第四十話:主人公『仲間と話す』、ボス『様子を見る』
――――ひゅっ。
ダクドが元いた場所から急に姿を消す。
いったいどこへ? とシャムが辺りを見渡せば、
「――はあっ!」
すでに彼は壁のように広い横っ腹に攻撃を仕掛けていた。
――――ガンッ!
「ちぃっ!」
悔しげに下唇を噛むダクド。
元魔王である彼の強力な一撃でもほとんどダメージを与えられなかった。
古代龍は巨体と思えぬほど素早く、長い尻尾で体を包むようにして防御したのである。ダクドの先制攻撃は体中を覆う鱗の中でも特に硬い尻尾の鱗により阻まれた。
「ぬぅ、なかなかの威力……」
ただの人間とは到底思えないスピードと攻撃力。それに驚いた古代龍は灰色の翼を大きく広げ、一度空中へ飛び立つ。
「ふん、それで逃げたつもりか!」
いくら広々とした空間であるとはいえ、ここは洞窟内。天井まで逃げたところでせいぜい十数メートルしかない。
ダクドにとってこのくらいの高さ、強めに力を入れてジャンプすれば容易に届くのである。
「はあああああ――――っ!?」
しかしそれは愚策であったとすぐに思い知ることになる。
相手は空を自由に翔ることができるのに対し、ダクドの方は無防備で動きに制約がかかってしまうのだ。
古代龍は彼の攻撃の軌道から易々と逃げ、反撃として片手――鋭く尖った三本の爪を振り下ろした。
「………………む?」
手ごたえはない。
確かに突撃してきた軌道を読み、その軌道上を裂いたはずであったのに。
疑問に思いふと地上を見てみれば、言い争いをしている二人の姿があった。
「なぜ我輩の戦闘に入り込んでくるのだ! 邪魔しおって……」
「はぁ!? パーティで戦うのは当然だろ。お前がさっき攻撃したんだから、次は俺の番だろ!」
少し前ダクドが古代龍に向かって飛び上がるのと同時に、リトも攻撃しに向かっていたのである。
結果二人は空中で衝突。互いを押し退けあったため、ジャンプの軌道が変わり、爪攻撃をかわせたのだ。
「順番……? 貴様はこの世界にターン制というものがないのを忘れたのか?」
「………………あー……すっかり。いやー、だって戦闘久しぶりだったからさ」
リトが後ろ頭を掻きながら答える。
「ふん、その程度の『知力』――いや『かしこさ』では魔法の弱さが容易に伺えるな」
「なっ! い、いいんだよ! そこはレベルを上げて物理で殴れば何とかなるし! 少なくとも一つ前の世界はそうだった!」
「今回も同じとは限らんと思うが…………まあなんにせよ、あいつは我輩の獲物だ。この手で沈める」
「物理は効きにくいように見えたけど?」
「尻尾はな。だがしかし、我輩らもあるように、あのドラゴンにも弱点の部位があるはず。問題ない」
「いやでもせっかくなんだから協力してみんなで――」
「貴様はあやつらを危険にさらすつもりか?」
「――力を合わせ…………えっ?」
ダクドの問いにリトは一瞬固まる。
向けられる彼の鋭い視線はいつもの冷ややかなものとは違うように感じられた。
「小娘を『守る』のだろう。戦わせてどうする?」
「だってそりゃあ、戦闘は普通パーティ全員でさ――」
「しかし『普通』とは過去のものであろう。合わせる必要はあるまい。それに……おそらくだが一度仲間を失えば……」
何を憂慮しているのか、ダクド自身もよくわかっていないが、彼の視線はシャムに向けられていた。
「……なんか元魔王らしくねえな。このダンジョン入る前シャムと話してたけど何かあったのか?」
「………………ふん、たいしたことではない、ただクエスト(城からの脱出)の続きを依頼されただけだ」
ぶっきらぼうに答えるダクド。そんな彼の様子に対しリトは
「マジで? ならそのクエスト俺も加わりたいんだけど。――ってかリーダーなんだから当然加わる」
――と鈍すぎて全く彼の心中を察することができないのであった。
「…………はぁ、貴様は貴様らしい気がするが……まあいい。今はボス戦に集中せんと。無駄話のせいでシャムとあの小娘も戦い始めてしまった。急いで向かわねば」
ダクドは先ほどの大きなジャンプで、遠く離れてしまった彼女たちの元へ疾走する。
「お、おい、ちょっと待てよ。クエストの内容くらいは教えてけって――!」
のんきなことを叫びつつ、リトは彼の背中を追った。
「もう、なにやってるんだよ……」
古代龍の攻撃を偶然にも避け、地上にリト、ダクドの二人が着地した直後。
のんきにも話を始めた二人を見て、エレナは焦りで不満を口にする。
「いつ攻撃を仕掛けてくるかも分からないのに……」
幸い、古代龍はまだ二人の様子を見ているようだ。空中から降りてくる気配はなく、彼女たちのことも眼中にないらしい。
「も、もしかしたら作戦を練ってるのかもしれませんよ?」
すかさずフォローを入れるシャム。しかし――
「どう見ても言い争っているようにしか思えないけど」
「…………まあ意見の衝突もあるでしょうし……なんであれ、それだけ余裕があるってことなんでしょう」
「そうだといいけど……。本当に侮ってかかれる相手なのかなぁ……」
「リトさんもダクドさんも底知れない強さですし、大丈夫です! 信じましょう! それよりいま私たちにできることはあるでしょうか?」
「うーん、下手に魔法打つのもねー。たぶん私たちじゃ敵わないと思う」
「でも任せっきりというのはポリシーに反します。自ら動かなければ手にできないものは多いんです! 例えばB――」
はっと口を塞ぐシャム。
言おうとしていたのはBL本(R指定)であるが、なんとか抑えることができた。
「例えば?」
「B――Boうけん(冒険)、旅のようにです」
「なるほどー、確かにシャムちゃん。行動しなかったら今お城の中だもんね」
「そうですよ、あはは――――あっ!」
乾いた笑いの中、シャムの目に入ってきたのは急降下を始めた古代龍の姿である。
リトとダクドは話に夢中なのか、気付いていないようだ。
「エレナさん!」
即座に指を差し、リト達の危険を知らせる。
「――分かってる! 『暴風』!」
びゅおおおおおおおお!
上空を荒れ狂う風が古代龍の巨体を押し戻す。
「むう……女の子供だと少々侮っておった。これはまた中々……」
古代龍はすぐさま進行方向を変え、風に乗るようにしてエレナ達の方へとスピードを上げた。
「や、やっぱりこっちに来ちゃうんだ……。な、なんとか凌がないと…………早く気付いて助けに来てよね、鈍感馬鹿」




