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第二十七話:一方勇者は武器探しに奔走しています

 ――コンコン。


 見張りの兵士に一礼し、書斎の扉をノックする。


「どなたですか?」


 書斎の中から発せられる女性の問いかけに、返事はすぐ返ってきた。


「シャムです。大事なお話があってきました」

「……入りなさい」


 キィ――っと扉を開け、シャムは書斎の中に入る。

 彼女の目の前にいる女性は、本を読むには広すぎるであろうテーブルの奥、ゆったりとした肘掛付きの椅子に座り、夕刊に目を通している。


 紅縁の眼鏡をかけ、キリッとした顔つき。シャムと同じ色の金髪を頭頂部よりやや後ろでお団子のようにまとめめ上げている。

 その女性の居住まいから、もしスーツを着ていれば、バリバリ仕事のできる女性に見えるだろう。しかし、彼女の着ている服はスーツに似ても似つかぬ、一般人ならまず着ることのない、優雅な真紅のドレスだった。


 そう、その女性はレイアード国の王妃――シャムの母親なのである。


「それで大事なお話とは? まさかまた『あれ』のことじゃないでしょうね? 前にも言ったように城に持ち込むなどわたくしは断じて認めませんよ?」

「そのことではありません。もちろん大事ですけど、もっと大事なことです」

「ふむ……それでは今日はめずらしく、脱走でも謝りに来たのでしょうか?」


 王妃が夕刊の記事を見ながらシャムに問いかける。


「違います。そもそも城からの脱走については謝る必要もありません……とお母様も考えているはずです。『街の人々の生活を近くで見つめなければ王は務まらない』――といつも言い聞かせてきたお母様のこと。わたしがこそっと街へ出かけるのも黙認していたのではありませんか?」

「……」


 王妃は少しの間目を瞑り黙る。


(ほう、黙認していたことまで見抜かれていたとは…………大きくなるのは早いもの、いつまでも子供ではありませんか……)


 王妃はゆっくりと目を開け、シャムと目を合わせる。


「……脱走に関しては深く言うつもりはありません。シャムがじっくり考えて出した答えなら、その答えを信じても問題ないでしょう。……そろそろ大事な話が何か教えてくれませんか?」


(お母様はちゃんと聞いてくれている)


 そう感じ取ったシャムは大きく深呼吸をしてた後、王妃の問いに答えた。


「……私は、世界中を旅したいのです。この平和な国一つでは必ず視野、知識が狭くなってしまいます。今のままでは本格的に魔物に攻められたとき、対抗するすべがないと思います。人間がどのように魔物に対抗しているのかなど、もっと見聞を広めたいです」

「…………そうですか……」


 王妃は紅縁の眼鏡を押し上げて、シャムをじっと見る。


 数年前なら『旅なんて無茶です』と突っぱねていたかもしれない。しかし、今の娘の目は力強く、はっきりと志を持っていることが見て取れた。


「わかりました。シャムの思うように行動してみるのが、一番良いのでしょう。しかし、言うまでもありませんが、旅というのは甘くありません。一人で挑むのは無謀というものです。兵士のどなたかを連れて行くのですか?」

「いいえ。非常に頼りになると思われる旅人に連れて行ってもらえるよう頼んであります」


 自身の脱走を許してしまうような兵士と共に旅をするなど、微塵も考えていなかったシャム。頼れる人材を探していたからこそ、旅をしたいと言い出すまで、時間がかかってしまったのである。


「旅人ですか……。見ず知らずの人にシャムを任せるのは……」


 訝しげな表情の王妃。彼女を不安にさせないようシャムはにこやかに、はっきりと言った。


「それには心配及びません。どれほどの人物か分かってもらえるよう、その方にあるお願いをしてきましたから」

「それはいったい?」



 ――――。



「分かりました。確かにそれなら力量が窺えるでしょう」


 王妃が納得してゆっくりと頷く。


「それではこれからお父様にも話をしに――」

「いいえ、あの方にはわたくしから言っておきましょう。感情的になりやすいですからね。まともに聞いてもらえるとは思いません。シャムは手紙として思いを綴りなさい。そして長旅なのですからきちんと支度をすること――いいですね?」

「はい。最後の最後までありがとうございます。では、行って来ます!」


 そう言ってシャムは書斎を退出しようと扉を開ける。そこで――


「シャム!」


 王妃――シャムの母親からの呼びかけに、シャムは立ち止まり、彼女の方へ振り返った。


「最後なんてむやみに言うものじゃありません。必ず今より成長した姿で元気に戻ってきなさいね」

「はい! もちろんです!」


 シャムはにっこりと微笑み、深く頭を下げる。そして書斎を後にした。




「子は離れていくものですか……寂しくもあり、誇らしくもありますね」


 一人になった書斎で王妃がつぶやく。


「やはり少し気になるのは旅人……娘を任せるのです、少し厳し目に評価させていただきましょうか」


 王妃は書斎を出てすぐ傍にいる見張りの兵士に、ギルドへの緊急依頼を出すよう命じた。




「がはっ!」

「ぐふっ!」


 ダクドが向かってくる兵士を軽く蹴散らしていく。


「……はぁはぁ……ち、ちょっと! 死なせて、ないでしょうね!?」


 ダクドになんとか付いて来たエレナが、息を切らしながらダクドに聞く。


「ふん、死なない程度に十分手加減しておるわ! 殺生するなとも依頼されておるからな」

「そう、なら、いいけど……」


 依頼とはなんだろう? と考える暇なく、城の中を走り続けていくエレナ。

 しばらく走ったところで一つの大きな扉が二人の目の前に見えてきた。


何奴なにやつ!? この部屋には一歩も――ぐっ!」


 見張りの兵士がダクドの手刀を首にもらい気絶する。

 そのまま大きな扉を蹴り開けた。


「姫は居るかー!」


 ダクドが見張りが守っていた部屋――シャム王女の寝室へと足を踏み入れる。すぐに続いてエレナも入ってきた。

 部屋の中では純白のワンピースを着たシャムが大きな手提げカバンを持って、部屋の中央に立っていた。二人の侵入者、騒動にうろたえる様子は全くない。

 ダクドが今の状況が楽しいのか、大声で笑い、シャムに向かって手を差し出す。


「ふはははははっ! 攫いに来たぞ、シャム姫!」

「はい! お願いします!」


 そんな二人のやり取りに、エレナは碧眼をぱちくりとさせて、呆然とするしかなかった。


書いていたら思っていた以上に、シャムと王妃との会話が長くなってしまいました。まだ『あれ』とか、思わせぶりな箇所もありますが、後二話くらいで回収する予定です。


『シャム』がそのうち『社務』って誤変換したままになりそう……気をつけます。

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