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異世界の子供の日 ~~桃ニャ狼~~

 悪ふざけが過ぎました。土下座で謝りますので、どうか私めをその尻尾で好きなだけ叩いて下さい。

 肉球でも可。

 

 ただし、モフモフ以外は却下します。

 むかしむかし、ある森の中におじいさんとおばあさんが住んでおりました。


「キュ?(おれ、おじいさんだったの?)」

「キャフッ!(ハイイロのセリフは無いから黙ってて!)」


 ……コホン。

 おじいさんは山へ芝刈りに……じゃなくて、森へ狩りに。おばあさんも川の近くに狩りに行きました。

 おばあさんが仕留めたウサギの上で勝ち鬨を上げていると、ドンブラニャー、ドンブラニャーと黒い毛玉が流れてきました。


「クゥ、キャッフ!(良いえもの、じゃなくて。良いお土産が出来たわ!)」


 そう高らかに宣言すると、仕留めた獲物を背中に背負い、拾った毛玉を口にくわえて巣に持ち帰る事にしました。くわえられた毛玉がプルプルと震えているように見えますが、多分、気のせいでしょう。

 ウサギと毛玉を巣に持ち帰ったおばあさんは、早速とばかりにウサギに食らい付こうとするおじいさんをへち倒し、拾った毛玉を優しく地面に下ろします。そして、優しく毛玉を鼻先で突くと、なんと! 解れた毛玉からは元気の良いオスの子猫が……涙目で現れ……あれ?

 ちょ、なんで涙目!? 


「ミャ、ミャミャッ!(だって、おれの事『えもの』って、『えもの』って!)」


 あ、あー……ハイクロもちょっと間違えただけだから! ね? ほら、鼻水チーンして。チーン! 落ち着いた? ……よし。それじゃ、気を取り直してもう1回行くよー。


 なんと! 解れた毛玉からは元気の良いオスの子猫が飛び出して来ました! しかもその子猫は、尻尾が2本ある猫又だったのです!


「クゥ!(あたしの弟ね!)」


 あ、いえ、あの……台本では子供……いえ、何でもありません。はい。

 弟のいなかったおじいさんとおばあさんは大喜びで、拾った子猫を弟として大事に育てる事にしました。

 そして2頭は、子猫の名を『桃t「キャフッ!(名前は黒いのね!)」あの……「グルゥ(……それ以外は認めない)」え、ちょっと待って! 君の出番はまだ後だから……! わ、分かった! 黒いの! 黒いのですね、はい!

 子猫の名を『黒いの』と名付けました。

 黒いのはおじいさんとおばあさんの愛情に包まれてすくすくと育ち「グゥ(……オレも)」あ、はい。すくすくと育ち、立派な猫又になりました。

 おじいさんとおばあさんと仲良く暮らしていたそんなある日、黒いのが悩んだ末にこう言い出しました。


「ミャミャッ!(おれ、鬼退治に行く!)」

「ワォーン!(よっしゃぁ、おれも行く!)」「ガゥッ!(ハイイロは黙ってて!)」「……キュン(……はい)」


 余計な事しか言わないおじいさんを仕方なくしばき倒した後、突然の黒いのの決断をおばあさんは必死に止めようとします。大事な弟を危険に晒したくないからです。

 ですが、決して意思を曲げようとしない黒いのの熱意に打たれて、おばあさんは渋々ながら許可を出す事にしました。

 許可を得る際、黒いのがやけに必死になって説明していたのは……視線の先で白い煙を上げながら地面に倒れ伏すおじいさんの姿は、恐らく無関係でしょう。鬼を倒したい、という純粋な熱意からです。


 そして準備を終え、旅立つ黒いのに焼いた肉を持たせ「ミャ?(おれが焼くの?)」……他に焼ける人いないのでお願いします。焼いた肉を持たせると、おばあさんは涙を呑んで鬼の住処へと送り出します。

 そしておばあさんに別れを告げると、焼いた肉を包んだ葉包みを口にくわえてからおじいさんとおばあさんと住んでいた洞穴から1歩踏み出すと……すぐ目の前には1頭の狼が立っていました。余程待ち遠しかったのでしょう。辺りは足跡だらけです。


「グルルゥ(……何処へなりと、オレも共に行こう)」


 最初からずっと出待ちをしていた事などおくびにも出さず、キリッとした顔で告げる狼は『チャイロ』という名だそうです。小さく賢く、とても愛らしい弟から名付けて貰った大事な名前なのだと自慢げに話していて、それを聞かされる黒いのは非常に気まずそうです。

 何はともあれ、一緒に来てくれるというのだからとお礼に焼いた肉を渡そうとしましたが、受け取って貰えなかったので仲良く半分こずつ食べてから鬼の住処へと再び向かいます。

 ワフワフ、ニャーニャーと話しながらしばらく歩いていると、1匹と1頭の前を1頭の狼が遮りました。


「ガウ?(黒いの、どこ行くんだ?)」


 ……何故、初対面で名前を知っているのかという疑問は置いといて、黒いのはその狼の問いに答えます。そして続く交渉の結果、焼いた肉と引き換えにお供になってくれました。その白みがかった灰色の毛並みの狼の名は『ハイシロ』と言います。

 少しばかり言葉遣いは乱暴なようですが、うっかり転びそうになる黒いのを助けてくれる、など心根は非常に優しい狼のようです。


 そしてしばらく歩いて、今度は非常に強く賢く、貫禄のある黒く美しい毛並みの狼と出会いました。……あ、あれ? 確かここは『黒い狼』としか書かれていなかった筈……あ、いえ、なんでもないです。続けてどうぞ。


「…………」

「…………」

「グゥ?(どうしたね?)」

「ミャ(いや、母さんのセリフだし)」

「フン……(仕方無いねぇ……)」


 彼女の名は『夜』と言い、その名は小さいが非常に賢い子猫がくれた、大事な名前だそうです。

 そう告げる彼女の横では何故かチャイロが自慢げに胸を張り、黒いのがハイシロの毛並みに顔を埋めてはグリグリと顔を擦り付けていますが、気にしてはいけません。いけないったら、いけないのです。

 そうして彼女も葉包みから勝手に取り出した肉をペロリと平らげると、鬼退治について来てくれる事になりました。もはや、黒いのの前に敵は存在しません。


 そして野を越え、山を越え、とうとう鬼の住処までやってきました。


「ニャー!!(じゅうりんせよ!!)」


 え、ちょ、えぇぇぇぇ……!?

 お、鬼を前にした黒いのが勇ましく声を上げると、一斉に狼達が飛び出して鬼を攻撃します。噛み付き「キャィンッ!(いてっ!)」、張り倒し「ギャフッ!(いでぇっ!)」、力強く踏み潰しました「オゴフッ!?」。

 そして黒いのも「キャィンャイン! ギャゥンッ!(待って、待って! おれ死んじゃう!?)」「ニャン♪(そのつもりでっす♪)」鬼の鼻面に向かって爪を勢い良く振り下ろします。

 とうとう鬼も観念したか、腹を見せて謝り倒しました。そこを容赦無く夜が追撃します。やれる時にやる、それは厳しい自然の中で生きる者達の基本です。


「グルゥ、ガゥッ!(こうやって、油断させてから反撃しようとする獲物もいるからね。気を抜くんじゃないよ!)」

「「「「「きゃふっ!(はいっ、あねご!)」」」」」

「……キュゥン……(……俺、ボスやめようかな……)」

「きゃうぅっ!(じゃぁあねごがぼすになるんだな! やったぁ!)」

「ゲフゥッ!」


 ……こうして、邪悪な鬼は退治され、黒いのはおじいさんとおばあさんの元に狼達と帰ります。

 おばあさんは黒いのの無事な姿に大喜び! おじいさんは黒いのが持って行った焼き肉が無くなってるのを見て悲しそうな顔をしましたが、おばあさんに睨まれて慌てて大喜びしています。

 そして黒いのと、おじいさん、おばあさん、そしてお供の3頭の狼達は洞穴に戻ってみんな仲良く幸せに暮らしましたとさ……。


 めでたし、めでたs「ギャゥンッ!?(俺めでたくないよねっ!?)」ドゲシッ!


 めでたし、めでたし。



 ***



「……クゥ?(……で、結局これって何だったの?)」

「……ニ?(……さぁ?)」

「グルルゥ?(黒いのが考えたんじゃないのか?)」


 フルフル


「ンニャ~ァ(違う~)」

「ワフ?(……なら、誰が?)」


 さぁなぁ? って、そういえば……何かもう1人? 1匹? 頭? いた気がする。何でかあの時は気にならなかったけど、改めて思い出そうとすると何故か思い出せないんだが……。

 だけど、あの場に俺達以外の存在がいたのは間違い無い筈。チャラオと子狼達は除く。


「ワゥッ!(なぁなぁ、こんなの拾った!)」


 俺が考え込んでいたら、突然ハイイロが元気に吠えた。

 何か拾ったと言いいながらハイイロがくわえていたのは1枚の紙……って何でこんな森の中に紙が落ちてるんだよ?

 しかも前世で良く見たコピー用紙みたいな感じの、って……とりあえず、一応見てみるか……。


「ニャ(見せてくれ)」

「ワウッ!(はい!)」


 ヒョイッ

 ドゥルン……


 見下ろした先にビシャッ、と音を立てながら落ちたのは間違い無くハイイロがくわえていた紙で。よだれでドゥルドゥルになったそれは、書かれた文字もよだれで滲んでいて、とても読めたものでは無かった。

 それどことか触る事すら拒否したい。

 それが地面に落ちたのは、間近で見たチャイロが瞬間的に俺を後ろに引っ張ってくれたからである。

 そうしてくれなかったら間違い無く俺はアレ(・・)を受け取っていた訳で……遅ればせながら全身の毛を逆立てながら、シャーシャーと声を上げてハイイロに抗議する。が、すぐに止めた。だって、理解していないんだもん。


 ベタァ~、と地面に張り付くソレを見下ろし、その後無言でハイイロの顔を見つめる。

 流石に気まずいものを感じたのか、目を逸らそうとするその先に回りこむ。さらに逸らそうとするので回りこむ。最終的には体を思いっきりねじった状態でプルプル震えるだけになったハイイロをツン、と突けばドシャ! と地面に倒れ込む。

 ハァ……と溜め息を吐くが、ドゥルンドゥルンになった紙は変わらない。

 謎は謎のままか……と諦めかけたその時、ピラリと1枚の紙が落ちて来た。その瞬間にちらりと見えた文字は紛れも無い日本語で、今度こそ逃すまい! と慌てて紙を押さえ付ける。

 その際ウッカリとハイイロのみぞおちに前足がめり込んだ気がしたが……些細な事だろう。


「ウニャニャン? ニャー……(えーと、何々? え、えー……)」

「ガゥ?(黒いの、その皮何だ?)」

「ミ? ……ウニャン(皮? ……いや、初めて見たから気になっただけ)」

「グル、ワウ(確かに、変な皮だよな。変な音するし)」


 グシャ「ウギュッ!」

 グシャグシャ「ギャゥッ、ゲブッ!」


「ワゥ(……ハイシロ、足どけてやれ)」

「グル? ……ワフ(あん? ……あ、わり)」


 わざとかと思ってたけど、どうやら本気で気付いていなかったらしい。大人しく足をどけると、グシャグシャになった紙の下からハイイロの姿が出て来た時には、気まずそうに視線を逸らしていた。

 ハイイロはよろめきながら立ち上がると、そのままペシャッと潰れる。

 グギュ~、と大きな音が響く。


「フキュゥ~ン……(はらへったぁ~……)」


 ……確かに、俺も腹減ったな。キュル……と小さく鳴る腹を見下ろし、母さんを見つめる。

 狩り、行きませんか??


「ワフン(仕方無い、狩りに行って来るから待っておいで)」


 ひゃっはー! 肉ぅ――!!


 狩りに出掛ける母さんに比較的元気なハイシロとチャイロ、ハイクロがついて行って、俺とハイイロは洞穴で大人しく待つ事になった。

 プスー、と響くハイイロの寝息を聞きながら、俺はさっき見た紙に書かれていた内容を思い出していた。特に難しい事は書かれていなかった。むしろ、どうでも良いような内容だ。

 それを思い出すと、自然と顔がチベットスナギツネのような顔になる。猫だけど。


『子供の日にちなんで、桃太郎を演じて貰いまっす☆』


 なんでやねんっ! 


 大声を出すとハイイロが起きるかもしれないので――多分起きないだろうが――小さい声でフシャー! と叫びながらタフタフと地面を叩き付ける。このモヤモヤ感……どう処理をすれば良いのだろうか……!


 タフタフタフタフ……!!

 ピラリ


「ニャ?(あん?)」

『不快にさせてしまい、大変申し訳ありません。どうぞこちらをお詫び代わりにお納め下さい』


 ……こちら、ってこの紙の事ぞ? こんなもん貰っても……


「ウォフッ!(帰ったよ!)」

「ミャ!(母さん!)」

「……ッ、ワフッ!!(……っ、お帰りごはん!)」


 おいハイイロ、混ざってる混ざってる。


「キュ?(ねぇ、黒いの?)」

「ニャン?(何?)」

「フキュ、キュゥン?(これ、黒いのが採って来たの?)」


 そうハイクロに言われて見た先には……柏餅。

 って、だから何でやねん!? あからさまに不審物だろうがぁぁぁぁぁぁ!!


「……ウニュン(……いや、知らない)」


 フスフス……


「ウォフ(何か美味そうなにおいはするけどな)」

「グゥ(……だが、誰が採ったかも分からないものを食うのは、な)」


 モッチャモッチャ……


「ウォゥー(これうまいよー)」


 そんなのんきなハイイロの声に振り向くと、いつの間にかモチモチと柏餅を食うハイイロの姿があった。

 こんな、あからさまに怪しいモノを食うとは……流石はハイイロと言うか何と言うか。いや、ハイイロの事だから、本能で食べ物である事を判断したのかもしれないけど。


「ウォフッ!(得体の知れないモノを食うんじゃないよっ!)」

「ギャブッ!(うぐぉっ!)」


 フスフス


「ミャゥ(多分、大丈夫だとは思う)」


 得体は知れないけど、まぁさっきの紙の『こちら』がコレ(・・)なんだろうし。


 パク

 モチャ……


 うん、この上あごに引っ付く感じと、中のアンコ……って味噌餡か。俺はこしあん派なんだが。

 だが、久しぶりに食べる人工的な甘みに、感激から尻尾が震える。

 アンコ……美味(うま)ー……!


 ……ハァ


「ワフ、ワゥフッ(仕方ないね、この子は。あたしも食べてみようかね)」


 モチッ


「……グル、ウフッ(……妙な歯応えだけど、そう悪くは無いね。大丈夫そうだよ)」


 モチッ、モッチャ……


「グゥ……、クフン(何かくっ付くけど……。味は、そう悪くないかもね)」


 フスフスフスフス……


「ワウッ!(チャイロが食わないならおれが!)」


 ガフッ、モッチャモッチャ


「ワフ(……思っていたよりは、味はまともだな)」


 モッチャモッチャ、モッチャモッチャ……


 顔を傾けながら柏餅を食べようと奮闘するチャイロやハイクロを眺めながら、ペロリと口元と前足を舐める。

 久しぶりに食べた柏餅は味噌餡だったのが残念ではあるが、とても美味しく食べられた。あの茶番はどうかと思ったけど……その報酬として柏餅が食べられたのなら、まぁ……良かったんじゃないかな。


 とは言え、明らかにキャストミスだと思うぜ?

 っつか、台本。ハイイロのところが酷い。『黙って立ってろ』それだけ。間違ってはいないんだけど、いないんだけど……!

 やっぱり、モヤッと感が無くならないなぁ……。まさか、第2弾とかは無いよね? ね??

 突発的に思い浮かんだパロディ……ってこんな感じで良いんですよね? と書いてみました。これもまた練習なり。

 まぁ、動物のみで劇をやらせようっていうのが無理ですよね。お供が狼しかいないし。犬はともかく、サルとキジは立派に食料ポジになっちゃいますので。

 犬役のチャイロだけは真面目にやってます。それ以外のメンバーは聞いちゃダメ。



~~配役~~


おじいさん・・・ハイイロ(セリフ無し。立ってるだけの簡単なお仕事です)

おばあさん・・・ハイクロ

お供のイヌ・・・チャイロ

お供のサル・・・ハイシロ

お供のキジ・・・母さん

桃太郎  ・・・黒いの


鬼    ・・・チャラオ(友情出演につき、ギャラは無し)


観客   ・・・子狼達(連携攻撃に目キラキラ)

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