第6話 対峙
信号は赤の光から青い光へと変更させ、車内で待つ運転手に合図をうった。
運転手は、合図を目で確認し、ハンドルを握り、アクセルを踏む。車が生んだ車列は、アイドリングとエンジンの音を響かせていく。
車列の間で佇んでいるシルヴァとレイモンド。
クラクションが鳴り止まない中で、彼らの戦いが始まる。
先手に出たのはシルヴァ。
持っているレーザーガンをレイに向け、引金を引いた。しかし、それを予測していたのか、レイはレーザーが当たらない様に、ゆっくりと移動しようとしている車両のボンネットに乗り、レーザーの閃光から身体を交わし、ホルスターに片付けていたFN Five―seveNを取り出し、片手ながら、シルヴァに向けて弾丸を数発放つ。
硝煙の香りとUSBメモリと同じぐらいの大きさである鉄の塊が鋭いスピードで、シルヴァの右目に1発、着弾した。
弾丸が放たれた勢いのせいかシルヴァの首が90度、左に曲がり、立ったまま動かない。
クラクションと2人の行動を目にして、運転手が怒声をあげ、また、歩行者信号で待っている人々の目線だけがシルヴァや2人の行動に注目を示していた。
《右カメラ破損。映像モード切替及び狙撃モード中止・変更 格闘》
シルヴァは曲がった首をゆっくり正面へ戻し、色々と方向を見渡す。
レイは、依然として拳銃を構え、シルヴァに対しての戦闘をするつもりでいる。
着弾した瞬間で、相手がジンフォニアックである事をレイは理解した。
「どう出てくる? ジンフォニアックさんよ……」
2人がいる交差点の監視カメラをハッキングし、ミッキーは彼らが見える方向へとカメラをズーム変更し、パソコンから見つめていた。
「どうする気だ? レイ?」
シルヴァはゆっくりと、レーザーガンを捨てて、レイモンドに走って近づき、拳を彼の顔面にめがけて振り下ろした。
レイはとっさに、左に避け、拳から逃れる。
拳の威力は凄い。
レイの体が乗っていたボンネットに大きな凹みが入り、車のエンジンから大きな灰色の煙が発生。発進しようとしていたのか、車は、エンジンをやられてしまい、ゆっくりと停まる。彼は後方車の上に飛び、シルヴァの攻撃から避け、反撃を開始しようと銃口をシルヴァに構えた。
だが、シルヴァの判断が早かったのか、振り向きざまの右腕が構えていた拳銃を吹き飛ばし、近くの道路に落ちていく。
「ちっ……」
拳銃を落としたレイモンドはすかさず、右足でシルヴァをの腹部を蹴る。
しかし、頑丈な構成で作られているジンフォニアックに人間の格闘は効果がない。蹴られた彼は、自分の左人差し指をレイに示し、左右に軽く動かした。その瞬間、シルヴァはレイモンドの両足を掴み、彼の体を宙に浮かせ力強くボンネットに叩きつける。人間の技で言うパワーボムをシルヴァは披露した。
ボンネットにレイの背中が直撃し、痛みが背中から上下に響き渡る。
「ちっ!? 畜生! おわっ!?」
もう一度、シルヴァはレイの体を宙に浮かして、再びボンネットに叩きつけた。
「おおうっ!!?」
運転手は異様な光景から車から逃げ出していく。レイの体に、苦痛の波が押し寄せて来ているのを感じていた。
彼は、反撃しようとするが、シルヴァの腕は離れず再び体が宙に浮いた。その瞬間、背中にのけていたもう1丁の拳銃であるSIG P229を取り出して、シルヴァの頭部に鉛玉を何発も撃ち込む。
弾丸はシルヴァの頭部に、銀色の痣と人工皮膚を剥がした。着弾したと同時に、持っていた足が離れ、ボンネットに自らレイの体が落ちる。
衝撃と痛みはそっちのけで、シルヴァからゆっくりと離れていく。
先ほどの衝撃で自分の体を立たせるには、少々時間がかかると判断したレイモンドはゆっくりと地面に倒れ、這い付きながら、ほふくで歩いて離れる。
指示系統がやられたのかシルヴァはずっと黙ったまま動かない。
《故障。 再起動。》
シルヴァは動き出した。
辺りを見わたすが、彼の映像は白黒となり、時折、故障で映像が大きくバグを発生させている。相手の明らかにおかしな状態からレイモンドは、ゆっくりと体を前に動かしながら、挑発し始めた。
「おい! どうした! ジンフォニアックって聞いて呆れるぜ。俺はここだ! こっちに来いよ」
シルヴァは映像系統から分析せず、レイモンドの声紋認証でどこに彼がいるかを調べ、ゆっくりと近づいて来る。
レイは交差点の信号を見つめながら、体を前に前に動かして移動する。
信号は青のまま。
車列は移動しているが、片方は止まっていた。
彼は、オペレーターが近くの監視カメラで映像を確認しているであろうとにらみ、連絡を取る。
「ミッキー頼みがある。こいつをなんとかしたい。信号を赤にしてくれ。ハッキングならお手の物だろ」
交信が来たミッキーは、早速、キーボードに向けて、指を叩き込む。
『ああ、やってますとも』
「あと何秒かかる!?」
『今、やってる後1分! いや、50秒』
「ふざけるな! 早くしてくれ!」
シルヴァはゆっくりとレイモンドの声でいる方向へと近づいて来ている。もう少しで、手の届く距離に入ろうとしている。負けじとレイモンドは体を動かし、今まで響いていた痛みが和らいだ途端、立ち上がり、移動した。
交差点の真ん中で立ち止まり、シルヴァを挑発。
信号はまだ歩行者信号が青。車専用の信号は赤のままだった。
「どうした!? 来いよ!」
シルヴァはゆっくりと近づいて来る彼の映像修復も残り数秒。
ミッキーはレイに告げる。
『もう少しで信号が変わるぞ』
ミッキーの声と同時にシルヴァも修復が完了したのか、映像が元に戻った。
《修復完了。標的補足 始末開始》
『3』
『2』
『1! 変わるぞ』
ミッキーのカウントダウンがレイモンドの耳に響き渡る。シルヴァは、全速力でレイモンドに近づき、彼がいる交差点のちょうど真ん中に入った。大きなクラクションがシルヴァの体を襲った。
左からコンテナトレーラーが交差点を高速で進入し、シルヴァの体を引きずり込む。
レイモンドも通りすぎる大きな存在とそれが放つ大きな加速と風圧によって、一瞬だけ、体を後ろに引かせた。
「あっぶねぇぇ!」
レイモンドは上がる息を抑えながら、シルヴァがトレーラーに衝突し、体がタイヤに引きずり込まれるのを確認した。
トレーラーの運転手は何かに気づいたのか急ブレーキーをかけながらもタイヤの大きな摩擦を発生させていく。
それにより、シルヴァの体は、タイヤと固いアスファルトの地面に挟まり、火花を発生させた。指示系統や基盤が大きくヒビが発生し、人工皮膚が剥がれ、鉄の骨格が浮き彫りになっていく。
鉄は削れ、埋め込まれていた赤い動線や回線がトレーラーの引きずりによって引きちぎれ、シルヴァの体は、もはや人間とは言えない状態となってしまっている。
《シルヴァ 起動終了。 修復不可》
再び交差点は赤になり、歩行者達が歩き始めるが、レイの近くで起きた事がなんなのか、理解することができず、周りの歩行者は各々の方向へ移動し始めていた。
レイモンドは息を荒げ、溜まりに溜まった疲労感を解放させながらケースを取りに戻り、歩道へとまた進路を変更する。
歩きながらミッキーに向けて、彼はため息を着いた。
「次はどの道を行けばいい」
『そこから北に2km』
「仕事変わってくれないか?」
『遠慮しておくよ』
レイモンドは深く溜息をつき、ゆっくりと歩き始める。目的地まで、まだ距離はあるらしく、疲労感だけが増していた。
第6話 話は続きます。