足場固めと狩り勝負の記憶
焼肉パーティーは盛況の内に終了しました。胃袋はがっつり掴めたようです。
もちろん、食べられなかった連中は不満モリモリ。
さらなる足場固めを始めましょう。
本日は2話投稿となります。次話は番外編で、12時投稿になります。
そんなこんなで、チャラオの群れへの最初の胃袋作戦も何とか終わった。
途中で自分達には肉が回って来なかった連中が、肉を渡された子狼から強引に奪い取ろうとした場面もあった。が、想定の範囲内だったので、すかさず母さんが止めに入って子狼は無事に焼肉を食べる事が出来た。
当然、連中は母さんに文句を言うが『自分の子供達に敵意を持っている相手に、優しくしてやる義理は無い』と言い返して連中を退け、同時に俺達とその連中との確執を察していない他の狼へも知らせていた。一石二鳥、だけどえぐい。
この結果、連中は自分達の群れからも距離を置かれる事となった。
とは言え、焼き肉パーティーで1頭の母狼から教えられた内容では、そうなるのも当然だと思える。あの連中は巣立ちが近付くに従ってどんどん粗暴になり、獲物を奪われるのはしょっちゅうで、自分の子供達には怪我をさせられた者もいるのだとか。
そりゃ疎まれるかもしれない。俺も慢心しないように気を付けないと、な。
それと、元々あいつらは群れのトップの……つまりα牝の子供で、自分達は他の子供達より偉いのだという風に考えているらしい。
α牝――以降アルファと呼ぶ事にする――はそんな風に言った事は無い……らしいので、巣立ち連中が勝手に考えてるだけみたいだ。
ようするに、母さんの元の群れの雄狼達のミニ版みたいな連中だ。チャイロ達が警戒するのも分かる。
俺も一層、警戒心を強める事にする。
なんやかやあったけど、この群れに居候し始めてから今日でもう1週間。
母狼達とはかなり仲良くなったし、子狼達との仲も良好だ。最初に絡んできた子狼とも、色々あったけど今は友好的と言える。友好的、と言うのもちょっと違うかもしれないけど。むしろ舎t……ゲフゲフ。
それと引き換え、相変わらず敵対心バリバリなのが巣立ち組の3頭だ。未だに俺達を敵視している、どころか俺達が群れを乗っ取ろうとしているのだと群れの狼達に言い回っている。
だが、聞かされた側にはむしろそれを歓迎する狼の方が多くて、連中の作戦が最初から崩壊している。
本来は俺達の乗っ取り作戦を聞かせて、危機感を煽ってから俺達を追い出すなり、正当性を主張して最下位に落とすなりしたかったみたいだけど。
何であいつらの目論見とかが分かるのかって?
それは俺達に直接聞いて来た子狼がいたからだ。
自分達の群れ……チャラオの群れが俺達の下に付くって本当か!? そうなれば狩りの度に焼き肉が食えるんだよな! って大喜びで。
今は獲物は別だけど、群れが吸収されるなら今後も獲物を分けて貰えると考えたようだ。
これには返事にちょっと困ったけど、今後その予定は無いとハッキリ告げた。
そして、この子狼が喜んでいた理由。この群れと共に生活する事になって知った事実。
この群れの狩りの成功率が無茶苦茶低いという事。
群れのほぼ全員で狩りに行って、狩れる獲物が鹿1頭だけとか、下手したらそれすらも無い。何かしら2匹狩れれば大喜び、ってレベルだ。
それ故に少しでも早く巣立ちさせようとして、獲物の獲れ難くなる冬前に巣立ちさせる……筈だった。
チャラオの群れと比べて母さんは1頭だけで鹿1頭普通に狩れるし、俺達子供組だけでもウサギならほぼ必ず狩れるし、時々なら鹿も狩れる。鹿が見つからなければ、途中からウサギに変更しても普通に狩って帰って来れる。
こっちに来てからは母さんの言う通り獲物が少ないみたいで、鹿を狩るのは難しいけど。鹿の群れがいないから。
俺達が合流した初日にチャラオ達が鹿を獲れたのは運が良かった事のようだ。しかし獲れたのは1頭と、小さなウサギ1羽だけだった。
その為、全員に行き渡った量は十分では無かったし、配分も均一では無いようだ。子狼の大きさにかなり大きな差があったのは、そんな理由もあったらしい。
母さんの獲って来た鹿を見て今日は腹一杯食える! と思ったが、自分達の取り分はいつも通り少なくてガッカリした、とか……色々。よだれダラダラにはそんな理由もあった訳だ。
それと、俺達の移動の疲れが癒えてから、狩りに行く母さんに付いて行った時に知った事実。
途中でチャラオ達と別れて母さんと俺達だけで狩りに行って、帰り道で合流してみたらチャラオ達は何故か手ぶら……口ぶら? だった。
先に1回巣に戻って獲物を置いて来たのかと思ったけど、狩りの後でそのまま俺達を待っていたらしい。つまり、狩りに失敗したって事だった。
これにはチャイロ達も驚いていた。
俺は人間の時の記憶から、狼の狩りの成功率があまり高くないって事を聞いた事があった。だけど、母さん基準では毎回成功だったから、うっかりそれが普通だと思ってた。
ちなみに、その時の狩りの獲物は俺達子供組が小さめだけど丸々太ったウサギが1羽。母さんが獲ったのは、丸鳥っぽいけど何か色の違う、母さんよりちょっと小さい位の丸っぽい鳥。母さん曰く、ちょっと臭いけど味は良いらしい。つか、この鳥デカイ。
それに比べて、チャラオの群れは10頭近くで挑んで獲物はゼロ。狙った獲物は鹿だったらしいが、先走った巣立ち組みが群れを逃がしてしまって失敗。結局何も狩れなかったらしい。
そのせいもあって、今のチャラオ組の雰囲気はとても悪い。
逆に、俺達が見事に狩りを成功させている事にはみんな感心しきりだ。ウサギを俺達子供達だけで狩ったという事が特に評価が高い。
チャイロ達は、チャラオの群れでは巣に残されている子狼と同い年だ。驚くのも納得……なのかな?
チャラオの群れでは、年少組は狩りに出しても成功率が低すぎるせいで邪魔にしかならず、練習でしか狩りはさせていないらしい。年長組は狩りに連れ出されるが、狩りの腕は正直微妙との事。
逆に邪魔にしかならない事もあるが、巣立ち組は狩りに連れ出さざるを得ず、余計に狩りの成功率が悪くなった……というのは母狼の言だ。
「わう、わうぅ!(だから、おれはあねごたちをそんけいしているんですっ!)」
問・さて、こいつは誰でしょう?
答・俺達に絡んできた子狼
見事なビフォーアフターである。確か、こいつは巣立ち組の弟な筈なんだけど。
しかも、何時の間にやら母さんの事を『姉御』呼び。ちなみにハイクロは『姉さん』。チャイロ達は『兄さん』である。俺は『ねこの兄さん』である。
……俺、一応年下なんだけど。いや、『焼き肉の兄さん』と呼ばれなかっただけマシと思おう、うん。
ちなみに、敬語は母さんとハイクロに対してのみ。俺達にはタメ語である。
「……ガゥ(……『かり』って難しかったんだな)」
「……フキュン?(……あたし達って、意外とすごいのかしら?)」
「わふっ! わふぅっ!!(すごいなんてもんじゃないですぜ、あねさん! とうちゃんよりずっとすごい!!)」
おぅふ、関係無い所でチャラオがディスられておる。良いぞ、もっとやれ……ゲフン。
しかし、時々敬語がおかしな事になるのは、こいつの頭の残念さ故か。
「わぅ、わふん(もう。ちびってばそのくらいにしておきなよ。ハイクロたちにめいわくだろ)」
「がるるる! がぁうっ!!(うるせーぞ、ちび! くちだけやろうはさがってろ!!)」
……あん? 何かデジャビュ。
ふと今の2匹の会話で気になった事を聞いてみる。
「ウニャン?(なぁ、お前らの名前って何?)」
「ぐる?(なまえってなんだ?)」
「……わぅ? ぐるぅ?(……ハイクロやハイシロみたいなものかな? こじんをあらわすなにか?)」
お、やっぱりコイツ凄い頭良い。今の質問だけでそこまで分かるのか。
もう1匹は……ハイイロと同じ位のレベルかな? いや、あの時よりはちょっとマシ……かな??
「ミュ、ナァウ?(正解。ひょっとして、お前らも全員『チビ』って呼ばれてんのか?)」
「きゃふ(そうだよ)」
「ぐるる(もんくあんのか)」
「グルゥ?(……誰を指しているのか、分かるのか?)」
「ぐふん(てきとうにへんじすりゃぁいいだろ)」
「くぅ(まぁ、そんなところかな)」
俺の予感は的中。やっぱりこいつらも全員『チビ』と呼ばれている……あ、何? 『チビ』じゃなくて『ちび』? ……ま、まぁ対して違わないと思うけど、そういうならそう言っておこうか。
こいつら年少組をひっくるめて全員『ちび』らしい。んで、年長組~巣立ち組が『ガキ』だと……上の連中の呼び名酷くね??
……で、2匹共……その視線、何?
「「わぅ!((なまえほしい!))」」
「ニャ(自分の父親に言え)」
「がうぅ(とうちゃんにいったってむだ)」
「……くぅん(……あんまりかんがえるの、すきじゃないんだよね)」
子供にも言われるチャラオェ……。
つまり、何か。口を濁してはいるものの、頭が良くないと言っているようなものだ。そして本能一直線、と。……ふむ?
「ンニャ(ハイイロ、ちゃんと考えないとあいつみたいになるぞ)」
「ギャンッ!!(絶対いやだ!!)」
良し、修正完了。これでもうちょいマシになるだろ……って、チャイロのその目は何よ?
だって、丁度良い感じの悪い見本なんだからさぁ……。
ハイイロに思考停止させたくなかろ? 今のままだとそうなりかねんよ??
「グゥ(……それは困る)」
「ガゥ(確かに)」
「クフンッ(そうなったら去勢してやるわよ)」
ヒュンッ
全員の耳と尻尾が垂れた。
***
「わぅっ!(ハイイロ! あそぼう!)」
「ガゥツ!(おぅ!)」
俺達がチャラオの群れに居候して3週間。時折ちらつく雪が、本格的な冬が近い事を知らせる。
巣立ち組は相変わらずの様子だ。巣立ちが遅れたイライラを群れの仲間にぶつけるようになって、ますます味方を減らしている。取り巻きの年長組にも暴力を振るうようになったせいで、とうとう連中も見限ったらしい。それは年長組に留まらず、あいつらの弟であるコイツもだ。
とはいえ、年長組もコイツも、今まで取り巻きだった事には変わりないので年少組からの評価は微妙。もっとも、母狼組からはある程度受け入れられている。何と言っても、自分達の子供でもある訳だし。
そして俺達はというと……何故か年少組のリーダーになりました。
いやまぁ、すでにハイクロが牛耳ってたようなものだけど、正式にチャラオと母狼達からも頼まれた。
俺達の狩りの成功率と思考能力の高さから、少しでも子狼達に勉強させて欲しい、との事だ。それが将来的に少しでも子供達の助けになれば、と思う親心だな。
元々俺達は居候でもある訳だし、恩を売っておくのも悪くないと判断した母さんにより、俺達へ許可が下された。
母さん仕込みの俺達の優秀さを見せ付けてくれるわ! フハハハハハ!!
って感じで色々やらかしたら、年長組も一部取り込んじゃいました。あるぇ~?
狩りの効率的なやり方とか、獲物の見つけ方とか、追い込み方とか色々教えてただけなんだけど。
おかげで母狼からも狩りの成功率が良くなったとお礼を言われました……まぁ、計算通りっちゃ計算通りなんだけど、年長組は想定外だったんだぜ……。
あ、それと獲物が多く獲れた時はチャラオの群れにお裾分けする事になった。流石に仲良くなった子狼達を飢えさせるのは忍びないし。
ただし、こちらが提供した獲物は巣立ち組には回さないという条件を付けた。
これは仮想敵に施しをしたくないという理由が本音。表向きには、巣立ち=一人前の大人と見なされる事で『群れを離れる事を決めたのだから、自分の飯は自分で獲れ』と言う母さんの言い分だ。
もちろん文句を付けて来たけど、子供達との狩り勝負で勝てたら獲物を回す、と誘導したらアッサリ乗った。
実際にやってみたら勝負にならず、朝から夕方まで掛けて巣立ち組はウサギ1羽。
ドヤ顔しながら帰って来たけど、残念。
俺らはすでに狩りから帰って来ていて、まずはチャイロがウサギ1羽。ハイクロが鳥1羽。俺は数で勝負でネズミ3匹。ハイイロとハイシロのコンビがココでまさかの鹿1頭。子供だけど。
純粋な数でも、肉の量でも、種類でも圧倒的に俺ら勝利。
ねぇねぇ、どんな気持ち? ドヤ顔でウサギ獲ったどー! って帰って来たら、敵である俺達は狩りを終えて帰って来ていて、しかも獲物がドサドサ積み上げられてるの見た時。
ねぇねぇ、どんな気持ち?
今回は煽ってくスタイルで行きます。出来れば早く暴発して欲しい。
……ずっと警戒してるのって、凄く疲れるんだよ。
イカサマをしたんだ! とか、母親に手伝わせたんだろ! とかギャンギャン吠えてたけど、母さんは間違い無く巣で待っていた、と口々に証言するチャラオや母狼達。
イカサマをした、というその内容も『予め狩っておいた獲物を、今狩ったかのように持って来た』というのが向こうの言い分だった。それなら自分達が狩った獲物も予め狩っておいた獲物じゃない、と証明出来るのか? とチャラオに返されて終了。つか、ダリダリ地面に流れる血を見れば新鮮さは一目瞭然だと思うんだけどな、と。
色々と言い掛かりを付けられたが、結果はもちろん俺達の圧勝。
母さんが狩った獲物は巣立ち組以外に回される事が確定した。これには年少組、年長組も大喜びで、ますます俺達への尊敬が鰻上り……って、あれ? やっぱり何かおかしい気がする。
元々評判が悪ければ距離を置かれるのは仕方無い。野生なので判断はシビアです。
それと黒いの達の本領発揮。
ポテンシャルを見せ付けます。英才教育を受けていた子供達の実力を見よ! 結果、尊敬の目がキラキラ。
強さで支配していたつもりの巣立ち組は不満しか無いので、勝負を挑むが惨敗。大学生が中学生にガチ勝負挑んで負けるようなものです。当然、株はがた落ち。元々残っていないに等しかったけど……。
逆に母狼組からは黒いの達への関心がだだ上がりになりました。
前書きでも書きましたが、本日2話投稿です。次話は番外編です。12時投稿となりますので、良ければそちらもよろしくお願い致します。




