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第三話:主人公の名前はおまかせです

 サンストーンの光が二人を照らす。

 エレナの碧眼は泳いだまま、体は動かない。

 向かいに立つ男はそんな彼女の様子を見て、腰に手を当てつつ首をひねっている。


 しばらくして、エレナの思考停止中の頭が動き出す。はっ、と彼の言った意味を理解し、名前をまだかまだかと待っている目の前の男に反論を試みた。


「ち、ちょっと待って! なんで私が決めるの!? 普通名前くらいあるでしょ!」

「当然あったさ。だけど今はない。違う世界行くたび、名前変わるのって普通じゃないか?」

「いや普通とか言われても……」


 異世界に一度として行ったことのないエレナは言い返すことができない。


「ほら、よく考えてみてくれよ。前の世界じゃ普通でもここだと変な名前になるときがあるのさ。だーかーら毎回決めてもらうわけ。ほら例えば前にあった……太郎たろうとか違和感ないか?」

「……タロー? そこまで変じゃないと思うよ」


 エレナがカタカナ発音で名前を言う。


「くぅ、イントネーションで別の名前っぽく聞こえるもんだな。じ、じゃあ五右衛門ゴエモンとかは?」

「ゴエモン? そ、それは確かに違和感あるかも……というより本当に名前?」

「ほんとほんと! その世界では普通の名前だったぜ。確かあの時は……すでに行く前から決まっていたっけ。向かった先はちょっと古い時代っぽくて……あー、やたら周りが変なやつばかりだった覚えがあるわー」


 彼は過去を思い出しながら話す。


「まっ、要するに世界によって名前なんて様々なわけよ。――だからさ、この世界に合う名前を決めてほしいんだ」

「わかった…………と言いたいところなんだけどすぐには思いつかないかなぁ」


 エレナは腕を組み少し考えてみたが、なかなか思い浮かばなかった。

 ペットなんておとなしい動物がほとんどいないこの世界――レムリア。

 名付けるなんて自分の子供くらいにしか行わない、いわば神聖な儀式だ。だからエレナは適当に名前を決めるなんて失礼と思ってしまうのだった。


「ねえ、ここに来る一つ前の名前じゃだめなの?」


 何も思いつかないエレナは代わりに案を一つ出す。


「絶ッ対嫌だ!」


 即座にはっきりと否定する彼。エレナは何がそんなに嫌なのか疑問に思い質問をした。


「なんで!? 話を聞いている限り、記憶はあるんでしょ?」

「だってこの前の名前がさ……」

 下にうつむき、しょんぼりしているように見える彼が言葉を続ける。



「……『ヘンタイ』……だぜ」



「……はあ!? ヘンタイってあの変態? 『ヘンタイ』が名前? 名付け親は君と同じくらい変な奴なの?」

「さらっとひどいこと言わなかったか? ……まあいいや。あの名前って結構よくあることだぞ」

「なんで?」


 エレナは首をひねる。


はたから見てる分にはおもしろいんだろうな。『ヘンタイが船に乗り込んだ』とか普通の行動も怪しくなるし、『おおヘンタイよ、よくぞ参られた』とか王様はなんで変態を優遇してるんだって突込みを入れたくなるし。……まあ要は名付け親が楽しむために変な名前は多いんだよ」

「……ひどい話だね。名付けられた方の身にもなってもらいたいよ。周りからは何も言われなかったの?」

「周りって村の人とか、出会う人か? 結構普通に接してくれたぜ。その辺は別に問題なかった。……ただ敵に襲われている人々を助けに行ったとき、駆けつけた俺に向かって『きゃー、変態が来たわ!』と歓喜のはずの声も、ただの悲鳴にしか聞こえないのは精神的にきたなぁ」


 その頃を思い出してか「あーあ」とため息をつく彼をエレナはかわいそうに思った。


「なんにせよ『ヘンタイ』はない……もちろんここではそんな名前にしないから安心してね! さらに前の世界とかでいい名前はなかったの?」

「ええとちょっと待てよ。他には確か……」

 彼は手を頭に当て記憶をたどる。

「『タケシ』、『アレス』、『ショウコ』、一文字で『あ』、『☆☆☆(ほしほしほし)』、あっええと星型の記号を三つ並べたものな、『リト』、『ゴエモン』、『ダーク』、それに……」

「も、もういいわ……」

 エレナの予想以上に名前が多かったので途中で止める。

「何かいろいろ物申したい名前があったのだけど……変な名前が多すぎない……? ちょっと名付け親、適当すぎるでしょ」

「そんなことはないって。みんなちゃんと冒険の最後まで見てくれたぜ。特に『あ』なんて名付けてくれたやつは本当に俺のことよく分かってくれてたと思う。めっちゃ冒険がスムーズに行くよう導いていた気がするし」

「名付けられた本人がそう言うのなら私からはもう何も言えないけど……。じゃあ今までであなたが気に入ってるのってある?」

「えー、同じ名前使うのかー。新鮮味ない感じもするけど……いや、俺が自分で決めれるんだから新しいか、うん」


 彼は何かに納得したようにうなづく。


「よし、じゃあ『ダーク』で」

「――却下」


 即座にエレナの判断が下った。


「なんでだよ! 決めさせてくれるんじゃないのか!?」

「いや、なんていうかつい……そ、そうね、さっきのは気に入っている名前を聞いただけ。変なのだったら困るし、いいかどうかは私が判断する。ダークは変……というかダサい!」

「なっ……!」


 ダサいという一言にショックを受けた彼は一歩たじろぐ。しかしすぐ、言葉に詰まりながらも反論をする。


「だだだ、ダサくないって、かっこいいから! 闇って……ええと、なんか惹かれないか? 強い感じしないか? ミステリアスな響きだろ!?」

「ううん、まったく」


 意味が分からないという顔をするエレナに彼は驚きを隠せない。自分の中で完璧だと思っていた名前を一蹴され落ち込み、ひざを折り地面に両手を着いてうなだれた。


「そ、そんなばかな……闇の力といえば最強と恐れられるはずなのに……。それを分かってもらえないなんて……。はっ! これがジェネレーションギャップというものか!」

「いやいや同い年でしょ」


 いいかげんそろそろ自己紹介を終えて、次の行動に移りたいエレナの言葉が短くなっていく。

 そんな彼女の気を知らない彼は立ち上がり、『ダーク』という名前にしてもらおうと奮闘する。


「……くぅ! 『ダーク』の何がダメだってんだよ? 理由が言えなきゃこのまま言い張るからな!」


 エレナがはぁー、とため息一つく。


「……あのね。『ダーク』って普通に名前以外で意味の通じる名詞じゃない? それじゃあ『ウインド』とか言ってしまえば『テーブル』と同じよ。……ええとそう、この世界では『変』ってこと!」


 エレナは言い切る。

 もちろん『ダーク』という名前がダサいとか寒いとかは思っているのだが、面倒なやり取りが発生しそうなので口に出さないように説得した。


「そうかー、この世界に合わないのかー。なんかひっかかるところもあるけど合わないなら仕方ないよな」


 彼にすんなりと納得した。

 前の世界でも『かしこさ』は最後の最後まで低かったらしい。

 

(強いかもしれないけどバカで良かった……)

 エレナは心の中で呟いた。


「他には気に入ってる名前はないの?」


 頼むから普通の名前を出してくれと願いながらエレナは尋ねる。


「そうだな……じゃあ『リト』ならどうだ?」


 ほっと一安心するエレナ。


「それならオーケー……かな。そういえばせいもないのよね?」

「だから男だって」

「そのせいじゃないから! ファミリーネームの方! ……まあこっちは私と同じ『アーヴィル』としておくわ。その方が後々都合がいいでしょうし」

「ふーん、リト=アーヴィルかー。苗字がつくのにちょっと違和感あるけど、まあなくはないか」


 リトも名前に納得した。


「というわけでええと……『リト』。これからこの世界――レムリアをよろしくね」

「おう、こちらこそよろしくな『エレナ』!」


 自己紹介をようやく終えた二人は握手をする。


「とりあえず目標は魔物の親玉を倒せばいいんだよな?」

「んー、まあそんなところ」

「で、どこへ向かえばいいんだ?」

「そうねまずは……」


 エレナが暗い地下道の先を指差す。


「この地下道を抜けてすぐのところにある村かな。近くの村人の安否を知りたいから。一時間くらいは歩くけど大丈夫?」

「それくらいどうってことはないさ。レベルアップのために数時間くらい魔物を倒しに動き回るなんてざらだ」

「レベルアップ……鍛錬ってことかな? それは頼もしいね。じゃあ日が暮れる前に着くよう向かおうー」



 エレナとリトは地下道を進み始める。

 十メートルほど進みサンストーンの光も弱く感じられるようになったところでエレナは呪文を唱えた。


「じゃあ『灯火トーチ』…………あれ?」

 

 当然魔力切れの呪文なんてただの言葉でしかなく、辺りは何も明るくならない。

 単純なことを忘れていたエレナの顔は髪の色と同じくらいまで赤くなり立ち止まる。

 リトは急によく分からない呪文を唱えたまますぐに恥ずかしそうにうつむくエレナを見て「エレナは変わってるなぁ」と思うのだった。


補足:名前で『あ』とか『い』とか付けるのはドラ○エRTAリアルタイムアタックのことです。分かりづらいと思ったのでここで説明(……って本文に書けって感じですね)


 ゲームの主人公、名前を決めれるとしたらなんて付けていましたか?

 僕は全部記号(・、?、☆など)にしてました。今思えばあれも一種の中二病だったのかなぁ……。

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