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第二十四話:武器・防具屋の品揃えは確認しましょう

 ガタンッ!


 頬杖により支えられていたリトの頭がずり落ちる。


「はっ……また寝ちまってたか……」


 リトは眠気を飛ばすように小さく首を振る。


「まったく、なんでこの世界の本はこんなに眠くなるんだろうなー……ふぁーあ……眠気覚ましにちょっと歩き回るか」


 リトは大きく伸びをしてから席を立ち、エレナとダクドの様子を見に行った。



 

「おーい、エレナー」

「…………」


 返事がない。ただのし――かばねではなく、ただの集中しているエレナである。彼女の集中力は非常に高く、没頭しているときは周りの声はほとんど聞こえない。とはいえトントンと肩をたたかれたりすればさすがに気付くのだが――


「うーん、今はダメか」


 リトは声をかけたことに反応がないだけで諦め、ダクドの方に向かう。


「先に他のイベント進めろってことだよなぁ」


 いつもの感覚で、仲間が一度無言になったらしばらくは何度話しかけても無駄だと思ってしまっていた。




「なるほど街や村は川や湖の近くに作られることが多い……なければ水路を建設することもあると……」


 真剣に歴史書のページをめくっていくダクド。時折、口元に笑みが見られる。


「おーい、調子はどうだー」

「……ん、なんだ貴様か。我輩ならなかなかよい情報を手に入れることができたぞ」

「マジか! この本にどんな情報が載ってたんだ!?」


 リトがばんっとテーブルに手を置き、前に乗り出すようにしてダクドの読んでいた歴史書を眺める。


「くくくっ、それはな……水源だ。そこを狙えばいい」

「……? 川の上流とかに目的地(魔王城)が存在するってことか?」

「うむ。そこさえ制圧してしまえば勢力は衰えるであろうからな。……どうやら人間にとって水というのは非常に大事なものらしい」

「……おい、ひとつ言っておくが、俺達の倒す敵は人間じゃねえぞ、魔王だ」

「つまり我輩か!?」

「違う! ってかお前自身が自分と別に魔王がいるって言ったんじゃねえか。その魔王についての情報は!?」

「…………探しておらん。どうも前の世界の名残で、完全に狙いは人間で考えていた……が、その魔王は名すら書いてあった覚えがない。我輩の持ってきた書物には魔王に関する記載はなかった」


 ダクドの言葉を聞いて、リトはがっくりと肩を落とす。


「やっぱり自分で調べないとダメってことかー? あのいっぱいの本から探すやる気は起きないし、多分起きてもいられないだろうなー……なんかあれらの本全部、まるで睡眠効果あるみたいだし」


 リトは「うーん」とうなる。どうしても本を調べる気にならないようだ。


「詰まったとき……は気分転換に他のことをしてもいいかもしれない……そう、そうしよう! 他のことをしてる間に見えてくるものもあるさ。もしかしたら時間が経てば解決するような問題かもしれないし」


 リトは現実逃避のために言い訳を並べ立てる。


「そう、まだ街でやりたいこともあるんだよ。その考えが邪魔しているのかもしれないな。ってことでまずはそれを片付けよう、うん」

「何をごちゃごちゃといっておるのだ?」

「えっ、ああ、決意の表れっていうのか」


 決意――現実逃避をするというものである。


「ちょっとだけ他に回りたいところがあるんだよ。元魔王も来るか?」

「ふん、なぜ我輩がいちいち貴様なんぞに付き合わされないといけな――」

「自身の強化に関係することなんだけど」


 『自身の強化』――それを聞いたダクドは素早く反応し、すくっと席から立ち上がる。


「――早くその場所に案内してもうらおうか」

(……こいつ案外扱いやすいかも)と思いながら、リトはダクドを連れレイアード文庫から出て、屋台などの出店の建ち並ぶ大通りへと向かった。




「いらっしゃいませー!」


 立ち寄ってくれるお客にはきはきとした店主の声がかけられる。

 ここは大通りの中央付近に店を構えるこの街唯一の武器屋・防具屋である。

 通りの片側に防具屋、通りをはさんでちょうど対面に武器屋だ。どちらも商品が見栄えよく並べられており、小さな短剣や手甲などは屋台の天井から紐でぶら下げられている。

 リト達がまず訪れることにしたのは防具屋。

 ターゲットとなる客が主に城の兵士であるためか、街の中でも小回りの聞きそうな小さ目の盾や手甲が多く、鎧も薄手のものを取り扱っている。


「いらっしゃいませ。どのような防具をお求めですか?」


 若い爽やかなイケメンの店主がリト達の接客に応じる。


「そうだなー、とりあえず今より性能のいいやつ?」

「少々お待ちください……どれどれ……」


 イケメン店主がリトとダクドの着ている服やマントをじっくり見て、触って布地を確かめる。


「……そちらのお客様が着ておられるのはシルバーTシャツですね。申し訳ないですがそれより性能の良い丈夫なものは取り扱っていません」

「そうなのか!? これ、もらいものなのになぁ」

「それはそれは、相手はかなり太っ腹……大事に着てやってください。……それとそちらのお客様の着ているものなんですが……」

「我輩のがどうかしたのか?」

「はい……様々な生地や素材を勉強した私なんですが、お客様の服やマントが何でできているのかまったく分からないんですよ。魔力もこもっているし、非常に丈夫とは思うのですが……。いったいそれをどこで手に入れたのですか?」

「はるか昔から愛用しているものだ。気付けばあったというべきか」

「はぁ……そうですか……。なんにせよ、ウチにあるどの商品より優れているのは間違いないでしょう。服に関してはこちらから出せるものがありません――――しかし!」


 イケメン店主は天井に吊るされていた手甲を取り外し、二人の元へ戻ってきた。


「こちらシャドーウルフの毛皮で作られた手甲なんですが、非常に軽く、耐久性があり、熱にも強いというウチで取り扱っている手甲の一級品です。お二人とも盾や手甲を身に着けてないようですし、これなどはいかがでしょう?」

「おー、熱耐性もあるのか。それはいいな」

「ふむ、必要不可欠、というわけではないが少しでも強くなれるなら……」


 良い反応を見せる二人に、店主はここだ、もう一歩か! と購入の後押しを試みた。


「こちらの商品、一つ九百ギルなんですが、二人分まとめて千五百ギルでいかがでしょう?」


「ギル……? ほう、お金とは一種の物々交換のようなものか」


 小声でダクドがつぶやく。

 彼はなんとなくではあるがお金のやり取りについて理解したようだ。


「千五百ギルかー、ちょっと待てよ、所持金の確認を……あっ!」


 リトはいまさらながら大事なことに気付いた。


「しまった……金は全部エレナが管理してるんだった。今持ち合わせがないわー……待てよ、あっ、そういえば!」


 リトに一つ考えが思いつく。


「ここって俺が売ることってできるか?」

「えっ、はい。一応買い取りも行っていますよ」

「じゃあこれって売れねえ?」


 そう言ってリトは服の中から、昨日手に入れたアイテムを取り出し店主に見せた。


「これは……ウチでは……買い取れないものですね」


 イケメン店主は困ったような複雑な表情になりながらそのアイテムをすぐリトに返した。


「やっぱりこれは重要なものなのか……?」


 リトは返されたアイテムをまた服の中にしまいこんだ。


「シルバーTシャツもしくはそちらのマントでしたらそれ相応の金額で買い取らせていただくのですが……」

「でもこれ現状の最強装備だろ? さすがにこれは売れねえなー」

「いままでずっと使ってきたのだ。人間風情にそうそう売るわけなからろう」

 

 店主の申し出に即座に断る二人。金がないなら仕方ないと店を後にする。


「そうですか……残念です」


 イケメン店主はシャドーウルフの手甲を元の位置に吊り下げ直す。


「元魔王の装備の方がいいやつみたいだな。一度交換しよーぜ」

「勇者になどに着られてたまるものか。これは我輩専用、アイデンティティの一つだ」


 二人が言い合いながら店から離れて行くのを、なんともいえない微妙な表情で見送った。


宿、ギルド、防具屋、城と主要なところは大体回り終えました。

そろそろ街のほのぼのパートは終わりかも?

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