第3話 状況
司令部では、連邦議会が襲撃された事実を受け、その情報収集を行い、緊急の会議を開いていた。レイモンドの上司であるJ・Q・コールソンもその席にいる。
1人の情報分析官が、現時点での状況を会議出席者達に向けて報告する。
「現在、テロリストと思しき数名が、連邦議会を襲撃。6名の政府関係者及び一般人が死亡した模様です」
会議室の上座に座っている。司令部総司令官のグリーンズ・ベルトが老眼鏡を外し、会議室が響き渡るように資料を机に叩きつけ、怒鳴り声をあげた。
「連邦国家、始まって以来の失態だな! 連邦議会護衛はどうなっておるんだね?」
分析官は口ごもる。
「それは。その……」
「もういい。それより、積荷は大丈夫か?」
コールソンは、総司令の質問に、冷静に対応する。
「ご安心ください。積荷は既に、議会場の方に輸送・提出済みです」
ベルトや他の幹部もコールソンが口に出した言葉を受けて、安心はしている様。
「そうか。ならば良かった」
コールソンもそれについては何の心配をかけてはいなかった。
分析官が、少々気まずそうな表情をしてベルトに告げる。
「ですが、もう1つの積荷がまだ届いてないとか……」
もう1つの積荷についての情報は聞かされていなかったらしく、ベルトは自身が驚いている。
「何? 聞いてないぞ。もう1つの積荷だとっ?」
慌てている幹部の方を見つめて軽くため息をついて、コールソンは報告する。
「実は、極秘だったもので、上層部にも連絡するわけには行かなかったのですが……彼らの襲撃を受けた以上、報告せざるおえませんな」
彼はそう言って席を立ち、目の前に会議室の映像ホログラムを起動させる。
ホログラムの映像は、監視衛星から中継で流されている映像。映像にはレイモンドが、ケースを持って歩いている映像が流れている。
「現在、輸送されている積荷はもう1つあります。レイモンド・ダン中尉が運んでますが、その前に彼と積荷が乗っていた車をトークンによって破壊されております」
「何者の仕業なんだ?」
「分かりません。ですが、推測は立てられる。連邦議会を襲った人間と考えは同じ者でしょうな」
ベルトは、情報が来ていないことに憤慨し、呆れながらもコールソンに訊いた。
「積荷はなんだね?」
「条文です。ジンフォニアック製作禁止法案条文」
司令官は唇を噛み締め、何も知らない情報を今知った事に腹を立てている。
それもそのはずだ。自分が知らなかった情報を部下の1人が知っているという事態は出し抜かれた事と同じ、自分が恥をかく要因の1つになると考えられる。
その中で、1人の情報局員が会議室に挨拶をしてから入って来た。
「失礼します。連邦議会を襲撃したのは人間ではありません」
局員の報告について一番の反応をしたのは、司令官だった。
「何!?」
局員はその場にいる全員に告げる。
「ジンフォニアックです」
コールソンは情報局員の報告を耳にして、椅子に座り、首を少しなでる。事実に対する最悪性というのはある。
「ジンフォニアックのクーデタ-か」
現状を考えれば、最悪だ。コールソンはケースとレイモンドの心配を脳裏で回転させていた。
同じ頃、レイモンドはミッキーのオペレートを受けながら、目的地へと向かっていた。狭い路地に入り、ゆっくりと歩きながら目的地に向かう。歩いている間、襲撃された事実と正体をミッキーと共に探りを入れる事にした。
歩きながらミッキーの声が、インカム越しで響く。
『そのまま、右へ。さっき襲撃したのは連邦議会を襲撃した奴らと同じ、思想を持った奴ららしい』
レイモンドは、歩きながら、不審な姿がないかを確認して、安全だと感じた時に、進行する。
「奴らの目的は何なんだ?」
『おそらく、レイ、あんたが持ってるケースの中身だろう。開ける事はできないのか?』
「できない。電磁ロックされてあるケースだ。無闇矢鱈に開けようとしたら、中身が自動処分される仕組みになってる。特定のコードさえ打ち込めば開く仕組みになっているが、そのコードを知っているのは、現政府のトップとその幹部だけ」
『なるほどね。厳重に保管されているわけだ。そして厳重に目的地へと運ばれていくと、ヘマしたけど』
レイモンドはミッキーの口から出た軽い皮肉を、笑った。
ゆっくりと歩きながら片方の手で、ホルスターから拳銃を取り出して、安全装置を外す。
『そのまままっすぐ行ってくれ』
「ああ」
レイモンドは歩きながら、周辺の異変がないかを確認。
狭い路地だから異変や襲撃があればすぐに気がつく。今のところその様な状況は起きていない。
路地を歩いていくと広い通りに出た。
看板には通りの名前と、方向を指す矢印の看板で多かった。
「どっちだ?」
『そのまま右へ。それと伝達があった』
「何?」
『積荷を輸送する目的地が変更された。マップを送るから、そっちに向かえだと』
レイモンドはオペレーターの言う通りに、腕時計に表示されるホログラムを見つめる。
ホログラムには立体地図が表示され、赤い矢印が、目的地への方向を示す。
「ここから数kmか。1970年代に流行したと言われているスポーツで楽しもうか」
『何だよ? それっ?』
「ジョギングってやつさ」
レイモンドは赤い矢印が示す方向へ歩き始めていく。
第3話です。話は続きます。