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第十二話:苦戦――だって魔王ですもの

 ……。

 …………。

 ………………。


 男が魔王を名乗ってから、しばらく沈黙が生まれる。


 ――元勇者と魔王。


 二人が対峙しているその場は、空気が張り詰められている……ことはなかった。

 漂っているのは緊張感ではなく『あれ? 何か違う』という疑問と不自然さ。

 (ラスボス早すぎじゃね? まさかクソゲー?)とぽかーんとするリト。 それに対し、勇者の様子を見て、驚きの表情を隠しきれないダクド。

 しばらくしてダクドが一人つぶやく。


「!? この反応、やはりこの世界では我輩ではなく『あいつ』が……? いや、しかし……」

「う~ん……」

「むう……」


 しばらく考えた二人だったが同時に大きくかぶりを振り、正面を向き、身構える。


「クソゲーでも何でもいいさ、戦闘はもう始まってるんだ。倒しゃいいんだろ!」

「ふん、考えるのは後だ。せっかくのこのこと貧弱そうな装備でやって来た勇者なのだ。血祭りに上げ、我輩の名をこの世界に轟かせればよいだけの――こと!」


 言い切ると同時にダクドが駆け出し、リトとの距離を急速に詰める。


「せいっ!」


 ダクドのチーターのような猛スピードにきちんと対応したリトは、間合いに入るタイミングで剣を振り下ろした。


「むっ――」


 ダクドは間合いに踏み込む直前に危険を察知し、横に飛び退く。

 シュッ――とリトの剣は空を斬った。


「ほう、我輩を捕らえるとはなかなかやるではないか。もちろん偶然ということも大いに考えられるが……」

「偶然じゃねえ! 嘘だと思うなら試しにもう一回来てみろよ」

「……ふん、いいだろう。その挑発乗ってやろう」


 ダクドは薄ら笑いを浮かべ、余裕を見せつける。

 彼は再びこぶしを構え、リトに向かって駆け出した。


 ザッ!


 強く地面を蹴り、先ほどよりも急速にスピードを上げてリトに近づく。


「ふっ、もらっ――くっ!」


 とっさに右にかわすダクド。

 しかし、腕の動きが見えないほどのスピードで振り下ろされた剣が彼の左肩をとらえた。


「ぐうっ!!!」

「!? ……かてえ!」


 リトは握りしめた剣に伝わる感触に驚く。

 剣自体の切れ味の悪さに加え、ダクドの体はすらっとした見た目に反して強靭で、鋼鉄とも言える筋肉に阻まれる。見えるダメージとしては肩にに浅く切り傷を負わせた程度だった。


「くそっ、ダメージが少ないなら何度も与えるまでだ!」


 リトが次の攻撃に移ろうとするが、ダクドもやられっぱなしではない。

 リトに攻撃されてすぐ、右足で地面を強く蹴り、かわそうと右に傾けた体を反対方向――リトの立つ場所へ運ぶ。


「はあっ!」


 横から飛んできたこぶしがリトのわき腹に命中する。


「がはっ……」


 ずざざざざざ……。

 そのまま殴り飛ばされるはずの体を、リトは剣を地に突き立てることで止める。


「くっ……我輩に一撃与えたことは、認めよう……。しかし……ガードが、甘くはないか?」


 ダクドは傷ついた肩を手で抑えながらも、余裕を持った笑みは崩さない。


「……ゴホッ、はあ……悪かったな、まだ三次元での戦いに慣れてねえんだよ。……そっちこそ殴るばっかで攻撃が単調なんじゃねえの?」


「……」

 ダクドから冷ややかな笑みが一瞬消える。


「……貴様にはこれだけで十分だ」

「へっ、そうかい。出し惜しみして後悔するなよ。――『火球ファイアーボール』!」

 バスケットボール大の火の玉がダクドに向かって一直線で飛んでいく。

「そんなものは――効かん!」


 ダクドは赤黒いマントで受け止め、バサッとはじく。どうやら魔法耐性を持っているらしい。


「ちっ、それなら……『暴風ストーム』!」


 リトはダクドに向かって魔法を放つわけでなく、自分の追い風にし、タンッタンッとほとんど足を着くことなく数歩で猛スピードのまま突っ込む。


「だあっ!」

 弾丸のようなスピードを保ったまま真一文字に横に振る。


「ふん、動きが読みやすいわ!」


 ダクドはその場にしゃがんで避け、真上に拳を突き放つ。


「ガッ……!」


 直撃し空を舞うリト。


「はあっ!」


 地に着く間際、ダクドから強烈な蹴りが入る。

 リトはそのまま遠くの木にたたきつけられた。


「……げほっ、げほっ! やっぱ、勢いで突っ込むのは、無理があったか……。動きが制御できねえ。…………待てよ、それなら――」


 きょろきょろと辺りを見渡すとエレナは飛ばされてきたすぐ傍で気を失っているを見つけた。


 リトは彼女の元に駆け寄る。


「おい、エレナ、大丈夫か?」


 ぺちぺちとほほを叩く。


「う、うん……あっ、リト。大丈夫、ちょっとびっくりしただけ」


 ダクドからの一撃をもらう間際、風の障壁を張ったことが幸いし、ダメージはかなり軽減できていた。


「で、あいつは?」

「まだ戦ってる途中だ。結構強つええ。攻撃がなかなか当たんなくて困ってる」


 リトの困っているという言葉にエレナは驚きを隠せない。


「り、リトでも苦戦するの!? 勝てそう? 危ないなら一度逃げるのも……」

「ボス戦だ、逃げれねえだろ。まっ、この世界の仕様は知らんが、何にしろあのスピードだ、まず追いつかれる」

「そんな……」


 不安そうにおびえるエレナ。その様子を見たリトは彼女の頭にぽんっと手を置き、顔を近づけてニカッと笑う。


「なーに、強いって言っても前の世界の魔王ほどじゃない、大丈夫さ。それに勝てる見込みはもうついてるんだ。それにはエレナに助けが必要なんだが――おっと危険な目には合わさないぜ。……協力してくれるか?」

「……」


 少し戸惑うエレナであったが、彼の自信満々の表情を見てこくりとうなずいた。




 リトが頼みごとを説明する。

「……あの魔法、なんとかあいつに当てて欲しいんだ」

「うーん、狙いは定められるだろうけど、避けられちゃうと思うよ? ……あっ、でも広範囲にしたらもしかすると」

「いけそうか?」

「…………リトも巻き込んじゃうかもしれないけど」

「問題ない! じゃ、行くぞ!」

 リトがエレナの手を握り、ダクドの元へ向かった。




「ほう、まだ生きているとは……おや? 先ほどの小娘も一緒か。ふん、勇者ご一行というのはま毎回思うがタフなものだな」

「そりゃどーも。お前こそいつも甘いんじゃないのか。とどめもささず、ったかどうかも確認しないなんて。――だから這い上がってきた俺らに負けるんだぜ?」

「……くくくっ、そうだな。せっかくだ、その忠告、今度といわず今聞き入れてやろう!」


 ダクドが身構える。


「じゃ、エレナ。――頼むぞ!」


 リトがダクドに向かい一歩を踏み出すと同時にエレナが魔法を唱えた。




「――『浮遊風フロート』!」




 ダクドの足元の草、落ち葉がカサカサとざわめき、下から風が吹き始める。


「むっ!?」


 草の音を敏感に察知したダクドははるか後方に飛びのいた、が――


「……何だと!?」


 ダクドは上昇気流に捕らえられ、地面から約二メートルの高さまで体を浮き上げられる。


 広範囲の魔法。


 見渡す限り、辺り一面が上昇気流により、枝や葉が上に向かって吹き上げられている。

 もちろんリトとエレナも例外ではない。ダクドと同様に地上から約二メートル浮き上げられている。


「よしっ、エレナ、上出来だ! 後は任せろ! 『暴風ストーム』!」


 リトの後ろから吹く猛烈な風によって、彼の体はダクドに向かって一直線に向かっていく。


「くっ、このままでは!」


 迫りくるパワーから逃れようと手足を動かしあがくも、地に足着いていない体ではかわすことができない。


「うおおおお!」


 リトが大きく剣を振り下ろす。


「ぐはっ!!!」


 リトの剣はダクドの体を真芯にとらえ、吹っ飛ばした。


 バキバキバキッ。

 吹き飛ばされた体が数本の木をへし折り、地面に衝突する。

 彼がすぐに姿を現す気配は感じなかった。




「倒したか!?」


 リトが風を吹き止ませたエレナを引き連れ、ダクドの様子を見に行く。


「確かこの辺に飛んだよな……」


 リトが辺りをきょろきょろと辺りを見回し、ダクドの行方を捜す。

「あれ食らって生きているとは思えないけど――えっ!? そんな……」


 ダクドの体が地面に叩きつけられた地点。クレーターのような窪地から彼はすでに這い出てきていた。

 ダクドはぼろぼろに傷ついた体でよろよろと歩いてくる。


「がはっ! はあ……はあ……。まさかそのような身なりで……我輩がここまで……追い詰め、られるとは……な。……だが、ここからが地獄だ。追い詰めたことを、後悔するがいい。はああああああ!」

「ふっ、さすが魔王は名乗ってるだけあるな。ここからが本番ってわけか!」

「どういうこと!? まだあいつ強くなるの!?」


 ただでさえダクドが生きていることにびっくりしているのに、まだこれからだ、というわけの分からない状態におびえ、エレナはリトの背後に隠れる。


「まっ、見てれば分かるから」

「だからなんでそんな余裕があるのよ!」

「はあああああああ! はあああ、ああああああ……」


 ……。

 …………。

 …………ダクドの体に大きな変化は見られない。しいて言うなら体に力を入れたせいで体力を消耗している位か。


「はあ、はぁ……そ、そんな、ばかな……」


 驚愕の表情を見せるダクド。


「へ?」


 その様子にリトも思わず目を丸くする。


「く、くそお……」

「ま、まさか……」




「「第二形態がない、だと(のか)!?」」




 元勇者と元魔王の声がハモった。


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