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第八話:設定を確認しましょう

「さて、お前たちがこの村にたどり着いた経緯を聞きたいんだが……そうだな、街が襲われたことは他の避難者から聞いているから大丈夫だ。やっぱりここに来る途中、森の騒ぎについて聞かせてもらえるか? リセラが言うには何か知っているようだが……」

「ええとそれはですね……」


 エレナが一通り、巨大猪との戦闘のことを話した。


「なにぃ!? 倒しちまったのかあいつを!?」

「おう! まあとどめは刺してないけどな。リセラに止められた」

「ふぅ、それならはよかった……」


 ダンが安堵したのか大きく一息吐く。


「俺としてはそのまま倒したかったんだけどなー……経験値的にも。ただリセラの目が必死なのは見てすぐ分かったからさ、放ってきたけど。やっぱもやもやするし、おっさんはあの猪を退治しなくていい理由とか知ってるか?」

「もちろんだ。ここの村人みーんな知っとる。なにから話せばいいか……」


 ダンは森の主――巨大猪がどういった存在なのか話を始めた。




 ――あいつはこの辺り一体を治めているんだ。どうもあの広場の大木を気に入ったみたいでな、二十数年前ここに住み着いた。

最初に奴がやってきた当時は俺ら村人総出で退治しに行ったもんだ。だがあいつを目の前に戦おうと一歩踏み出せる勇敢な者はいなかった。


 ただ一人、ウチのかみさんを除いてな。


 もう亡くなっちまったが、あいつはいい女だった。料理も家事も得意、それに心も強いときた! リセラは完全にかみさんに似たな! 

 ……おおっといかん、話がそれちまったか。まあかみさんに戦闘なんてからっきしできなかったんだが、代わりに動物と心を交わせる、会話することができるという才能、いや能力か、そういうものを持っていた。それであいつが暴れに来たわけでなく、身を落ち着かせに来たことを知ったんだ。

 

 こちらから手を出さない限り襲わない。

 だからできるだけこのことを知らない人間があいつと出会わないようにわざと遠回りな道を作ったり、この村を訪れた人には妙な地響きが聞こえたらすぐその場を離れるように忠告していた。

 その甲斐あってか、人が襲われた被害はゼロとは言わんがかなり少ないはずだ。

 そんなワシら村人の苦労を分かってかどうかは定かじゃねえ。ただ争いが嫌なだけかもしれん。だが、あいつはこの村を襲おうとする魔物を倒してくれているのが事実だ。あいつのおかげでこの村は警備隊などおらんくても、 平和に過ごせとる。今じゃこの村で生きた守り神的存在だ。




 ダンの昔話が終わる。


「……そんなに大事な猪なのね……悪いことしちゃったかなぁ」


 エレナが気まずそうに思いを口にした。


「いや知らなかったんだ。仕方ねえ。それに殺しちゃいねえんだ。休んでいたらいずれ回復するだろう。しかし……一つ困ったことのなったなこりゃあ」

「何か問題があるのか?」

「ああ、タイミングが悪いって言うのが本音だ。実はな、今朝山菜を取りに森をうろうろしていたとき、新たな魔物の群れができているのを見かけちまった」

「群れってどのくらいだったんですか?」

「十数体だ。みんな違った種族で寄せ集め見たいな感じだった。それくらいならワシらだってそれなりに鍛えておる、村人が集まれば十分追い返せると最初は思っとった、が……」


 ダンが急に真剣な顔つきになる。何かを思い出したのか額には冷や汗が見えた。


「群れの中央にいた魔物、姿は見えんかったが、たぶん群れのリーダーだと思う。ただ、あいつはやばい! ワシの直感がビビビッと反応したわい」

「野生の勘とか……おっさんにぴったりだな」

「リト、それは失礼だって。いくら本当のことでも口に出しちゃ相手に悪いでしょ?」

「お前さんも言うとるんだが……まあいい。お前さんたちに頼みたいこともあるしな。そのなんだ、不甲斐ねえ話なんだが――」


 ダンの言葉の途中でリトが割り込んで話す。


「要は今朝見たやばい魔物ってのを、村が襲われる前に退治してきてくれってことだろ? おっけーおっけー、任せとけって!」

「おいおい最後まで話させてくれや。この村の問題だ。そう簡単に首を立てに振ってくれるとは……ん? さっきなんて言った?」

「だから退治してくるって。『はい』を選択したぜ?」

「おお、やってくれるのか! ガハハッ、お前なら承諾してくれると思っとったぞ!」


 ダンが前からリトの肩をバンッ、バンッとたたく。表情は先ほどよりも明らかに明るくなっている。


「ちょっと、そんな軽く受けてちゃっていいの? 敵の情報もほとんどないよ?」


 エレナがリトにこそっと耳打ちした。


「大丈夫だって! それに断っても断る、頼まれる、断る、頼まれるのループになるんだしよ、なっ、おっさん」

「ん、まあお前さんらにしか頼める奴は他にいねえから頼み込むつもりではいたけどよぉ。……そこまで無理強いは――」

「ほらな! まあこのイベント終わらなきゃ先進めないんだろうし、受けるしかないだろ?」

「イベントなんて楽しそうなものじゃないでしょ……。ただ……そうね、聞いた以上は放っておけないし、これも魔王討伐に向けた第一歩か」


 エレナも自分の中でまとまったとき、「できましたー。今から持って行きますねー」とリセラの声が聞こえてきた。

「よーし、なにはともあれまずは飯だ。リセラの料理はうめえーぞー、ぞんぶんに期待してくれ!」


「もう! お父さん、恥ずかしいって……」


 部屋の入り口まで来ていたリセラが恥ずかしそうにうつむく。

 両手には鍋。森であったときと同じ三角巾やエプロン姿がここではさらに映えている。今は田舎娘ではなく、新妻的な感じだ。

 彼女は鍋をテーブルの上に置き、「これだけじゃないですよ。すぐに他の料理も持ってきます」と言って調理場に戻っていく。


「あっ、私も手伝います!」


 すぐにリセラの後をエレナが追う。


「おっ、気の利くいい妹さんじゃねえか」

「…………えっ、あ、ああそうだな」


 エレナから言われた兄妹設定を一瞬忘れるリト。


「まあ俺の仲間なんだ、悪い奴なんていないさ」


 彼は自信のある爽やかな顔で、はっきりと言った。



 リセラとエレナが料理を運び終えると、テーブルの上は様々な料理で一杯になっていた。


 テーブルの真ん中には近くで採ってきたであろうきのこや山菜がふんだんに入った鍋。隣にはしっかりと味付けがされた干し肉が平べったいパンを二つ折りにして包まれている。さらに色彩豊かなサラダ。黄身の部分が手の平よりも大きな目玉焼き(リザードの卵で作られている)が並んでいる。リセラが言うにはこの後に果実も用意してあるとのこと。


「それにしてもちょっと多い気が……食べれるかな?」


 料理であふれたテーブルを見て、エレナが感想を口にする。


「ちょっと張り切りすぎちゃいました。……ああ、残すとか気にしなくてもいいですからね。サラダ以外は結構日持ちしますので」

「うまそー、いいから早く食べようぜ!」


 リトが率先して長いすに座る。続いて隣にエレナ、向かい側にリセラとダンが座った。


「いただきまーす」


 リトが真っ先に鍋から小皿に分けられた煮物を口にする。


「――あっつ! なんかしょくひひゅう(食事中)なのにはめーひ(ダメージ)うけたんはけと(だけど)……」

「ガハハツ、そう急がんでも料理は逃げたりせんわい、ゆっくり食べい!」

「はい、冷たいお茶ですよ」


 リセラがコップを差し出す。


「ゴクゴク……ぷはっ。ふぅ、まさか戦闘中以外でダメージを受けるとは思わなかったぜ」

「ダメージって大げさなんだから」

 エレナがやれやれとため息をつく。

「じゃあ状態異常? 『火傷』とかか?」

「それも軽い程度でしょ? もう普通にしゃべれてるし」

「軽い火傷ならさっきの薬草を煮出したハーブティーが効果あったのかもしれませんね。ふふっ、鍋が少し冷めるまで、先にサラダから召し上がってください」

「そうするわー(パクッ)……ん? おお、うめえ!」

「いちいちリアクションも大きすぎるからね。サラダ一つで(パクッ)…………あれ? ほんとにおいしい。教会で食べていたときのより断然……」


 サラダを口にしたエレナも驚き、どこに美味しさの秘密があるのか、サラダを凝視する。分からないものへの興味は未知の魔法を研究する魔術師としてのさがなのだ。


「ガハハッ、どうだ? リセラの味付けは完璧だろう? このサラダにかけられている調味料は……なんだったか?」

「何度も言ってるのに……お父さん覚える気ないでしょ!」

「ばれたか! まあ毎回リセラが作ってくれるんだ、別にいいじゃねえか」

「そんなこと言って……私がいい人見つけたら嫁ぎに行くかもしれないんだから!」

「む、むう……」


 ダンが苦い顔をする。


「まあまだ全然予定はないけど……」


 リセラがそうつぶやいた瞬間、ダンはほっと安堵したように大きなため息を吐いた。


「あっ、そうだ味付けでしたね。ええと、このサラダにえてあるのは酸味のある樹液と果実をすりおろしたものを混ぜていまして……ある地域では『どれっしんぐ』と呼ばれています。果実の実物など詳しく後で教えましょうか?」

「お願いします!」


 エレナは即答する。


「おう、覚えてこのがっついているお前さんの兄貴にも食わせてやってやれ!」

「えっ、兄…………あ、ああ、き、機会があれば……」


 自分で言い出した兄妹設定をリトと同様に忘れていたエレナ。返答は中途半端になってしまった。


 

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