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第九話:満腹度システムがあります

 エレナが料理のことを聞いたり、ダンが娘の話をしたりして食事が進んでいく。気がつけばテーブル一杯に並べられた料理の大半が姿を消していた。 主に食べていたのはダンとリトである。


「お父さんはいつものこととして……リトさんも結構召し上がるんですね」

「ん、まあここに着くまで結構な距離歩いていたからなー、腹ペコペコだったんだわ。それにこんなうまいんだからいくらでも食べれる気がする」

「ふふっ、ほめていただきありがとうございます。この後デザート……近くで採れたフルーツも持ってきましょうか?」

「うーん、そこまではいらねえかな。いくらでも、とは言ったが上限はあるみたいだし。……とはいえ満腹度はやはり百パーセントまでしておくべきか……?」

「食べ過ぎはよくないからね! 腹八分目って言葉知らない?」

「何!? ここでは八十パーセントが最もいいのか……よし、覚えたぞ! いやーいつかの風来坊の時と同じシステムだとばっかり……」

「えっ、ふうらい……?」


 リセラが首をかしげる。聞き慣れない言葉が気になったようだ。

 すかさずエレナがフォローを入れる。


「ええとふうら……ふうらふうらしていたときの話ですよ! ほら、無職だったって言ったでしょ! そのときのこと!」

「いやだから俺は無職じゃ――っー!」


 エレナが向かい側の二人に気付かれないようにリトの足を思いっきり踏みつける。

「ええと……だ、だいたい外に出かけたと思ったら夜遅くにおなかすかせて帰ってきてたよねー、リト?」


 足は踏んづけたまま、エレナは訴えるような威圧的な視線でリトをにらむ。


「あ、ああ、うん、そう」

「まったく、おめえふらふらと何してたんだ? そんなにつええのにもったいないこった」

「いいやおっさん、それは逆だ。ふらふら歩き回ったから強くなるんだぜ!」


 雑魚敵倒してレベルアップ、それが以前リトのいた世界である。


「……ってことは修行か何かに行ってたのか?」

「ま、そんなとこかな」


 そう言ってリトは残っていた最後の一個のパンを口に放り込む。鍋は少し残っているが、これで四人全員食べ終わったことになる。


「ごちそうさまー! いやー食った食った」

「おそまつさまでした。フルーツは……もういいですよね?」

「そうだな」

「私ももう十分いただいたので」

「了解です。それでは――」


 そう言ってリセラはテーブルを片付け始めた。


「……おっとそうだリセラ、言い忘れとったが今朝見かけた魔物、こいつらに退治してもらえることになったぞ」

「えっ、本当に? 森の主さんを倒したリトさんなら心配いらないでしょうけど……いいんですか?」

「そりゃあそのためにこっちの世界に――」

「まあほっとけないですし! ねっ! ようやくあ、兄が人のために働き始めたんです、止めないでください! それに私も魔術師です。今まで何のための勉強だったか。そう、人を守るためなんですよ! なので気遣いは無用です!」


 エレナがリトの失言を覆い隠すように早口でまくし立てる。


「そうですか……ではお願いしますね。普段は魔物相手にお父さんも十分頼りになるんですけど、今朝家に帰ってきたとき顔色悪かったので……」

「おう、任せとけって」

「うむ、自信のあるいい返事だ。……なあお前さん、この村を任せちまうんだ。この後ワシと少し手合わせしてもらえんか? 森の主を倒したという実力をこの目で実際に見てみたいんだが……」

「別にいいけどよ……おっさん戦えるのか?」

「なーに、これでもその辺の魔物なら十分戦えるわい」

「よし、じゃあちょっと戦うか。場所は村の中でいいんだよな?」

「構わん。スペースなんて十分あるからな」

「リト、程ほどにね。軽くなんだから怪我は最低限負わせないように!」

「えー難しそうだなー、まあやってみるわ」


 エレナからの助言を受けつつ、二人は家の外に出て行った。



 ――数分後。



「ガハハッ、手も足も出んとはこういうことをいうんだな! 全然勝てる気がせん。まいったまいった」

「当たり前だ。さすがに村人相手に負けられねえって」


 二人はすぐに家に戻ってきた。ダンの体にはあちこち擦り傷が見られる。一方リトはダメージを受けた様子が全くない。どうやらリトの圧勝だったようだ。


「防御に甘いところがあるように見えたからいけると思ったんだがなー、こぶし一発当ててもびくともせんとは……。この前のこともあるし人間も強くなってきたということだな、ガハハハッ!」


 傷だらけのダンが大きな声で笑う。魔物に対抗できる力が育ってきているのを喜んでいるようだ。


(リトが特殊なだけと思うけど……。この前もって森の主に勝ったことかしら?)


 エレナはダンの言葉に少し引っ掛かりを感じた。


「さて、明日に向けて英気を養うために……やはりあれだな!」


 そう言ってダンはなにやらビンを持ってきた。それをドンとテーブルの上に置く。


「もうお父さん、明日に向けてとか言って、ただ単にお酒飲みたいだけでしょ!」


 リセラがたしなめる。


「まあいいじゃねーか、景気づけだ、景気づけ。ほれ!」


 コップに注いだ酒をリトとエレナに勧める。


「私は遠慮しておきます。リセラさんから料理について聞いている途中でしたし……」

「おっ、もらうもらう! 酒なんて初めてだわー。なんでか飲む機会が今までなかったんだよなー」

「大丈夫なの? 初めてなのに」

「大丈夫! ただの飲み物だろ? ……(ゴクッ)結構美味いじゃん!」

「おっ、いける口か? よーし、夜は長いんだ、語り合おうじゃねーか」


 晩酌を開始した二人から逃げるようにエレナはリセラを連れて調理場に向かう。

 昔初めて飲んだとき、酔ってしまいそのときの記憶のない彼女にとって、どうもお酒という物に抵抗があるのだった。特に飲んだ次の日に一緒に住んでいた教会の人に避けられたのは軽くトラウマになっているのである。




「でもリト一人にして大丈夫かなぁ……またなんか失言するんじゃ……」


 料理についての話が全然頭に入ってこないエレナ。そんな彼女の状態に気付いたリセラは一言助言した。


「お兄さんのこと心配なら見てきたらいかかです? ふふっ、ほんと仲のいい兄妹ですね♪」

「いや別にそういうわけじゃ……」

「恥ずかしがらなくてもいいんですよ、ほーら」


 トンッとエレナの背中を押す。エレナはそのまま酒を飲んでいる二人の元に向かった。



「でな、その世界で俺は必死で戦ったわけよ。武器、防具を集め、レベルを上げてさ……」


 晩酌をしていた部屋。そこからリトの声がエレナの耳にはっきりと聞こえてくる。


「やっぱり、ぺらぺらと! もーう、なんで忠告を忘れるかなぁ!」


 怒りながら部屋に突入する。

 エレナの目の前に広がっていたのはすでに寝入っているダンと、そんな彼に話しかけている酔っ払ったリトの姿だった。


「おー、エレナか、いいところに来た! ほらエレナからもおっさんになんとか言ってやってくれ」

「なんとかって何を……?」


 内心怒りながら、冷めた目で彼を見るエレナ。


「何かってそりゃあ俺の今までの冒険についてだよ。せっかく話してんのにおっさん全然反応してくれないからさー」

「リトの冒険については私も聞きたいぐらいよ! 早く水でも飲んで酔いをまして! リセラさんが来る前に!」

「…………ぐー」

「――って寝てるし……。静かになったことだしリセラさんでも呼んでこよう……」


 ため息一つ吐いて酔っ払い二人をなんとかするため彼女を呼びに行く。

 リトにはお酒は絶対飲ませないでおこう、とエレナは心に誓うのだった。


 満腹度システムのあるゲームっておもしろいですよね。

 おにぎりがなくなり、草や肉を食いつないでいくのはスリルがあります。……ただそんな状態になったら九割方食料なしで詰んじゃいますけど。


 おにぎりなくなる→薬草、毒消し草を食べる→皮甲の盾に変えて、満腹度の下がりを抑える→防御力が低く敵の攻撃で終了→はぁ……

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