表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/101

最終話:別れと再会の約束の記憶

 本編最終話です。

「キシャァァァァァァァァッ!!(てめぇ、何て事してくれやがってんだっごlるywじゃらwwrま;!!)」

「ギャインッ!?(ごめんなさいっ!?)」

「キャフ(黒いのが何言ってるのか分かんない)」

「ガウ(右に同じく)」

「ワフー(はげどー)」

「グル?(……禿げ上がる程の勢いで同意、だったか?)」


 きしゃぁぁぁぁぁぁ!!

 ……あ。チャイロはそれ、かなり違うから。『激しく同意』の略な。禿げ上がる程の勢いって……何それ怖い。

 でもおかげでちょっと冷静になった気がする。


「ウォフッ(とりあえず黒いの、少しは落ち着きなさい)」


 フシュルルルル……!

 オチツク? ナニソレオイシイノ?? オレサマ、オマエ、マルカジリ!!


「グルルゥ?(これ、しばらくは無理そうじゃねーか?)」

「キャウッ!(黒いの、ステイ!)」


 ピタッ


「「ワウ((……)おや?)」」

「グゥ(流石ハイクロ、見事に止まったな)」

「……わふん(……くろいの、ごー)」

「シャギャァァァァァァァァァ!!(くぁwせdrftgyふじこlp!!)」

「キャウゥン!?(うわぁぁぁぁぁぁっ!?)」


 オンドゥルラギッタンディスカァァァァァ!!

 

「グルゥ……(ちょっ、待っ……なっ、ハイイロ、お前……)」

「キュン(てへぺろ☆)」



 ***



「……ウォフッ?(……少しは落ち着いたかね?)」

「……ヴゥゥ(……少しは)」

「キュウ?(ハンキバ、大丈夫?)」

「……ひゃぅん(……いちおうは)」


 突然お見苦しいところをお見せして申し訳ありません。

 ですが、俺にはまだやる事があるので、もう少々お待ち頂いてもよろしいでしょうか? 何を置いてもまずは、この『ハンキバ』と名乗る野獣を、微塵に砕いてから灰になるまで焼いて、なおかつその灰すらも無くなるまで徹底的に焼き尽くさなければいけないので。そう、この世に存在すら許されないレベルで。


「ヴルルルル……!(てめぇ、覚悟は出来てるんだろうなぁ……!)」


 この駄狼……よりにもよってハイクロに 手 を 出 し () い や が っ た ……! そう、『出し()』……すなわち、過去形である。


 何故、それが判明したのかと言うと、それはハイイロのとある質問からだった。

 俺達の巣立ち後の引越し先のリフォームを終えて、巣に戻ってきてから2週間ほど後の事。ふいにハイイロが首を傾げながらハイクロに問うた。「ハイイロ、太った?」と……。それは、女性に対しての質問の中でもダントツにトップクラスな禁断の質問である。

 俺もハイクロが少しばかりフンワリした体型になってきていたのは気付いていたのだが、あえて気付かないフリをしていたのだ。だって、それを指摘した場合、碌でもない事になる未来しか予想出来なかったからだ。これは実体験に(もと)づいている。


 かつて、俺の前世での出来事だが……とある上司が女性社員にやってしまったのだ、禁断のその質問を……。その瞬間、部屋の空気が一瞬で張り詰めた。上司自身も「あっ、やべ……」みたいな顔をしたが、もう後の祭りである。

 男性社員は全員が即座に息と気配を殺し、女性社員は静かに動きを止めた。この時点でもう怖い。

 その後、その上司がどうなったかだが……ココはその上司の尊厳の為にも口を噤ませて頂こう。とりあえず、その後の上司の口癖が「女性怖い」となった事だけは言っておこう。……なんで、上司の奥さんにまで情報が流れてるんですかねぇ? あれはガチで怖かった……。


 いや、今はそんな事よりもハイクロの事ですよ。恐怖のあまり、うっかり現実逃避に走りそうになってしまった。

 ……が、ハイイロの失礼極まりない問い掛けにも、ハイクロはフンッと鼻を鳴らすだけで目立った反応は示さない……。あるぇー? これは想定外だった。

 モヤっとしたものを感じながらハイシロとチャイロに目をやるが、2頭とも不思議そうに首を傾げるのみ。ハイイロも同時に首を傾げているが、そもそもハイイロは自分の発言の危うさを理解していないので除外する。

 ならば母さんは、と思って目をやると……無言で目を逸らされた。


 この時点で何となく嫌な予感がしていたんだ、俺は。


 続いてグレゴへと視線をやってみたが、すぐにこいつは何も知らないな、と察した。良い意味でも、悪い意味でもグレゴはハイクロにあまり興味が無い。母さん(惚れた女)の娘という認識くらいだ。

 ならばハンキバは? と思ってそちらを見たら……真冬にもかかわらず、足の下がグッショリと濡れる程に汗をかいていた。

 どう考えても怪しすぎる。顔を見合わせた俺達の取った行動は一つしか無かった。


 すなわち、OHANASHIである。

 最初は穏便に『お話し』からだが、場合によっては物理的手段も(いと)わない。むしろ、進んで手を染めてやろうではないか。血の赤にな……!!


 そして判明した事実が『ハイクロの妊娠』である。手を出すだけじゃ飽き足らず、妊娠までさせやがっただと!?

 ハンキバには全力で物申したい。つか、申した。主に物理で。

 流石にハイクロに止められたから、噛み千切るのだけは勘弁してやったが……ハンキバの大事なあちら(・・・)への全力の猫パンチくらいは可愛いものだよね(威圧)? 返答はイエスorハイのみ受け付けます。


 地球では本来、狼は冬が交尾期となるのだが、母さんがチャイロ達を産んだのは冬。そのせいで、異世界ではそれは当てはまらないものだと思い込んでいた俺が迂闊(うかつ)だったのだ。

 ……というか、ハンキバがハイクロに手を出したのは、先日チャラオを群れに送って行った時の事である。アオグロ達への牽制も兼ねて、行きの道中で既に手を出しやがったのだ、こいつは。

 ちなみに、その間チャラオは何をしていたかと言うと、グレゴから解放された安堵感から全力で睡眠を貪っていた。もっと自分の息子を躾けとけ! ……と言いたかったが、それが出来ないからああ(・・)なったんだったな。なら、もっとハイクロの事をきちんと見ておけ! ……と言いたかったが、あそこまでチャラオが疲労困憊になったのは、そもそもグレゴのせいだったんだよな。母さんの番(・・・・・)となったグレゴの。そう考えると……チャラオの事は微妙に責め辛いな。俺もグレゴの被害者だし。被害者、皆仲間。ただしハンキバは除く。きしゃぁぁぁぁぁ!!


「ワーフゥー(だから、落ち着けっつーの)」

「グルルゥ?(……母さんは知っていたんだな?)」

「ワフゥ(そりゃねぇ、あたしにまで黙っていられたら流石に怒るよ)」

「ニ゛ャ(もぎたい)」

「わうぅ(いたい)」


 意外にもチャイロ達はそれなりに冷静を保っていた。もちろん、ハンキバの事はきっちりボコってたけど。俺が怒り狂っているせいで、逆に冷静になれたそうですよ。俺、役に立ってる……!

 あ、ハイイロが頭押さえて(うめ)いているのは、さっき俺をノリで()しかけたせい。俺としてはスッキリしたので、ハイイロぐっじょぶ!! と言いたいが。

 

「グルルゥ、ウォフッ(まぁ、思いがけずこうなってしまったんでね。悪いけど、巣立ちを早めて欲しいんだよ)」

「フゥ(ま、そうなるわな)」


 ……家族ならば問題無いと思うだろうが、ハイクロにとっては初めての妊娠だ。色々と大変らしい。

 今は何でも無い素振りをしているが、突然湧き上がる攻撃衝動を抑えるのに必死との事。実はハイイロの先日の発言の時も「本気でぶっ◯したろか」と思っていたらしい。怖い。いや、全力でハイイロの自業自得なんだけど。

 下手をするとハンキバにも当たってしまいそうだとか……良いぞ、もっとやれ。

 しかし、ハイクロのストレスの原因に、グレゴの存在もあるのではなかろうか……という気がしなくもないのだが、ここはあえて口を噤ませて頂きます。下手に藪を突きたくはないのよ。


 ……まぁ、そんな訳で……明日、俺達は巣立ちをする事になりました。

 計画通りに進まないのは何故だろうねぇ……? まぁ、ハイクロの為なら我慢するけど。……今夜、ハンキバが寝てる隙に、ハンキバのあちらに思いっきり爪立てちゃダメかにゃぁ? 良いよね? ね??



 ***



「ニャグルルル……(我が悲願、成就しなかりにけり……)」

「グル(やっぱり何か企んでたか)」


 くっそ! くっそハイシロめ!! よくもチャイロを上手く巻き込みやがったな!? おかげで昨夜はチャイロのがっちりホールドで抜け出せんかったわ! つーか、ヌクヌクモフモフが心地良くてまるっと朝まで爆睡してたわ、どうしてくれる!! ただでさえ、冬の寒さ厳しい夜は破壊力抜群でしたよ……ちくそう……!


 ベチッ! と前足で地面を叩く。……音しねぇわ。今日も肉球クッションは完璧ですね、ちくそう。

 上手く使われたチャイロが気持ちションモリしているけど、チャイロの事は不快に思ったりはしてないから。むしろ、ヌクヌクモフモフ最高でした! そう言えば途端にパタパタ動き出す尻尾。和むわぁ……。


 今、俺達は2年間暮らしていた巣穴の前に勢揃いしている状態だ。此処に残るのは、母さんとグレゴ、ハイクロとハンキバの計4頭。春には増えるのが確定している。

 それも考えると、今の内に俺達が巣立った方が良いのかもしれないな。うん。

 それは理解している。理解は出来るんだけど……納得いかねぇ……!


「キュン(黒いの)」

「ミ?(ハイクロ?)」

「クルルゥ? キャウ(いつまでも文句言わないで欲しいな? 黒いのの弟と妹になるんだから)」


 ……弟と妹。俺の。


「ワフ(性格には甥、姪だけどな)」

「キャウ(ハイシロ)」

「グゥ(サーセン)」


 甥っ子と姪っ子。俺の……?


 前世では両親に恵まれなかった。父親は俺を見なかったし、母親の事も録に覚えていない。唯一『家族』だったのは祖父母だけ。でも、それも俺が成人する前に死んでしまった。その後は大家さんが家族みたいなものだったけど、それでもやはりどこか遠慮があった。

 この世界で産まれ落ちてからは、産まれてすぐに本当の母親には捨てられた。「気持ち悪い」と「化け物」と罵られて捨てられた。

 そんな俺を拾ってくれたのは母さんだった。そしてすぐにチャイロ達が俺の兄姉になってくれた。何やかんやあってハンキバが群れに加わり、母さんにぶっ飛ばされまくっても諦めなかったグレゴが母さんの番に納まった。


 今日、俺達は母さん達の過ごした『家』から出て行くけど、それでも家族じゃ無くなる訳じゃない。いや、当たり前なんだけどさ……。

 甥っ子か、姪っ子……。俺の『家族』が増える、のか。前世では減るしか無かった家族が、異世界では増える。

 ……正直に言うと嬉しい。が、以前のハンキバの事を考えると物凄く複雑な心境だ。これも本心である。


「ワフー(黒いの、シッポがすごいグネグネしてるー)」

「ミャッ!(うっせ!)」


 しゃーねーじゃん! 勝手に動くんだから!!


「ワフン(照れてるんだよ)」

「グル(……だな)」


 うっせ! うっせ!! いちいち口に出さんでよろしい!!

 ……ぅあ――――! もう!!


「ニャ!(ハンキバ!)」

「ガウ!?(うぇ!? はい!?)」

「フシャーッ!(ハイクロ泣かしたら殺す!)」

「ワフ!(そんな事はしない!)」

「……フシャァァァァ!(俺の甥っ子と姪っ子きちんと育てなかったら殺す!)」

「ガ、ガウッ!!(あ、当たり前だ!!)」


 ……はい、言質頂きました。これでもし、かつてのお前のような駄狼になったらガチでタマ取りに行きます。(タマ)○玉(タマ)両方ともガッチリもぎ取ってやる……!! 狼としても、男としても死ぬが良い!!

 ……ふぅ。まぁね、いつかは覚悟していた事だしね! 思っていた以上に早かったというだけだからね!!


「きゅん……(その、すまん……)」

「フシャッ!(まったくだ!)」


 ふんす! と鼻息荒くハンキバを睨み付ける俺だが、当のハンキバは何だか嬉しそうである。くっそ、気に食わねぇ……! が、ハイクロも嬉しそうなので我慢してやろう。


「グル……(母さん、それじゃぁ……)」

「ウフッ(いつでも遊びにおいで)」

「ワウッ!(母さん達もね!)」

「グルルゥ(……黒いの、行くぞ)」

「ミィ……(分かってる……)」


 プランとチャイロに大人しくくわえられ……て、ちょっと待って。何かおかしくね?

 普通に背中に乗せてくれて良いんじゃよ?? 何故、宙吊りスタイルですか!?


「ワフ(念の為だな)」


 何が念の為なんでしょうかねぇ……!? 俺、そんなに信用無い!?


「ワウー(行くぞー)」

「ニャァァァッ!(答えろやぁぁぁ!)」



 ***



「ニャフン(結局、ずっとブラブラしっ放しだったでござる)」


 首筋の皮、伸びてないよね?

 確認しようとしたくても、流石に首の後ろは見られないのですよ。とりあえず、前足で触った感じでは違和感は無さそうなんだけどさ……。


「ワフン(だいじょぶ)」

「グゥ(……心配するな、伸びてない)

「ニャ(チャイロが言うなら、良いや)」

「ワゥー?(おれはー?)」

「ウォフッ(とりあえず、今日はもう寝るか)」

「ワゥー?(ねぇ、おれも言ったよー?)」


 さ、寝ましょうか。


 ワゥワゥしてるハイイロを華麗にスルーして、入り口から巣穴の中へと滑り込む。

 久しぶりに戻ってきたけど、俺達がいない間に誰かが入り込んでいた痕跡は皆無だ。安堵の息を吐きながら巣穴の奥にある寝床へと足を進める。

 そんな俺を小走りで追い抜いたハイイロが寝床にダイビングする……と見せかけてそのまま寝床から滑り落ちた。想定内です。


「きゅーん……(いたいー……)」


 落ちた時に鼻先をぶつけたのか、前足で鼻先を撫で付けている。何してるんだか。

 そのまま俺の方を涙目で見つめてくるので、仕方なく治癒能力を発動させる。……こんな事で使わせないで欲しいんだぜ?


「ワフ(んじゃ、寝るか)」


 これまた華麗なスルーでハイシロが寝床に寝転がる。

 1個目のモフッとした大きな毛玉が出来た。その横にハイイロもムイムイと体を押し付ける。2個目の毛玉完成。さらにチャイロが寝床に体を横たえ、3個目の毛玉となる。上から見たら三角形っぽい形になっている事だろう。モフモフトライアングル……!


「グルルゥ(……黒いのも早く寝ろ)」

「ニャー(ほーい)」


 チャイロの声に答え、ホテホテと寝床へと足を進める。

 今日もチャイロの腹辺りに埋もれて寝ようかなー、と考えていたのだが、あっさりとハイシロにくわえ上げられ、三角形の真ん中のスペースに落とされる。うむ、モフモフ。

 足元には誰かの尻尾――たぶん色味的にハイシロのもの――、四方は毛色の違うモフモフに囲まれてぬくぬくだ。と思っていたら、毛玉からニョコリと伸びた前足が俺を抱え、そのままモフリと引き寄せる。やっぱりチャイロですよね、知ってた。


「グル(……お休み)」

「ワゥ(お休みー)」

「わふ(おやふみー)」


 もうハイイロ寝かけてんな。脅威的な寝つきの良さ。


「ニャゥ(お休みー)」


 猫としての生を受けて2年。

 過ごしてみればあっという間だったし、色々と濃い日々だったのは確信している。特に後半。ハンキバは小舅として、今後もいびってやる事は確定だ。

 母さんも自分の番を見つけた。色々と問題はある相手だけど、母さんが選んだならとやかくは言わないでおこう。ぶっちゃけ、あいつとは関わりたく無いでござるぅ……! その内、母さん達にも子供が出来るのだろう。全力で歓迎しよう。父親には似せて堪るか……!!

 チャイロ達もまだ番云々というのは無さそうだし、特殊個体を狩りまくるという方針も変わらない。うん、問題無いな。

 願わくば、母さんやハイクロ、チャイロにハイシロ、ハイイロと今後も変わらず家族として暮らせる事を。その中に、微かにハンキバとグレゴを入れてやらんでも無い。うん。


 さて、明日からはどうなるのか色々と楽しみだなぁ(棒読み)。

 ……これ以上のトラブルは来ないで下さい心から全力でお願い致しますこれ以上俺のガラスハートを砕くのはやめてぇぇぇぇぇ!?

 12時にもう1話だけ番外編を上げて完結となります。


 最後までお付き合いお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ