笑っているぞ、この野犬。だって肩震えてるし。ってか、犬ってこんなに分かりやすく笑うものだったか?

 ひょっとしたら、こいつも俺と同じバケモノ(妖怪)何だろうか? だから、俺を怖がらないの?


「グルゥ、グフッ(あぁ、すまないね。そう言えば空腹なんだったね。ホラ、お飲み)」


 子犬達から少しずれると横になり、さぁ飲め、とおっぱいを見せ付ける。それを察してか、今まで静かだった子犬達もキュウキュウと高い声で一斉に鳴き始めた。


「グルル、ウォゥ(ホラ、遠慮しないでお飲み。さもないとチビ達に飲まれてしまうよ)」


 ……いや、飲めと言われても。


「……み(……いらない)」

「ガゥ?(何故だね、腹が減っているのだろう?)」

「みあぅ、みゅぅ(なんでおれをいかそうとするんだ? おまえになんの『とく』がある)」

「フン(随分と『ひねた』子だねぇ)」


 悪かったな。生まれてすぐに殺されそうにもなれば、誰だってこうなるだろうよ。それ以前に、俺の中身は大人だ。

 そんな事よりもおれの質問に答えていない。


「ぴぃ(しつもんにこたえろよ)」


 俺がそう言うと、そいつは俺をじっと見て溜め息を吐いた。……いちいち動作が人間臭い。


「グルルゥ……ガフッ(あたし達、狼は子供を大事にするものだよ……それにお前を助けても得なんかないよ。あぁ、お前を食べれば得をするかも知れないねぇ)」


 なんだと? 俺を食うと得をするのか?

 というか、こいつ狼だったのか。


「みゃぅん(なぜ、おれをくわない)」


 そう返すとその狼は一瞬、目を見開いた。


「グゥ(食われたいのかい)」

「み(すきにすればいい)」

「キュウン……(やれやれ、なんて子供だい……)」


 俺を生かした事を後悔しているのか? そう零すと、狼は何やら考え始めた。

 ……俺を食うなら食うで、さっさとしてもらいたいものだが。


「グゥ、ワフン(仕方ないね。実力行使だよ)」


 は?


 俺の体にガブッと噛み付かれ、持ち上げられた。母猫(あいつ)の時みたいに首筋なんかじゃない。横腹からがっぷりだ。

 だが、その牙が俺に食い込む事は無かった。


「ワフッ(ほれ、お飲み)」


 持ち上げられた体が再び地面に降ろされたかと思ったら、俺の視界にはその狼のおっぱいがどアップになっていた。

 ふと横を見れば、おっぱいに食らいつこうとしている子犬、いや、子狼達が母狼の前脚でコロコロ、コロコロと転がされ、跳ね除けられている。意地でも近付こうとする子狼。転がす母狼。ぇ、何このカオス。

 俺が固まっている間にも子狼達は転がされ続け、母狼は転がし続ける。なんぞ、コレ。


 いや、自分の子供だろ。飲ましてやれよ。


 自分の脇で繰り広げられるカオスから無理矢理目を背けると、今度は母狼のおっぱいが目に入る。

 思わず喉が鳴った。

 母狼は何も言おうとしない。唯、黙って俺を見ている。……とうとう尻尾も使って転がし始めやがった。


 目の前からは甘い匂いと温かな熱が感じられる。パンパンに張ったソレには、さぞやたっぷりと母乳が蓄えられているのだろう。

 また喉が鳴る。正直、腹は限界だ。

 だが『人間』としての意地と、未だに感じている生への諦めが邪魔をしている。

 グルグルと頭の中が回り、気持ち悪くすらなって来た……。


 ベシッ

 むぎゅ


 ウジウジと躊躇(ためら)い続ける俺に焦れたのか、今度は俺が前足で転がされおっぱいに押し付けられた。

 と、思ったら、気付けば勢い良くおっぱいに食らいついていた。無意識って怖い。


 じうじうと音を立てて母乳を飲む。視界の端でコロコロ祭りから解放され、やっと子狼達がおっぱいにありつけたのが見えた。

 俺の所為ですね、ごめんなさい。

 そうは思うものの、飲み続ける体は止まらない。モニモニとおっぱいを押し続ける手も止まらない。


 餅()ねてるみたい。俺、今職人になってる。

 そんな考えが頭の片隅を高速で流れていった。


 じうじう、じうじう

 じうじう、じうじう


 ……ぷはっ


 すっかり満腹だ。腹が限界まで膨れポンポンになっている。

 多分、今ツンと突いたら、どぶぁっ! と口からマーライオンするんじゃなかろうか。その位ポンポンだ。


 腹が満たされ、大きく息を吐いた。


「グゥゥ(たんまり飲んだかね)」

「……みぃ(……おはずかしいところをおみせしました)」


 グルグルと母狼の喉が鳴る。


「グルゥ、グルルゥ(気におしでないよ、良い事さね)」

「みぅ……(ありがとぅ……)」


 くぁ、と口からあくびが漏れる。

 腹が膨れたと思ったら今度は急に眠くなって来たらしい。


 それを見た母狼が、俺の体を自分の体のすぐ傍に押しやる。ちょ、待って。出る。

 ギュッと押し付けられた体が暖かい。いつの間にか子狼達もすっかりと寝入っていた。その体温すらも、俺を眠りへと(いざな)う。


「グゥ(今はお休み、黒いの)」


 ……確かに今はもう、何かを考えるのも面倒だ。狼の言葉に甘え、本能のままに従う事にする。


「みゅぅ……(おやすみなさい……)」

 4話目お楽しみ頂けたでしょうか。

 やっとモフモフ登場です。漸くほのぼの要素も少し入れられたので一安心。


 それと、セリフが非常に読み辛かったかと思いますが申し訳ありませんでした。書いてる本人も読み辛い。けど、まだまだ続きます。

 子猫っぽさを上手く表現するのはどうしたら良いのでしょうか……。


 本日の投稿は以上となります。次話は2月2日の夜中の2時です。


 最後までお読み頂きありがとうございました。

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