第8話 計画
クオーツマンは、自宅で第2襲撃準備を進めていた。モニターに写るレイモンドの行動を気にしながら。
「君を少々、甘く見ていたよ」
博士は、ガーデンパークに向かっている事を容易に想定し、次の襲撃計画を進めた。ガーデンパークは、食事・エンターテイメント・ショッピングと子供向けの遊具やアスレチックが備えられている複合型の施設。
そこの警備は全てジンフォニアックが担っていた。しかし、問題は管理。そのジンフォニアックは別型で、クオーツマンが管理権を有していない物で、このジンフォニアックの操作を奪うには、管理元をハッキングして、奪う必要があり、時間がかかる。
ハッキングはすでに行い、データが移行するまでの時間を待つだけだった。データ移行の情報が表示されたPCモニターを横に置き、彼は、壁に飾ってある1枚の写真を見つめている。
その写真に写っているのは、白衣を着た若き自分と1人の男。男の方は、両腕と両足が銀色で人間の皮膚とは違う色をしている。
写真から目を離し、再びデータのパーセンテージを確認する。
《侵入中 15%》
「私は間違っていたのだろうか?」
写真を見つめている時に、遠くの玄関からブザーが鳴り、壁に埋めこまれているホログラム作動機が動き始め、ブザーを鳴らした人間の姿が表示された。
「誰かね?」
「コールソン隊長の指令を預かっている者です。お迎えに上がりました」
時計の時間を見ると、コールソンとの電話を終えてから30分が過ぎているのを気付いた。
クオーツマンは外で待っている部下に対して応答する。
「こんな時間か……。ああ、今行くよ」
前もって必要なものだけを入れたケースを持ち、玄関へと向かう。コート掛けに掛けていた古めの茶色いコートを付け、飾っていた茶色の中折れ帽を被る。
玄関のロックを正門認証で外し、自動的にドアが開いた。目の前には部下が2人立っている。
「博士。ご足労をおかけします」
「コールソンの頼みだからね。協力は惜しまないよ。ましてや自分が作り上げたジンフォニアックだ。むしろ責任を感じているよ」
「行きましょう」
「ああ」
2人の後ろを博士は後を追うように歩き始める。腕時計に表示されている時間を確認しながら。
車に案内され、後部座席に乗り、シートに背中を預ける。
ここで、腕時計に備わっているPCを起動し、自分のアカウントに入り、侵入状況を確認する。
《侵入中 50%》
「まだか」
白いシートは柔らかく、年を取った博士にとってある程度安らぎになりそうではあったが、心配はぬぐえない。
早くハッキングを完了させて、レイモンドからケースを奪う事に躍起になっていた。
車は移動しはじめ、音もたてずに道路を走る。
クオーツマンは窓に映る風景を見つめていた。
1人の部下が、ルームミラーで彼を見つめ、声をかけた。
「大丈夫ですか? 博士」
「ショックでね。なんと言えばいいか……」
部下はひどく落ち込んでいるクオーツマンの姿に、若干の不安と心配が芽生えていた。
とはいえ、この部下はまだ知らない。ジンフォニアックで議会を襲撃させた犯人が彼である事を。
彼の腕時計が表示しているパーセンテージは80%。もうすぐでハッキングが完了し、管理元のジンフォニアックのシステムを掌握しつつあろうとしていた。それを確認した後で、今度は腕時計の別ボタンを押してホログラム型のPCを起動させる。
右手でホログラムに触れて、記事や資料を読み始めていく。
コールソンの部下が自分に注目を置いてない事を感じ取り、左手で旧式の折りたたみ式携帯電話を前部座席の人間に気付かれない様に取り出し、ボタンを押して、コールボタンを押す。
ホログラムの片隅に小さなメッセージが表示されていた。
《データ移行100%。警備ジンフォニアックの行動変更を完了。最優先:ケース回収》
「よし」
心の中で彼がそう呟いた。
クオーツマンはメッセージを確認し、すぐさま、ホログラムに向かって指でなぞり始める。部下はホログラムをいじっている事を知っているが、内容は知らないし、気付かない。
《ジンフォニアック再起動:特別行動A:作動》
作動を確認し、彼はホログラムPCを閉じた。
ふと、窓を見つめ、遠くで議会が一部炎上し始めているのを確認する。
赤く燃え上がっているところとその影響で白と灰が混じった煙が議会場を包みつつあった。
第8話です。話は続きます。