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子狼の気持ちと、俺達の気持ちの記憶

 今話、チャラオがヘタレになった原因が明らかに……間違った。チャラオの群れの現状の理由が明らかになります。

「ミャ!(アオグロ!)」

「クゥ!(くろいの!)」


 崩れ落ちたままのチャラオを無視して、子狼達と母狼達に囲まれるアオグロの元に行く。

 密集する狼達の隙間を抜けるのはちょっと大変だったけど、体の小ささと柔らかさを駆使すれば簡単だ。まぁ、途中で体がグネッてなってた気がするけど……気のせいだ、多分。良いね? 足元が浮いてたのもきっと気のせい。だから今俺に向けられてる視線はぜーんぶ! 気ーのーせーいー!! ……だと、良いなぁ……。


「……キュフン?(……えーと、なんかすごいかっこう(・・・・)になってたね?)」

「フミィ……(言ってくれるな、友よ……)」

「……っ!」

「ミャ?(どした?)」

「…………」

「ミャッ!? ミャゥッ!?(お、おいっ!? どうした!? 足が痛いのか!?)」


 グネグネしながら必死に狼の森を抜けてアオグロの前に立つ俺。そんな俺に掛けられたセリフは苦笑混じりだった。


 プイッと。聞こえないもーん、だ。


 ばつが悪くなってそっぽを向きながら言った言葉の後、アオグロの反応が変わった。

 息を呑んだ後、何の言葉も発さなくなったアオグロに疑問を感じて、何気無く名前を呼びながら顔を向けた……ら、アオグロが無言で泣いていた。

 

 突然そんなものを見た俺は気が動転してしまって、アオグロの周りを右往左往しながら体を擦り付けたり、零れ落ちる涙を舐めたり。傷が痛むのか! と傷口を舐めようとしたけど、目に見える怪我が無い為に余計にパニックになる、という……ちょっと情けない姿を晒していた。

 

 うん、いやまぁ、その……焦るなって言う方が無理だと思うんだ……。

 いきなり目の前で友達に理由も分からず泣かれてみ?? 絶対焦るから。

 ……ま、まぁ……俺の場合はパニくり過ぎだったかもしれないけど……。


 ベロンッ


「ワフッ(落ち着け)」


 いつの間にか背後に立っていたハイシロに後頭部を舐められて正気に戻る。母さんとは違って転がる事は無かった。やはり原因は体格差……ってそんな事言ってる場合じゃない。

 今はアオグロを何とかしないと。


「ミァ……?(アオグロ、大丈夫か……?)」

「…………」

「ミィ?(アオグロ?)」

「……ッキュ……?(……っぃの?……)」

「ミ?(ごめん、もっかい言って?)」

「きゅぅ……?(ともだち、……て、……ぃの?)」


 ……トラウマにしちまった、かも、な。


 途切れ途切れに話す内容は自分を責める言葉ばかりで、自分があいつらに捕まらなければジャイが俺を襲う事も無かった、と。そのせいでジャイが俺に怪我をさせた事を何度も謝っていた。ジャイに俺を襲わせる事になった事も。そんな自分に、俺達に友達で呼んで貰う資格は無いと。


 だけど今回の事が無くても別の手段で俺を狙って来たのは間違い無いだろうから、ある意味では最も被害を少なく出来た……とも言える。酷い言い方だけど。

 巣立ち組の処遇については、自業自得って事で納得して貰うしか無い。諦めるチャンスはいくらでもあったんだから。


 それに、俺達がここに滞在してるのは限られた期間だけだ。クマの特殊個体という脅威が取り除かれれば、俺達は当初の予定通りに元の洞穴に帰る。

 つまり、巣立ち組が俺を狙うチャンスには時間制限があるという訳で……期限が迫れば迫る程、より強行な手段を取った可能性もあった。それも可能性の問題で、実際にそうなったかは不明だけど。


 そもそも、俺達は巣立ち組が襲って来るだろう事を予測していたし、その上で放置していたのだから俺達の方が悪質だろう。アオグロが謝る必要は無い。

 それをこの場の全員に説明して、謝罪をした。その事に関して批判は一切出なかったけど、俺達的にはその方が辛い。


「ニャ(おれはアオグロと友達でいたい。他のみんなとも)」

「ワフッ!(俺もお前らとはダチでいたい!)」

「キャフン……(ただの知り合いって言うのはさみしいもの……)」

「グルゥ?(……オレ達が友と言うのは図々しいか?)」

「キュ?(友だちじゃダメ?)」


 俺はジャイもアオグロも友達だと考えてる。まぁ、ジャイは最初の態度はアレだったけど、今は普通に遊ぶし、やっぱり友達だと考えてる。


 ジャイは巣立ち組から離せば考え方はまともになったし。今でも年少組のボスというのは変わり無いけど、色々と周囲から学んだ結果、普通に頼りにされるようにもなった。他の子狼達も、最初こそキャフキャフ、キャンキャンと落ち着きが全く無かったが、一緒に遊んだり話しをしたりする内に少しずつ落ち着いて考えたり、行動したりするようになった。

 やはり年少組の中で1番変わったのは、ジャイだ。初対面時のジャイの男尊女卑的な発言は巣立ち組の影響だったが、今はメスでもやる時はやる(・・・・・・)というのを理解したからか、メスの子狼にも優しくなったし、母狼達の言葉もちゃんと聞くようになった。


 まぁ、身近にチャラオというメスに頼りっ放しのオスがいたからこそ、巣立ち組もそう考えるようになったのかもしれないけど。いや、ちゃんとする時はしていたのだろうから、そこから敢えて目を逸らしていた巣立ち組こそが……。うん、考えても仕方無いからやめよう。堂々巡りだ。

 

 ちょっと思考が脱線したけど、俺達が全員アオグロたちと友達でいたいと言うと、アオグロの目からますます涙が零れ落ちた。尻尾が控えめだけど振られている。

 泣く理由は分かっててもソワソワする。あと、ちょっと照れ臭い。


「きゅぅ、……きゃん……!(ともだちがいい、けど……ぼくのせいだから……!)」

「ワフッ、ガウッ!(ちげーよ。自分のせいにすんな!)」

「グルル!(そもそも、あいつらが黒いのをねらったのが悪いんだ!)」

「ウニャン(もっと掘り返すなら、おれがここに来たからとも言えるぞ)」

「がうっ!(くろいのはわるくない!)」

「ニャ、ウニュン?(なら、お前はもっと悪くない。違うか?)」

「くぅん……(でも……)」

「ウォフッ(それなら、身を守る術を学んでおけば良いんじゃないかね)」


 母さんは母さんで、あちらの母狼達に囲まれて色々とお詫びとお礼を言われていたようだ。最後の方はお互いに謝罪合戦状態になってたみたいだけど。

 自分達の教育方針も良くなかったのだと、つい子供達を甘やかした……というか、自主性に任せていた結果がこう(・・)なのだから、今後はしっかりと子供達の躾も行うと宣言していたらしい。同時にチャラオの躾も。


 ちなみに、母狼達が躾を殆ど出来なかった理由にはチャラオが大きく関わっていた。

 通常、狼の群れではα牝しか繁殖をしないものなのだが、この群れでは複数のメスが繁殖をした結果、子狼が増えて普通の群れよりも食料が大量に必要になった。その為に、より頻繁に狩りに出ねばならなくなって子狼に関わる時間が減った。そして多くの獲物を狩ったせいで獲物が減って、さらに狩りの頻度が上がり……と、まさに負の連鎖状態。

 これだけの大きな群れだが、実際にはまだ群れを作って3年目らしい。普通に驚いた。


 ハァ……と溜め息を吐きながら内情を語る母さんに、俺達も溜め息が零れそうになった……が、すんでのところで堪える。子狼達の前でやるのは流石に失礼。

 ほとんどの子狼達には気付かれなかったが、アオグロには気付かれたっぽい。苦笑いだ。目でゴメン、と謝ったら尻尾で返された。尻尾ペタシ。


「ワフッ、グルルゥ(流石に放っておくのは問題だからね。ここにいる間に、あたしもあいつを絞っておくよ)」

「きゃふっ(えっと、とうさんがいろいろとごめんなさい)」

「……クフン(……子供に気を遣わせてこちらこそ申し訳ないね)」

「……ミャゥ?(……なぁ、母さん。アオグロのケガ治しても良いかな?)」

「ウォゥ(お前が良いと思うならね)」

「ミャッ(なら、治したい)」


 母さんに確認を取ってから、俺はアオグロの怪我を治す事にした。

 アオグロの怪我は後に残りそうなものらしい。いつまでも足を引き摺っているのを見るのは俺達も辛いし、ジャイも、アオグロも、誰にも良い事は無いから。

 俺のわがままからの行動だが、母さんは許可してくれた。


 以前にやった治癒実験でも治療後の異常は無かったし。ちなみに協力者はネズミ(強制)。骨折が治るのも確認済みだ。欠損は治らない。

 最後はハイイロが美味しく頂きました……ってか、目を離した隙にオヤツになってた。ハイイロの口元からネズミの尻尾が覗いてて、俺が尻尾に気付いた瞬間チュルリと口の中に消えた。蕎麦か。そしてモグモグ動く口。

 今さらだけど、ネズミからしたら悲惨以外の何ものでも無いな、これ。正直すまんかった。成仏してくれ。

 

 アオグロに近付いて、一応本狼にも治療の確認を取る。あまり理解していなかったっぽいけど、とりあえず了解は得たのでさっさと足を治す事にする。

 いつものようにチョンッと鼻先をくっ付けて、ホワッと光ったら治療完了。

 足を動かすように言うと恐る恐る動かしていたが、痛みが全く無い事に驚いていた。そのまま立ち上がらせる。うん、立ち方に違和感も無い。

 俺達は治癒能力の事を知っているから『怪我が治って安心した』だけで済んだけど、母狼達やアオグロにとっては想像してもいなかった事だから全員ポカーンだ。

 ……うん、ここまで驚くとは……ちょっと予想外だった。子狼達も固まってる。


「ワフッ!(ちびっ!)」


 そう言いながらアオグロを必死に舐めるのはアオグロの母親のオメガだ。突然でアオグロも驚いたみたいだが、嬉しそうに舐め返している。尻尾ぶんぶん。それを見て他の狼達もワッ! と押し寄せて来た。

 まだアオグロの近くにいた俺はうっかり潰されるかと思ったが、母さんにくわえ上げられて難を逃れる。

 ……ちょっとびびった。尻尾ブワッてなった。

 ウォフウォフ、きゃうきゃうと揉みくちゃにされるアオグロとオメガ。少し離れたところからそれを眺める俺達。

 そうしている内に、チャラオが俺達の元に寄って来た。


「……グルゥ(……すまん、お前達には迷惑ばかり掛けた)」

「ウォフッ、グルルルゥ(忠告はして貰っていたからね。けど、今後はこんな事を起こさないように、しっかりと群れを統率するんだね)」

「……グゥ(……努力する)」


 前世での『努力する』って言葉は、『(一応)努力する(けど無理だと思う)』的な事の方が多いんだけど、今のチャラオの表情を見る限りでは本気で言っているのだろう。

 今さら俺達からはコイツに言う事は無い。母さんが言うならともかく、俺達子供が言うのは流石に出しゃばり過ぎだ。

 未だ興奮状態のジャイやアオグロ達を見ながら、ポツリポツリとチャラオが過去話をする。ジャイやアオグロ達には聞かせたくないのか、小声だ。


 ――チャラオの父親は恐怖政治で群れを支配していた。それこそ、チャイロ達の父親が死んだ後のように。いや、それより酷いかもしれない。

 自分の子供だろうと容赦せずに自分の機嫌を損ねれば噛み殺し、無事に大人になれたのはチャラオだけだったそうだ。母狼は早くに亡くなり、群れの狼達も何頭も死んだ。

 独裁政治のようなものだ。ボスが搾取し、他は搾取されるだけ。機嫌を損ねれば殺される。


 成狼になると同時に群れを離れ、色々あって死に掛けていたところを当時はぐれだった母さんに助けられた。その後しばらくは共に行動したが、別れた後にアルファと出会って番になった。

 母さんに助けられたのが印象に残り、出会う狼達を群れに入れていたらいつの間にか狼だらけになった。最初こそ雄狼もいたが、しばらくすると出て行ってしまって、そうして出来上がったのがこの群れだ。

 父親の記憶があるからこそ、自分の群れには自由に子供も多く作って……と考えた結果が、今の大勢の子狼達なのだと。


 だが、チャラオ自身は悲しい事に狩りが得意では無く、メス狼達に補佐をして貰って1人前……じゃない、1狼前らしい。これに関しては俺も自分より大きな獲物はチャイロ達に手伝って貰わないと難しいから大きな事は言えないが、ネズミなら確実というだけでもチャラオより上なのだそうだ。本狼談。


 そうして出来た初めての子が巣立ち組で、色々と甘やかしてなおかつ自身の情けないところばかり見せた結果、気付けば全員が自信とプライドの無駄に肥大した成狼になってしまった。

 巣立ち組が特殊個体の事を知っていたのは、チャラオが母さんと行動していた間に母さんの強さの理由を聞いた時に、特殊個体を食べると強くなるという事をチャラオ自身が聞いていた事。そして、それを巣立ち組に話したからだ。

 巣立ち後に向かわせようとしていた場所にいる(しりあい)はそういった経緯で凄く強いから、無謀な喧嘩を売らないようにと言い含めて話したのだが、全くの逆効果になってしまった。それが、今日の結末なのだと――


 そこまで聞いて、俺達にはチャラオに対して何も言えなくなっていた。

 チャラオ自身はきちんと子供達を愛していたのに、色々間違ったりすれ違った結果……どうしようもなくなってしまった。

 チャラオの本心を初めて知って気まずそうにしている俺達に、今回の件のそもそもの原因は自分だと告げて、俺達が気に病む事は無いと言う。それどころか、アオグロやジャイを助けてくれた事に感謝すると。

 そう言われても、簡単には気持ちを切り替えられる筈も無い。

 チャラオはションボリと落ち込んだままの俺達に近付くと、ベロリとそれぞれの顔を舐めて回る。


「グルルルゥ、ウォフッ(まぁ、もしどうしても気になるってんなら、ここにいる間はうちのちび共に色々と教えてやってくれ。メス共も喜んでるしな)」

「グルゥ(……そんな事で良いなら)」

「ワフッ(なら、頼むぜ)」

「ガウゥ、ウォンッ(お待ち。あんたとはちょっと話があるからね)」

「……グゥ(……お、お手柔らかに頼む)」


 そうしてチャラオは母さんに連れられて行った。ションボリと下がった尻尾。

 残された俺達はもう1度アオグロ達の様子を眺めて、互いに頷くとグチャグチャになっている子狼の塊の中に突撃して行った。


 この後は、俺達にも出来る事をしよう。今回のような思いは二度としたくないから。

 今は友達(・・)を助けられた事を素直に喜ぼう。

 反省して、改善して、元人間だった事に胡坐を掻いていないで、色々と俺も動かないとな。それと、母さん達に前世を告げる決心もそろそろ……な。


 反省も大事だけど、まずは……!


「ミャォ――ン!(おれ達も混ぜて――!)」「ウォ――ン!!(おれも――!!)」

 と、まぁこんな感じで……チャラオにも色々な葛藤があったという話でした。色々とトラウマフラッシュバックで動くに動けなかった的な感じで。


 この後、母さんのスパルタ教育術でトラウマを塗り替えられます。


 もうちょっと良い環境に引っ越せればもっと良くなるんですけどね。

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