みんなで狩りに行った記憶
タイトル通りの内容なので、モツなどの表記が出て来ます。分かりやすい生々しさは無いと思いますが、苦手な方はご注意下さい。
「ウォ――――ン!(黒いの、そっち行った!)」
「クォ——ンッ!(黒いの、絶対に逃がさないでよねっ!)」
「ウォフッ!(えん起でもねえ事言ってんじゃねえよ!)」
「グルゥッ!(……油断するなよ、黒いの!)」
俺達が今何をしてるかって?
今のやり取りで分かるかもしれないけど、ただ今俺含めた子供達だけでの狩りの真っ最中。
俺も、もう生後半年だからな。ようやく母さんから狩りに出る許可を貰ったんだ。他のみんなからはかなり遅れての本格的な狩りデビューだけど、仕方なかったんだよな。
母さんの持って来る獲物での練習は、あくまで練習。狩りとは呼べないってさ。母さん、厳しい。そこでドヤ顔してたハイイロは何なのか。 『おれはもう、狩りに行ってるんだぜ!』とでも言いたいのか、ちくせう!
ま、そんなこんながあって、今日は母さん抜きの子供達のみ&俺というメンバーで狩りなのでっす。超緊張する。
確かに猫又ってのは普通の動物より強い。俺の頑丈さとか、生命力の強さは猫又ならではのものらしいしな。
だけど、如何せん体が小さい。野生で生きる上では、体の大きさってのは大事なんだ。
体が大きい=体重が重いって事で、獲物を押さえ込むのも楽になる。同時に歩幅も大きくなるから、1歩歩くだけでも一気に距離を詰められる。
逆に小さい=軽いで、獲物を押さえ込もうとしても吹っ飛ばされる。歩幅が小さいから、その歩数が多くなるから体力を消耗する。それに元々猫科の動物は長距離を走るのには向いてないからな。
つまり、俺は狼の狩りは向いていないって事。あっちは追いかけて獲物が疲れたところを襲ったり、群れからはぐれたのを襲うから。
まぁ、そんな理由で俺の狩りのやり方が決まりました。基本的には待ち伏せ方式。うん、猫っぽい。尻尾ウネウネ。
だけど、これにはチャイロ達の協力が必要不可欠になる。ただ待つだけだと、いつ獲物が獲れるか分からないから。
だからあの大喧嘩以降、母さんの持って帰って来る獲物で狩りの練習もしながら、チャイロ達とのチームワークも練習してた。ハイイロも色々考えるようになったしな。まだアホだけど。
母さんがほとんど弱ってないネズミを持って帰って来て、少し離れた所に放したそれを、チャイロ達が俺の方に追い込む。んで、俺は隠れて待ち伏せして待つ。後はタイミングを見計らって狩るだけだ。
最初の頃は失敗して、タイミングがずれて逃がしちゃったり、うっかりテンションの上がったハイイロが獲物を噛み殺しちゃったり、上手く追い込めないで逃げちゃったり。
……しかも、失敗するとその日のご飯は抜きである。母さん、超、厳しいです。
お陰で物凄く! 必死で! 練習出来たけどな!
そういう過程があって、今まさに狩り本番真っ最中。本日の獲物はウサギ。俺の狩れる最大の大きさの獲物だ。
ちなみに、チャイロ達は最近鹿に挑戦し始めたばかりだ。もっとも、まだチャイロ達だけでは鹿狩りに成功した事は無いらしいけど。ってか、流石に鹿は早すぎねーの?
っと、そんな事考えてる間にそろそろこっちに来るな。
ウサギが逃げて来る先の藪に身を隠したまま、タイミングを見計らう。逃げて来るっていうか、追い立てられて来てるんだけど。
耳をピーン! と獲物の方に向けて、音を聞き逃さないように。目もしっかりと見開き、周囲の様子を注視する。尻尾は勝手にウネウネするから放置。止められんのよ、これ。
ここまでお膳立てされて逃がす訳にはいかないからな……! 何より、飯抜きは嫌だ!!
ガサガサッ! とウサギがチャイロ達から逃げる音が近付いてくる。まだ離れてるのに、必死に逃げてるせいで息が荒くなってるのもはっきりと聞こえる。やっぱり猫の聴覚って半端無い。
……よし、チャイロ達が追い込む方向はばっちりだ。こっちは風下。匂いで俺が隠れているのが、ウサギにばれる心配は無い。
……来る……今っ!!
「ミギャゥッ!(食らえっ!)」
「ギィィッ!!」
タイミングは完璧! 俺が藪から飛び出したのを見て、ウサギが慌てて方向転換しようとするが、当然そんな事は許さず一気に喉元に食らい付く! そのままの勢いを乗せて、体全体をひねって傷口を広げる。
俺の体重で押さえ込もうとしても、死に物狂いのウサギなら簡単に跳ね除けられてしまうからな。下手に怪我するの嫌だし、一気に勝負をつけるしかない。
体をひねった時の勢いでウサギの喉元の傷が大きく開き、ブシュゥッ! と音を立てて勢い良く血が噴き出す。一気に血が出たせいか、それとも追い掛けられて疲れ切っていたのか、ウサギは走っていたままの勢いで転がりながら地面に倒れ込む。
チャイロ達ならここで、喉に食らいついたまま獲物が完全に死ぬのを待つんだけどな。俺の場合は急いで獲物から離れて動きを窺う。死に際の抵抗は怖いから。いくら猫又が頑丈って言っても限度があるだろうし。
倒れたウサギをじっと見つめるが、ウサギはその場でもがくだけだ。
だけど、弱った演技をしている可能性もあるからな。油断をせずに警戒を続ける。
同時に周囲の警戒も怠らない。視線はウサギに、聴覚は周囲に。狩りの成功した瞬間は無防備になりやすいって、母さんも言ってたからな。
そのままウサギを観察していると、段々と流れ出す血が少なくなってきた。
……よし、もう立ち上がる事は無さそうだな。
動きも殆ど反射のようにピクピクと痙攣するだけになっていたので、トドメを刺すためにもう1度喉に噛み付いて、体重を乗せて一気に首の骨をへし折る。
すると、最後にビクンッ! と大きく痙攣してからグッタリとその場に横たわるだけになった。脈を確認して、と……よし、死んでる。
「ミャォ――――ン!(初めての『かり』で、ウサギとったど――――!)」
「ウォ――ン!(よっしゃー!)」
「キャウンッ!(黒いの、やるじゃない!)」
「グルルゥッ!(やったな、黒いの!)」
「ウォンッ!(……黒いの、流石だ!)」
勝利の雄叫びを上げると、近くにいたチャイロ達が口々に快哉を上げながら、わらわらと近付いて来る。
あ、やべ。ちょっとまずったかも。
慌てて再び周囲の状況を探るが、他の獣が近付いて来る気配は無い。……大丈夫っぽいかな。良かった。
ちなみに、チャイロ達は俺がウサギが死ぬのを見守る間、打ち合わせ通りに周囲の警戒をしてもらっていた。警戒も狩りには大事だからな。獲物を狩って油断したところで自分が狩られるなんざ、ごめんだし。
俺もちゃんと警戒しているけど、チャイロ達もいてくれたらより安全だからな。
ちょっと今緩んだけど。ここは失敗。次に生かさないとな。
「ウォフッ(良く頑張ったね、黒いの)」
「ミ!?(母さん!?)」
え、ちょ!? 母さん、見てたのか!? いつから……はぁ!? 最初からって……全然気付かなかったぞ? しかも、何時の間に近付いて来た??
どうやら俺だけじゃなく、チャイロ達も気付いていなかったみたいで凄くビックリしている。
みんなの驚いた顔を見て、母さんは物凄いドヤ顔だった。母さんェ……。
いや、まぁ、母さんは凄いんだけどさ。それは十分知ってるから。今のドヤ顔で、色々台無しになってるから……!
「ガウゥ、グルルルル……(獲物が死ぬまでの間、ちゃんと自分でも周囲を警戒してるのは良かったねぇ。だけど、狩った直後の遠吠え……遠吠え? はあまり感心しないね)」
うぐっ! 自覚はあったけど、やっぱりそこはダメだったか。だけど、つい、ノリで叫んじゃったんだよぅ……。
あと、母さんは疑問符付けてたけど、さっきのあれは遠吠えです。異論は認めない。遠吠えったら遠吠えなんだからなっ!
本人が言ってるんだからな。間違いない。
「グォウッ(じゃぁ、黒いのは失格なのか!?)」
慌てた口調でハイシロが母さんに言い縋る。
それに対して少し考え込む様子を見せた母さんだが、1つ頷くと俺に向き直り、口を開いた。
「グルゥ、ウォフッ(まぁ、初めての狩りとしては上出来だろうね。合格だよ)」
「ウォ————ン!(よっしゃぁぁぁぁ!)」
「グゥ、クォフッ!(これで、今度からは黒いのも一緒に狩りが出来るわね!)」
「ワォ―――――ン!(やったぁ―――――!)」
「ウォウッ! グルルル(……黒いのは練習ずっとがん張っていたからな! 次からは俺達と一緒にだな)」
「ウニャッ! ウニャニャッ!(母さん、ありがとう! あぁ、これからはよろしくな!)」
ちょこっとダメ出しされたけど、何とか母さんのお眼鏡には適ったらしい。狩りの間ずっと母さんが見ていたらしいんだけど、どこから見てたんだろうな? 誰も気付かなかったんだけど。
まぁ、何はともあれ、これで俺も今度からは堂々と狩りに行けるって事だ! チャイロ達から遅れて2ヶ月弱、長かった!
人間の頃だったら、こんなに嬉々として狩りに行ったりなんかしないんだろうけどな。今の野生生活だと日常=生存競争だから、狩りが出来ない=死活問題なんだよ。
ずっと狩りが出来ないでチャイロ達に全部押し付けるのは嫌だし、俺に出来る所は自分でやりたいからなぁ。まぁ、いざとなったら肉焼き要員っていう役割があるんだけど、流石にひたすら肉を焼くしか仕事が無い毎日は嫌だ。
森での生活に娯楽なんて無いし。
「ワフッ(さ、早く巣に帰って、黒いの達が獲ったウサギを食べようか)」
母さんの言葉に、ハイシロとハイイロの尻尾が途端にバフバフと揺れ始める。俺の尻尾もピーン! と誇らしげだ。
ま、俺1匹じゃ狩れなかったから、全力で自慢は出来ないけど。
***
巣に戻った俺達は、早速みんなでウサギを食べる事になった。
今回、俺は殊勲賞という事で、内臓を食べる権利が与えられた。……正直、あんまり嬉しくない。内臓よりも、腿肉とか胸肉とかが良いなぁ。内臓は相変わらず、それ程好きじゃないんだよな。
ちなみに、特に内臓を好んで食べるのはハイイロとチャイロだ。そのため、殊勲賞として俺に与えられたのが内蔵を食べる権利と聞いて、2頭とも羨ましそうにしていた。
「グゥゥ……(黒いの、いいなぁ……)」
「グル(……黒いのが一番がん張ったからな)」
「キュンッ(チャイロ。そう言うなら、うらやましそうに見ない事ね)」
珍しくチャイロがハイクロから突っ込まれた。ハイクロに言われて自分が羨ましそうに見ていた事に気付いたのか、チャイロがちょっと恥ずかしそうにしている。……普段冷静なチャイロのこういう姿は珍しいな。ちょっと可愛いぜ……。
「ウォンッ(さぁ、早く食おうぜ)」
そう言いながら鼻をフスフス言わせるハイシロに促されて、改めてウサギと対面する。
デレンッ、と白目を剥いたその姿にはウサギ的な可愛らしさはかけらも無い。THE・死体! って感じだ。トドメ刺したの俺だけど。
血は完全に流れきったのか、傷口からはもう1滴も垂れて来ない。良く見ると傷口の血は固まり掛けていた。
チラッと母さんを見ると、『さぁ、食え』と言うかのように頷く。うっす、頂きまっす。
俺達だけで狩った獲物の腹に顔を近付け、牙を剥き出しにすると思いっきり噛み付く。顔を傾けながら頑張って腹を食い破る。正直、猫の俺には牙が小さくてやり辛い。
だから俺は誰かが食い千切ったところを楽々食べる方が好きなんだよなー。でも、母さんのお達しだからちゃんと内臓食わにゃ。
何とか内臓に達しました、って事でもぐもぐターイム。胃はいらね。腸もいらねっ。
肝臓~、肝~臓~はどーこっかにゃー? ……うぇっ、気色悪っ。いい年した男のやる事じゃなかった。あ、肝臓見っけ。
腹の中に顔を突っ込んで、グイッと肝臓を引きずり出す。それをくわえたまま少し下がると、次にハイシロがウサギに近付く。少し考えてから後ろ足に噛み付き、食い千切る。そしたら次はチャイロが……という感じで少しずつウサギの体をみんなで分ける。もちろん母さんも。
「クゥ?(……黒いの、内臓たったそれだけで良いのか?)」
「ミッ(かん臓が一番好き)」
というか、俺が好きなの肝臓くらいしか無いんだが。
食べられるって意味なら、肺とか心臓も行けるけど。
「グル?(……俺達に遠慮していないか?)」
「ニャ、ニャゥ(んや、してねぇよ。好きなとこ、どぞー)」
俺がそう言うと、チャイロは俺の顔をじっと見てくる。そのまま目を逸らさずにいると、チャイロは数回尻尾をパタパタと振ってからウサギの腹に鼻先を突っ込む。
ずるっ、とチャイロが引き出したのは腸の部分だった。うん、THE・モツ! って感じ。チャイロは結構腸の部分好きだよな。
ハイイロも腸を狙っていたのか、尻尾がションボリと下がった。……だけど、お前どこの部位も好きじゃん? 別に良くね??
次はハイクロか。ハイクロの狙いは残った後ろ足だな。ぶちっと食い千切って満足気にしている。尻尾振り振り、パタパタ。
そしてハイイロが残ったウサギを丸ごとくわえて嬉しそうに尻尾を振る。
ってこら、待て!?
「ガウッ!(お待ちっ!)」
「ギャゥンッ!?(いてぇっ!?)」
ほーら、母さんに怒られた。ハイイロは母さんに頭をぷちっと押し潰されている。頭に母さんの前足を乗せたまま、情けなく鳴き声を漏らしているが母さんの足が退く事は無い。
それもそのはず、ウサギをくわえたままなんだから。……ウサギを離せ。まずはそれからだ。
「グルルルル……(あたしの分をお忘れじゃないかね……)」
「ウグ(あ、あうえぇあ)」
……だから、ウサギを離せっての。
やっとその事に思い至ったのか、ハイイロが口からウサギを離すと母さんの足も離れる。
ってか、ハイイロの体格ってますます良くなっているんだけど、それをあっさり押し潰す母さんの前足の力よ。どんだけ凄いの?
キッチリ母さんにお説教されてからハイイロが残ってる内臓をくわえる。それだけでションボリしてたのがあっさりご機嫌に戻る。尻尾を振って何とも満足気だ。最初からそうしておけば良かったのに。アホめ。
ついでに母さんは残った本体の肉の一部も食い千切る。さらに残ったのは子供達で分け分け。
全員にウサギが行き渡った所でそれぞれ食べ始める。うん、肝臓です。超レアっつか『生』。刺身と言い切るには調味料が欲しい。醤油無いかな。せめて塩だけでも……。
物足りなさに、どうせなら焼くべ、焼くべー。って事で、ほんの少しだけ齧った肝臓をくわえて肉焼きスペースに移動する。するとみんなも自分の取り分をくわえて付いて来る。うん、やっぱりな。
「キューン!(黒いの、おれ達の肉も焼いてくれよ!)」
うーい、任せろっ!
少しお利口になったハイイロですが、根本にはポンコツです。特に食べ物を目の前にすると色々すっぽ抜けたり。
そんなこんなで、黒いの含めての初狩り成功。今後は狼・猫又連合で狩りに出るようになります。モフモフ。
ウサギは食べたものの、物足りなさにしょんぼりしているチャイロ達。
俺的にはそれ程少なすぎるって事は無いんだけどな。そもそも体の大きさが違う分、食べる量も違うし。満足って訳じゃ無いけど、我慢出来ない程じゃ無い。
とは言え、チャイロ達には少なすぎるかなー……って、お?
チャイロ達、特にハイイロのしょんぼりっぷりを見た母さんが、ヒッソリと洞穴の外へ出て行く。
俺は気付いたけど、他のみんなは気付いて無いっぽい。唯一気付いた俺に、母さんがチラリと目配せをする。
……これはひょっとするかね?
名残惜しげに残った骨をガリガリしているチャイロ達。ハイシロとハイイロはすでに噛み砕いて骨まで食べている。バキバキと骨を噛み砕く音が洞穴に響く。
ちなみに俺も骨を勧められたけど、流石にいらない。時々は齧るけど。でも、今日は気分じゃ無いかなー?
「ワフッ(ほら、それだけじゃ足りないだろう)」
そう言いながら戻って来た母さんの口には丸々太った丸鳥が。
それを見たチャイロ達の目が輝く。特にハイイロとハイシロの反応が顕著だ。よだれ出てんぞ、おい。
「「ウォ——ン!!(肉だ——!!)」」
「グルゥ?(……母さん、良いのか?)」
「ウォフッ(気にせずお食べ)」
「キュオン!(母さん、ありがとう!)」
全員尻尾をブンブン振り回しながら一斉に丸鳥に食らいつく。
俺はちょっと離れた所で毛繕い中。
「グゥ?(黒いのは良いのかい?)」
「ミッ(おれは良いや)」
「ウォフ(そうかい)」
そう言うと毛繕いをしている俺の体を舐め始める。
うぉぅっ!? よろけるっ!?
しかし、何となく舐め方に違和感が。何か、頭の毛を中央に集めようとしてないか??
満足行く出来になったのか、母さんの舌が頭から離れる。
半目になりながら、何気無い振りで頭に前足をやると、キュー◯ー人形のようにツンと尖った毛の感触が。
母さんェ……。
もちろん、グシャッと潰しました。文句言いたげに見てたけど、知るかっ!




