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脱線と脱力の記憶

 お説教は母さんとハイクロに任せて、引きずられて行ったチャイロ達の元へ。

 テフテフ、テフテフ


 猫ってさぁ、普通は足音させないで歩けるんじゃなかったっけか? 何で俺の足音テフテフ言うんだよ。まさか、これも猫又の能力か……っ、てこんなんイラネ。

 もっとマシな能力持って来い。っつうか、他にも能力あるのかね?


 例えば、そうだなぁ……空飛んだりとか、いわゆる魔法的な事が出来たりとか、体を一気に成長させたりとか!


 心躍る自分の持つ隠された能力考察に気を取られて、洞穴の外へ歩み続けていた足が止まる。そしてそのまま自分の思考の中に入り込み始めた。


「ウォゥッ、ガゥッ(一体、何かんがえてんだよチャイロ。黒いのはたおれたばっかりなんだぞ!)」

「グゥゥ、キュン……(……ごめん。けど安心したらつい、体が勝手に動いて……)」

「グルゥ(ちゃんとあやまれよ)」

「クォン(……やくそくする)」


 あぁ、人間になれたりとかも良いなぁ。猫の手だとさ、細かい作業なんて出来やしないし。ちゃんとしたカゴとか作りたい。これからの季節は果物とかも採れそうだし。

 あー、それにしても、人間になれるんなら酒飲みに行きたいなぁ。ちゃんと調理された物も食べたいよなぁ、ラーメンとか。いや、甘い物でも良いな。ケーキとか、ケーキとかケーキとか。

 けど、別に生肉が嫌って訳じゃ無いんだよな。慣れたら普通にイケるし。むしろ美味しいし。それでも、人間的な物も食べてみたい。だって、此処って多分異世界だしさ、それなら異世界限定グルメとかあるんじゃね? 


 あぁ、けどお金はどうしようか。今の俺、無一文だし……森の中で狩りとかして、手に入れた獲物を町で売るとか?

 でも、俺の知ってる町ってあそこ(俺の生まれた町)だけだし、そうするとあのクソ雌猫がいるんだよな。あのクソには会いたくないしな……。


 ……何か、思い出しただけで腹立ってきた。


 チラッと思い出すだけでムカムカと込み上げて来る怒りに、俺の尻尾が自然とペッシタン……ペッシタン……と等間隔で地面へと打ち付けられる。


「……キュォン(……あー、黒いの?)」


 ペッシタシン……ッ


「ンミュ?(ん? ハイシロ、どうした?)」

「キュ、キュワフ(いや、何をおこってるんだ? って思って)」

「ニン(や、べつにおこってないけど?)」

「クゥ(……本当か?)」


 お? 何だ、何でこんな不安気なんだ?


「ワフッ、グルゥ(チャイロのこと、おこってるんじゃないのか?)」

「ンミ? ……ミァ(チャイロを? なんで……って、あぁ、さっきのアレか)」

「グゥ(アレだ)」

「キュゥン(……ごめん)」


 あー、いや、そんな謝られてもな。確かにさっきは重かったし苦しかったけど、ハイシロが代わりに怒ってくれてたっぽいし。

 チャイロの奇行も、結局は俺の事を心配してくれたからだし。それなのに怒る程俺は心が狭くない、と自分では思うけど。

 ……それ言っても多分気にするんだよな、チャイロは。真面目だしなぁ。ん〜……あ。


「ミ、ンミッミャウ(いや、(ほん)とうにおこってないんだ。あのときはくるしかったけど、かあさんたちがハイイロおこってるの見ちゃったら、いろいろ気がぬけた。)」

「キュ?(そんなにか?)」

「ニゥ?(見てくる?)」

「ワフン(やめとく)」「フキュ(……おれも)」


 ん、何とか上手く気を逸らせたかな。まぁ、チャイロの事を怒ってないのは本当だ。ハイシロに引きずられていくのを止めなかったのは事実だけどさ、その位の意趣返しなら問題ないだろう?


 あと、ハイイロに対しては色々と俺も言いたい事があったんだけどさ。母さんとハイクロが先に怒っちゃったからさ。アレ見ちゃうとね。あー、それでもハイイロには何か一言言うかもしれない。ハイイロのやらかした事はそれだけヤバかったんだし。


 ……て、いうか、ハイイロの次は俺だし……。


 ガタガタガタガタ


「「キャウン!?(黒いの!?)」」


 あ。


「ミァウ、ミ(あ、えーと、このあとおれもかあさんから、おせっきょうがあって)」


 考えるだけで体がガクガク震えます。


 俺は今、心の底から恐ろしいです。はい。


「キュン?(何したんだ?)」

「ンミィィ(よけいなことをかんがえました)」

「ンキュ(マジか。がんばれ)」

「クゥン?(……おれもついて行くか?)」


 そういう訳にはいかないだろ。


「ミュ、ミィア(いや、おれ1ひきでいく。ありがとう)」


 本音は付いて来て貰いたいんだけど。それやったら母さん余計に怒るだろうし、下手したらチャイロ達にも飛び火するかもしれない。あるいは、余計に俺が怒られる。……流石に嫌だからな。どっちも。


 サクサクサク


「キャフッ(黒いの、母さんが呼んでるわよ)」


 俺、終了のお知らせ。



 ***



 テフテフテフ、と相変わらずの足音を響かせて洞穴の中を歩く。

 行きたくない、行かねばお説教がさらに増える、だが行きたくない、と思考のループ。


 あぁぁぁぁ……行きたくねぇぇぇぇ……っ!

 行かなきゃダメだって分かってるんだけど行きたくねぇ。完全に誤魔化しようがないもんな、あの態度は。母さんに対してめっちゃビビってます、って態度だったし。


 ゔぁぁぁぁぁぁ……、誰か助けて。


 そうは思うものの此処は人里離れた森の中。助けてくれる人なんて居る訳ないし、むしろ逆に攻撃されそうだ。だって俺、猫又だし。猫又が攻撃対象かは知らないけどさ。そう考えると此処が森の中で良かったと思うべきか。いや、だけど俺を助けてくれる人がいない訳で……っ。


「ウォフッ(さっさとおいで)」

「……ミィ(……はい)」


 耳も尻尾もへなっとさせながら、母さんの前に立つ。

 見上げると無表情な母さんの顔。いつものニヤニヤはどこ行った。迷子か、帰って来い!


 やべぇ、また頭ぱっくりされんのか俺。


 そう思うとまた体が自然と震え出す。

 そんな俺を見て、1つ溜め息を吐くと母さんが口を開いた。


「グルゥ……(やれやれ、何をそう怯えているのかねぇ……)」


 母さんです、とは死んでも言えない。正確には『ぱっくり』だけど。


「ンミ(は、はなしって?)」


 視界の端に、ベッドの上でピシッ! とお座りしたまま動かないハイイロが怖い。

 だってピシッ! とお座りしてるのに口は半開きだし、目は虚ろだし、しかも開いた口から何か出てる。出てるって言ってもよだれ的何かじゃなくて、タマシイ的な……いわゆるエクトプラズムとか言うアレだ。


 あ、首が傾いた。


「ウォゥ(あっちは気にするんじゃないよ)」


 無理です。気になります。


「グゥ(それで本題だけど)」


 オレ、オワッタ。


「グルルゥ?(体の調子は大丈夫かい?)」


 ……お?

 え、お? お説教じゃないのん??


「……グルル(……やっぱりどこかおかしいところがあるのかい)」

「ンミッ、ミャウ(いや、大じょうぶ。ちょっとだるいけど、それだけ)」

「グルゥ?(嘘は言ってないね?)」

「ニャ(ない)」


 俺の顔をじっと、覗き込んで動かない。もちろん俺は嘘なんか吐いていない。この件に関しては堂々としていられるから、目を逸らす事なく母さんの目を見つめ続けた。

 ……けど体高差がそれなりに辛いです。もうちょっと頭下げて。


 しばらく俺の目を覗き込んでいた母さんの目がスッと閉じられた。次の瞬間頭を上げると、再び大きな溜め息を吐いた。


「グルルゥ……ワフッ(どうやら嘘は言って無いようだね。……本当に、安心したよ)」

「ミ、ミァ(あ、えーと、心配させ)「ウォフッ(礼の方が嬉しいね)」ミゥ(心配してくれてありがとう)」

「グゥ(良く出来たね)」


 そのまま顔や体を舐められる。


 ちょ、その舐め方だと背中逆立つんじゃ……っ!? って、母さん絶対分かっててやってんだろ! うぉぉぉぉぉ、やめろぉぉぉぉぉ……っ!?


 ……頭から尻尾まで、キレイにモヒカン状態の子猫が出来上がったようです。凄くカピカピする。


「ンミィ(かあさん)」


 ニヤニヤ、ニヤニヤ


 ニヤニヤ復活かいっ!? くっそ、勝てねぇ。でもいつか絶対に母さんを……


「ウォフッ(黒いの)」


 あっ、はい。


「ウォゥ、ウゥ(お前の能力はまだ未知数だ。それは分かるね?)」

「ミ(もちろん)」


 さっきの回復魔法? だって、何をどうやって出したか分からないし、またおなじ事が出来るかも不明だ。

 他にも能力があるのかも分からないしな。


「グルルゥ、ウォフッ(これからはお前の『力』も調べて行かなきゃいけない。あたしがいない所で勝手に使おうとするのは無しだよ?)」

「ミャン(わかった)」


 母さんが危惧するのも当然だ。俺にどんな力があるのか、本猫にも分からないんだからな。

 使ってうっかり自分が怪我した、ならまだ良いんだけどさ。万が一にもチャイロ達を傷付けるような事になったら、俺は自分を許せない。

 ……絶対にそんな事は起こらないようにしないとな。


「グルゥ、ウォフッ(お前の『力』だ。恐れるでないよ。ただし、溺れる事は許さない。)」

「ミィ(わかってる)」

「ガゥッ(万が一、溺れたらあたしが噛み殺すからね)」


 ガチの母さん、怖い。

 ……人間時代に映画とかで見たもんな。突然超常的力に目覚めて、その力に溺れてやりたい放題っての。異世界転生・転移物でも良くあるパターンだ。

 大体、後でしっぺ返しが来るんだけどね。正義の味方に倒されたり、自分の大事な人が傷付いたり死んだりして。


 けど、たまに「それが良い。素敵、抱いて!」って女の人がなるの何だろうな、あれ。良くある何だっけ。……チョロインって言うの?

 んで、その内主人公の周りが女の人だらけとか。

 ああいうの凄い不思議。思考回路どうなってんの。それともあれかね? 立て篭もり犯と強制同居生活になって、何故かそいつと意気投合しちゃう的な感じ?  ストックホルム症候群的な、いや、ちょっと違うかな?

 どうなんだろう、謎は尽きない。


 女の人だとそれって普通なのかね。それが良いと思えないのは俺が男だから?


 つーか、ハーレムとか無理。俺、大事な人は1人で十分だから。だって大奥的なのとか見ると、女の争い怖い。それに憧れるのって何なの? 単に俺がヘタレなだけ??

 あぁ、でも、今の俺の場合だと相手は猫又? あるいは猫?

 ……それならハーレムも良いかもしれない。自分の周りがモッフモフだぞ。何それ萌える。モフモフモフモフ……


 ベシッ


「ギニャッ!(痛っ!!)」

「ウォフッ(途中から変な方に思考が飛んでいなかったかい?)」


 何故、分かった。


 まぁ、母さんだしな。ここは素直に謝らないと。


「ンナゥ(ごめんなさい)」

「フンッ、グォウ(ちゃんと考えて行動しないと、痛い目に合うのは自分だからね)」


 チラッ


 あぁ、ハイイロな。

 怪我して痛い目、治ってもお説教で痛い目。2倍サービスで何てお得! とはとてもじゃないけど言えない。うん、本気で気を付けよう。

 ハーレム考察とかしてる場合じゃない。


 ハァ……


「グルルゥ……(お前は頭は凄く良いんだけど、ちょくちょく思考が飛んでるように見えるからね)」


 流石母さん、良く見ていらっしゃる。


「ミ、ミゥ(き、気を付けます)」

「ウフッ(本当にね)」

「ミ(はい)」


 グゥの音も出ません。いや、実際に物理的に無理だし。「ゥー」なら出るんだけどね、ってまた思考飛びかけてる。いかん、また怒られる。


 チラッ


 おぅ、呆れた視線が心に痛いです。すみません、真面目にやります。


「ゥミャウ(のう(りょく)ってのはどうやったらつかえるんだ?)」

「グルゥ(さっきはどうやったんだい)」

「ンミ、ミュ……(わからない。ハイイロがしぬかもしれないって、おもって。それなのに、からだをなめるか、こえをかけるしかできないじぶんがくやしくって……)」

「ウォゥ(無我夢中だったんだね)」

「ミ(たぶん)」


 フゥ……


 と溜め息1つ。そのまま目を閉じて何やら考え始める母さん。

 良くあるパターンだと、強く思う事が発動の鍵になったりする事が多いんだけどな。……状況考えると、俺も同じパターンかもしれないな。

 とは言っても、怪我を治す能力ならそう簡単に使える状況は嫌だな。他に何か分かりやすいものとか無いんだろうか。


 ぐるるるるるるぅ……


 ……今の音、何?


 クリッと音の方向を振り向く。気付けば母さんも閉じていた目を開けて、同じ方向を向いていた。


 ……えーと、視線の先にいるのってさ、ハイイロなんだよね。んで、さっきまでのお座り状態からいつの間にか、横倒しになってる。しかも意識無くなってるっぽい。ひょっとして寝てる? 何か、プスーって鼻息らしき音が。


 それにしてもいつ倒れたんだ、あれ。全然気付かなかったぞ。

 ちゃんと視界には入れてたのに。


 ぐぎゅるるるるるるぅ……


「クゥン……(ハイイロ……)」


 あぁ、やっぱり今の音って、もしかしなくてもハイイロの腹の音か。安定のハイイロ。本当にもう大丈夫なんだ、って安心したわ。明らかに安心の仕方が変だけど。


 ぽふん


「ミ(まぁ、げんきだせよ)」

「ガゥッ(うるさいよっ)」

 何とかお説教を回避出来た黒いのでした。

 本当は母さんはちゃんとお説教する予定だったんですけどね。まぁ、自分の行動も自覚してるっぽいから今回は不問にするか、といったところです。ただし2度目はない。


 それよりも、猫主の能力についてのお話を優先させました。

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