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第二十三話:本棚は本の数だけ調べれます

 レイアード文庫。

 ここは街随一の大きさを持つ図書館兼書店である。野球のグラウンド並みの広さを持ち二階建て。一階が書店、らせん階段をのぼったところの二階の四分の一が持ち出し禁止の蔵書や資料の書庫、残りは休憩所(一部が閲覧スペース)になっている。


 一階にずらーっと並ぶ本棚には、魔法学書や剣術指南書、小説に漫画、童話に至るまでありとあらゆるジャンルの本が売られている。特に絵と文章が組み合わさった漫画は、分かりやすい、読みやすい、面白いと最近人気が急上昇していて、置いてあるジャンルも非常に多い。

 二階の休憩所にはずらりとテーブルと椅子が並ぶ。一階で購入した本をすぐに落ち着いて読めるので、ここの利用客は多い。一方、らせん階段からもっとも離れた場所にある蔵書や資料の書庫は閑散としている。書庫の本を見に来るのは数少ない街の学者か、物好きな旅人くらいである。

 そこに勤める司書はいつも暇を持て余していた。


「これは関係なさそう……これは……」


 エレナは数ある資料の中から魔王の情報につながりそうなものを品定めしていく。ある程度集めた後、休憩所の閲覧スペースで読む予定の本が数冊、腕に抱え込まれている。


「うーん…………」

「どうしたの?」


 エレナは本棚を前に首をかしげているリトが気になり声をかけた。


「いやあここ一列並んでいる本棚を上から下までずーっと見ていったんだけどさ。目印となる本が全然見つからなくで……」

「目印って?」

「ほら、本棚一つに一冊、ぴょこって飛び出てたり、光ってたりするやつ。だいたいそれが重要な本なんだけど……」

「……何それ? 光ってるって特殊能力でそう見えるってこと?」

「違う違う! わかんないかなぁ…………ん? エレナはすでにいくつか見つけてるじゃん。どうやったんだ?」

「どうやっても何も…………これとか? 危険な魔物の生息地が載ってるの」


 エレナはさっきまでリトが探していた本棚から、一冊取り出しリトに手渡す。


「――はぁ!? その本のどこに特徴が!?」

「驚くことないでしょ。ただ本の背表紙のタイトル見て、関係ありそうか考えるだけだよ?」

「なるほど……わかりやすいけど……タイトル見てくって…………本やばいくらい多くない? これら全部?」


 リトは遠くまで並ぶ本棚を見渡す。


「うん! 時間がかかると思ったから朝早くに宿を出たんだ!」

「マジかー、ここでまさかの鬼畜仕様……これは新鮮味はあるけどいらねえわー。まずはタイトルを目で追っていくことから慣れねえと……。そういえばあいつは? ちゃんと探してるんだろうな?」

「ダクド? ダクドならあっちに――」


 エレナがダクドのいる方向を指差す。

 すでに彼は周りの本棚に多く並んでいる歴史書から、数冊の本を手に取っていた。

 歴史書をまじまじと見て、

「ふむ、首都レイアードが形成されるまでの道のりか……。人間が何を必要として土地を選ぶのかが分かるかもしれん。その必要なものさえ分かれば……くくく、征服などが今まで以上に容易くなるかもしれんな。持って行こう」

 と、物騒な独り言をつぶやいている。


「ほらほらっ、結構真剣に探してくれてるみたいじゃない?」


 エレナがリトを小突く。

 独り言さえ聞かなければ彼の様子を協力しているものだと勘違いしても無理はない。


「げっ! 元魔王もこんなのやったことないはず……なのにあいつにできて俺ができないのは癪だ! 負けねえぞ!」


 調べる本の数の多さ圧倒され、なくしかけていたリトのやる気が再燃する。


「やる気をだしてくれたのはうれしいけど……公共の場なんだから静かに頼むよ……」


 エレナはリトに一つ注意して、資料探しの作業に戻った。




 結局リトはなんとか目当ての本『魔物襲来一覧』を見つけることができたのだが、閲覧スペースに持って行き、数ページ読んだところでダウン。つまらない本特有の睡魔に襲われ、屈した。

 エレナはそんなリトの隣で最初調べ物をしていた。しかし資料を読み終え交換しようと席をはずした間に、他の客に場所を占有されてしまい仕方なく、少し離れた席で調べ物を再開。そして今に至る。


「んー、結構疲れたー」


 エレナが座ったまま大きく伸びをする。

 気になるところだけを飛ばし読みしたとはいえ、すでに十冊以上読み終えている。ここレイアード文庫に来てから結構時間が過ぎていた。


「魔王に関する情報はほとんどなかったけど……気になった記述はあったかも」


 直接的な魔王の姿や所在地の記載はなかったが、気になる点を一つ見つけることができた。


 魔物が初めて群れとなって襲ってきたという出来事――魔王の誕生と推測される頃の同時期に、人間の国同士が争っていたという記述があった。

 国の争いにまぎれるようにして、魔物の襲撃数は増加していったらしい。気付けば人間対人間の争いから人間対魔物にシフトしていたということだ。


「とりあえずはこの二国周辺が怪しいかな。ちょっと遠いけど一つの目的地候補かも。でももうちょっと他の記述も調べたい…………リトにもこのこと知らせてあげよううかな――ってあれ? リトは?」


 リトが先ほどいた席に見当たらない。もとよりリト達を避けるように遠くの席に座って調べ物をしていたダクドの姿もなくなっている。

 ――書庫の本棚付近を探してみるもやっぱり見つからない。


「もしかしたらお腹すいて屋台の方に向かったのかも……お金渡してないよ……なんか嫌な予感が……」


 エレナはこころなしか休憩所の人もざわついているような感じがしてきた。

 すぐに本を元の場所に戻し、らせん階段を駆け下りる。そしてレイアード文庫から外に向かおうとしたそのとき――


「うわっ!」

「きゃっ!」


 書店の客ととぶつかり、転んでしまった。


「いたたた……ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」


 エレナはしりもちをついた相手にすぐに謝る。

 相手は小柄で薄クリーム色のフード付きローブ姿。そのフードを目元まで深々とかぶっていて、顔はほとんど見えないがぶつかったときの声から少女と思われる。

 表情の見えないその少女はエレナにぎりぎり聞こえるくらいの声の小ささで返答した。


「あっ、大丈夫です。私も急いでましたから。気にしないでください」


 そう言ってかわいらしく、両手をぱたぱたと振る。


「ほんとごめんなさい!」


 エレナは彼女に一つ頭を下げ、リトとダクドを捜しに書店の外に飛び出した。




「うわ……」


 街の兵士の数が昨日よりも多い気がする。


「いやでも、昨日はたまたま兵士と出会うことが少なかっただけかもしれないし。それにまだリトかダクドのせいとは決まってないよね……」


 エレナは現実逃避をしようとしている自分に気付き、頭をぶんぶん振る。


「とりあえず二人を探そう! 頼むから変な事してないでいてよ……」


 不安な気持ちでいっぱいのまま、エレナは街中を探し回ることになった。


次話ではエレナが資料を読みふけっている間の、リトとダクドの行動に焦点を当てます。

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