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第十七話:村のイベントが終わりました

「ただいま戻りましたー」

「うぃー帰ったぞー」

 

 森の主の治療に向かったリセラ、彼女の護衛に付いて行ったダンの二人が自宅に帰ってきた。二人とも、リト達の話し声のする部屋に向かう。


「おー、おっかえりー」


 リトが腕を挙げ、手首だけをパタパタさせて、リセラとダンを部屋に招き入れる。

 ダクド(元魔王)を仲間にするという大きなイベント終え、完全にオフモード。いままでのゲーム世界で言う宿屋に泊まり、休んでいる状態である。

 まるで我が家の様にだらーとくつろぎ、眠そうだ。家主が帰ってきたということで、眠気を飛ばすために伸びをする。


「んーっ、ふぁあ……。――で、あの猪の様子はどうだったよ? 大丈夫だったか?」

「ええ。お父さんと一緒に持っていった食べ物を軽く平らげてしまうほど食欲もありましたし。手当てを全て終えてすぐ、寝息を立てて始めていましたから。主さんいわく、二日程休んだら十分動けるようになるそうです」

「えっ? 主さん曰くって……?」


 顔をきょとんとさせるエレナ。


「おお、それなんだがな」


 部屋の隅に置いてあった木製の丸いすを、テーブル近くまで持ってきて、どかっ、と座ったダンが得意気な表情を浮かべ答える。

 リセラはエレナの隣に座った。


「――どうやら亡くなったかみさんの力を引き継いでたみてえだ。動物と話ができるって力をだな、ガハハッ」

「へぇー、すげえじゃん!」

「でも、まだ森の主さんとしか話してないですし、他の動物と話せるかどうか……。それになんで急に主さんの声が聞こえるようになったか分からないんですよね……」

「もしかしてだけど、あの猪と話せるようになる前に、結構危ない目に遭ってたんじゃねえか?」

「そ、その通りです! どうしてそれを?」

「リトは予知能力でも持ってるの!? それともまさか特殊能力の引き出し方を知ってる!?」


 二人の驚きに対して、リトは簡単に一言で答える。


「――ピンチになったら能力覚醒。これ基本だろ?」

「……はぁ…………そうなんですか?」

「なんだ、前の……っと」


 危うく口が滑りそうになるエレナ。言葉を飲み込み、心の中でつぶやく。


(前の世界の常識なのかな? 能力を引き出す理論なんてあったら、興味があったのに……)


「ふむ……前々から思っていたのだが――」


 しばらく無言だったダクドが、ようやく口を開いた。


「そのピンチで能力覚醒はズルいと思うのだ。いままでどれだけ苦しめられてきたか……」


 ダクドは不満を口にする。


「俺にそんなこと言われてもなぁ。能力的にどう考えてもそっちの方が上だし、ちょっと位、挽回のチャンスがないと」

「む、むぅ……しかし我輩が負けることが多い気が……バランスをとってもらいたいものだが」

「でも、お前第二形態、やばいときには第三形態とかあるだろ? 俺だってそれに何度やられたことやら」

「た、確かに……その辺りでバランスはとっているのか……」


 リトとダクドの会話に他三人はついていくことができない。ぽかーんと聞くしかなかった。


「それってどういう……?」


 リセラがやり取りが終わったかな、というところで、なんとか質問できた、が――


「「昔のことだ、気にしないでくれ」」


 と声をそろえて言われたので、それ以上は何も聞けなかった。


「まあ、戦闘バランスについては置いておこう。それはそれとしてだ、一つ言っておきたいことがあるのだが――」


 ダクドは横目でリトをにらむ。彼の口角は少し上がっている。


「ピンチになったから能力が覚醒めざめた、よりもピンチになったから母親が守ってくれた、と言った方がよかったのではないか? 気の利いたコメント一つ言えないのか貴様は」

「ぬ……う、ぐぐ……」


 ダクドの挑発に、リトは返す言葉が全く出てこない。


「お母さんが、ですか……。その方がしっくりきますね。うれしい一言ありがとうございます。あの、お名前は……?」

「ダクドだ。覚えておくがいい」

「ダクドか……リトと同様、強いとか噂されてねえ名前だな。だがワシがやべえと感じる強さなのも確かだ……。お前さんはいったいあそこで何をしていたんだ?」

「ただ、飛ばされ――ぐぅ!」


 向かいにいるのエレナがダクドのすねを思いっきり蹴る。そして、ダクドの言葉にかぶせるように発言する。


「修行として、瞑想してたんだよね、ね!」


 エレナとしては、ダクドが魔王城から転移させられてきたという不審人物――いわば敵か味方か分からない人物であることを、リセラとダンには悪いとが、隠しておきたかった。


「こ、小娘が……」


 痛みに顔を伏せるダクドに隣のリトが「まあここだけは合わせてやってくれ」と耳打ちし、フォローを入れる。


「ど、どうした?」

「い……いや、なんでもない。そうだ、確かに我輩は考え事をしていた。自分が何者なのかをずっとな……」

「あんな魔物がうろつく中でか!?」

「雑魚など気にする必要は全くなかろう」

「……なるほど。確かにやられると分かっていて、お前さんに挑む馬鹿はおらんわな。……他にも聞きてえことはあるんだが、日も暮れていい時間だ。そろそろめしにするか」

「そうしようぜ! 今日も動き回ったから腹減ったー」

「じゃあ私は準備してきますね」

「わ、私も手伝います!」


 リセラとエレナが調理場に向かった。


「ではワシらは……」


 ダンが酒のビンを手に取り、中身を確認する。


「おっと、もう少ないじゃないか。近所に酒でも仕入れてくる。お前さんらも飲むだろ?」

「うむ。お酒をたしなむのは当然だ。できればワインだと良かったのだが……まあ贅沢は言うまい」

「俺はパスかな。なんで自ら状態異常になるものを……」

「――逃げるのか? 飲み比べでもしようと思っていたのだが」


 再びダクドから挑発されるリト。


「むっ、そう言われちゃ引き下がれないな。おっさん俺も飲む! 昨日より用意しといてくれ!」

「うーい、分かった。たくさん持ってくるからおとなしく待っとれよ」


 ダンはお酒の調達に向かった。


 ――――。




「結構余っちゃいましたね」

「そうですねー。まあ残ったものはまた主さんに持って行きましょうか」


 食事の片付けをしながら、エレナとリセラが話し合う。


「だってリトったらまたあんなに飲むんですもん。しかもペース早く。そりゃあ倒れますよ。懲りないんでしょうか?」

「お父さんには何回も言ってるんですけどなかなか……」


 結局、ダンがお酒の調達を終え、家に戻ってくる頃にちょうど料理が出来上がったので、お酒を飲みながら食べるということになった。

 しかし、ダンはいつも通りお酒を飲んですぐに寝始め、ペース配分を大幅に間違えたリトも騒ぐことなく、寝てしまったのである。

 唯一残ったダクドは飲み続けていても、全く顔色が変わらないほどお酒に強かったのだが、小食だったため食事が十分に余ってしまったのだ。


「私ちょっと様子見てきますね」


 エレナがリト達のいる部屋に向かう。


「あっ、まだ寝ていて起きないようでしたら隣の部屋の毛布掛けてあげてくれますか?」

「はーい」

 

 どうせそのまま寝ているだろうと思い、エレナは毛布から取りに行く。そして、毛布を両手で抱え込んだままリト達のいる部屋をのぞくと、まだダクドがちびちびとお酒を飲んでいた。

 酔っている様子は全然ない。なにやら独り言が聞こえてくるので聞き耳を立てると


「――ふっ、これで一勝一敗だな」


 と、ダクドはテーブルに突っ伏した二人を見ながら、勝ち誇った顔で勝利の余韻に浸っていた。




 ――翌日の朝。




「もう出発されるんですね」


 リト達を見送りにリセラとダンが村の出入口までやってくる。


「はい。私たちは魔王を倒すっていう目標がありますから」

「……そうですよね。少し寂しくなりますけど、応援していますので。これ、携帯用の食事です、どうぞ」

「うむ、ありがたくもらっておこう」


 ダクドがリセラからサンドイッチや、干し肉を受け取る。


「あの……でもやっぱり、本当に今日出発されるんですか? だって……」


 少し引き止めるようにリセラは言う。どうしても気がかりなことがあったからだ。


「もちろんだ。気になるなら本人に聞いてみるか?」


 そう言ってダクドはリトの後ろに回りこみ、背中を押してリセラのすぐ前まで移動させる。


「こ、この……揺らすなよ…………おう、リセラか。出発は今からで……問題ない」

「で、でも……そんな『二日酔い』の状態で大丈夫なんですか? やっぱり休んでからの方が……」

「勝手に『酔い』の状態になって……出発を遅らすとかリーダーとしての……示しがつかねえから、それはダメだ! ……大丈夫……大丈夫」


 傍目はためにはとてもじゃないけど大丈夫そうには見えないほど顔色が悪い。


「くそお……元魔王のやつ、『酔い』耐性あるとか聞いてねえし、ずりぃよ……」

「ふん、貴様が弱いだけだ」

「いやお前さんは強すぎるぞ。一人で残り全部飲むとは思わんかったからな、ガハハッ」

「もう絶対飲み比べで勝負しねえからな……。あっそうだった、一つだけリセラに頼みが……」

「なんでしょう?」

「預けた防具は売らないでくれよ……一応あれも俺にとっては大事なものだから……」

「ええ、もちろんです。大事に預かっておきます。だからちゃんと無事に帰ってきてくださいね」

「元気に戻ってくることだけは約束してくれよ。まあ今の状態より元気に、は当然だがな、ガハハハハッ」

「おう……じゃあ行ってくる。あの猪にもよろしく言っといてくれ……」

「じゃあ行ってきます!」


 リト達は次の目的地に向かって足を進み始める。


「お元気でー!」


 リセラの声を後ろに、リトだけがふらふらと足元おぼつかなく歩く。


 結局、十メートルほど進んだところでエレナの肩を借りてしまうというぐだぐだな歩みになってしまった。


お酒の飲み比べは控えましょう。



さて、ようやく一つ目の村をクリアしました。

次は都での話になります。

都市部というのはイベントの宝庫ですからね。どうしましょうか……?

一応、戦闘シーンは少なくなる予定です。

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