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第五話:ワールドマップも物の大きさは変わりません

 コツコツコツ。


 地下道に二人の足音だけが響く。

 リトとエレナは詰まることなく地下道を進んでいった。

安全な脱出経路であるため道中は魔物に出会うことがなく、リトとしては「今回、最初の戦闘までなげーなぁ」と退屈に感じてしまう。

 エレナの指示通りに道を進むはずだったが、分かれ道に着いたとき――


「ちょっと待ってくれ」


 リトが急に明かりを消し、エレナに呼び止めた。


「ち、ちょっといきなりだったからびっくりしたでしょ! ……どこにいるの?」


「あーここ、ここ」


 リトが手をばたばたさせてエレナに近づく。


「きゃっ! どさくさにまぎれてどこ触ってるの!」

「見えないからわからないけど……平べったかったし背中?」

「くぅ! ……違……わない……」


 本当に触られたのはは胸だったのだが、ここで言い返すのは自分を傷つけそうだったので、エレナはなんとか言葉を飲み込んだ。


「そこまで小さくない……はず…………。ああもう、そんなことはどうでも――よくないけど! 一体どうしたっていうの?」

「ええと、確か左が出口の方なんだろ。じゃあ一回右の道を進んだほうがいいんじゃないか?」


「……なんで?」

「ほら、宝箱とかアイテムの回収だって。マップは制覇するのが大事だろ?」


 当たり前であるかのようにリトが話す。


「宝箱やアイテムなんて落ちてないから! 右の道は別の出口につながっているだけで何もないし。というかそんな都合の良い物、普段誰も使わない道に置いておくはずないでしょ!」


 エレナは声を荒げてつっこんだ。


「おっかしいなー、結構頻繁に置いてあったけどなー。洞窟とか、盗賊のアジトとか。ちゃんと分かりやすいように宝箱に入ってたぞ」

「それは……ずいぶん親切な盗賊ね……」

「そういわれてみればそうかも。回復薬とか自分たちで使えばいいのにと思ったことも何度かある……まあ全部俺が回収したけど」

「それってリトのほうが盗賊っぽくない!? ……ってそんなこと言ってる場合じゃなかった。早く明るくして! さっさと左へゴーゴー!」


 エレナがリトをかす。


「くそぉ、まだ序盤だからいいけど……後々(あとあと)アイテム回収忘れで困っても知らないからな……」


 文句を言いながらもエレナに従う元勇者。

 現在はどうみても仲間ポジションでしかない。



「……ふぅ、なんとか日が落ちる前にたどり着いたみたいね」


 地下道に造られた石の階段を上った先、森の中に通じる扉を開けたエレナはホッと安堵する。

 日は傾きかけているものの、まだ森の中を見渡せるほど光が差し込んでいる。これなら魔物の奇襲を受ける可能性は少ない。


「へー、結構きれいなところじゃん。空気はよどんでないし、空も青――から赤に変化してきてるところか。魔王がいるなんて思えないなー。いつものようにもっとどんよりとした雲で覆われていて、いかにも魔王に支配されています的なのをイメージしてた」

「いつもって……いったいどんな世界を見てきたの……?」


 このレムリアよりずっとひどい世界が普通だと思っているリトに、エレナは少し引いた。


「少なくともここよりは荒廃してたかな。木々のない平地や草一本生えていない荒地がほとんどだったよ。やっぱり建物や木々が多いのは嫌がるんだろうなー」

「あるのが嫌だからといって辺りを平地にするのはやばいでしょ。いったいどんな凶暴な魔物が?」

「魔物? 『セイサクシャ』っていうただのニンゲn……ああ、でも確かに一番の強敵か。俺からすれば特に厄介な相手だったかも。……よく振り回されていたっけなー。人の話を聞くだけで、何度も国を往復するのとかほんと大変だった……」


 過去を振り返りながら話すリト。

 その表情で過去の苦労を窺うことが容易にできる。

 エレナは深くは聞くのは止めておこうと思うのだった。


「――で、ここからどこに向かうんだ?」


 リトがエレナに行き先を尋ねる。


「ええと、町の一部の人が先に避難してるはずの小さな村ね。この細い道を抜けた先にあるの」


 そう言ってエレナは森のある方向を指差す。

 指の先に見えるのは人一人分の大きさに空いた獣道。木の枝は折られ、背の低い草が踏み敷かれている。先に避難した人達が通った道だ。


「おお! あそこを通るのか!? なんか隠し通路っぽくってわくわくするな!」


 隠された宝箱(妄想)に期待するリト。


「無邪気な子供か! ――ってささいなことつっ込んでるとらちが明かないか……」


 エレナははしゃぐリトを無視して進み始めた。


「お、おい、待ってくれー」


 慌てて彼女を追いかけるリト。

 獣道のある場所が斜め右方向にあったため、真っ直ぐ進んでから直角に右に曲がる。少し遠回りになってしまうが、エレナも本気で置き去りにしようとは全く考えていないので、すぐに追いつくことができた。


 獣道を十五分ほど歩いたところで、ある程度整備された道に出た。その道は草が生えていず、二人のいる地面より一段盛り上がっている。


「うお! なんだこの道? 見た目は今まで歩いてきたような土なのに、ここだけ石みたいに硬くで平らになってるぞ」

「びっくりした? この道は地の魔法で作られたものなの。人が歩きやすいようにできていて、道しるべにもなるのよ。確か魔法の名前は……うーん……ごめん覚えてない。地の魔法なんて使えないから忘れちゃった」

「へぇー、魔法かー。攻撃手段じゃなくて、生活に役立てるものもあるんだな」

「というよりもともと攻撃手段だったものを応用してできた魔法ね。争いがあるから……できたともいえるかな?」

「ふーん、そんなものか。まあいいや、とりあえずこの道なりに進めば村に着くんだな?」

「うん、そうなんだけど……」


 エレナは腕を組み、少し考える。

 辺りはもう暗くなり始めていた。


「この道ってなぜか村までぐるーっと大回りをしてた気がするのよねー。だ、か、ら、そんなに足場も悪くないし、近道してこのやぶの中を真っ直ぐ進まない?」


 エレナが村の方向を指差して同意を求める。


「ええー――いいぜ! 道なりに進む冒険なんてつまんないからな。それに隠し宝箱とかもあるかもしれないし!」


 リトは即答し、藪の中へ先に進みだした。


「やっぱ俺が前を歩かなくっちゃなー。――うん、しっくりくる、しっくりくる!」

「ち、ちょっと。だから場所知らないんでしょ!」

「え? 真っ直ぐなんだろ?」

「そ、そうだけど……」

「――じゃあ問題なーし!」


 そう言ってリトはずんずん進んでいく。

(まさか迷わないでしょうね……)

 何も考えていないようなリトの姿を見て、エレナは彼の後ろに付いて行くのが不安になるのだった。


 何かを避けるようにしてできていた大回りの村への道。当然このような経路を造ったのには理由がある。

 藪の中にあるのは隠した空箱ではなく隠しイベントともいえるもの。

 大回りな道の原因である『主』のところへ二人は足を踏み入れていった。


 昔のRPGの道ってただの道しるべであって、だいたい違うところを歩きますよね。草原とか森の中とか。

 最近のゲームになるほど道らしい道を歩くようになっている気がします。……まあそれでも一応は宝箱もあるかもしれないので辺りを調べますけど。

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