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第三十九話:エンカウントゼロのダンジョンです

 リト達四人が余裕で横に並べるくらい広々とした洞窟。

 その洞窟は方向山の火口へ向かっており、奥へ進めば進むほど明るさを増す奇妙な構造だ。

 明るさの原因――光の源は『火』の魔力を蓄えている鉱石である。

 すでにリト達の歩く通路は壁中から放たれる暖かな光に包まれていた。


「きれい……こんな場所もあるんだね」


 洞窟であることを忘れるほどの光景にエレナはぽつりとつぶやく。


「ほんとですね。なんでこんなに明るいんでしょう?」

「『火』の鉱石の光だろうね、たぶん。ここまでの光を持つのは珍しいけど。やっぱり火山だからかも」

「珍しい? この明るさは普通じゃ? むしろ真っ暗な洞窟の方が少ないと思うけどなー」

「そうなの? 前の世界でも光る鉱石が?」

「いいや。燭台があちこちに設置されていたり、電球――じゃわからないか。光を発する道具が置かれてたりな。……まあ何もなくても明るいところもあるけど――――細かいところは気にしたら負けだ」


 実際、ゲームの中では洞窟の通路に燭台やライトがきちんと通路ごとに置かれていることは少ない。辺りを照らすためではなく、主に装飾用である。


「――それにしても『灯火トーチ』を使う必要がないのはよかったぜ。あの魔法使用したままとか会話もしにくいし、なによりこれからボスに向かうってのに余計な魔力消費はしないに越したことはない。ただ……」


 リトが苦い顔をする。

 そんな彼を憂いて、エレナは彼の前に立ちはだかった。


「ただ、何……? リトが不安だとこっちも不安になるんだから、何かあるんだったら何でも言ってよね! 仲間なんだから!」

「……ああ、不安――じゃないんだけどさ。どうしても気になることがあってな…………結構進んだのにいまだ魔物モンスターとエンカウント〇(ゼロ)ってどういうことだよ!?」

「…………えっ、そんなこと……? むしろ良いことじゃ……?」

「いやいやいや、だってここ洞窟だし、いわばダンジョンだろ? 雑魚敵に出会わないとか――設定ミスってるのか?」

「ちなみに我輩ら、そして奥にいるドラゴンと思わしき奴以外の気配はここに来るまで全くないぞ」

「マジか……」

「えっ、それでは攫われた人たちは……」


 シャムの頭に『手遅れ』の文字が浮かぶ。

 そして悔しさをにじませるように、隣を歩くダクドのマントをぎゅっと掴んだ。


「……案ずるな。一般人のかすかな気配など離れていては分からん。もっとも、無事とは言い切れんがな」

「……よかったです。希望はあるということですね」


 ほっと胸をなでおろすシャム。リトとエレナも同様の反応を見せる。


「ふぅ、焦った。人質が助からないなんて悪い結末、俺が許せねえからな。…………しかし、やっぱり雑魚敵は近くにいないのかー」

「魔物の生息数自体人間に比べれば少ないですからね。ドラゴン一匹でこの辺りの侵攻を進めようとしているのかもしれません」


 十数年前までは魔物の住む土地は世界の二割ほど。たとえ窮屈でもそれだけの土地で足りていたことになる。

 元より数が少ないのだから、数で押し切るだけではない。ドラゴンのような強い魔物は一匹で大役を務めているかもしれない――とシャムは考えていた。


「でもなんでそんなに戦いたいかなぁ? もしかして戦闘狂?」

「そんな怖い奴みたいに言うなよ……。別に戦いが大好きっていうわけではないさ。ただあまりに戦闘が少ないと経験値が…………まあもう必要ないっちゃないけど」

「実戦的な動きってこと? 確かにまだ時折変な動きするもんね」


 リトは日常の移動では斜め等三次元の動きに慣れてきてはいたが、物を運ぶ、魔法を唱えつつ移動するなど他の物事と同時に移動するときは直角に曲がることが多いのだった。


「変って言うな! 長年の癖なんだよ! っていうか経験値ってのはまさに数値なわけで――」




 リトが経験値を稼ぐ重要性について一から教えようとしたその瞬間、地面が大きく揺れた。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………。


 大地が震える。洞窟全体が音を立てる。

 天井からはパラパラと砕けた『火』の鉱石がリト達に降り注ぐ。

 さらに――――


 パキッ、パキッ、パキッ…………。


 彼らの真上の天井からは何かが割れるような不気味な音が続く。




 ゴゴゴゴゴ……。


 しばらくして揺れが収まりかけたそのとき、天井から『ビキィ!』と一際大きな音が発せられた。


 ガラガラガラガラ……。

 

 多数の大岩がリト達に次々と降り注ぐ。


「――っ、『反射風リ・ウインド』!」


 エレナはとっさに自分の周り――自分とすぐ傍でよろめき転倒しているリトを包むように風の障壁を張り、岩を防ぐ。


 ――ぴょこぴょこぴょこっ。


 エレナの少し後ろではシャムがその小さな体とスピードを生かし、降り注ぐ岩の隙間をかいくぐり、崩れていない安全な通路へと逃げ込む。

 ダクドはというと、虫でも払うように落ちてくる岩を片手で軽々と払いのけていた。


「………………ケホケホ……あー、びっくりした! リト、大丈夫? 顔面から転んでたように見えたけど」

「ああ、大丈夫だ。悪いな、何もできなくて。『よろめき』はやっぱやばいわ」

「結構揺れたもんねー。シャムちゃんとダクドは…………うん、大丈夫そう」


 何事もなかったかのように戻ってくるシャムとダクド。二人に怪我一つ見当たらず、エレナは安心する。


「ふん、つまらん攻撃だったな。やはり人々に恐れられるドラゴンといえどたいしたことはあるまい」

「フラグになりそうだからそういう発言は控えてくれ」

「っていうかさっきのはドラゴンの攻撃じゃないでしょ。ただの自然現象だって」

「なに? 『自然現象』という敵がいるのか。気配はないが……」

「いや敵じゃなくって…………ああ、もういいや! 説明してる時間がもったいない! 早く先に進むよ!」

「そうですね。攫われた人の命もかかってますし、急ぎましょう。それに早く助け終えてここから出ないと…………嫌な予感がするんですよね」

「だからフラグ乱立は止めたほうがいいって」


 不吉な予感を抱きながらリト達は先の通路へと足を進めた。




「…………すんなりボス部屋らしき場所にたどり着いちまった」


 洞窟の奥、村一つなら簡単に入ってしまうだろう広々とした空間。『火』の鉱石をより密に含む壁は明るさを増し、遠くもはっきりと見渡すことができる。


「結局アイテム一つ見つけただけかー、物足りねえなぁ……まあそれだけ重要なアイテムかもしれないけどさ……」


 道中で見つけたのは通路脇に落ちていた中型の盾サイズの『ドラゴンうろこ』一枚である。かなり貴重な武具の素材ということもあり、持って行くことにしたのだが、シャムの持つカバンには入らずリトが手で持つことになった。


「愚痴をいっている暇はないぞ」


 ダクドがキッと前を見据える。


「ドラゴン(やつ)はまさに今こちらに向かって来て――」




 ――ひゅん!


 と風を切る音が大きく鳴り、


 ――ドスンッ!


 と四本の足で降り立つ巨体――ドラゴンがリト達の眼前に姿を急に現した。


「へえ、こいつがボスか」

「ふん、こやつがボスか」


 リトとダクドは強敵を目の前ににやりと口元を上げる。

 その後ろに隠れるようにしてエレナとシャムがごくりとつばを飲み込んだ。


 ――六メートルの巨体。

 ――尾が長く、灰色の鱗で覆われた体。

 ――真紅の瞳から放たれる鋭い眼光。

 ――口元から吐き出される青白い炎。


「…………え、古代龍エンシェントドラゴン……。かつて地上最強といわれたドラゴン種のトップだ……」


 エレナは昔読んだ書物の内容を思い出す。


「そんなに強いのか?」

「うん、縄張り意識の強い他のドラゴンでもそいつには戦意なく領地を明け渡すくらいには……。争いが苦手で百年位前に隠居したと噂されてからは目撃情報もなかったのに。まさかこんなところにいるなんて……」

「ふーん、まあ相手がどうあれ、俺は人助けにここまで来てるんだ。引かねえさ。…………おいそこの『エンなんちゃら』! 攫った人たちは無事なんだろうな!」

「…………ほう、ワシを前にしても恐れんか。威勢がいい」


 重低音の声が空間中に響く。


「しゃ、しゃべった……」


 人の言葉を話す古代龍に驚き、エレナとシャムはさらに縮こまるようにして、リトとダクドの影に隠れた。


「お主ら以外の人間は今は無事だ。……なんとか、な」

「どういうことだ……?」

「ふっ、そう焦るでない。せっかくここまで来たのだから、一つ手合わせしようではないか」


 古代龍は前足を一歩前に踏み出す。


「はっ、ボス戦か。そうこなくっちゃな」


 リトも剣を構え、臨戦態勢をとるのだが――


「待て」


 ダクドがリトを遮るようにして古代龍の前に立つ。


「我輩を差し置いて、大量の人攫いを行ったこやつに、どちらが格上かをしっかりと教えてやらねばなるまい。貴様はまずそこで見学しておれ」


 そして強く拳を握り締め、ダンッと強く地を蹴った。


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