第二十一話:ギルドといえばクエストです
「いーらっしゃいませー!」
ギルドの受付カウンターにやって来たリトとエレナ。にこにことテンション高めの女性が彼らを迎える。
「本日はどのようなご用件ですかー? あら! もしかしてカップル? デートの場所なら自分らで探しやがれですよー……ちっ」
「か、カップルなんかじゃないですから!」
受付女性の小さな舌打ちには気付かず、エレナが顔を赤くして、ふるふると首を振る。
「まさかカップル以上の関係……? あー、なるほど婚姻届の申し込みですか。はいはいー、それならこの墓b……幸福行きの切符でもどうぞー」
「あっどうもー」
投げやり気味に突きつけられた婚姻届をリトが受け取ろうとして――
「……ちょっと待ったー! 何その対応!? 私の話を聞いてよ! ……リトも何受け取ろうとしてるの!?」
「えっ? アイテムくれるみたいなんだからもらわなきゃ」
「結婚しない人にとったらただの紙切れ! 売れないからね!」
「何言ってるんだ、非売品こそ価値が――」
「ないよ!」
「……ちっ、夫婦……いや、カップルゲンカはスライムも食わねえですよー。続きなら家でいちゃいちゃとどうぞー」
「君もいったい何なの!? そのさっさと帰れって感じ! あと何度も言うけどカップルじゃないからね!」
エレナの怒りのボルテージは急上昇。顔を真っ赤にして受付の女性をにらみつけるも、相手は笑顔を崩さない、ひるまない。次の口撃を仕掛けてきた。
「カップルじゃなければどんな関係なんですかー? そんなに引っ付いて……うらやましいんですよー」
「それはもちろん! 召……」
思わず口が滑りそうになったのを、少し冷静になってエレナは言い淀む。
召還といういちかばちかの儀式をしたなんてことは絶対に言えない。召還した側、された側、その関係を除くとすると――
(私とリトとの関係はどうなるんだろう……。仲間だから一緒にいる……? 召還した責任として一緒にいる……? それとも……)
悩み考えていると受付カウンターの後ろから、銀縁の眼鏡をかけ、長い黒髪を後ろで一つに束ねている大人びた女性が近づいてきた。
「こら、ミサ! またお客様をからかってたでしょ! 向こうに独身男性のお客様が来ているからそっちの相手をして来なさい!」
「はーい、すぐ行ってきまーす!」
眼鏡をかけた彼女はにこにこした受付――ミサを追い払った。
「ごめんなさいね。あの子ッたら告白失敗し続けてるから、カップルに対して敵意むき出しになってるんですよ。それ以外のお客様の対応は子供から老人まで完璧なんですけれど……」
そう言って彼女は先ほど追い払った受付の方に目線を移す。
ミサという受付の女性は今度はちゃんと対応をしているようだ。お客の方も相談の回答に満足しているらしく、うんうんとうなずいている。
「ほんとだ。ちゃんと子供の面倒も見れてる……って応対してるのって男の子!?」
「独身男性には違いないでしょう?」
「そりゃあそうだけど他に言い方が……」
「あの子にとって『独身男性』というのは一番耳を傾ける単語ですから……まあこんな身内話はいいですよね。――こほん、本日はどのようなご用件でしょうか?」
ようやくちゃんと話を聞いてもらえる――と感じたエレナは魔王の所在地などの情報を得たいという旨をその女性に伝えた。
「……魔王ですか……確かにその存在は噂されてます。しかし魔物が人間の住む土地を侵略し始めたときから今まで、その姿を見た者はいないと聞いているのであくまで噂なのかもしれません」
(ダクドは見たんだよね……いるのは確かなんだ)
エレナは心の中で『うん』とうなずき、話を掘り下げる。
「噂でもいいです。もしいるとしたらどこだと考えられていますか?」
「そうですね……少し待っていただけますか」
そう言って受付の女性は奥に何かを取りに行き、すぐ戻ってきた。
バサッ。
手に持ってきた一冊のパンフレットをカウンターに広げる。そしてくいっと眼鏡を押し上げてから、この街の地図が載っているページのある部分を指差した。
「ここなんですけど、図書館と書店の組み合わさった、この街で一番書物があるところなんです。私共ギルドとして勝手な推測は言えませんし、そこにある過去の文献から探すのが一番かと思います」
彼女は少し申し訳なさそうにして、エレナにパンフレットを手渡す。
「……ごめんなさいね、大した情報が言えなくて。魔王に関して聞かれるなんで今まで全然なかったので資料がほとんどないんです」
「ありがとう、これだけでも十分ですよ」
本心では(情報ギルドってわりには期待はずれかなー)と思いながらぺこりと軽く頭を下げ礼をする。
「じゃリト図書館に行こっか」
そう言ってギルドを後にしようとするエレナだったが、リトは
「ちょっと待ってくれないか? 面白そうなもの見つけたんだ」
と、エレナをギルド内のある場所に連れて行った。
いったいなんだろう? と思いながらエレナが連れられてきたのは、ギルドの壁に掲げられた巨大な掲示板の前。そこにはこの街全体に関わる情報などがたくさん貼り付けられていた。
「えーと、新しくできたお店の宣伝に、工事や祭りのお知らせ……なになに、今月の王女の脱走回数なんてものもあるんだ。……四回かー、すごいおてんばな王女様みたいだねー」
エレナは掲示板の内容を閲覧していく。
その横でリトは「こっちこっち!」とエレナを呼び寄せた。
リトが閲覧していた部分に張られていたのは――
『賞金首リスト』
○シフル=ドロー 三十万ギル
……ありとあらゆるものを手に入れようとする盗人。
○アレン=ネグロ 五万ギル
……強盗グループのリーダー。
○スカート・ザ=リッパー 一万ギル
……闇夜にまぎれて若い女性の衣類を切り裂く変質者。
「犯罪者でも捕まえるの?」
エレナは賞金首リストに目を向けたまま率直に聞く。
「うーん、それも一つかもしれないけどさ。それよりその下を見てくれよ」
エレナは視線をそのまま下にずらした。そこに貼り付けられていたのは――
『魔物討伐依頼』
○ニードルシープの群れ 三千ギル
……南西の森で被害あり。
○一匹狼のシャドーウルフ 一万ギル
……北の山のふもとで被害あり。
「これっていわゆるクエストだろ? ちょっと受けてみようぜ!」
「えー、そんなの受けている時間は……とはいえ私の都合に付き合わせてばかりも悪いか……。まあいいよ、それならさっきの受付の人に言ってみようか?」
「おう! …………ちょっとクエスト受けたいんだけどー」
リトが受付カウンターに向かう。
「何ですか、また見せ付けに来たんですかー。これだからいちゃいちゃと浮ついた――」
「そっちじゃない! こっち!」
エレナがリトを隣のカウンター、銀縁の眼鏡をかけた女性の受付まで引っ張る。
「は、はい。どうしたんでしょうか? 道とかわかりませんでしたか?」
「いいや。それよりさ、クエスト――魔物討伐だっけ? あれを受けたいんだけど」
「討伐ですか……ええと……申し訳ないですがどちらもすでに他の方が受けておりまして……」
「ダメなのか?」
リトの質問にエレナが答える。
「そりゃあね。依頼が重なったら、どっちが先に討伐したとかトラブルになりかねないでしょ」
「マジかー、せっかくクエスト要素あると思って楽しみに思ったのになー」
リトが残念そうにぼやいたそのとき、城の兵士と見られる人物があわただしくギルドの入口から入ってきた。
その兵士は息を切らしながら、ギルドの受付に依頼を告げる。
「すぐに依頼を貼り出してくれ! 城内に不審人物が侵入した! 最近目撃情報があった盗人シフルかもしれない。腕の立つものに今すぐ来てもらいたいんだ!」
その言葉を聞いたリトは「緊急クエストきたこれ!」とすぐに大きく手を挙げた。
「その依頼俺が引き受ける!」




