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猫又番外編 母さんの記憶

 本日2回目です。

 

 番外編第1弾は、母さんでお送りしております。番外編もよろしくお願いします。

 ……ふぅ、子育てとは中々に大変なものだねぇ。

 だけど、あたしが生んだ大事な子らだ。ちゃんと全員、育ててあげないとね。……あの時、あたしが守れなかったあの子達の分も、ね……。


 ホテホテッ、ホテッ


 ん? この足音は……。


「みゃっ!(かあさんっ!)」

「グルゥ?(どうしたね、黒いの?)」

「みゃぅ?(そとにいってもいい?)」


 やっぱりお前かね。

 あたしを『母さん』と呼ぶこの子は、名を『黒いの』と言う。


 実はこの子はあたしが生んだ子では無い。あたしは狼で、この子は子猫だから、もしあたしの生んだ子だったらびっくりだよ。

 ちなみに、この子は少し前にあたしが狩りの途中で拾った子だ。今ではちゃんとしたあたしの大事な子だけどね。

 真っ黒でとても可愛い子だよ。少し変なところもあるけどね。

 ただ、まだまだ体が小さいからねぇ……。

 

「……グゥ?(……1匹で、かね?)」

「ぴぁー(ちゃいろたちもいっしょ)」


 ふむ、チャイロ達もいるなら……まぁ、構わないだろうね。


「ウォフッ(遠くに行くんじゃないよ)」

「みっ!(わかった!)」


 ……うん、走り方はまだ覚束ないが、足腰もしっかりして来たね。拾った時に死に掛けてたのが嘘のようだよ。

 チャイロ達とも仲良くなれたようだし、安心したよ。


「ワフッ?(くろいの、どうだった?)」

「みぃ(いっしょならいいって)」

「キュンッ!(なら早く行きましょっ!)」

「うぉんっ!(おっさんぽー!)」

「グルゥ(……ハイイロ、少しおちつけ)」


 あたしが巣にしている洞穴の中から、子供達の声が聞こえてくる。全員一緒にいるようだね。

 黒いのは他の子達と比べてとても小さいけど、中身はしっかりしているからね。まぁ、そう心配しなくても大丈夫かね?

 それより、ハイイロの方がねぇ。あの子は体は大きいんだけど……まぁ、チャイロとハイクロがいるから何とかなると良いのだけど。何事も経験だから頑張って貰いたいね。


「わぅっ!(かあさん、いってくる!)」

「にゃ(いってきます)」

「わぉーん!(おさんぽ、おさんぽー!)」

「……フキュ(……ハイイロはちゃんとあたしが見てるから)」

「クゥ(……おれも手つだう)」


 ふふふ、行っておいで。気を付けるんだよ。


「「「きゃふっ!(はい!)」」」「クフ(……はい)」「んに(はーい)」


 全員出掛けたね。……子供達がいないと静かなものだよ。

 それにしても、黒いのが来てからチャイロもハイクロもしっかりして来たね。元々2匹ともしっかりした子達だったけど、あの時(・・・)以来なおさらだ。

 まだまだ子供でいて欲しい気持ちもあるけどね、黒いのの前だと張り切っているのが良く分かるよ。


 ……やっぱり、拾ったばかりの時の黒いのを見ているからかねぇ……。



 ***



「ウォフッ(それじゃぁ、みんな大人しくしておいでよ)」

「「「「きゃふっ(はーい)」」」」


 ふむ、今日の獲物は何にするかねぇ……。あの子達も肉を食べ始めたばかりだから、良い獲物が見つかると良いんだけど。

 やっぱり、肉で一番良いのは『特殊個体』だね。味も良いし、栄養もたくさんあるからね。だけど、なかなか見つからないし、そう獲れるものじゃないからねぇ。チビ達が肉を食べ始めた日に食べさせたっきりだね。


 さて、今日はどの辺に行ってみるか……。


 ? ん? ……何か聞こえたかね?

 ……いや、やはり何か聞こえるようだね。ふむ、行ってみるとしようか。


「……ぁぅ! ぴぁ――――!(……ぁさん、おかあさん! おいていかないで!)」


 ……これは、子猫の、声? こんな森の近くにかい?

 確かこの先には、人間の町に繋がる穴が開いていたと思ったけど、町はかなり離れていたはずだ。

 ただ、この泣き声を聞く限り……きっと親に捨てられたのだろうね。自分の子供を捨てるなんて、むごい事をするもんだよ……。


 仕方ない、行ってみようか。もしも手遅れなようなら、楽にしてあげた方がいいだろうしねぇ。


「……ぴぃ……ぁ……(……ぉか……さ……)」


 っ!! これは驚いたね……まだ、ほんの生まれたてじゃないかい。

 しかも、尾が2本あるという事は『猫又』だね。あの子が捨てられたのは、それが原因かい。全く、胸糞悪いものだよ。さて、どうしたものか。

 

 正直、殺してやった方があの子のためかもしれないね。

 猫又として生まれてしまった以上、猫の世界で生きるのは難しいだろう。実際、それが原因で母親から捨てられたようだし……。

 あたしとしても、『猫又』という『特殊固体』を食えば力が付くのは確実だ。このまま放っておけばその内衰弱死するか、他の獣に食われるか、だ。

 もはや、鳴く気力もないようだし……。


 ……ん? ひょっとしてあの子、あたしが潜んでいるのに気付いているのかね?

 これは……面白いね。直接、話せるものなら話してみるかねぇ。


 わざとガサガサと音を立てながら、潜んでいた藪の中から出てみる。

 あの子猫は明らかに今の音に気付いているはずなんだけど……全く身動きしないね。まさかとは思うが、すでに諦めてしまっているのかもしれない。


 ……どうにも、腹が立つね。全く。

 あの子自身にも、あの子に諦める事を強制した母親にも……!


 そのまま少しだけ近付き、子猫の視界に入るように立つ。

 だけど、相変わらず子猫は無反応のままだ。グッタリと地面に横倒しになったまま、ぴくりとも動こうとしない。体力が尽きているのか、気力が尽きたのか、あるいは両方か。


 フゥ、と一つ溜め息を吐くと、どうやら子猫も同じタイミングで溜め息を吐いていたらしい。……何か、腹が立つね。溜め息を吐きたいのはこっちの方だよ!


 ジャリジャリ、と地面を踏みしめながらさらに近付く。

 ……やっぱり子猫はぴくりとも動かない。さて、どうしたものかね。

 そのまま近付き続けて、とうとう子猫の目の前まで来た。


 ……はぁ、何て目だい。完全に生きる事を諦めた目だ。

 あたしの事は視界に入っているはずなのに、全く見えていないようだ。本当に腹が立つよ……!


 怒りで思わず漏れた殺気に反応してか、子猫が微かに身動ぎする。

 虚ろだった目が、ほんの少しだけ力を取り戻す。


「……っ!?」


 ようやくあたしに気付いたようだね。……全く、あたしじゃなければとっくに食べられていただろうよ。って、何だい、その目は。

 何を、期待している? 生の可能性か? それとも死か?

 

 小さな体はフルフルと震えているが、生きようとする気力が全く感じられない。むしろ、死を受け入れているようだ。

 子猫が顔を上げた瞬間に、完全に目が、合う。


 ……そうか。お前は、死を、望んでいるんだね。

 あたしの子らは、生きたがっていたが生きられなかったのに……!

 良いだろう。お前が死を望むなら、今すぐ殺してやろう。その体はあたしが食ってやるよ。せめて、生き残った子らの糧にしてやろう!


 ガッ! と大きく口を開け、子猫1噛みで殺してやろうと……


「……ぴぁぁ(……しにたく、ない……よ)」


 もう少しで子猫の体に食い込みそうだった牙が止まる。


 今、この子は、何て言った? 『死にたくない』そう、言ったかね?

 もう一度聞き直したかったけれど、子猫はクッタリと意識を失ってしまっている。


 ……今のはあたしの聞き違いか、それともこの子の本心か。

 そうだね。一度、この子を巣に連れて帰ろう。もしも、死なずに意識が戻ったなら。

 それでも、その時にまだ死を望むのなら……そうしたら今度こそ殺してやろう。だが、生を望むのならば、あたしがお前を育ててやろう。

 どちらを選ぶかはこの子次第だけど、試してみるのも、悪くない。

 生きられなかったあの子達の代わりにする気は無いけれど、あの子達の分も生きてくれたらと思わざるを得ない。


 ……まぁ、それは後の話だね。まずは巣に連れて帰ろう。


 しかし、くわえて運ぶとそれだけで死んでしまいそうだね。体もかなり冷えているようだし。

 ……ふむ、うっかり口に力を入れないように気を付けないといけないが、やっぱりこうするのが1番かねぇ?


 パクッ


「ウルゥ……(うっかり噛まないようにしないとだね……)」


 獲物は何も獲れていないが、仕方ない。今日はチビ達にはあたしのおっぱいだけで我慢して貰うしかないねぇ。

 さて、巣まで急ぐとしよう。


 ガサガサッ、ザザッ!


「ウフッ(帰ったよ)」

「「「きゃんっ!(おかえりなさい!)」」」」「きゃん!(……おかえりなさい!)」

「ウフゥ(ただいま)」


 ペッ


「ふきゅ?(かあさん、これえもの?)」

「グルゥ(拾ったんだよ)」

「くぅん?(ひろった、の?)」

「きゅ?(おちてたのー?)」

「ウォフッ、グルルゥ(親に捨てられた子だよ。お前達の弟になるかもしれないね)」

「くぅ!(……おとうと!)」


 ふむ、チビ達の反応は悪くないね。もしも育てる事になっても大丈夫そうかね?


「きゅぅん……(かあさん、おなかすいた……)」


 おや、それはすまないことをしたね。だけど、今日は肉は無いんだよ。悪いけどね。

 代わりに今日はおっぱいだ。好きなだけお飲み。


「きゅぉーん!(おっぱいー!)」


 チビ達が一斉におっぱいに群がる。押し合い()し合い、大騒ぎだ。

 全員が無事におっぱいに食いつき、飲み始めて大人しくなったのを見計らってから拾った子猫を抱え込む。飲むかどうかは賭けだけど、生きたいと聞こえたあの言葉が嘘じゃなければ……飲んでくれると思うんだけど。

 ……やっぱり、食いつく気配は無さそうかねぇ。残念だけど……ん?


 ……ちゅくっ、ちぅ……ちぅ……


 ……弱々しいが、確かに飲んでいるみたいだね。これなら、生きられるかもしれないよ。

 

 小さな子猫。もしも、お前が生きたいと願うのなら。どうか、このまま生きておくれ。

 お前の母親がお前を愛さなかった分、あたしがお前を愛そう。だから、どうか……



 ***



「……ゃん、きゃんっ!(……ぁさん、かあさんってば!)」


 っ!?


「み(やっとおきた)」

「グルゥ?(おや? すっかり寝ていたみたいだね?)」

「クゥン(ぐっすりだったわよ)」

「キュ?(……かあさん、つかれてる? だいじょうぶ?)」

「ふきゅ、くぁぁ……(ねるの、ねむいー)」


 おやおや、どうやらハイイロは遊び疲れておねむのようだね。ハイイロにつられたか、ハイシロも大あくびだ。良く見れば他の子達の目もトロンとしている。

 ほらほら、みんなこっちにおいで。

 眠いのなら眠っておしまい。そして、起きたらまた遊べば良いよ。


 愛しい子達。どうか、このまま育っておくれ。

 黒いのも、拾ったばかりの時はどうなるかと思ったけど、ちゃんと元気に育ってくれて何よりだ。お前がいるおかげで、みんなも前よりずっと楽しそうだしね。

 あの時お前を拾って、本当に良かったよ。


 さぁ、みんなお休み。良い夢を……。

 ちなみにこの話は、第9話辺りの時間軸を想定しておりますので、黒いの達の言葉遣いが読みにくくなっておりますがご了承下さい。


 黒いのと母さんの初邂逅時の母さん視点でお送りさせて頂きました。

 今後も番外編で、本編の別視点からお送りしようと思います。最後までお読み頂きありがとうございました。

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