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第二十五話:その武器は本当に装備できますか?

「せっかく近くまで来たんだし、どんな武器があるか見てくだけでも見に行こーぜ!」


 リトは防具屋の向かいにある武器屋にダクドを連れて行く。

 武器屋は防具屋よりもはるかに広く、屋台ではなく一つの店として建っている。品揃えが自慢で、スタンダードなものから、使い勝手が特殊なものまで数多くの品々が店内に並べられている。


 所持金はゼロなので、取り扱ってる武器の性能や値段を確認するだけ。良い武器があれば後で買いに戻ってくればいいという考えだ。

 とはいえリト自身は現在の武器から変えるつもりはさらさらない。ではなぜ武器屋に向かったかと――


「剣に槍、弓もあるじゃん。これは鎌だろ……結構いろんな種類があるんだなー。全体攻撃できそうなのはこの鞭とか?」


 やはりどんな武器があるか非常に興味があったからである。様々な武器を手にとっては使い道を商売魂あふれる中年の店主に聞いている。


「その通り! この『バインドウィップ』は広範囲に攻撃するのに優れている……だがそれだけじゃねえぜ。鞭の先を見てみろ。かぎ状になってるだろ?」

「ほんとだ、金属の鉤がついてるな。これは攻撃力ありそうだ」

「ちっちっちっ、なにも攻撃をするためだけについてるんじゃねえぜー、こいつは。扱いには慣れが必要だが……ちょっとこっちに来い。実際見たほうが分かりやすいだろ」


 そう言って店主は店の隣、一軒家ひとつ分くらいの空いたスペースにリトを連れて行く。

 その場所には丸太に藁を何重にも巻き付けてできた等身大サイズの人形が三つ並んでいる。武器の試し斬り用とのことだ。


「ふぅー、それ!」


 店主は真ん中の人形狙って鞭を振るった。

 しなやかに伸びた鞭は人形に当たるとぐるぐると巻きついていく。


 ガシッ!


 鉤を鞭に引っ掛ける――と同時に店主はぐっと自分の方に引っ張った。鞭がピンと張り、人形を縛り付けているのが分かる。


「へへっ、どうだ? こうやって敵の動きを封じることもできるんだぜ」

「すげー! 全体攻撃に行動停止スタンか! …………でもさすがに鞭と剣両方だと扱い辛そうだなぁ、二つ持つのもかさばるし」

「この際だから新しい武器にとっかえちまってもいいんじゃねえか? まだ若いんだから今からでも遅くはないぜ?」

「……いいや、今回俺はこの剣と旅を共にするって決めたんだ。それはできねえよ」


 リトは思い深げに自分の剣を見つめる。


「なるほど。思い入れのある愛剣なんだな。……わかった! なら短剣をいくつか紹介してやろう。あっても邪魔にならねえし、その剣より近距離での小回りも利くだろ」


 店主は在庫等が置いてある店の奥に短剣を探しに行った。


「短剣さえ何種類も置いてあるのかー。すごい品揃えだな。……他の武器も見てみよっと」


 リトも店内へと戻っていった。




「どうだ、何か使えそうな武器は見つかったか?」


 きれいに飾られた長剣の前で、腕を組み「うーむ……」とうなっているダクドにリトが声をかける。


「その長剣か? せっかくなら試し斬りさせてもらおうか?」

「……うむ。……いやしかし……」

「ん? 他に気になる武器でも? なら両方試させてもらおうぜ」

「いや、他のはほとんど見ておらん。悩んでるのはそういうことではない」

「せっかくこんなに何種類もあるのに見てないのか!? ……もったいない! お前のために来たってのにさぁ」


 リトの言うように、武器屋に寄った理由に、現在装備武器無し――『素手』のダクドが使える武器を探すことも入っていた。

 しかし、ダクドは気乗りしない様子。リトはその理由を聞く。


「何か不満なことでもあるのか?」


 ダクドは少し逡巡した後、自分の考えを述べた。


「…………不満、とは少し違うな。我輩としてはこのような武器を身につけること自体、気が進まんのだ」

「だからなんでだよ」

「むう……どう言えばいいか……。そうだな、例えばだ。勇者相手に、武器を手に取り、全身鎧で固めた魔王をどう思う?」

「うわー、防御固そう。めんどくせーって思う」

「そうかもしれんが……他には?」

「えっ、そうだな……。めっちゃ気を張ってんなー、素の強さに自信ねえのかなっとも思うかも」

「それだ! 勇者とはいえ人間相手に素で戦わないなど、魔王としての沽券に関わる! 恥ずかしいくらいだ! もっと戦闘中でも余裕を見せるくらい種族による力の差を見せ付けねば!」


 元魔王が力説する。それに対してリトは――

「いやでもさ……負けてたら意味ないじゃん。てか、そんな余裕見せてるからいつも負けるんだよ」

 と、ばっさりと切り捨てた。


「いやっ、うっ……うむぅ……」


 返す言葉のないダクドにリトが続ける。


「ならその失敗を繰り返さないためにも、ちゃんと武器を選ぼうぜ。それに……今回は魔王じゃなく俺達の仲間なんだからさ!」


 ニッと笑い、『仲間』呼ぶリトに、ふいっとダクドはそっぽを向く。


「ふん……仲間か……は別として、確かにせっかくの新しい世界だからな。いろいろ試してみるのもいいだろう」


 そう言ってすぐ、ダクドはスタンダードな武器三つを手に取り、試しに使ってみたいと店主に申し出た。


「おう、わかった。ちょっと待て、すぐ行く。そっちの兄ちゃんはすまんな。なかなか実践的な短剣が見つからねえんだ。護身用なら山ほどあるんだが……」

「別に問題ないぜ。早急にいるってものでもないからな。ただ、別にちょっと試すだけだからわざわざこいつに付いてくれなくったっていいぞ?」

「ばっかやろう! 商品なんだから勝手に持ち出しは許可できるか!」

「ふーん、そういうルールなのかー」


 リトは納得して、店主と一緒にダクドの試し斬りを見に行くことにした。




 ダクドが適当に選んだ武器は長剣、槍、弓の三つ。どれもスタンダードなもので、使える武器の傾向をみるにはちょうど良い。


 ダクドが最初に試し斬りをしようと手に取ったのは長剣だ。ぶんぶんと素振りをして感覚を確かめている。その様子を見た店主とリトはお互い評価を口にする。


「素人目ではあるが……あれは剣の才能が感じられん」

「こりゃあ剣は装備不可かなぁ……」


 ダクドの剣の扱いはそれほどまでにひどいものだった。両手で持ったり、持ち手を左右変えたりしていたが、どれもどうもぎこちない。剣を持つ向きすらも違う。


「あいつは剣を持つのは初めてか?」

「そうみたいだな……もしかしたら他の武器も初かも……」


 二人の心配をよそに、ダクドはうんと一つ頷いて試し斬り用の人形前に立つ。

 どうやら右手の片手持ちで落ち着いたらしい。剣を構え、赤い目で鋭く標的をにらみ、人形に向かって走り出した。


 タンッ。

 ――と人形の手前で軽くジャンプ。そのまま剣を思いっきり振り下ろした。……剣の腹を人形に向けて。


 どごおおおおおん!!!


 剣の殴打により、地面にたたきつけられた人形の丸太はへし折られ、石畳の地面をもわずかに砕いた。


「…………」


 その光景を見た店主は口をあんぐりと開けたまま呆然と固まる。

 剣の扱い、細身の体格からダクドのことをろくに修行もしてない奴だろうと勘ぐっていた店主には衝撃的過ぎるパワーだった。


 長剣の試し斬り(?)を終えたダクドがリトの元にやって来た。どうだと言わんばかりの表情でリトに剣を渡す。


「いや、剣なんだから斬ろうぜ」


 リトの言葉に少し首を傾けつつも、無言で近くに置いた槍を手に取り、今度は右手で素振りを少ししてすぐ、そのまま人形に向かって走り出した。


 どごおおおおおん!!!


 剣と同様に振り下ろされた槍が人形を地面にたたきつける。


「いや、だから突こうぜ」

「……?」


 わけがわからないといった様子で弓に持ち替えるダクド。今度は手にするや否や、人形に向かい――――下成節(弓を握る部分よりやや下部)を持ち、振り下ろした。


 ばきっ!!!


 竹でできた弓が丸太でできた人形に敵うわけなく、真っ二つに折れる。


「だからせめて矢を使おうか!」


 何食わぬ顔で戻ってきたダクドにリトが注意する。


「何をかっかしておるのだ? 最後の人形を倒せなかったのは不満だが、あれは……武器自体が悪かっただけだ」

「いやいやいや。どう見ても武器に罪はねえよ。悪いのはお前だ。ていうか最後だけじゃなくて全部ダメだったぞ」

「はあ? なぜだ!? 人形二体、もちゃんと倒せたではないか!」

「倒せりゃいいってもんじゃねえっての。武器として扱えてないのがダメだって言ってるんだよ。めちゃくちゃに振り回してただけじゃねえか。……まあ木の棒とかの棍系ならなんとか使えそうに見えたけど……試しに持ってくるか?」

「断る! ゴブリンやオークとか低級魔物の持つようなものを扱うなど我輩のプライドが許さん!」

「いや、ゴブリンでさえ剣は扱える奴も結構見かけた……から元魔王はそれ以下だぞ」

「何だと! 貴様、今のは聞き捨てならんぞ!」


 リトとダクドの口論に街の人々の視線が集まる。その数なんと三百人超え。ダクドの試し斬りの際に発した衝撃音により、多くの住人、兵士が集まってきていた。


 そんな中、呆然としていた武器屋の店主がようやく我に返った。


「……はっ! いけね、ぼーとしちまってた……ってなんじゃこりゃあ!?」


 無残な状態の試し斬り人形二体と、真っ二つに折られ放置された弓を目の当たりにして、店主は叫ぶ。すぐにその弓を手に取り、口論している二人に詰め寄った。


「こいつぁどういうことだー! 売り物をこんな真っ二つにしやがって! さすがに弁償してもらうぞ!」


 店主のあまりの剣幕にリトとダクドは口論を中断し、彼のほうを向いた。


「そんなもろい武器を置いている方が悪――」

「いやー悪い悪い」


 リトがダクドの言葉を遮るようにかぶせる。


「こいつ武器の扱いがひどくてさー……で弁償って?」

「弓の代金五百ギルだ。試し斬り人形の方は別にいい。あれは……想定外として受け入れてやる」

「今じゃなきゃダメ……だよなぁ。実はさ、今手持ちが……」

「はぁ!? 五百ギルすらないのか!? そもそも冷やかしだったのかよ、おい!」

「――違う違う! もう一人の仲間がちゃんと持ってるから! 後で呼んでもう一回ここに来るつもりだったんだよ!」

「本当だろうな?」


 疑いのまなざしを向ける店主。商品すら破壊するめちゃくちゃな連中だから、仲間を呼んでくると言って逃げる可能性も考えていた。


「なら一人ここに残って、もう一人がそいつをここに連れて来い。できるだけ早くだ」

「うーん…………」


 リトは悩みながらダクドのほうを見る。ダクドからはめんどくさいオーラがあふれ出ていた。


「じゃあ俺が呼びに――っとその必要はないみたいだな」


 リトは人混みの中からぴょこっと顔を出したエレナの姿を見つける。リト達の姿を確認すると、彼女はすぐさま彼らの元に駆け寄ってきた。


「やっっっと見つけたー! まったく、探し回ったんだから! …………で、今はどんな状態なの?」


 エレナは店主の怖い視線に気付き、状況をリトに確認する。


「実はさ、こいつが商品壊しちゃって、その代金を求められてるんだよ」

「えー、またトラブル起こしたの……もう、まったく……」


 ダクドに言いたいことが山ほどあるエレナだが、店主のにらみが気になるので、とりあえずこの場を治めようと、ローブの内ポケットから財布を取り出そうとする……が、


「……あれ?」


 ポケットの中身は空だ。願いをこめてもう一度ポケットの奥まで手を突っ込みまさぐるも――


「…………な、い。……ない! どうしよう!」


 やはり何もなかった。エレナは焦り、目元に涙が浮かぶ。


「あの財布の中には旅の全財産が……。それに弁償……」

「おい、どうしたんだ? 代金は?」


 鋭い目でリト達をにらみつけたまま、店主が催促してくる。


「くっ……店の商品を壊す……代金を催促される……所持金はゼロ……」


 リトはぶつぶつつぶやきながら、打開策を考える。


「このままじゃ店から離れられない……待てよ、確か似た場面に遭遇したことがあるぞ。……思い出せ、そのときは…………そうだ!」


 リトの頭にある案が思いついた。すぐさま実行に移す。


「こんなときは『泥棒』だ! 一か八かで逃げるぞ!」

「な……なに言ってるの!? 絶対ダメ!」


 慌ててエレナは逃げようとしていたリトの腕を掴む。


「だってこれしか方法が――」

「まだ話し合いの解決もあるって! 早まっちゃダメ! ちゃんとこっちの状況を伝えたら――きゃっ!」


 リトとエレナまとめてぐるぐるとロープのようなものが巻かれていく。


 ガシッ!――と鉤が引っかかり、完全に捕らえられる。リトとエレナに巻きついたのは防犯用『バインドウィップ』だ。通常のものより鞭の長さは短いが、人を捕まえるのに適している。

 鞭を振るったのは武器屋の店主である。『泥棒』『逃げる』といった言葉を聞き逃さなかった彼が、実力行使に出たのだった。


「誰でもいいからこいつらしょっ引いてやってくれ!」


 店主が近くにいる兵士に呼びかける。


 集まった兵士数人により、

「このままバッドエンド直行はさすがにないよな。な?」

 とおどおどするリト、そして

「こんな人生の転落って……」

 と暗い声でつぶやき、がっくりとうなだれるエレナは城の地下牢へ連れて行かれることとなった。


そんな二人を見送った後、

「ちっ、一人逃がしちまったか」

と、店主は小さく舌打ちした。




「……ふむ、さてどうするか」


 街の外、近くの森まで逃げてきたダクドは少し考える。

 「逃げるぞ」と言った張本人のリトが、エレナによって逃げ遅れさせられ、捕まったのは確認した。しかし、だからといって自分がこれからどう動くかは決めかねていた。


「あいつらの元に向かうべきか……それともこのまま一人で世界征服を目指すか……。まあこれに関しては後で考えよう。それより……」


 カサッ……。


 ダクドの後ろで枯葉を踏む音がする。


「我輩を追える者があの街にいたとはな……興味深い。くくくっ、そいつの相手をしてからでも遅くはないだろう」


 ダクドはバサッとマントを広げ、追っ手の方を振り返った。


結局ダクドの装備できるものは見つからず素手のままになります。

装備ガチガチの魔王の姿が全然思い浮かばなかったり、素手でも十分強いからいいかーと思ったり。

――と言い訳しつつ、新しい武器考えるの途中で放り投げちゃいました。

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