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第二十六話:牢屋を脱出しましょう

「はぁ~……」


 エレナの大きなため息が石の壁に反響する。

窓もなく、中にあるのは就寝用の寝袋と小さな机だけという殺風景な四畳半の部屋――レイアード城地下一階に並ぶ牢屋の一室。その部屋に入れられたのはエレナ一人だけで、リトは別の一室に入れられた。


「なんでこんなことになるかなぁ……リトが泥棒するなんて言い出さなければまだ話がてきたかも…………って何回同じこと言ってるんだろう……」


 兵士による取調べを受けてからすでに数時間、部屋の隅でうずくまり、捕まったことをうじうじと嘆いていた。


「そろそろ気持ちを切り替えないと……」


 とりあえずすくっと立ち上がり――


「…………」


 立ち上がったはいいが、かといってやることもないので、彼女の目線の高さにある鉄格子付きの扉の小窓から、なんとなく外を眺めに行く。


 燭台の蝋燭ろうそくによりぼんやりと照らされた廊下には兵士の姿は見当たらない。


「これだけ警備が手薄なら、脱走することもできそうだけど……」


 取調べを受ける前に武器は没収され、魔力はアブストーン(魔力を蓄える石。加工されランプや気球など乗り物の動力となる)へ移し変えられ、全て奪い取られている状態だ。南京錠のかかった扉一つ、今の彼女では破ることはできない。


「とはいえリトなら素手でも脱出できそうだけどなぁ……なんか静かにしてるみたいだし。…………まあでもそれはそれでありがたいけど」


 商品の弓を壊すという器物破損はしたものの、窃盗は未遂とあってまだ罪は軽く、一ヶ月もすればすぐに出られるだろう。万が一脱走に失敗して、罪が重くなるのは御免被りたかった。


 くぅ~……。


 エレナのお腹が小さく鳴る。


 先ほどまで落ち込んでいたのもあって、配給された夕食にはまだ手をつけていなかった。




「……んぐんぐ、うーんまずくはないかな」


 エレナは冷め切った料理を口に運ぶ。

 与えられた食事はパン、鳥皮の入ったスープ、サラダという質素なもの。彼女の腹八分目にも満たないくらいの量である。


(ちょっとしたダイエットにもなりそう)


 とエレナが考えながら食べていると――


 カンカン。


 不意に扉をノックする音が彼女の耳に入ってきた。


(見回りかな?)


 そう思い扉の方に顔を向ける。


「……?」


 鉄格子付きの小窓から見えたのは見回りに来た兵士の顔ではなく、おでこから上のきれいな金髪だった。

 不思議に思ったエレナはすぐさま扉に駆け寄る。


 扉の向こうにいたのはエレナより頭一つ分低い小さな女の子。

 背まで伸びる金髪は絹のように滑らか。整った顔立ちで非常にかわいらしい。まるで人形のようだ。高級そうな純白のワンピースを着ていて、その上からでも体格に似合わない豊満な胸を持っていることはうかがい知ることができる。

 その少女が少し首を上に傾け、髪と同じ色の眼がエレナの眼と合ったところで――


「申し訳ありませんでした!」


 と、少女は他の部屋の囚人に聞こえないよう、その高く透き通った声をできるだけ抑えながら、エレナに対して深々と頭を下げた。


「えっ!? ど、どういうこと? なんで君が謝るの?」


 突然のことに驚き戸惑うエレナ。


「あの……実はこれを拾っていたのですが、あのとき渡せなくて……」


 少女は腕を上げ、手に持っていたあるものをエレナの目の前に差し出した。


「これって……私の財布!? なんで持ってるの!? …………あっ、もしかして君って本屋でぶつかった子?」

「は、はい! そうです! 武器屋まで追いかけたんですけど、すでに兵士に囲まれていた後でどうしても渡せなくって……本当にすみませんでした」


 少女はもう一度頭を下げる。


「も、もう謝らなくていいって。ぶつかったのも落としたのも私だし」

「そうかもしれませんが……」

「それにこんなところまで届けに来ててくれたんでしょ? 財布見つかっただけ十分……あれ? でもどうやってここに? 君はいったい……?」


 財布を届けに来てくれたのだとしても普通兵士を介するだろう。それにきれいなワンピース姿、振る舞いは牢屋の並ぶこの場所で非常に浮いている。

 エレナはそれを疑問に思った。


「私ですか? 私はシャム=クレスティアと申します。どうやってといわれましても、何年も住んでいますから、城全体が私の庭みたいなものですし……」

「住んでるし、庭のようなもの……? それにシャムって名前どこかで聞いたような…………あー! も、ももももしかしてしゃ、シャム王女!?」

 

 エレナが驚くのも無理はない。エレナとぶつかり、財布を拾ったというその少女は、城からの脱走で有名なレイアード国のおてんば王女だったのだ。


「しーっ! 静かにしてください! 他の人に聞こえちゃいますから!」

「ご、ごめんなさい……先ほどまで言葉遣いも重ねてお詫び――」

「先ほどまでの口調で構わないですよ。むしろ先ほどの方に戻してください。むやみにかしこまられるのは苦手なんですよ」


 顔をむすっとさせるシャム。


「わかりま――わかった。それじゃあちょっと聞きたいんだけど、どうしてあの時本屋にいたの?」

「ええと、ちょっと漫画を買いに……お父様やお母様の理解をなかなか得られなくてですね。欲しいものは自分で買いに行くしかないんです」


 どうやら欲しい本が出るたびに城を抜け出していたらしい。


「両親の考えが固いんだね。娯楽とはいえ、漫画くらいいいと思うけど」

「そうですよねー。私のことを思って言ってくれているのでしょうけど……もう十七になるんですしそろそろ子離れして欲しいものです」

「えっ、十八歳!? 一つ下だけ!?」


 あと五歳は幼いと思っていたエレナ。

 小窓からシャムの上から下までもう一度見て「確かに胸は頷けるかも……」と感想を口にする。

 そんなエレナの言葉をシャムは気にしない。少しそわそわして時間を気にしているようだ。


「すみません。短い時間でしたが、そろそろ部屋にメイドが来る時間なので戻りますね」


 そう言ってシャムはその場を離れる。去る間際に

「すぐにそこから出してあげられると思います」

 という、エレナにとってうれしい一言を残していった。


 それを聞いたエレナは安心する。波乱の一日に心がかなり疲れていたため、少し眠ることにした。




 どごおおおおおおん!


「ぐわあああああ!」


 破壊音、叫びが地下中に響き渡る。

 その喧騒にエレナは目を覚めさせられることになった。


「う~ん……今度は誰が来たの……? ――じゃない! いったい何の騒ぎ!?」


 慌てて部屋の外を見る。その瞬間二人の姿がエレナの前を横切った。


「え……ダクドにリト!?」


 思わず大きな声をあげるエレナ。


「む、そこか?」


 エレナの声に気付いたダクドがすぐに扉の前までやって来る。


「横にどいておれ」


 ダクドの言葉を聞き、察したエレナはすぐに横の壁に体を張り付けた。


「はあ!」


 どごおおおおおおん!


 ダクドの拳により扉は粉砕される。

「よし、行くぞ!」

 こっちへ来いとばかりにダクドに手を振られる。


(せっかく王女が出してくれるって言ってくれたのに……これじゃあ余計に罪が重くなるだけじゃない!)


 エレナは手に力を込め、不満をぶちまけようと思うが、

「ふぅー……」

 と一息深呼吸し冷静になることができた。


(そんなことをしてる場合じゃないね。ここまで派手に暴れたらもう手遅れだし、すぐに脱出を成功させないと)


 リトやダクドの奇想天外な行動に少し慣れてきたエレナ。怒ってばかりじゃ収集が着かなくなることをなんとなく理解してきていた。

 エレナはすぐに部屋の外に飛び出す。


「どこから脱出するつもり?」


 エレナの問いに二人はそれぞれの考えを述べる。


「そう焦るなよ。脱出の前に俺の大事なエターナルソードを探さねえと」

「我輩としても城から退散する前にやらねばならんことがある」


 どちらもすぐに城から出る気はないらしい。

 現状魔力の失っているエレナとしてはリトかダクドのどちらかについていかざるを得ないのだが……。


「じゃあ……」


 いままでのようにリトと行動を共にしようと思ったエレナ。しかし――


「我輩もクエストとやらを受けたのだ。くくくっ、貴様らがミスをしたというクエストを必ず成し遂げてみせよう」


 ダクドが口元を吊り上げ、邪悪に笑うのを見て、嫌な予感がした彼女は今回ダクドに付いていくことを決めた。


自然回復する囚人の魔力は毎日アブストーンへと吸収されます。そしてそのアブストーンは街の明かりなど公共のものとして扱われます。決して無駄にはしません。


ちなみに城の地下にいる囚人はすべて窃盗などの軽犯罪者です。殺人などの重罪を犯したものは他の施設へ隔離されています。

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