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初めてでも無いお留守番の記憶

 見知らぬ場所でのお留守番です。

 残っている子狼は、ほぼ同じ位の体格~少し小さい位の体格まで。つまり、同い年の子狼。それ以上は狩りに同行します。

 後は留守番係として雌狼が2頭。


 ……チャラオの群れの子狼多すぎ。

「ウォフッ?(なぁ、俺達はそろそろ狩りに行くが、お前らはどうする?)」

「グルゥ、ウフッ(あたしが行くよ。子供らは疲れてるから留守番だね)」

「グルル、ウォンッ(そうか、それは助かる。お前は狩りの名手だからな)」

「フンッ、……グルゥ?(おだてても取り決め通り自分達の分しか狩らないよ。……お前の子供達は?)」

「ウォフッ(大きいのは連れていく)」

「……グルゥ?(……どの程度の腕だね?)」


 チャラオが立ち去ってしばらく後、俺達にとって都合の良い事にチャラオ達が狩りに行くと言い出した。俺達にも聞いてくるが、それには母さんだけが同行すると答える。

 チャラオに続けて質問を返しながら、母さんが俺達の方にチラリと視線を向ける。

 チャラオについでのように尋ねている内容は、その回答次第では俺達の警戒を強める必要があるか否かの判断基準になり得るものだ。

 だが、チャラオが言うには大きい子狼連中は連れて行くとの事なので、少しは安心して待つ事が出来そうだ。残ってる子狼は基本的にアレ(・・)だしな……と、さっき見た子狼連中を思い出したら何か気が抜けた。尻尾もクナッと折れる。


 まぁ、だからと言って警戒を怠るつもりは無いんだけど。見知らぬ群れの中、何があるか分かりません。

 外国にいるくらいの警戒心で行っといた方が良いのかも知れない。


「ワフゥ(出来りゃ、俺らの狩りにも手ぇ貸して欲しいんだけどな)」

「ウォフッ(自分らの分は自分らで狩るんだね)」

「……キュゥン(……まぁ、駄目元で聞いただけだしな)」


 ふふん、母さんの狩りの腕は、超! 一流だからな!!

 とは言え、狩りの獲物は別々と言い出したのはチャラオ自身だ。いきなりそれを破る訳にもいかないだろう。連れて行くらしい年長組と巣立ち組も、チャラオから言い出した事だとしても母さんが手を出す事を良しとはしないだろう。

 一応言っておくと、俺達だって母さん仕込みの狩りの腕は相当なもんだぜ! 俺は基本的に連携必須だけど、ネズミ捕りなら負ける気はしない。

 一度こいつに見せ付けてやる事出来ないかなー。すげぇドヤ顔してやりたい。


「ミャッ!(いてっ!)」

「ウォフッ(何を考えていたんだか)」


 あ、母さん。えーと、ナニモ、カンガエテオリマセンデスノコトヨ?


「グルゥ……(絶対にろくでも無い事だねぇ……)」

「ワフッ(母さん、黒いのはおれらが見てるから心配すんなよ)」

「キャウッ(ちゃんと首根っこつかまえとくから安心して)」

「グルル(……目は離さない)」

「ワウッ!(ちゃんと待ってる!)」

「……グルルゥ、ウフッ(……ハイシロ、ハイクロ、それにチャイロも。黒いのとハイイロを頼んだよ)」


 ん? あれ? 俺ってハイイロと同じ括りなのん??

 ねぇねぇ、母さん!? それってちょっと酷くない!?


「ワフッ(そう思う黒いのも十分ひどいわよ)」

「……ミャゥーン(……てへぺろー)」


 クニャン、と地面に転がって腹を見せて。必殺、悩殺ポーズ! 問題は、母さん達には効きませんって事。無念。

 ちなみに前世の俺だったら確殺されてた。


 そういえば、猫って腹見せて『触って良いよー』的に誘っておいて、実際触ろうとしたらいきなり引っ掻いてくる事って無い?? 俺、何度も引っ掛かってたんだけど。その癖、別の人にはバッチリ腹モフさせてたり。何アレ羨ましい。俺には一度だって触らせてくれなかったのに。いっぱい煮干しとか、猫カリカリとか貢いだのに。ちゃんと煮干しだって猫用の無塩煮干しを用意してたし、猫用チーズとか、ササミとか常に鞄の中には常備してたし、休みの日にも色々貢いだのにさぁ……


「……グル?(……コイツ、大丈夫か?)」

「ワフッ(時々あるんだよ)」

「……ワフ(……そうか、んじゃ、まぁ……行くか)」

「グルル、ウォフッ!(そうしようかね。それじゃぁみんな、良い子で待ってるんだよ!)」


 ……市販の猫用おやつで気に入ったのがあれば、何度もそれを買ってあげたし、それに飽きたら次のお気に入りのおやつが見つかるまでアレコレ買い漁ってさ……。あ、もちろん、お気に入りじゃなかったおやつは別の()のおやつになりました。無駄にするなんて許せん。

 その子はその子で毛並みが最高だったんだよなぁ。程好い弾力と毛の密集具合で。さり気に近所でも評判の毛並みだったりするし。

 ブサ顔で野良だったけど、随分と可愛がられてたよなぁ……主にドカタのおっちゃん達に。公園とかのベンチに()の如く堂々と鎮座していたからな。通りすがる人が二度見するレベルだった。餌をあげるっていうより、お供えする的な雰囲気あったし。実際に近所の学生が試合前とか拝んでた。緊張しないようにって。

 散歩中の犬にバウバウ吠えられても動じなかったしな。仕舞いにゃ犬がションボリするレベルで。

 それが何時だったか、車に轢かれて死んだって聞いたけど……未だにあの毛並みは忘れられないなぁ……。


 ……あれ? 何の話だったっけ? ん? そういえば母さんは? あれ、いない? どこ行った??


「ミァ?(母さんは?)」

「ワフッ(とっくに狩りに行ったぜ)」

「キュフ(やっと帰ってきたのね)」

「ワゥー?(黒いの、どこか行ってたのか?)」

「グフッ(……そういう意味じゃない)」

 

 おぅふ。どうやら俺が思考の海にトリップしている間に、母さんは狩りに出掛けたようです。


 母さんがいない見知らぬ場所でちょっと不安だけど、ワフワフ、ニャーニャーと時折バカ話も交えながら母さんの帰りを待つ。

 とは言っても、ちゃんと警戒は怠っていません。すぐに動けるような体勢です。

 とはいえ、前世で外国に行った事は……1度だけか? 意外と何も無かったんだよな。警戒はしてたけどスリも無かったし、置き引きも無かったし、拳銃で脅されたりも無かったから、いまいち加減が分からない。

 プワッと緊張して尻尾の根元だけが膨らんでは(しぼ)むを繰り返す。


 プワッ……プシュルル……

 プワッ……プシュルル……


 ザシザシと前足を舐めても治まらない。中途半端感に次第にイライラして来て、2本の尻尾がタッシンタッシンと地面を叩く。

 俺のイライラを感じ取ったハイクロが、宥めるように俺の背中を舐める。

 ……おかげで少し落ち着いた。お返しに俺も毛繕いし返す。さらに毛繕いされ返された。警戒中だからいつもよりは軽めだが、シペシペと舐められる度に体が揺れる。


 そうこうしている内に子狼達に動きがあった。お互い毛繕いを止めて、警戒体勢に戻る。

 1頭の子狼がこちらをチラチラと見ていたが、立ち上がった。俺達を嫌な目で見ていた狼達と一緒にいた奴だ。そのまま近付いて来る。

 ……間近で見たら、何かデカイ。


「わぅ(おい、おまえら)」


 あれ? 大きい連中は全員連れてったんじゃ……んん?

 此処にいるって事は、こいつは『小さい』子狼……なんだよ、な? どう見てもハイイロより大きいんだけど。

 話し方はちょっとアレだけど、コイツは多分チャイロ達と同年代、の筈。

 つまり、だ……


「ミャゥン……!?(おれの兄ちゃん達って頭良すぎ……!?)」

「ワフ(いきなり何言ってんだ、お前は)」

「グルゥ(……兄ちゃんって、もう1回言って欲しい)」

「キャフ(チャイロもそんな事言ってる場合じゃないでしょ)」

「ワゥ?(おれ、頭いい?)」

「「「ワフ(((……)それは無い))」」」「ニャ(無い無い)」


 まぁ、俺の脱線はいつもの事だけど。

 そんな俺達のコントを大人しく眺めている子狼はイライラが募っているようだ。グルグルと喉の奥で唸り出す。


「わう、ぐふ(さそいにきてやったんだ。かんしゃしろ)」


 うわぁ……何か面倒そうなのが来ちゃった。

 いや、まぁ、さっきの子狼達の様子を見る限り、早々にセカンドコンタクトはあるだろうなとは思っていたんだが本当にすぐだった。さっきの子狼とは別の奴だけど。

 母さんがいなくなった直後だから何か裏でもあるかと警戒したけど、こいつは何も考えていないっぽい。ただ、残ってる子狼達のリーダー的な感じで、俺達に声を掛けて来たみたいだ。

 だけど、こいつ……無駄に偉そう。

 

「わふっ(おまえらついてこい)」

「グルゥ?(何で?)」


 答えるハイシロはやる気無さげだが、俺らの中で1頭だけやる気満々な奴がいる。他の誰でも無い、ハイイロだ。

 お目目キラキラ、口元ハァハァ、尻尾ブンブン。超、やる気満々。

 おい、ハイイロ。警戒心どこ落っことして来た。拾って来い、今すぐに!


 クァッ……フゥ……


「ワフッ、ウォゥ(おれらは移動して来たばかりでつかれてんだよ。別の日にしてくれ)」


 ナイスだ、ハイシロ。疲れてるなら無理をさせるような事は……


「わうっ、うぉんっ!(そんなのしらねぇ。あそべっていってんだろ!)」


 はい。お子様には通じない言い訳でした。ってか、遊べなんて初耳です。

 だが子狼に応対しているハイシロを筆頭に、チャイロもハイクロも動く気配は無い。その反応に母さんの言い付けを思い出したか、ハイイロもペソッと地面に伏せた。

 若干上目遣いな目が未練タラタラだけど、ハイクロの視線で黙らせられる。ハイクロ、強い。


「グルゥ(お前らだけで遊んどけ)」

「がうっ! ぐるるる!(おれにさからうのか! おまえらはこのむれのいちばんしたっぱ(・・・・)なんだぞ!)」

「ワフ、ワゥ?(おれ達はお前らの群れに加わった訳じゃ無い。話しを聞いていなかったのか?)」

「がうぅっ! がるぅ!(うるさいっ! おまえらはおれの『めいれい』をきけばいいんだ!)」


 がうがうと声が荒くなり、勝手な事を喚き立てる子狼に、ハイクロとチャイロの気配が尖り出す。

 背後に見える他の子狼達と、子狼を任されたはずの母狼達はオロオロと不安げで、どうやらコイツの独断行動らしいと判断する。子狼全員の総意なら面倒な事この上ないけど、独断ならまだ何とかなるかもしれない。

 つか、母狼はコイツ止めれ。それとも、こいつの母親は別狼?

 しかも、こいつには他人……じゃなくて、他狼の話しを聞く気は無いらしい。典型的なガキ大将タイプ。


 さて、どうしたものかな。母さんがいないのに、いきなり騒ぎを起こす訳にもいかないし。出来るだけ穏便に……


「ガゥ(うるさい)」

「がぅっ!?(なんだと!?)」

「グルゥ……フンッ(何であんたの命令を聞かないといけないのかしら……そもそも、聞いてあげる義理も無いわよ)」

「ぐあぅ!!(めす(・・)がえらそうなくちをきくな!!)」


 あ、コイツ、終わった。


 俺がそう思ったその瞬間、ハイクロが動いた……と思ったらその子狼の頭が踏み潰されてました。もちろん犯人はハイクロ。母さんを髣髴(ほうふつ)とさせる動きだった。


 えーと? 今の動き……何……?


「……グルゥ?(……えーと、ハイクロ?)」

「フンッ、グァウッ!(情けないわね。その『メス』に負けたあんたは何なのかしら!)」

「ミャ(おわた)」


 ハイクロの足の下でピクピクと痙攣している子狼。……時折後ろ足も動いているし、多分、生きてる。

 流石にいきがってるだけの子狼にトドメを刺す程、ハイクロは鬼畜じゃn


 ギュリッ!


 Oh……踏みにじった……。


 えーと、ハイクロさん。ここ数日やけに殺伐としてらっさいませんか?

 ちょっと見てくれよ、俺のこの尻尾を。完全に股の間に入ってるだろ? 端から見たら尻尾なんてどこにも見えないんだぜ? いつから俺はマンクスになっちまったんだ?


 今までもチョイチョイ好戦的なところは見せてたけど、今日のコレは決定的です。

 最初に子狼と話しをしていたハイシロも、子狼の態度に立ち上がりかけたチャイロも、伏せの姿勢がますます低くなったハイイロも。漏れなく全員尻尾が綺麗に収納されました。

 視線を上げればその先には、子狼達がピルピル震えながらこちらをガン見しているのが見える。母狼は……ちょっとホッとしているような? 何故ぞ。


 あ……。


 視線の先の小さな子狼の1匹の足元、その場所だけ地面の色が変わっているのに気付いてしまい、俺はソッと視線を逸らすしか無かった……。



 ***



「クフン(あたし達はつかれてるの)」

「きゅん……(はい……)」

「ワフッ?(邪魔しないでくれるかしら?)」

「キャインッ!(はいっ!)」


 ハイクロの足の下から辛うじて復活を果たした子狼が真っ先にした事は、狼的土下座である。つまり、ヘソ天。

 しかも、両前脚&両後ろ脚をピーン! と伸ばした急所完全全開ノーガード。

 そこまで怖かったか。無理も無い。俺も怖かっt


「キャフッ(黒いの)」

「ヒミャッ!?(何!?)」

「クゥ?(どうしたの?)」

「ミャ(や、何でも無い)」

「クゥ(とりあえず、少し休みましょ)」


 あ、はい。

 突然ハイクロから声を掛けられて、思わず声が裏返った。

 だが、ハイクロからは特に何かを言われる事も無く、そのままその場に伏せたハイクロに倣って俺も地面に伏せる。緊張からか、まだヒゲがビリビリする。

 チャラオの群れの子狼達に目を向ける事は出来ない。何か、色々とすみません。


 隣に伏せたハイイロがピトッと俺にくっ付く。……何か違和感を感じたが、すぐにその理由に気付いた。今の並びは……ハイクロ・俺・ハイイロとなっている。


 さり気無く俺を緩衝材にしてんじゃねーよ!!

 ハイクロ覚醒。母さんの娘だもの。


 このまま群れを乗っ取ったり……は、しません。

 ただ、残った子狼からは『姐さん』として認識されました。強い者に従うのは本能です。そして、今回絡んできた子狼はハイクロの舎弟になりました。が、後に知られて拒否られる。

 でも『姐さん』呼びは否定しない。満更でも無いらしい。可愛い。


 ちなみに、母さんの事は『姐御』

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