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第二十九話:勇者と魔王は相容れません

「いやああああああ! 『浮遊風フロート』! 『浮遊風フロート』―!」


 エレナはリトに担がれたまま、どんどん近づいてくる地面を目にしてぎ何度も呪文を叫ぶ。しかし魔力のほとんど回復していない現状、呪文は効果を持たず、ただ空しく響くだけ。地面へ向けて落下するスピードは全く落ちない。


 ――ドゴンッ!


 民家の屋根に大きな落下の衝撃が響く。


「…………うぅ……生、きてる? し、死んだかと思った……」


 しかし無傷のエレナ。リトが衝撃を緩和してくれたおかげで無事着地することができた。


「大げさだなー。同じようなこと、この前にもあっただろ?」

「そうだけど。あの高さから落ちるなんて、たぶん一生慣れることはないと思うよ……」

「エレナも強くなればいいんだって!」

「そんな脚力、鍛え方が分からないよ!」

「だから敵を倒してレベルアップすれば……」


 (また変なことを言い出しちゃった……)と、エレナが思っている間に、リトとダクドは民家の屋根を飛び移り、一気に街の外へ脱出してしまうのだった。




 ――街外れの森の中。


 リト達は追っ手が近づいてくる気配はないので、ひとまず休息をとることにした。

 エレナのわずかに回復した魔力により焚き火を灯し、シャムを除く三人が周りに集まり腰を下ろす。

 シャムはというと、城の屋上からの飛び降りに驚き「きゅう……」と気絶してしまったので、近くの木にもたれかかるようにして休ませている。


「で、なんで王女様まで連れてきちゃったの? やばくない? 理由話してくれるんだったよね?」


 エレナはダクドを責めるように言及する。


「なに、姫を攫うのは我輩の役目というもの…………冗談だ。そんなに睨むな。まあ端的に言えば姫に頼まれたのだ。城から連れ出して欲しいとな。……嘘ではないぞ! いつまで睨んでおるのだ」

「いや王女様の反応も見てるし、嘘だとは思ってないけど。……ちゃんと連れ出して欲しい理由とかは聞いた?」

「んっ? 何も聞いてないが? 頼まれたから頷いただけだ」

「……まずいでしょ! ただのちょっとした家出の可能性もあるってこと!? それにどのくらいの期間連れて行くかもわからないじゃない! 私たちの旅は十中八九、一週間とかじゃ終わらないよ!?」

「そう言わればそうかもしれんが……しかし依頼、いわゆるクエストというのは受けれるものは受けるものだと昨晩こいつが……」


 ダクドはリトを指差す。


「ああ、言ったぞ。クエストは受けたほうが報酬もあるし、やりこみ的に必須だろ?」

「一応言っておくけど、ギルド以外の依頼はクエストとは言わないからね」

「えっ、そういう仕様なの? それならそうと早く言って――」

「何!? それでは我輩が受けたのはクエストではないというのか!? くそっ、せっかく勇者より一歩先を進んだと思っておったというのに!」


 ダクドは悔しげに、座ったまま地面をドンッとたたく。


 ――ボゴッ!


 その衝撃で地面が大きくへこんだ。振動で焚き木も揺れる。


「うわっ、危ない! ふぅ、よかった……火は消さないように注意してよね。またしばらくしないと魔法使えないんだから」

「まったくだぜ。何をそんなに悔しがっているんだか」

「いや、昨日貴様らがクエストを失敗したと聞いていたのでな。先にクリアしてやろうと意気込んだんだが。まさか依頼がクエストではないとは思わず……」

「……お前って結構負けず嫌いだったんだな……勇者、というか主人公の素質あるぞ」

「ふん! 別に負けず嫌いというものではない! 貴様に負けたくないだけだ!」


 勇者の素質など到底受け入れられず、ダクドはきっぱりと否定する。どうやら魔王としてのさがが勇者に対抗心を燃やさせているらしい。


「まあでも今回は引き分けだよね。どっちもクエストは達成できなかったんだし。そんなことより王女様をどうするかを――」

「そんなことだと?」

「引き分けじゃねえよ」


 エレナの何気ない一言に、ダクドとリトは即座に反論する。


「こいつなどクエストに失敗したではないか。我輩は少なくとも失敗はしておらん。クエストではないにしろ、依頼は完了できたはずだ」

「何言ってるんだよ。クエスト受けてすらいないお前よりは勝ってるさ。それにお前をギルドに引き渡せば達成できていたんだからな。そこんとこ忘れてもらっちゃ困る」

「くっ、戯言を……」

「なんだよ、口は負けねえぞ」


 リトとダクドが焚き木をはさんで睨み合う。このままでは決闘までいく可能性も十分考えられる。


(――っ! こんな争いをしている場合じゃないって言うのに……)


 早くシャム王女のこれからを話し合いたいエレナは、二人の間に入ることにした。――もちろん(子供の喧嘩か!)と心の中で思いっきり突っ込んだ後にである。


「もう! 勝負ならまた次の街に行ったときにすればいいでしょ! そろそろ王女様を起こして話を直接聞くの!」


 顔を真っ赤にして怒鳴ったエレナに、二人はびっくりして顔を見合わせる。これ以上は、ヒロイン限定『防御無視の鉄拳』が飛んできてもおかしくはない。

「し、仕方ない。この件はいったん保留にするか」

「お、おうそうだな、また次の機会があるんならその時でいいか」


 素直に納得してしたくれた二人にほっと一息を吐くエレナ。


「さてじゃあどうやって起こそうか? 揺すれば起きてくれるかな?」


 そう言ってエレナはシャムをもたれかからせた木陰の方を向く。




 月の光が葉の間を抜けて照らされたその場所には、誰の姿も見当たらなかった。


更新頻度が落ち気味! 

モチベをあげるためにもう一つ他の物語を書こうと思っていたら、どちらも中途半端な状態になってしまっています……。

同時進行のため、週一更新ペースに落ちるかもしれません。ゆっくりお待ちいただけると幸いです。

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