第十八話:新たな街に到着しました
ポウッ……。
ぼんやりと街の光が見えてくる。
街の名はレイアード。この辺り一帯を治める国の首都である。
「……よ、ようやく着いたー。……ふー、なんとか野宿にならずに済みそう……」
エレナがほっ、と一安心する。
日もずいぶん前に落ち、辺りはすっかり暗闇に包まれている。そのため、エレナは『灯火』を使って辺りを照らしながら進んできた。
ワブ村を出発して半日歩きっぱなし。もう体力は尽きへとへとである……リト以外は。
「おー、ここが言ってた都かー! いままで見たことないくらいめっちゃでかいな! 早く街の中に入ろうぜ!」
今朝の二日酔いは昼ごろに回復して、現在体調万全。新たな街にワクワクして、はしゃぎ気味だ。
「待って待って! ……もうっ、どんだけ元気なの!?」
「はぁ……はぁ……まったくだ……。まさか旅というのが……こんなに移動ものとは……。勇者も大変なのだな……」
いつもなら魔王城で勇者が来るまで、ひたすらぐだぐだと待つことが多いダクド。慣れない長距離移動に足はふらふら、顔はうなだれぜーぜーと息を切らす。その姿に元魔王の品格は微塵も見られない。リトを気遣うというダクドにとっての失言までしてしまうほどだ。
「まったく二人とも何へばってんだよー。今回の移動はまだ楽な方だっただろ? エンカウント率めっちゃ低めみたいだし。これだけ動いて二回しか戦闘ないとか正直びっくりだぞ?」
道中の敵は盗賊二人組、とげとげの毛を持ったニードルシープの群れだけ。
盗賊二人組はダクドが一瞬にして地面に突き刺し、ぴくぴくと震える新しいオブジェを創り出した。
ニードルシープの群れも、二日酔いから復活したリトが、先頭の一匹を軽くは百メートルくらい殴り飛ばすと、他の仲間は恐れをなして一目散に逃げ出してしまった。
どちらも一ダメージすら受けずに圧勝。
戦闘の質や回数に少し物足りなさを感じるリトであった。
「まあこの辺りは比較的平和だからね。魔物の数も少ないしだいたいこんなものだよ」
「まじかー。ってことはイベント戦重視なのかー。こんなことならあのとげとげした羊、狩っておけばよかったぜ……」
「とはいえ『逃げるんなら放っておこうぜ』――って真っ先に言ったのはリトなんだから! いまさら後悔しないの!」
「いやーそうなんだけどさ。どうせ序盤の敵なんだから、今の俺じゃ経験値の足しにもならんだろうと思ったわけで。……ただ戦闘システムには慣れておくべきだったなー。村出るところからリセットしてえ。でもセーブした覚えないし……この世界のセーブポイントはいったいどこに――」
ぶつぶつと言い訳をし続けるリト。わけの分からないそれを無視して、エレナは街の入口を警備している若い男の兵士の方に駆けて行き話しかけた。
「すみませーん! この街、宿ってどこにありますか?」
「こんな夜中に何者だ?」
兵士は夜中の突然の訪問に警戒する。
近づき、じっーとエレナを観察し、不審な点はないか探る。――少し彼女の着ているローブが気になっているるようだ。
「あっ、すみませんっ、隣のカナンという町で魔術師をやってましたエレナといいます。ちょっといろいろあって予定より着くのが遅れちゃいました」
「カナン…………おおそうか! あの町の生き残りだったか。どこかで見たと思ったら、最近避難して来た人が何人か同じ格好をしていたよ。……ここまで大変だっただろう。それなら、先に避難して来た人が集まっている避難所を教えようか? 少し混んでいるが……」
「いえいえ、宿で大丈夫ですから! 途中で会った旅人の仲間もいますし」
慌ててエレナは後方のリトとダクドを順番に指差す。
「おお、冒険者と一緒なのか。なら心強い…………おや……?」
兵士が何かに気付く。
「おい! 大丈夫か! 魔物にでもやられたのか!?」
彼はすぐさまダクドに駆け寄る。
「ふん、我輩が……そこらの魔物にやられるわけが……なかろう。何も問題ない……」
ダクドは精一杯の強がりを見せる――が、誰が見ても心配せざるを得ないほど、ダクドの足取りはおぼつかない。
「しかし……」
戸惑う兵士にエレナがフォローを入れる。
「無理しているように見えるかもしれないですけど本、当、に、大丈夫です! ただ疲れているだけですから。早く休ませたいので宿、そろそろ教えてもらえますか?」
「……わかった。宿は――」
兵士が宿の場所を説明する。
「――というところにある。せっかくだ、そこまで肩を貸してやろうか?」
親切な兵士はダクドに手を差し伸べるもダクドは――
「ふん……人間の手を借りるほど……我輩は落ちぶれておらん……」
と相手にせず、その手を完全無視。
「…………」
さすがに苦虫を噛み潰したような顔になる兵士。それを見かねたエレナはさっさとこの場を退散しようとダクドの背中を押す。
「宿、丁寧に教えてくれてありがとうございます、それでは! ほらダクド、行くよ!」
「おい小娘、こら……無理に動くとHPが……毒以上のスピードで減ってる気がするのだが……」
「ぐだぐだ言ってないでさっさと進む!」
「わ、わかった……わかったから押すな……いや押さないでくれ……」
ダクドの懇願に(まったくいじっぱりだなぁ)と思いつつ、エレナは彼の背中から手を放した。
見張りの兵士からずいぶん離れることができ、すでに街中。彼女としてはすぐに宿に向かいたいのだが……。
「リト! どこに行こうとしてるの!? 宿はこっちだよ!? 説明聞いてたでしょ」
兵士から聞いた道と真反対の道に進もうとしていたリトを引き止める。
「いやあ宿の場所は覚えてるけどさ。まずはこの町の探索からしようかと思って」
リトはかなりワクワクしているように見える。新しい街に着いた途端、テンションが上がったような気もするがなぜだろう? ――とエレナは少し疑問に思った。
「探索は明日でもできるでしょ! まずは宿に行くのが先決! というか私も早く休みたいの!」
「どうしてもダメ?」
「どうしても!」
はっきりと言い切るエレナ。この意見を譲るつもりは全くない。
「……ちぇーそうか、強制イベかー。まあ楽しみは後にとっておくのがいいよな」
リトの理解を得て、何とか宿に直行することができたのであった。




