男装の少女
少女がその記憶に気付いたのは、本当に偶然だった。
世界はなんら変わることなく、もたらされた影響はただ彼女の脳に一つ知識が増えたことだけだった。
誰も、彼女の変化に気付かないまま。
アレンは、入学式を終えたところで初めて見る顔がいることに気付いた。
彼がこれから6年間を過ごすグロベア魔術学校では、大体は近隣の中等部からの持ち上がりで、この学校に入るにあたってわざわざ試験を受ける者は少ない。
だからこそ、見たこともない顔は浮いてしまうのだ。
だが、彼が見たこともない顔だと理解しているのはアレンだけのように思えた。
この学校の特異性を多くの学生は知っている。だからこそよそ者は排除したがるものなのだが。
「どう見ても・・・気配を消しているよなあ」
それも、教師すら気づいていない者もいる辺り、その能力は高いものだと感じる。
まあ、普通は一介の生徒が身に着けている能力ではないと思う。
隣で人の流れを観察していた、暇そうにしている自分の友人に彼女について話してみる。
「ジーク。この学校って暗殺者育成する学校じゃねえよな?」
「何をバカなことを言っているんだ。お前は。そんな学校なんて表向きあってたまるか」
それでもこちらを向かないジークにため息を吐き、目の前を横切った少女を顎で示す。
「赤髪の男。見えるだろ。あいつ、お前と同じくらい気配消してるぞ」
あ、これ進まんと思った結果